錯誤とは?
民法と刑法における意味・具体例・
要件・錯誤取り消しのルールなどを
分かりやすく解説!
おすすめ資料を無料でダウンロードできます ✅ [法務必携!]ポケット契約用語集~基本編~ |
- この記事のまとめ
-
「錯誤」には「まちがい」「誤り」などの意味があります。
法律上の錯誤は、刑法上の錯誤と民法上の錯誤の2種類に大別され、さらに、以下の種類があります。■刑法上の錯誤
├事実の錯誤
└法律の錯誤■民法上の錯誤
├表示の錯誤
└動機の錯誤契約実務において問題となる民法上の錯誤とは、意思表示に対応する意思を欠いた状態、または意思表示の動機に当たる認識が真実に反している状態を意味します。
錯誤が重要なものである場合、表意者は錯誤に基づく意思表示を取り消すことができます。ただし、動機の錯誤については、その動機が相手方に表示されていたことが必要です。
また、表意者に重大な過失があった場合には、原則として錯誤取り消しが認められません。さらに、錯誤による取り消しは善意無過失の第三者に対抗できない点にも注意が必要です。
この記事では錯誤について、基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2024年3月21日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
錯誤とは|意味を分かりやすく解説!
「錯誤」には「まちがい」「誤り」などの意味があります。
法律上の錯誤は、刑法上の錯誤と民法上の錯誤の2種類に大別され、さらに、以下の種類があります。
- 法律上の錯誤の種類
-
■刑法上の錯誤
├事実の錯誤
└法律の錯誤■民法上の錯誤
├表示の錯誤
└動機の錯誤
刑法における錯誤1|事実の錯誤
「事実の錯誤」とは、犯罪を行った者が認識した事実と実際に生じた事実が食い違うことをいいます。
(例)
・自分の所有物だと思っていたものを壊したところ、実は他人の所有物だった。
・殴られると思って殴り返したが、実は相手に殴るつもりは一切なかった。
事実の錯誤が認められる場合には、犯罪の故意(罪を犯す意思)が否定されることがあり、否定された場合には、原則、罰を受けません(刑法38条1項)。
刑法における錯誤2|法律の錯誤
「法律の錯誤」とは、違法な行為を行ったものの、その行為が違法ではないと勘違いしていたことをいいます。
(例)
・窃盗罪として処罰されることを知らずに、他人のコンセントを勝手に使って電気を盗んだ。
・日本では処罰されることを知らずに、日本国内において大麻を所持した。
法律の錯誤によって犯罪の故意が否定されることはありませんが、情状によって刑を減軽することが認められています(刑法38条3項)。
民法における錯誤1|表示の錯誤
「表示の錯誤」とは、実際の意思とは違う意思表示をしたことです。
(例)
・1万円で買うつもり(=実際の意思)だったのに、金額の桁数を数え間違えて、「10万円で買う」という契約書にサイン(=間違った意思表示)した。
・不動産Aを買うつもり(=実際の意思)だったのに、「不動産Bを買う」という契約書にサイン(=間違った意思表示)した。
表示の錯誤が、重要かつ表意者に重大な過失がない場合、表意者は意思表示を取り消すことができます(後述)。
民法における錯誤2|動機の錯誤
「動機の錯誤」とは、意思表示の動機に当たる認識が真実に反していることをいいます。
(例)
・山手線の内側に所在するからという理由で購入を決めた不動産が、実際には山手線の外側に所在していた。
・加湿機能を備えているからという理由で購入した空気清浄機が、実際には加湿機能を備えていなかった。
動機の錯誤については、その動機が表示されていて、錯誤が重要であり、かつ表意者に重大な過失がない場合に限り、表意者は意思表示を取り消すことができます(後述)。
民法における錯誤の要件
民法上の錯誤が認められる場合には、意思表示を取り消せることがあります(民法95条)。
要件1|表示の錯誤または動機の錯誤に基づく意思表示
要件2|錯誤が重要なものであること
要件3|動機が表示されていたこと(動機の錯誤のみ)
要件4|錯誤が表意者の重大な過失によるものでないこと(例外あり)
要件1|表示の錯誤または動機の錯誤に基づく意思表示
錯誤の取り消しが認められるためには、その意思表示が表示の錯誤または動機の錯誤に基づいて行われたことが必要です(民法95条1項)。
