セキュリティ・クリアランス制度とは?
目的・必要性・概要・
企業の対応のポイントなどを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「セキュリティ・クリアランス制度」とは、政府が保有する安全保障上重要な情報として指定された情報にアクセスする必要がある者に対し、その者の信頼性を調査・確認した上でアクセスを認める制度です。
従来は「特定秘密保護法」によってセキュリティ・クリアランス制度が定められていましたが、2024年の国会において「重要経済安保情報保護法」が成立し、新制度が導入されることが予定されています。この動きは、安全保障の必要性が高まっている国際情勢と、企業からのニーズを背景とするものです。
重要経済安保情報保護法では、政府が指定する「重要経済安保情報」を対象としたセキュリティ・クリアランス制度が定められています。
適合事業者は、その信頼性について政府の調査・確認を受けた後、行政機関と締結する契約に基づいて重要経済安保情報の開示を受けられます。また、適合事業者において重要経済安保情報を取り扱う者(従業者)に対しては、政府が適性評価を実施するものとされています。
重要経済安保情報を流出させた場合には、事業者と従業者に厳しい罰則が科されます。この記事ではセキュリティ・クリアランス制度について、目的・必要性や期待される効果、企業の対応のポイントなどを解説します。
※この記事は、2024年4月16日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。(2024年5月17日追記)
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 特定秘密保護法…特定秘密の保護に関する法律
- 重要経済安保情報保護法…重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律
目次
セキュリティ・クリアランス制度とは
「セキュリティ・クリアランス制度」とは、政府が保有する安全保障上重要な情報として指定された情報にアクセスする必要がある者に対し、その者の信頼性を調査・確認した上でアクセスを認める制度です。
日本においては、従来は「特定秘密保護法」によってセキュリティ・クリアランス制度が定められていました。そして、2024年の通常国会において成立した「重要経済安保情報保護法」(令和6年法律第27号、公布後1年以内に施行)により、さらにセキュリティ・クリアランス制度の整備が進む見通しとなっています。
セキュリティ・クリアランス制度の必要性・メリット
セキュリティ・クリアランス制度を整備する動きの背景には、安全保障の必要性が高まっている国際情勢と、企業からのニーズがあります。
安全保障に関しては、防衛・外交などの伝統的な領域から経済・技術の分野にも拡大し、軍事技術・非軍事技術の境目も曖昧になっている状況です。
こうした状況において、機密性の高い国家情報を適切に管理・利用する能力を高めることは、非常に重要といえます。
企業においては、同盟国等の政府調達などに関する国際共同開発へ参加する際、セキュリティ・クリアランスを信頼の証として活用したいというニーズが存在します。
確立された制度に基づくセキュリティ・クリアランスを保有していれば、同盟国等における機密情報の開示を受けることができ、国際共同プロジェクトに関する具体的な検討・参加の機会が広がることが期待されます。
内閣官房「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」
アメリカのセキュリティ・クリアランス制度
アメリカでも、セキュリティ・クリアランス制度が導入されています。
アメリカにおいて政府の機密情報(CI:Classified Information)を取り扱うことができるのは、身上調査を経て行政機関の長から適性を認定された者(=セキュリティ・クリアランスを保有している者)のみです。
また、機密情報は3段階(Top Secret, Secret, Confidential)に区別されており、セキュリティ・クリアランスの資格段階によってアクセスできる機密情報のレベルが異なります。
特定秘密の保護に関する制度との違い
日本では、すでに特定秘密保護法により、セキュリティ・クリアランス制度に相当する制度が導入されています。
特定秘密とは、行政機関の所掌事務に関する非公知情報のうち、日本の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるものとして、行政機関の長が指定したものです(特定秘密保護法3条1項)。
特定秘密については保護措置を講じた上で(同法5条)、その提供や取り扱いに関して厳格なルールが設けられています(同条6条以下)。
特定秘密の保護に関する制度は、諸外国との情報保護協定において、Top SecretおよびSecretに相当する機密情報の保全枠組みと位置づけられ、国際的に通用しています。
