債権者代位権とは?
行使方法・効果・要件・民法上のルール・
転用事例などを分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
-
「債権者代位権」とは、債権者が自己の債権を保全するため、債務者が有する権利を行使できる権利です。
債権者が金銭債権または動産の引渡請求権を代位行使した場合は、相手方(第三債務者)に対して自己に対する支払いまたは引渡しを求めることができ、その結果優先弁済を受けられます。債権者代位権を行使するためには、原則として債務者が無資力であること、ならびに被保全債権および被代位債権に関する一定の要件を満たす必要があります。
そのほか、債権者代位権については民法によって詳細なルールが定められています。この記事では債権者代位権について、行使の方法・効果・要件や民法上のルールなどを分かりやすく解説します。
※この記事は、2024年7月11日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
債権者代位権とは
「債権者代位権」とは、債権者が自己の債権を保全するため、債務者が有する権利を行使できる権利です(民法423条)。
債権者代位権の行使の具体例
例えば、AがBに100万円を貸しているとします。この場合、AはBに対して100万円の貸金返還請求権を有します。
その一方で、BはCに対して50万円を貸しているとします。この場合、BはCに対して50万円の貸金返還請求権を有します。
もしBがAに対して100万円の返済を怠り、かつBに資力がない場合には、Aは債権者代位権を行使できます。
具体的には、AのBに対する100万円の貸金返還請求権を被保全債権(=債権者代位権によって保全される債権)として、BのCに対する50万円の貸金返還請求権(=被代位権利)を、AはBに代わって行使できます。
債権者代位権の行使方法
債権者代位権は、裁判上でも裁判外でも行使できます。
上記のケースでは、AはCに対して訴訟を提起して、50万円を自分に直接支払うように請求できます。
また、訴訟を提起せずとも、AはCに対して内容証明郵便などで請求書を送付し、50万円を自分に支払うよう催告することも可能です。
債権者代位権の行使の効果
債権者代位権を行使した人は、被代位権利の債務者(=第三債務者。上記のケースのCのこと)に対して、その債務の目的である金銭の支払いまたは動産の引渡しを直接請求できます(民法423条の3)。
債権者Aが第三債務者Cから受け取った金銭等は、本来であれば被保全債権の債務者Bに返還しなければなりません。
ただし、債権者が債務者に対して有する債権と、第三債務者から支払いを受けた金銭を債務者に返還すべき債務が相殺適状にある場合、債権者は両者を対当額で相殺できると解されています(民法505条1項)。
債権者Aは債権者代位権を行使して第三債務者Cから金銭の支払いを受け、その金銭を相殺によって債務者Bに対する債権の弁済に充当することにより、債権者Aは事実上の優先弁済を受けることができます。
債権者代位権を行使するための要件
債権者代位権を行使するためには、以下の要件を全て満たすことが必要です。
① 自己の債権を保全する必要があること(無資力要件)
② 被保全債権に関する要件
③ 被代位権利に関する要件
④ 債務者自身が未だ被代位権利を行使していないこと
自己の債権を保全する必要があること(無資力要件)
債権者代位権を行使できるのは、自己の債権を保全するため必要があるときに限られます。
「自己の債権を保全するため必要があるとき」とは、債務者に弁済のための資力がないことを意味します。この要件は「保全の必要性」や「無資力要件」などと呼ばれています。
ただし、後述する債権者代位権の「転用」の場面では、例外的に無資力要件が不要とされています。
被保全債権に関する要件
被保全債権(=債権者代位権によって保全される債権)については、以下の要件を満たしている必要があります。
(a) 被保全債権が有効に存在していること
(b) 原則として、金銭債権であること
※「転用」の場合は例外
(c) 原則として、被保全債権の履行期が到来していること
※裁判上の代位による場合、および保存行為は例外
被代位権利に関する要件
被代位権利(=債権者代位権に基づいて代位行使する権利)については、強制執行により実現することのできるものであることが必要です(民法423条3項)。
例えば、以下のような権利については、債権者代位権に基づく代位行使が認められません。
(a) 一身専属権
(例)親権、扶養請求権、著作者人格権など
(b) 差押禁止債権
(例)給料債権の一部、公的年金の請求権など
債務者自身が未だ被代位権利を行使していないこと
債権者代位権は、資力のない債務者が被代位権利(上記のケースでBがCにお金を返してもらうこと)を行使しないために、責任財産が減少することを防ぐ制度です。
そのため、債務者自身が未だ被代位権利を行使していないことが、債権者代位権行使の要件とされています。債務者がすでに被代位権利を行使している場合は、その方法や結果に関わらず、債権者代位権の行使は認められません。
なお、債務者による被代位権利の行使方法などが不適切と思われる場合は、訴訟参加(民事訴訟法42条以下)をすることや、詐害行為取消権(民法424条)を行使することなどが考えられます。
債権者代位権に関する民法上のルール
債権者代位権については、長年にわたり集積された判例の規範の整理等を行う形で、2020年4月1日に施行された改正民法によって以下のルールが設けられました。
- 代位行使の範囲(民法423条の2)
- 債権者への支払いまたは引渡し(民法423条の3)
- 相手方の抗弁(民法423条の4)
- 債務者の取立てその他の処分の権限等(民法423条の5)
- 被代位権利の行使に係る訴えを提起した場合の訴訟告知(民法423条の6)
- 登記または登録の請求権を保全するための債権者代位権(民法423条の7)
代位行使の範囲
債権者代位権に基づき、債権者が可分債権である被代位権利を行使できるのは、自己の債権額の限度に限られます(民法423条の2)。
被保全債権の保全の必要性が認められるのは、その額の限度に限定されるためです。
例えば、AのBに対する100万円の貸金返還請求権を被保全債権として、BのCに対する貸金返還請求権(=被代位権利)を代位行使する場合を考えます。