表示の錯誤:意思表示に対応する意思を欠いた状態
動機の錯誤:意思表示の動機に当たる認識が真実に反している状態
要件2|錯誤が重要なものであること
錯誤によって意思表示を取り消すことができるのは、その錯誤が重要なものである場合に限られます(民法95条1項)。
錯誤が重要なものであるかどうかは、法律行為(契約など)の目的や、取引上の社会通念に照らして判断されます。
要件3|動機が表示されていたこと(動機の錯誤のみ)
動機の錯誤に基づく意思表示の取り消しは、その動機が相手方に表示されていたときに限って認められます(民法95条2項)。
- 例
-
■ケース:山手線の外側にある不動産の売買契約を締結した
■取り消しが認められる場合
売買のやり取りを進める中で、「山手線の内側に所在する物件が欲しかった(動機)ので、この不動産を買います」と相手に伝えていた場合■取り消しが認められない場合
売買のやり取りを進める中で、「山手線の内側に所在する物件が欲しかった」という動機を、相手に伝えていなかった場合
動機は内心の意思であるところ、その意思を相手方が知ることができなければ、錯誤取り消しが不意打ちになってしまうためです。
要件4|錯誤が表意者の重大な過失によるものでないこと(例外あり)
錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合は、原則として錯誤取り消しが認められません。ただし例外的に、以下のいずれかに該当する場合には、表意者に重大な過失があっても錯誤取り消しが認められます。(民法95条3項)
①相手方が表意者に錯誤があることを知り、または重大な過失によって知らなかったとき
②相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき
錯誤取り消しについて
錯誤に基づく意思表示の取り消しについて、民法に定められた以下の事項に関するルールを解説します。
① 錯誤取り消しの効果
② 錯誤取り消しは善意無過失の第三者に対抗できない
③ 錯誤取り消しの手続き
④ 錯誤によって取り消せる行為の追認
⑤ 錯誤取り消しの期間制限(時効)
錯誤取り消しの効果
錯誤によって取り消された意思表示は、初めから無効であったものとみなされます(民法121条)。したがって、意思表示によって締結された契約も、当初に遡って無効となります。
錯誤取り消しによって無効となった契約等に基づき、債務の履行として給付を受けた者は、原状回復を行わなければなりません(民法121条の2)。
(例)
不動産Xを購入する売買契約を、錯誤に基づき取り消した場合
→相手方に不動産Xを返還し(抹消登記手続きを含む)、支払い済みの手付金や売買代金などを返してもらう
錯誤取り消しは善意無過失の第三者に対抗できない
錯誤に基づく取り消しは、錯誤について善意でかつ過失がない第三者に対抗できません(民法95条4項)。
(例)
AがBに対して不動産Xを売却する売買契約を締結し、さらに、BがCに対して不動産Xを譲渡。その後に、AB間の不動産Xの売買契約を取り消そうとした場合
→Cが錯誤について善意無過失であれば、AはCに対して錯誤取り消しを対抗できないので、Cが不動産Xの所有権を取得する
錯誤取り消しの手続き
錯誤取り消しは、相手方に対する意思表示によって行います(民法123条)。内容証明郵便など、意思表示をしたことの証拠が残る方法で行うのがよいでしょう。
錯誤によって取り消せる行為の追認
錯誤によって取り消せる行為は、取消権者の追認によって確定的に有効となります。追認も取り消しと同様に、相手方に対する意思表示によって行います(民法123条)。
なお、錯誤を知って追認できるようになった時点以降に、取り消すことができる行為について以下の事実が生じたときは、追認したものとみなされます。ただし、異議をとどめたときはこの限りではありません(民法125条)。
① 全部または一部の履行
② 履行の請求
③ 更改
④ 担保の供与
⑤ 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部または一部の譲渡
⑥ 強制執行
錯誤取り消しの期間制限(時効)
錯誤に基づく取消権は、以下のいずれかの期間が経過すると時効によって消滅します(民法126条)。
① 追認できる時から5年
② 行為(意思表示)の時から20年
おすすめ資料を無料でダウンロードできます ✅ [法務必携!]ポケット契約用語集~基本編~ |