虚偽表示とは?
具体例・民法のルール・具体例・
善意の第三者保護・意思表示の無効などを
分かりやすく解説!
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※この記事は、2024年3月20日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
虚偽表示とは|民法のルールを踏まえ分かりやすく解説!
「虚偽表示」とは、相手方と通謀して行った虚偽の意思表示です。
例えば、本当は互いに売買する意思がないのに、不動産について仮装の売買契約を締結し、登記名義を売主から買主へ移転するような行為が虚偽表示の典型例です。売主が債権者の強制執行を免れるなどの目的で、買主と通謀してこのような虚偽表示を行うことがあります。
虚偽表示は、無効とされています。互いに虚偽の意思表示であることを知っており、虚偽表示を有効として両当事者を保護する必要がないためです。
虚偽表示の具体例
虚偽表示に当たる意思表示としては、以下の例が挙げられます。
・本当は互いに売買する意思がないのに、不動産について仮装の売買契約を締結し、登記名義を売主から買主へ移転した。
→前述のとおり、強制執行を免れるなどの目的で行われることがあります。
・本当は互いに賃貸借をする意思がないのに、不動産について仮装の賃貸借契約を締結した。
→賃料その他の架空経費を計上するなど、脱税目的で行われることがあります。
虚偽表示の要件
虚偽表示の要件は、以下の2つです。
要件1|虚偽の意思表示
要件2|相手方との通謀
要件1|虚偽の意思表示
「虚偽」とは、真意ではないことをいいます。例えば、不動産を売るつもりがないのに、売主として売買契約の申し込みをすることは虚偽の意思表示に当たります。
要件2|相手方との通謀
つまり、表意者・相手方の意思表示がともに虚偽であることに加えて、虚偽の意思表示について表意者と相手方の意思連絡が必要となります。
例えば、売主が強制執行を免れるために不動産の仮装売買をしたいと買主に伝え、買主がそれに応じて仮装の売買契約を締結した場合には、通謀の要件を満たします。
虚偽表示は無効
虚偽表示は無効とされています(民法94条1項)。ただし、虚偽表示の無効は、善意の第三者に対抗できません(同条2項)。
無効と取り消しの違い
虚偽表示による意思表示は無効ですが、錯誤・詐欺・強迫による意思表示は取り消しが認められます(民法95条、96条)。
錯誤:意思表示に対応する意思を欠いた状態、または意思表示の動機に当たる認識が真実に反している状態
詐欺:人を騙して錯誤に陥らせる行為
強迫:人を畏怖させて意思表示をさせる行為
無効 | 取り消し | |
---|---|---|
主張できる人 | 誰でも | 取消権者のみ ※法律行為をした人、その代理人・承継人、同意をすることができる者 |
意思表示の要否 | 不要 | 相手方に対する意思表示が必要 |
追認の可否 | 不可(新たな法律行為をしたものとみなされる) | 可 |
当事者間における効力 | 最初から発生しないことになる | いったん発生した法律行為の効力を、当初に遡って消滅させる |
第三者との関係における効力 | 原則として無効 ※心裡留保・虚偽表示などの例外あり | ① 取り消し後に第三者が権利を取得した場合 (a) 第三者が先に登記を経由した場合 →有効 (b) 取消権者が先に登記を経由した場合 →無効 ② 取り消し前に第三者が権利を取得した場合 →取り消しに関する個別の規定に従う |
期間制限(時効) | なし | 以下のいずれかの期間が経過すると時効消滅する ① 追認をすることができる時から5年 ② 法律行為の時から20年 |
虚偽表示の無効は善意の第三者に対抗できない
虚偽表示の無効は、善意の第三者に対抗できないとされています(民法94条2項)。
例えば、AとBが虚偽表示による不動産売買契約を締結し、AからBに対して不動産Xの登記名義を移転した後、CがBから不動産Xを購入したとします。
AB間の不動産売買契約が虚偽表示によって無効であれば、Bは不動産Xについて無権利なので、Cは不動産Xの所有権を取得できません。
しかし、虚偽表示を信頼して取引を行ったのに、不動産Xの所有権を得られないのでは、Cにとって酷です。また、Aは自ら登記制度の趣旨に反する虚偽表示を行っているので、Aを保護する必要性は低いと考えられます。
そこで、Cが虚偽表示によって善意であれば、AはCに対して虚偽表示を対抗できないものとされています。この場合、AはCに対して、AB間の不動産売買契約が無効であることを主張できないため、Cは不動産Xの所有権を取得できます。
権利外観法理とは|民法94条2項類推適用
民法94条2項は、いわゆる「権利外観法理」の法的根拠として、類推適用されることがあります。
- 権利外観法理とは
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真実とは異なる外観が存在し、真の権利者にその外観を作り出したことにつき帰責性がある場合に、その外観を信頼した第三者を保護する法理論
例えば、Aが自ら所有する不動産Xの登記がBに移っていることを知りながら放置しており、Cが虚偽の登記を信頼してBから不動産Xを購入したとします。
AとBが通謀して虚偽の登記をしていれば、虚偽表示の規定が適用され、善意であるCは保護されます。
これに対して、AB間の通謀が認められない場合は、虚偽表示の規定を直接適用することはできません。しかし、Aに虚偽登記の外観が存在したことについてAに帰責性が認められる場合、Cは虚偽表示の規定(民法94条2項)の類推適用によって保護されることがあります。
民法94条2項類推適用の要件
民法94条2項を類推適用するためには、以下の要件をすべて満たさなければなりません。
① 虚偽の外観の存在
→真の権利関係に反する虚偽の外観の存在が必要です。
② 真の権利者の帰責性
→虚偽の外観が作出されたことにつき、真の権利者に一定水準以上の帰責性が認められることが必要です。
③ 第三者の信頼
→外観が虚偽であることにつき、第三者が信頼したことが必要です。真の権利者の帰責性の程度によって、第三者は善意であれば足りる場合と、善意無過失まで要求される場合があります。
民法94条2項が類推適用された裁判例
最高裁昭和45年9月22日判決の事案では、AがXの実印を無断で持ち出し、Xが所有する土地の登記名義をAに移転しました。
Xはその後Aと婚姻したため、登記名義がAに移っている状態を知りながら放置していました。登記名義がAにある状態で、AはYに対して当該土地を売却しました。
最高裁は、XとYのどちらを保護するかを決めるに当たり、民法94条2項を類推適用する旨を明らかにしました。
その上で、不実の登記を承認していたことについてXの帰責性を認定し、Yが善意であれば土地の所有権を取得できるとして、Y敗訴とした原審判決を破棄し、審理を高等裁判所に差し戻しました。
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