そのため、今回のセキュリティ・クリアランス制度の整備においても、従来の特定秘密の保護に関する制度の枠組みをおおむね踏襲する形で新制度が構築される予定です。
その一方で今回のセキュリティ・クリアランス制度では、
✅ Confidential級の機密情報にも対応する
✅ 調査機能を一元化して政府全体で統一的な対応を行う
✅ 調査の共通化を通じてセキュリティ・クリアランスを受ける者の利便性を向上させる
などを目的に、既存の制度をアップデートする改正が行われています。
特に、特定秘密としての保護は防衛・外交・特定有害活動の防止・テロリズムの防止の4分野に限定されているのに対して、新制度では経済安全保障に関する情報も保護の対象となる点が注目されます。
セキュリティ・クリアランス制度のポイント
2024年の通常国会で重要経済安保情報保護法が成立した場合、新たなセキュリティ・クリアランス制度が確立することになります。
新たなセキュリティ・クリアランス制度のポイントは、以下のとおりです。
ポイント1|重要経済安保情報の指定
一定の秘匿性の高い国家機密情報については、行政機関の長が「重要経済安保情報」として指定するものとされています。
ポイント2|厳格な情報管理・提供ルール
重要経済安保情報については、適合事業者の要件を満たした上で、当該情報を保有する行政機関との間で契約を締結しなければなりません。
適合事業者においては、重要経済安保情報に関する情報管理措置等を講ずることが求められます。また、実際に重要経済安保情報を取り扱う者は、あらかじめ適性評価を受ける必要があります。
ポイント3|罰則
重要経済安保情報を漏らした者に対しては、厳格な罰則規定が適用されます。
ポイント1|重要経済安保情報の指定
新たなセキュリティ・クリアランス制度の下で、厳格な情報管理・提供ルールの対象となるのは、行政機関の長が指定する「重要経済安保情報」です。
重要経済安保情報とは
「重要経済安保情報」とは、重要経済基盤保護情報であって、公になっていないもののうち、その漏えいがわが国の安全保障に支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるものとして、行政機関の長が指定したものをいいます(重要経済安保情報保護法3条1項)。
ただし、日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法に基づく特別防衛秘密(武器などに関する情報)と、特定秘密保護法に基づく特定秘密は、重要経済安保情報としての指定の対象外とされています。
重要経済基盤保護情報とは
重要経済安保情報としての指定の対象となる「重要経済基盤保護情報」とは、重要経済基盤に関する一定の情報です。
重要経済基盤とは、以下の要件を満たす公共サービスの提供体制または重要な物資の供給網をいいます(重要経済安保情報保護法2条3項)。
- 重要経済基盤とは
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① 国民生活や経済活動の基盤となり、安定的な提供に支障が生じた場合にわが国および国民の安全を損なう事態を生ずるおそれがある公共サービスの提供体制
② 国民の生存に必要不可欠である重要な物資(プログラムを含む)の供給網
③ 広くわが国の国民生活・経済活動が依拠し、または依拠することが見込まれる重要な物資(プログラムを含む)の供給網
重要経済基盤保護情報に当たるのは、重要経済基盤に関する情報であって、次のいずれかの事項に関するものです(同条4項)。
- 重要経済基盤保護情報に当たる情報
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① 外部から行われる行為から重要経済基盤を保護するための措置、またはこれに関する計画若しくは研究
② 重要経済基盤の脆弱性、重要経済基盤に関する革新的な技術その他の重要経済基盤に関する重要な情報であって安全保障に関するもの
③ ①の措置に関し収集した外国の政府または国際機関からの情報
④ ②③に掲げる情報の収集整理またはその能力
重要経済安保情報の指定の有効期間
重要経済安保情報の指定の有効期間は5年以内とされていますが、期間満了時に引き続き指定の要件を満たす場合には、原則として5年ごとに通算30年まで、指定期間の延長が認められています(重要経済安保情報保護法4条1項~3項)。
ただし、やむを得ない事由があり、かつ内閣の承認を得た場合に限って、重要経済安保情報の指定の有効期間を最長60年まで延長できるとされています(同条4項)。
ポイント2|厳格な情報管理・提供ルール
事業者が重要経済安保情報の提供を受けるためには、適合事業者の要件を満たした上で、行政機関との間で契約を締結する必要があります。また適合事業者においては、一定の情報管理措置を講じなければなりません。
