労働法とは? 労働法の一覧(種類)・ 知っておくべきルールを分かりやすく解説!

契約ウォッチ編集部
「労働法」とは、使用者(雇う側)と労働者(雇われる側)の関係性を定める法令の総称です。
使用者に対する労働者の立場が弱くなりがちなことを踏まえて、労働法では労働者保護の観点から様々なルールが定められています。
主要な労働法としては、「労働三法」と呼ばれる労働基準法・労働組合法・労働関係調整法のほか、労働契約法などが挙げられます。
特に会社の人事担当者・法務担当者は、各労働法のルールに習熟してコンプライアンス強化に努めることが大切です。
今回は労働法について、労働法の一覧(種類)や、知っておくべきルールなどを解説します。


【目次】
労働法とは
「労働法」とは、使用者(雇う側)と労働者(雇われる側)の関係性を規律する法令の総称です。
使用者とは、一般的には、労働者を雇用する者(会社など)のことを指します。
ただし、使用者の定義は法令によって少し異なりますので、注意が必要です。
✅ 労働契約法2条2項における使用者
使用する労働者に対して賃金を支払う者
✅ 労働基準法10条における使用者
①事業主(例:経営者など)
②事業主のために行為をする全ての者(例:役員・管理職など)
労働法の役割
労動者の立場は、使用者に比べると弱くなってしまう傾向にあります。組織である使用者に対して、労動者は個人であり、かつ生活収入を使用者から支払われる給与に依存しているケースが大半だからです。
立場の弱い労動者は、劣悪な労働条件を押し付けられるなど、使用者から搾取されてしまうおそれがあります。そこで、労動者を保護するための様々なルールを設けて、使用者・労動者間の力関係を是正することが、労働法の主な役割です。
労働法が適用される「労働者」とは
労働法は、使用者と労動者の契約関係について適用されます。
「労動者」とは、使用者の指揮命令下で働く者です。指揮命令下にある以上、労動者は原則として、使用者の合理的な業務命令や配置転換命令などに従わなければなりません。
これに対して、会社と対等な立場で契約を締結する者は「労動者」に該当しません。例えば
✅ 会社の役員
✅ 会社から業務委託を受けるフリーランス
などは、原則として労動者ではありません。
労動者でない者は、会社から業務のやり方や時間配分などについて、具体的な指示を受けない立場にあります。会社と対等な立場にあるため、業務のやり方や時間配分は自分で決められるのです。
なお、労動者かどうかは実際の業務がどのように行われているかという実態から判断されます。例えば業務委託を受けるフリーランスであっても、会社から業務のやり方や時間配分などの具体的な指示を受けている場合には、労動者と判断される可能性があります。
労働法に当たる法律の種類
「労働法」という一つの法律があるわけではなく、実際には様々な法律が個別にルールを定め、全体として「労働法」を構成しています。
労働法に当たる主な法律としては、以下の例が挙げられます。
✅ 労働基準法
✅ 労働組合法
✅ 労働関係調整法
✅ 労働契約法
✅ その他
以下それぞれ解説します。
労働基準法
労働基準法は、労動者が働く条件についての最低基準を定める法律です。
✅ 労働時間
✅ 休憩
✅ 休日
✅ 有給休暇
などに関するルールが定められています。
労働基準法の遵守状況については、労働基準監督署が監督しており、違反した使用者に対しては刑事罰が科されることもあります。
労働組合法
労働組合法は、労動者の団結・団体行動(=労働組合などの結成)を認め、使用者と対等な立場で交渉ができるよう調整することを目的とした法律です。
日本国憲法28条では、労働者の権利として以下3つの権利(労働三権)が認められています。
①団結権|労働者が労働組合を結成する権利
②団体交渉権|労働者が使用者(会社)と団体交渉する権利
③団体行動権|労働者が要求実現のために団体で行動する権利
労働組合法は、これら労働三権を具体的に保障するため、労働組合の権利保護に関するルールなどを定めています。
労働関係調整法
労働関係調整法は、主に労働争議(ストライキ・ロックアウトなど)の予防・解決を目的とする法律です。
大規模な労働争議が発生し、社会生活に大きな影響が生じることが懸念される場合に行われる、労働委員会の裁定に関する手続・ルールなどを定めています。
なお、労働基準法・労働組合法・労働関係調整法の3つを併せて「労働三法」と呼ぶことがあります。
労働契約法
労働契約法は、使用者・労動者間で締結される労働契約に関するルールを定める法律です。
