株主代表訴訟とは?
概要・近時の裁判例・要件・手続き・
会社の対応などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「株主代表訴訟」とは、株主が役員の任務懈怠責任などを追及するために提起する訴訟です。馴れ合いなどが原因で会社が適切に役員の責任を追及しない場合に、株主による責任追及の道を開くために株主代表訴訟が認められています。
株主代表訴訟は、一定の要件を満たす株主が提起できます。株主は、事前に会社に対して提訴請求を行い、60日が経過しても会社が訴えを提起しない場合に、株主代表訴訟を提起できるようになります。
株主から提訴請求を受けた会社は、役員に対して訴訟を提起すべきかどうかを検討しましょう。
提訴請求に応じない場合、提訴請求に応じて訴えを提起する場合のいずれにも必要な手続きがあります。株主代表訴訟が提起されたら、会社は共同訴訟参加または補助参加を検討しましょう。また、裁判所から和解通知が届いたら、異議を申し立てるべきかどうかも併せて検討しましょう。
この記事では株主代表訴訟について、概要・近時の裁判例・手続き・会社の対応などを解説します。
※この記事は、2024年7月26日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
株主代表訴訟とは
「株主代表訴訟」とは、株主が役員の任務懈怠責任などを追及するために提起する訴訟です。
株主代表訴訟の目的
株主代表訴訟は、会社が適切に役員の責任を追及しない場合に、株主が役員の責任を追及する道を開く目的で認められています。
株式会社では役員間の関係性が近いために、馴れ合いなどが原因で役員の責任が適切に追及されないケースが発生することがあります。
そのような場合には、株主代表訴訟によって株主主導で役員の責任を追及できるようにすることで、経営に対して緊張感を与える効果が期待されます。
株主代表訴訟で争われる事項
株主代表訴訟は、以下の事項について提起することが認められています(会社法847条1項)。
① 以下の者の責任を追及する訴え
・発起人
・設立時取締役
・設立時監査役
・取締役
・会計参与
・監査役
・執行役
・会計監査人
・清算人
② 以下の者に対して支払いを求める訴え
・払込みを仮装した設立時募集株式の引受人
・不公正な払込金額で株式を引き受けた者
・不公正な払込金額で新株予約権を引き受けた者
③ 会社が第三者に対して供与した財産上の利益の返還を求める訴え
④ 以下の者に対して支払いまたは給付を求める訴え
・出資された財産等の価額が不足する場合の取締役等
・新株予約権に係る払込み等を仮装した新株予約権者等
株主代表訴訟の当事者
株主代表訴訟では、訴訟を提起した株主が原告、原告によって責任を負うものと主張されている人(役員など)が被告として争います。
会社は原則として株主代表訴訟の当事者ではありませんが、共同訴訟人として、または当事者の一方を補助するために訴訟へ参加することが認められています。また、原告以外の株主・取締役・監査役・執行役・清算人にも訴訟参加が認められています(会社法849条)。
ただし、不当に訴訟手続を遅延させることとなるとき、または裁判所に対し過大な事務負担を及ぼすこととなるときは、訴訟参加が認められません。
株主代表訴訟の賠償金額
株主代表訴訟において原告の請求が認められた場合、被告側は任務懈怠などによって会社に生じた損害等を、会社に対して賠償・返還しなければなりません。
実際に認められる賠償額(返還額)はケースバイケースで一概に言えませんが、会社の規模が大きければ大きいほど、その金額は大きくなる傾向にあります。
次の項目で紹介するように、上場企業であれば数十億円から数百億円に及ぶ損害賠償が認められるケースもあります。
近時の株主代表訴訟の裁判例(事例)
近時の株主代表訴訟として、以下の3つの事例を紹介します。
① 東京電力株主代表訴訟|東京地裁令和4年7月13日判決
② 世紀東急工業株主代表訴訟|東京地裁令和4年3月28日判決
③ オリンパス株主代表訴訟|東京高裁令和元年5月16日判決
東京電力株主代表訴訟|東京地裁令和4年7月13日判決