さらに、重要経済安保情報を取り扱う適合事業者の従業者は、あらかじめ適性評価を受けることが義務付けられています。
適合事業者とは
「適合事業者」とは、わが国の安全保障の確保に資する活動を行う事業者であって、重要経済安保情報の保護のために必要な施設設備を設置していることその他政令で定める基準に適合するものをいいます(重要経済安保情報保護法10条1項)。
適合事業者の具体的な基準は政令で定められる予定ですが、事業活動の内容・目的や情報管理体制が重点的に審査されるものと考えられます。
内閣官房「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」
情報提供等に関して、行政機関と適合事業者が締結すべき契約の内容
重要経済安保情報の提供に関して、行政機関と適合事業者が締結すべき契約には、以下の事項を定めなければなりません(重要経済安保情報保護法10条3項)。
① 重要経済安保情報の取り扱いの業務を行わせる代表者、代理人、使用人その他の従業者(以下「従業者」)の範囲
② 重要経済安保情報の保護に関する業務を管理する者の指名に関する事項
③ 重要経済安保情報の保護のために必要な施設設備の設置に関する事項
④ 従業者に対する重要経済安保情報の保護に関する教育に関する事項
⑤ 行政機関の長が保有していない重要経済安保情報を保有する適合事業者にあっては、当該行政機関の長から求められた場合には当該重要経済安保情報を当該行政機関の長に提供しなければならない旨
⑥ ①~⑤のほか、当該適合事業者による当該重要経済安保情報の保護に関し必要なものとして政令で定める事項
適合事業者において講ずべき情報管理措置等
適合事業者は、行政機関の長と締結した契約に従い、重要経済安保情報の適切な保護のために必要な措置を講じた上で、あらかじめ定めた範囲内の従業者にその情報を取り扱わせなければなりません(重要経済安保情報保護法10条4項)。
また適合事業者は、行政機関の長の同意がある場合などの限られたケースを除き、第三者に対して重要経済安保情報を提供してはなりません(同条5項~7項)。
適合事業者の従業者に対する適性評価
重要経済安保情報の取り扱いの業務は、原則として、適性評価において重要経済安保情報を漏らすおそれがないと認められた者でなければ行ってはならないとされています(重要経済安保情報保護法11条1項)。
適性評価は、行政機関の長により、以下の事項について行われます(同条2項)。
- 適性評価の対象事項
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①重要経済基盤毀損活動(=外国の利益を図る目的で行われ、かつわが国や国民の安全を害するおそれのある政治的活動など)との関係に関する事項
※評価対象者の家族および同居人の氏名・生年月日・国籍(過去に有していた国籍を含む)・住所を含む② 犯罪および懲戒の経歴に関する事項
③ 情報の取り扱いに係る非違の経歴に関する事項
④ 薬物の濫用および影響に関する事項
⑤ 精神疾患に関する事項
⑥ 飲酒についての節度に関する事項
⑦ 信用状態その他の経済的な状況に関する事項
ポイント3|罰則
重要経済安保情報の取り扱いの業務に従事する者、または過去に当該業務に従事していた者が、その業務により知り得た重要経済安保情報を漏らしたときは「5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金」に処され、またはこれらが併科されます(重要経済安保情報保護法23条1項)。
上記の罪が成立する場合、両罰規定により法人にも刑罰が科されます(同法28条)。
また、過失によって上記の違反を犯した者は「1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金」に処されます(同法23条4項)。
事業者の対応のポイント
事業者としては、新制度に基づくセキュリティ・クリアランスを受けることにより、国家機密情報に関わるプロジェクトへの参画可能性を高められる可能性があります。
特に、軍事・インフラ・先端技術などの分野で事業を展開している事業者は、適合事業者の要件を満たした上で、行政機関との間での情報提供契約の締結を模索するとよいでしょう。
セキュリティ・クリアランスを受けた後、実際に重要経済安保情報を取り扱う従業者については、適性評価を受ける必要があります。
適性評価の実施に当たっては、評価対象者の事前同意が必要です(重要経済安保情報保護法12条3項)。事業者においては、適性評価の対象となりうる従業者とのコミュニケーションを進めておきましょう。
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参考文献
衆議院ウェブサイト「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」