✅ 労働契約を締結する際のルール
✅ 労働契約の内容を変更する際の手続
✅ 労働契約を終了する際の手続
などを定めています。
使用者側が、一方的に労働契約の内容を変更したり、不当な懲戒処分・解雇などをしたりしないよう制限し、労動者の地位を安定化することが労働契約法の主な目的です。
その他
上記以外に、以下の法律が労働法の例として挙げられます。
✅ 労働安全衛生法
✅ 職業安定法
✅ 最低賃金法
✅ 障害者基本法
✅ 障害者の雇用の促進等に関する法律
✅ 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律
✅ 雇用保険法
✅ 健康保険法
✅ 厚生年金保険法
✅ 国民健康保険法
✅ 国民年金法
✅ 介護保険法
✅ 男女雇用機会均等法
※正式名称:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
✅ 労働者派遣法
※正式名称:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
✅ パートタイム・有期雇用労働法
※正式名称:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律
✅ 育児・介護休業法
※正式名称:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
労働基準法とは|知っておくべき主なルール
労働基準法は、使用者と労働者の間でもっとも頻繁に問題となる法律であり、労働条件に関して、以下のとおり多岐にわたるルールが定められています。
✅ 労働条件の明示に関するルール
✅ 解雇の予告に関するルール
✅ 賃金支払いの5原則
✅ 労働時間・休憩・休日に関するルール
✅ 残業代に関するルール
✅ 有給休暇に関するルール
✅ 就業規則に関するルール
✅ 労動者への周知に関するルール
以下、それぞれ詳しく解説します。
労働条件の明示に関するルール
使用者は、労働契約を締結するに当たって、労動者に対して労働条件を明示しなければなりません(労働基準法15条1項)。
労働条件を明示する際は、実務上、以下のような対応を行うことが多いです。
①労働条件通知書を作成し、労働者に交付する
②雇用契約書に労働条件を記載して交付する
なお、労働条件を明示する際は、原則「書面」で作成して労働者へ交付する必要があります。ただし労働者側が了承すればメール・SNSなどでの交付も可能です。その場合、印刷などによって書面として出力できるような形で交付する必要があります(労働基準法施行規則5条1項、4項)。
労働条件の明示が求められる事項
労働者に明示する労働条件については、
✅ どのような場合でも必ず明示しなければならない「絶対的記載事項」
✅ 企業が該当する制度を設けている場合には明示しなければならない「相対的記載事項」
があります。
✅ 労働契約の期間
✅ 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準
✅ 就業の場所・従事すべき業務の内容
✅ 始業・終業の時刻、休憩・休日などに関する事項
✅ 賃金の決定方法、昇給などに関する事項
✅ 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
✅ 退職手当に関する事項
✅ 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与などに関する事項
✅ 労働者に負担させるべき食費・作業用品その他に関する事項
✅ 安全・衛生に関する事項
✅ 職業訓練に関する事項
✅ 災害補償・業務外の傷病扶助に関する事項
✅ 表彰・制裁に関する事項
✅ 休職に関する事項

解雇の予告に関するルール
使用者が労動者を解雇する場合、30日以上前に予告しなければなりません(労働基準法20条1項本文)。
予告期間を短縮する場合には、短縮した日数分の平均賃金を「解雇予告手当」として支払う必要があります(同項ただし書、同条2項)。
賃金支払いの5原則
使用者の労動者に対する賃金の支払については、以下の5つの原則が定められています(労働基準法24条1項、2項)。
✅ 通貨払いの原則
→賃金は原則として、日本円で支払わなければなりません。
✅ 直接払いの原則
→賃金は労動者に対して直接支払わなければなりません。使者(家族など)が代わりに受け取ることは可能ですが、中間業者などを介して支払うことは不可です。
✅ 全額払いの原則