東京電力の株主が、東日本大震災に伴い発生した原子力発電所の事故に関して、その防止に必要な対策を行ったことを理由に、取締役の任務懈怠責任を追及した株主代表訴訟です。
東京地裁は取締役らの任務懈怠責任を認定し、総額13兆3210億円もの巨額の損害賠償を命じました。
世紀東急工業株主代表訴訟|東京地裁令和4年3月28日判決
合板の販売価格に関するカルテルの形成について独占禁止法違反を指摘され、会社が公正取引委員会の課徴金納付命令を受けたことについて、株主が取締役の法令遵守義務違反の責任を追及した株主代表訴訟です。
東京地裁は取締役らの責任を認定し、総額18億3417万円の損害賠償を命じました。
オリンパス株主代表訴訟|東京高裁令和元年5月16日判決
剰余金の配当等が分配可能額を超えて行われたことについて、株主が取締役に対して金銭の支払いを求めた株主代表訴訟です。
東京高裁は取締役らの剰余金の配当等に関する責任を認定し、総額約594億円の支払いを命じました。
株主代表訴訟を提起するための要件
株主代表訴訟を提起するためには、原則として以下の3つの要件を満たしている必要があります。
① 6カ月前から引き続き株式を保有していること(例外あり)
② 権利を行使できない単元未満株主でないこと
③ 不正な利益・加害を目的としていないこと
6カ月前から引き続き株式を保有していること(例外あり)
株主代表訴訟を提起するには、原則として6カ月以上前から引き続き株式を保有していることが必要です。ただし、定款で保有期間要件を緩和することが認められています。
また、非公開会社では保有期間要件が適用されません(会社法847条2項)。
権利を行使できない単元未満株主でないこと
株式会社は、株主総会または種類株主総会において1個の議決権を行使できる最低ラインの株式数を定めることができます(=単元株式数。会社法188条1項)。
単元株式数に満たない数の株式を有する株主(=単元未満株主)は、株主総会および種類株主総会において議決権を行使できません(会社法189条1項)。
さらに株式会社は、一部の重要な金銭的権利を除き、単元未満株主の権利を定款によって制限することが認められています(同条2項)。
定款によって、株主代表訴訟を提起する権利を行使できないものとされている単元未満株主は、株主代表訴訟を提起できません。
不正な利益・加害を目的としていないこと
株主もしくは第三者の不正な利益を図り、または株式会社に損害を加えることを目的とする場合は、株主代表訴訟の提起が認められません。
なお、株主代表訴訟の提起が悪意によるものであることを被告が疎明したときは、裁判所は原告の株主に対して、相当の担保を立てるべきことを命ずることができます(会社法847条の4第2項・3項)。
株主代表訴訟を提起する際の手続き
株主代表訴訟は、まず会社に対して提訴請求を行い、その後60日が経過した場合に初めて提起することができます。
会社に対する提訴請求
株主は、いきなり株主代表訴訟を提起できるわけではありません。まず会社に対して、責任追及の相手方(役員など)に対する訴えの提起を請求する必要があります(会社法847条1項)。
株主代表訴訟は、会社が適切に役員などの責任を追及しない場合に、株主による責任追及の道を開くための制度です。
その制度趣旨から、まずは会社に責任追及をさせるべきであるため、株主代表訴訟の提起に先立って会社に対する提訴請求が必要とされています。
提訴請求から60日経過後に、株主代表訴訟を提起
株式会社が提訴請求を受けた日から60日以内に責任追及等の訴えを提起しないときは、当該請求をした株主は、株式会社のために株主代表訴訟を提起することができます(会社法847条3項)。
株主代表訴訟の提起は、一般的な民事訴訟と同様に、裁判所へ訴状を提出することによって行います(民事訴訟法134条1項)。
なお、株主代表訴訟を提起できるようになって以降、株主は会社に対して、責任追及等の訴えを提起しない理由を通知するよう請求できます。
会社は上記の請求を受けた場合、実施した調査の内容や会社としての判断などについて、書面または電磁的方法で遅滞なく当該株主に通知しなければなりません(会社法847条4項、会社法施行規則218条)。
