労使協定の届け出義務とは?
届け出が必要なもの・手続き・様式・違反時の罰則などを解説!
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- この記事のまとめ
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使用者と労働組合(または労働者の過半数を代表する者)が締結する「労使協定」には、労働基準監督署への届け出が必要なものと、そうでないものがあります。
また、届け出が必要とされている労使協定も、届け出が効力要件であるものと、効力要件ではないものの2通りに分かれる点に注意が必要です。
労使協定の届け出は、労働基準法施行規則所定の様式を用いて行います。各様式は、厚生労働省のウェブサイトからダウンロード可能です。
労使協定の届け出を怠ると、労働基準法に基づく罰則の対象となります。届け出義務のある労使協定を締結したら、労働基準監督署に対して確実に届け出を行いましょう。
今回は労使協定の届け出について、要否・手続き・様式・違反時の罰則などを解説します。
※この記事は、2023年5月18日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 育児介護休業法…育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
目次
労使協定とは
労使協定とは、使用者と労働者の間で締結する協定です。
労働基準法や育児介護休業法などの法律により、一部の労働条件については、労使協定で定めることが義務付けられています。重要な労働条件について使用者が一方的に決めることを許さず、使用者・労働者間の合意形成を義務付けることにより、労働者の保護を図るためです。
労使協定について労働者側の当事者となるのは、以下の者です。
- 過半数組合または過半数代表者
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① 事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合
→その労働組合(過半数組合)② 事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がない場合
→労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)※過半数代表者は、以下のいずれにも該当する者でなければなりません(労働基準法施行規則6条の2第1項)
(a) 管理監督者(労働基準法41条2号)でないこと
(b) 労使協定を締結する過半数代表者を選出することを明らかにして実施される投票・挙手などによって選出された者であって、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと
労使協定が締結された場合、その定めは事業場に所属する労働者全体に対して適用されます。
労使協定の届け出義務とは
労使協定は、労働基準監督署に対する届け出に関して、以下の3種類に分類されます。会社は①および②に当たる労使協定について、労働基準監督署へ届け出なければなりません。
① 届け出が効力要件である労使協定
② 届け出は義務だが、効力要件ではない労使協定
③ 届け出が不要な労使協定
以下、各分類に該当する労使協定の種類を紹介します。
届け出が効力要件である労使協定
使用者が労働者に時間外労働または休日労働をさせるためには、上限時間(日数)などのルールを定めた労使協定を締結しなければなりません(労働基準法36条1項)。
時間外労働:法定労働時間(原則として1日8時間・1週間40時間)を超える労働
休日労働:法定休日(原則として週1日)における労働
時間外労働・休日労働のルールを定めた労使協定は「36協定」と呼ばれています。
36協定については、労働基準監督署への届け出が効力要件とされています。したがって36協定の届け出は、効力発生日の前日までに行わなければなりません。
届け出は義務だが、効力要件ではない労使協定
以下の労使協定については、労働基準監督署への届け出が義務付けられているものの、効力要件とはされていません。
- 届け出は義務だが、効力要件ではない労使協定
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・使用者が委託を受けて労働者の貯蓄金を管理する旨を定めた労使協定(労働基準法18条2項)
・1年単位(1カ月を超え1年以内)の変形労働時間制について定めた労使協定(就業規則に定めた場合は届け出不要。同法32条の4第1項)
・常時使用する労働者が30人未満の小売業・旅館・料理店・飲食店の事業において、労働者を1日10時間まで労働させることができる旨を定めた労使協定(同法32条の5第1項)
・事業場外みなし労働時間制について、所定労働時間以外のみなし労働時間を定めた労使協定(みなし労働時間が法定労働時間以内の場合は届け出不要。同法38条の2第2項)
・専門業務型裁量労働制について定めた労使協定(同法38条の3第1項)
など
上記の労使協定は、必ずしも発効前に労働基準監督署へ届け出なくてもよく、発効してから遅滞なく届け出れば足ります。届け出の具体的な期限は定められていませんが、長期間にわたって届け出が行われないと、労働基準監督署に届け出義務違反を指摘されるおそれがあるのでご注意ください。
届け出が不要な労使協定
以下の労使協定については、労働基準監督署への届け出が不要とされています。
- 届け出が不要な労使協定
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・賃金の一部を控除して支払う旨(法定控除を除く)を定めた労使協定(労働基準法24条1項)
・1カ月単位(1カ月以内)の変形労働時間制について定めた労使協定(同法32条の2第1項)
・フレックスタイム制について定めた労使協定(同法32条の3第1項)
・休憩を分散して付与する旨を定めた労使協定(同法34条2項)
・代替休暇制度について定めた労使協定(同法37条3項)
・時間単位の有給休暇について定めた労使協定(同法39条4項)
・有給休暇の計画的付与について定めた労使協定(同条6項)
・有給休暇中の賃金を標準報酬日額で支払う旨を定めた労使協定(同条9項)
・育児休業、介護休業、子の看護休暇、介護休暇を取得できない労働者の範囲を定めた労使協定(育児介護休業法6条1項、12条2項、16条の3第2項、16条の6第2項)