→賃金は原則として、全額を労動者に支払わなければなりません。例えば、借入の返済金や弁償金などを賃金から天引きすることは不可です。ただし、法令または労使協定に基づく控除は例外的に認められます。
✅ 毎月一回以上払いの原則
→賃金は、毎月一回以上支払わなければなりません。労動者の収入を安定させる観点から、毎月払いが義務付けられています。なお、賞与など臨時の賃金は対象外です。
✅ 一定期日払いの原則
→賃金は、一定の期日を定めて支払わなければなりません。例えば「毎月15日払い」「毎月25日払い」などと決めておく必要があり、月ごとにバラバラの日に支給することは不可です。なお、賞与など臨時の賃金は対象外です。
労働時間・休憩・休日に関するルール
過酷な長時間労働を避け、労動者の健康を維持するために、労働時間・休憩・休日について以下のルールが設けられています。
✅ 法定労働時間(労働基準法32条)
→労動者の労働時間は、原則として1日8時間以内・週40時間以内に制限されています。
✅ 休憩(同法34条)
→使用者は労動者に対して、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなければなりません。
✅ 休日(同法35条)
→使用者は労動者に対して、週1日以上又は4週間で4日以上の休日を与えなければなりません(法定休日)。
なお、法定労働時間と法定休日の規制については、労使協定(36協定)を締結すれば例外が認められます(同法36条1項)。
ただし36協定を締結する場合も、時間外労働は原則として月45時間・年360時間に制限されるなど(同条4項)、過度の長時間労働を抑制するルールが設けられています。
残業代に関するルール
時間外労働・休日労働・深夜労働については、使用者に割増賃金の支払が義務付けられています(労働基準法37条)。
✅ 時間外労働
→法定労働時間を超える労働です。通常の賃金に対して25%以上※の割増賃金を支払う必要があります。
※大企業では、月60時間を超える部分については50%以上(なお、中小企業も2023年4月1日より50%以上に引き上げられます。)
✅ 休日労働
→法定休日に行われる労働です。通常の賃金に対して35%以上の割増賃金を支払う必要があります。
✅ 深夜労働
→午後10時から午前5時に行われる労働です。通常の賃金に対して25%以上の割増賃金を支払う必要があります。
有給休暇に関するルール
雇用開始から6か月以上継続勤務し、かつ全労働日の8割以上出勤した労動者には、継続勤務年数に応じた日数の有給休暇が付与されます(労働基準法39条)。
有給休暇を付与しなければならないというルールは、正社員のみならず、パートタイム労働者などの所定労働日数が少ない労働者についても適用されます。ただし、勤務時間や勤務日数等に応じ付与される日数は変動します。
有給休暇は、原則として労動者が自由に時季を定めて取得できます(ただし、事業の正常な運営を妨げる場合には、使用者による時季変更が認められることがあります。同条5項)。
なお、年10日以上有給休暇が付与される労働者については、年5日の有給休暇を労働者に取得させることが使用者の義務となる点に注意が必要です。
就業規則に関するルール
常時10人以上の労動者を使用する使用者は、以下の事項を定めた就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出ることが義務付けられます(労働基準法89条)。
就業規則にも、絶対的記載事項と相対的記載事項があります。
✅ 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交代制勤務(就業時転換)に関する事項
✅ 賃金(臨時の賃金等を除く)の決定・計算・支払の方法、締切り、支払時期、昇給に関する事項
✅ 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
✅ 退職手当に関する事項
✅ 臨時の賃金等(退職手当を除く)・最低賃金額に関する事項
✅ 労働者の食費・作業用品その他の負担に関する事項
✅ 安全・衛生に関する事項
✅ 職業訓練に関する事項
✅ 災害補償・業務外の傷病扶助に関する事項
✅ 表彰・制裁の種類・程度に関する事項
✅ そのほか、事業場の全労働者に適用される事項
なお、就業規則で減給の制裁を定める場合には、以下2つの条件を守らないといけません。(労働基準法91条)
①1回の額が平均賃金1日分の半額を超えてはならない
②総額が1賃金支払期(月給制であれば1か月)の賃金総額の10分の1を超えてはならない