株主から提訴請求を受けた会社がとるべき対応
株主から役員などの責任追及を求めて提訴請求を受けたら、会社は提訴請求に応じるかどうかを検討した上で、その後の対応を検討しましょう。
提訴請求に応じるかどうかを検討する
まずは、提訴請求に応じるかどうかを検討する必要があります。株主が主張している任務懈怠責任などの有無について、社内資料の確認や関係者へのヒアリングなどを通じて調査を行いましょう。
責任追及を行うかどうかの判断に当たっては、特に役員同士の馴れ合いを避ける必要があります。責任追及を馴れ合いによって差し控えたと判断されると、他の役員も任務懈怠責任を問われるおそれがあるので要注意です。
提訴請求に応じない場合の対応
会社が提訴請求に応じないことにした場合は、株主の動きを待って対応することになります。
株主から責任追及等の訴えを提起しない理由の通知を請求された場合、会社は遅滞なく、以下の事項を書面または電磁的方法によって株主に通知しなければなりません(会社法847条4項、会社法施行規則218条)。
① 株式会社が行った調査の内容(②の判断の基礎とした資料を含む)
② 対象者の責任または義務の有無についての判断およびその理由
③ 対象者に責任または義務があると判断した場合において、責任追及等の訴えを提起しないときは、その理由
また、実際に株主代表訴訟が提起された場合には、後述する共同訴訟参加・補助参加を検討しましょう。
提訴請求に応じる場合の対応
提訴請求に応じる場合は、速やかに責任追及等の訴えを提起すべきです。
提訴請求の日から60日が経過すると、株主は株主代表訴訟を提起できるようになります。会社としては、それまでに責任追及の要否を判断し、訴訟の提起を行うことが望ましいでしょう。
もし訴訟提起のタイミングが遅れる場合には、提訴請求をした株主に対してその旨と時期の見込みを説明し、株主代表訴訟の提起を控えてもらえるよう依頼しましょう。
また、提訴請求に応じて責任追及等の訴えを提起した場合には、原則として遅滞なくその旨を公告するか、または株主に通知する必要があります(会社法849条5項)。
ただし、非公開会社の場合は公告が認められず、株主に対する通知を行わなければなりません(同条9項)。
株主代表訴訟が提起された後に会社がとるべき対応
株主が株主代表訴訟を提起した場合、会社としては共同訴訟参加または補助参加を検討しましょう。
また、裁判所から和解通知を受けた場合には、異議申立てをするかどうかを迅速に検討する必要があります。
共同訴訟参加・補助参加を検討する
会社は原則として、共同訴訟人として、または当事者の一方を補助するために株主代表訴訟へ参加することができます(会社法849条1項)。
株主代表訴訟を提起した株主には、会社に対する訴訟告知が義務付けられています(同条4項)。
会社は株主(原告)の味方をすることもできますし、責任追及を受けている側(被告)の味方をすることもできます。訴訟の経過をモニタリングしながら、訴訟参加すべきかどうか、どちらの味方をするかなどを適切に判断しましょう。
なお、会社が取締役・執行役・清算人等を補助するために訴訟参加をする場合は、各監査役(または監査等委員・監査委員)の同意を得なければなりません(同条3項)。
また、時期が遅れると訴訟参加が認められなくなることがある点に注意が必要です。
和解通知を受けたら、異議申立てを検討する
株主代表訴訟において和解がなされる場合に、会社が和解の当事者でないときは、裁判所が会社に対して和解内容を通知します(会社法850条2項)。
会社が通知を受けてから2週間以内に書面で異議を述べなかったときは、会社が和解を承認したものとみなされます(同条3項)。
この場合、会社に対しても和解の効力が及ぶことになります(同条1項但し書き、民事訴訟法267条)。
会社としては、2週間という短期間で和解に対する異議申立ての要否を判断しなければなりません。訴訟の経過を継続的に確認し、和解の適否について速やかに判断できる状態にしておきましょう。
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