・時間外免除、短時間勤務を適用しない労働者の範囲を定めた労使協定(同法16条の8第1項、23条1項)
など
上記の労働条件については、労働基準監督署への届け出は不要であるものの、労使協定の締結自体は必須とされています。労使協定を締結せず、会社が一方的に上記の労働条件を定めた場合、労働基準監督署に発見されれば行政指導などの対象になり得るので要注意です。
労使協定の届け出手続き
労使協定の届け出は、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署に対して、労働基準法施行規則所定の様式を用いて行います。
労使協定の届け出先
労使協定の届け出先は、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署です。労働基準監督署の所在地は、厚生労働省のウェブサイトから検索できます。
労使協定の締結や届け出の要否、届け出の手続きなどについて分からないことがあれば、労働基準監督署の窓口で案内を受けられます。
労使協定の届け出様式
労使協定の届け出書の様式は、労働基準法施行規則によって定められています。
厚生労働省のウェブサイトでは、各労使協定の届け出書の様式が掲載されています。労使協定の内容に応じて、該当する様式を用いて届け出書を作成しましょう。
例:36協定届の様式と記載例
厚生労働省「時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)」様式第9号記載例
なお、各届け出書の様式は、労働基準監督署の窓口でも交付を受けられます。労使協定について労働基準監督署へ質問・相談をする場合には、その際に届け出書の様式を交付してもらいましょう。
労使協定の届け出期限
時間外労働・休日労働のルールを定めた36協定については、労働基準監督署への届け出が効力要件とされているため、発効日の前日までに届け出を行う必要があります。
これに対して、36協定以外の労使協定のうち届け出義務があるものについては、届け出の期限は特に設けられていません。ただし、あまりにも届け出が遅れると労働基準法違反を指摘されるおそれがあるので、遅くとも効力発生から2~3週間以内には届け出を行うべきでしょう。
労使協定の届け出を怠った場合の罰則
届け出義務がある労使協定の届け出を怠った場合、会社は刑事罰(罰則)の対象になる可能性があります。ただし、直ちに刑事手続きにかけられるケースは稀であり、ほとんどの場合は、労働基準監督官が臨検を経て行政指導を行います。
36協定の届け出を怠った場合|36協定が発効しない
36協定については、労働基準監督署への届け出が効力要件とされています。したがって、労働基準監督署に36協定届を提出しない限り、36協定は無効(未発効)です。
なお、36協定届については以下の記事をご参照ください。
効力のない36協定を適用した場合の罰則
労働基準監督署へ届け出をしないと、36協定の効力が発生しません。その状態で労働者に時間外労働または休日労働をさせた場合、法定労働時間の規定(労働基準法32条)または法定休日の規定(同法35条)違反に該当します。
この場合、違反行為者(時間外労働または休日労働を命じた者)には6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます(同法119条1号)。
また会社についても、両罰規定によって30万円以下の罰金が科されます(同法121条1項)。
届け出が効力要件ではない場合|届け出義務違反の罰則
36協定以外の労使協定については、労働基準監督署への届け出義務を怠った場合でも、その効力は否定されません。
したがって、労働基準監督署へ届け出ていない労使協定に基づく労働条件を適用しても、それ自体は直ちに労働基準法に違反するわけではありません。
ただし、労働基準監督署への届け出義務に違反した場合には、行為者・会社の両方に対して30万円以下の罰金が科されます(労働基準法120条1号、121条1号)。
いきなり刑事手続きにかけられるケースは稀|労働基準監督官による臨検・行政指導
実務上は、労働基準法違反によって刑事処分が行われるのは、極めて悪質なケースに限られています。
そのため、労働基準監督署に対する労使協定の届け出を怠ったとしても、直ちに刑事手続きにかけられるケースは稀です。多くのケースでは、労働基準監督官による臨検が行われた後、会社に対する行政指導が行われます。
「臨検」とは、労働基準監督官によって行われる事業場への立ち入り調査です(労働基準法101条1項)。臨検を妨害する行為は刑事罰の対象となります(30万円以下の罰金。同法120条4号)。
労働基準監督官は、事業場に保管されている帳簿・書類の提出を求め、さらに役員や従業員に対する尋問を行って、労働基準法違反の状態が生じていないかを確認します。
臨検において届け出が行われていない労使協定が発見された場合、労働基準監督官は会社に対して「是正勧告」を行います。
是正勧告を受けた会社は、該当する労使協定を速やかに労働基準監督署へ届け出なければなりません。さらに是正報告書を作成した上で、労働基準監督署へ提出することが求められます。
労働基準監督官の是正勧告に従わない場合は、刑事処分の対象になる可能性が高まるので十分ご注意ください。
労使協定の管理に関する会社の注意点
会社は特に以下の2点に注意して、労使協定の適切な管理を行いましょう。
① 労働基準法のルールを正しく把握する|届け出の要否は要確認
② 労使協定の有効期間を把握する
労働基準法のルールを正しく把握する|届け出の要否は要確認
労使協定の締結および届け出の要否については、労働基準法においてルールが定められています。
会社としては、気付かないうちに労使協定の締結義務・届け出義務に違反することがないように、労使協定に関する労働基準法のルールを正しく把握することが大切です。
労使協定の有効期間を把握する
労使協定の中には、36協定をはじめとして、一定の有効期間を定めるべきものがあります。
労使協定の有効期間が切れる場合には、その都度更新をしなければなりません。労働基準監督署への届け出義務がある労使協定については、更新のタイミングで再び届け出を行う必要があります。
労働基準法に基づく労使協定の締結義務・届け出義務を果たすためには、締結済みの労使協定をリストアップした上で、それぞれの有効期間を適切に把握しましょう。
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