労動者への周知に関するルール
使用者は、以下の事項を労動者に周知しなければなりません(労働基準法106条1項)。
✅ 労働基準法及び同法に基づく命令の要旨
✅ 就業規則
✅ 労使協定(36協定など)
✅ 労使委員会決議
周知の方法は、以下のいずれかとされています(労働基準法施行規則52条の2)。
✅ 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付ける
✅ 書面を労動者に交付する
✅ 磁気テープ・磁気ディスク等に記録し、各作業場に確認用機器を設置する
労働組合法とは|知っておくべき主なルール
労働組合法における重要な規制は、「不当労働行為」と「労働協約」に関するルールです。
不当労働行為に関するルール
「不当労働行為」とは、労動者の団体行動を不当に妨げるものとして禁止されている使用者の行為です。
具体的には、以下の行為が不当労働行為に該当します(労働組合法7条)。
✅ 労働組合員であること・労働組合への加入・労働組合の結成・正当な組合活動をしたことを理由に、労動者に対して不利益な取扱いをすること
✅ 労働組合への不加入・脱退を雇用条件とすること
✅ 労働組合との団体交渉を正当な理由なく拒むこと
✅ 労働組合の結成・運営を支配し、又はこれらに介入すること
✅ 労働組合の運営経費の支払につき、経理上の援助を与えること
✅ 労働委員会に申立てをしたことを理由に、労動者に対して不利益な取扱いをすること
労働協約に関するルール
「労働協約」とは、使用者と労働組合の間で締結される契約です。一方、前述のとおり、労働契約は、使用者と労働者の間で締結される契約です。
労働組合法では、労働協約が労働契約に優先する旨(同法16条)などが定められています。
労働契約法とは|知っておくべき主なルール
労働契約法の中では、特に使用者主導による労働契約の終了(解雇)を制限する規制が重要です。
懲戒権・解雇権の濫用に関するルール
使用者による懲戒処分や解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は権利濫用として無効となります(労働契約法15条、16条)。
特に、不当解雇を制限する上記のルールは「解雇権濫用の法理」と呼ばれ、労動者の地位の安定化に大きく寄与しています。
有期労働契約の無期転換ルール
派遣社員など、期間に定めのある労働契約(有期労働契約)で働く労動者(有期雇用労働者)の地位は、無期限で雇用される労働者に比べると不安定になりがちです。
そこで、有期雇用労動者の地位を安定化させるため、労働契約法18条では「無期転換ルール」を定めています。
同一の使用者との間で、有期労働契約が更新されて通算5年を超えたときに、労働者の申込みによって無期労働契約に転換されるルール
「雇止め法理」に関するルール
雇止め法理とは、一定の条件満たした場合に、使用者側の雇止めを無効にするというルールです。
本来、有期労働契約の期間満了時に、契約を更新するかどうかは当事者の自由です。しかし労働契約法19条では、有期雇用労働者の地位を安定化させるため、使用者による労働契約の更新拒絶(雇止め)を制限しています。
具体的には、以下のいずれかに該当する有期労働契約の更新が労動者から申し込まれた場合、かつ雇止めに合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない場合には、有期労働契約が更新されたものとみなされます。
✅ 有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあり、かつ雇止めが無期雇用労働者の解雇と社会通念上同視できること
✅ 有期労働契約の更新につき、労動者に合理的な期待が認められること
この記事のまとめ
労働法の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!
参考文献
福島県ウェブサイト「個別Q&A4-(1)賃金支払いの5原則」
厚生労働省「2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」
厚生労働省ウェブサイト「年次有給休暇とはどのような制度ですか。パートタイム労働者でも有給があると聞きましたが、本当ですか。」
企業人事労務研究会(著)『企業労働法実務入門【書式編】』日本リーダーズ協会、2016年
企業人事労務研究会(著)『【改訂版】企業労働法実務入門 はじめての人事労務担当者からエキスパートへ』日本リーダーズ協会、2019年