仮に被代位権利の額が200万円である場合、Aが代位行使できる被代位権利は、被保全債権の額である100万円が上限となります。
債権者への支払いまたは引渡し
被代位権利が金銭の支払いまたは動産の引渡しを目的とするものである場合、債権者代位権を行使する債権者は、第三債務者(=被代位権利の債務者)に対して、その金銭を自己に対して支払い、またはその動産を自己に対して引き渡すことを求めることができます(民法423条の3)。
この場合、債権者に対する支払いまたは引渡しによって、被代位権利は消滅します。
債権者が支払いを受けた金銭または動産は、債務者に対して返還しなければなりません。
ただし金銭の返還債務と、債権者が債務者に対して有する債権が相殺適状にある場合は、相殺が認められます。その結果、債権者は事実上の優先弁済を受けることができます。
相手方の抗弁
第三債務者(=被代位権利の債務者)は、被保全債権の債務者(=被代位権利の債権者)に対して主張できる抗弁をもって、債権者に対抗することができます(民法423条の4)。
例えば、AがBに対して有する貸金返還請求権を保全するため、BのCに対する貸金返還請求権を代位行使する場合を考えます。
仮に、CがBに対してお金を返すべき時期(=弁済期)がまだ到来していないときは、CはAに対し、弁済期が到来するまで金銭を支払わないと主張することが可能です。
債務者の取立てその他の処分の権限等
債権者代位権に基づいて債権者が被代位権利を行使した場合でも、債務者は、被代位権利について自ら取立てその他の処分をすることを妨げられません。この場合は第三債務者も、被代位権利について債務者に対する履行を妨げられません(民法423条の5)。
例えば、AがBに対して有する貸金返還請求権を保全するため、BのCに対する貸金返還請求権を代位行使する場合を考えます。
Aが代位行使に着手した後でも、BはCに対して自ら貸金の返還を請求できます。また、CがBに対して行った貸金の返済は有効です。
この場合、Cの返済によって被代位権利が消滅するので、Aによる債権者代位権の行使は空振りに終わってしまいます。
被代位権利の行使に係る訴えを提起した場合の訴訟告知
債権者は、債権者代位権に基づく被代位権利の行使に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対して訴訟告知をしなければなりません(民法423条の6)。
「訴訟告知」とは、訴訟が提起されたことを利害関係のある第三者に告知する、民事訴訟上の手続きです(民事訴訟法53条)。
訴訟告知を受けた債務者は、それをきっかけとして民事訴訟に参加することができます(民事訴訟法42条・47条)。
訴訟に参加するか否かに関わらず、訴訟告知を受けた債務者には、一定の裁判の効力が及びます(民事訴訟法53条4項・46条)。
登記または登録の請求権を保全するための債権者代位権
登記または登録をしなければ権利の得喪・変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記請求権または登録請求権を行使しないときは、その権利を行使することができます(民法423条の7)。
この登記請求権・登録請求権の代位行使は、債務者の責任財産を保全するという債権者代位権の本来の趣旨からは外れていますが、後述する「転用」の一類型として判例上認められていたものです。
2020年4月1日に施行された改正民法により、登記請求権・登録請求権を保全するため、債権者代位権を行使できる旨が明記されました。
登記請求権・登録請求権の代位行使の対象となる財産は、主に不動産や自動車などです。
例えば、AがBから土地を購入したものの、その土地の登記簿上の所有者はまだCになっているとします。
この場合、BがCに対する登記請求権を行使しないときは、Aがその登記請求権を代位行使し、Cに対してBに登記名義を移転することを請求できます。
なお、登記請求権・登録請求権を保全するための債権者代位権の行使については、以下の規定が準用されます。
- 相手方の抗弁(民法423条の4)
- 債務者の取立てその他の処分の権限等(民法423条の5)
- 被代位権利の行使に係る訴えを提起した場合の訴訟告知(民法423条の6)
債権者代位権の「転用」とは
債権者代位権は本来、債務者の責任財産を維持して強制執行の準備をするための制度です。そのため、債権者代位権の被保全債権は、金銭債権であることが原則とされています。
しかしながら判例上、金銭債権ではない権利を実現するため、その権利と密接に関連する権利の代位行使が容認されてきた例があります。これは、債権者代位権の「転用」と呼ばれるものです。
前述のとおり、「転用」の一類型である登記請求権と登録請求権を保全するための債権者代位権については、2020年4月1日に施行された改正民法によって明文化されました。
その他の「転用」については明文化が見送られましたが、現在でも判例上、以下の「転用」が認められると解されています。
① 不動産賃借人による妨害排除請求権の代位行使
② 抵当権者による妨害排除請求権の代位行使
不動産賃借人による妨害排除請求権の代位行使
不動産の賃借人は、その不動産を使用・収益させることを請求する権利を保全するため、賃貸人の第三者に対する妨害排除請求権を代位行使できると解されています(大審院昭和4年12月16日判決)。
例えば、AがBから借りた土地を、Cが不法占拠しているとします。
この場合、AはBのCに対する妨害排除請求権を代位行使し、Cに対して土地から出ていくよう請求できます。
抵当権者による妨害排除請求権の代位行使
不動産の抵当権者は、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、自らの優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者の第三者に対する妨害排除請求権を代位行使できると解されています(最高裁平成11年11月24日判決)。
例えば、AがBの所有する土地について抵当権を有しており、その土地をCが不法占拠しているとします。
この場合、AはBのCに対する妨害排除請求権を代位行使し、Cに対して土地から出ていくよう請求できます。