占有改定とは?
具体例・占有移転との違い・メリット・
手続き・即時取得との関係などを
分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
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「占有改定」(せんゆうかいてい)とは、代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示することにより、本人がその物の占有を取得することをいいます。
占有改定は、物の占有を移転する方法の一つです。通常は物を現実に交付する方法で占有を移転させますが(=現実の引渡し)、占有改定では実際に物を交付することなく、法律上の占有だけが移転します。
占有改定には、物の移転に要するコストを節約できる点や、法律上の占有を失っても物を使い続けることができる点などのメリットがあります。
その反面、誰が本当の占有者であるか不明確になりやすい点や、目的物の滅失・損傷が生じた際にトラブルになりやすい点などが占有改定のデメリットです。
占有改定は、目的物を元々占有している代理人の意思表示によって行います。実務上は、当事者間で締結する契約書において、占有改定に関する条項を定めるのが一般的です。
この記事では占有改定について、具体例・メリットやデメリット・手続きなどを解説します。
※この記事は、2024年10月11日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
占有改定とは
「占有改定」(せんゆうかいてい)とは、代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示することにより、本人がその物の占有を取得することをいいます(民法183条)。
占有改定=物の引渡し方法の一つ
占有改定は、物の占有を移転する方法の一つです。
「占有」(せんゆう)とは、物に対する事実上の支配です。
例えば売買契約を締結する場合は、売主が買主に対して目的物の占有を移転します。賃貸借契約を締結する際には、貸主が借主に対して目的物の占有を移転します。
物の占有の移転は、その物を現実に引き渡す方法によって行われるのが一般的です(=現実の引渡し、後述)。
しかし法律上は、現実の引渡し以外の方法によって物の占有を移転することも認められています。占有改定もその方法の一つです。
例えば、AがBに対して業務用機械を売り渡すものの、その機械はAが管理する工場の中で利用するとします。
この場合、AがBに対して業務用機械を現実に引き渡さなくても、Aが今後Bのために業務用機械を占有する意思を表示すれば、その時点で業務用機械の占有がBに移転したことになります。これが占有改定です。
何らかの事情で現実の引渡しが難しい場合や、占有状態を変更しない方がよい事情がある場合などには、占有改定が行われることがあります。
占有改定の具体例
占有改定がなされるのは、例えば以下のような場合です。
- AはB店で商品を買ったが、その商品をすぐに持って帰るのが難しいので、しばらくの間B店に置いたままにしてもらうようお願いして、B店はそれを承諾した。
- CはDから、「Eに渡しておいて」と言われてプレゼントを受け取った。CはEに対して、「Dからあなたのためのプレゼントを受け取ったので、あなたが受け取るまで私が預かっておくね」と伝えた。
- F社はG社から業務用機械を購入したが、スペースや他の機材などとの関係で、F社の事業所において業務用機械を使用することができない状態だった。そのため、G社の事業所に業務用機械を置いてもらって使用したい旨を提案し、G社もそれを承諾した。
占有改定と占有移転の違い|占有改定以外の物の引渡し方法
占有改定は、物の占有を移転する(=占有移転)方法の一つです。
占有移転とは、物に対する事実上の支配(=占有)を移転することをいいます。占有移転の方法としては、占有改定以外にも「現実の引渡し」「簡易の引渡し」「指図による占有移転」が認められています。
現実の引渡し
「現実の引渡し」とは、占有物を現実に引き渡すことにより、その物の占有を移転することをいいます(民法182条1項)。
持ち運びが可能な動産については、現実の引渡しによって占有を移転するのが一般的です。
不動産については、鍵や登記識別情報通知の引渡しなどによって占有を移転します。これも現実の引渡しの一種です。
- 現実の引渡しの例
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・AはB店で金地金を購入した。B店はAに対して金地金を現実に引渡し、Aはその金地金を自宅に持ち帰った。
・CはDから不動産を購入した。DはCに対して、その不動産の鍵や登記識別情報通知などを引き渡した。
簡易の引渡し
「簡易の引渡し」とは、物の譲受人またはその代理人が現に占有物を所持している場合に、譲渡人の意思表示によって占有を移転することをいいます(民法182条2項)。
物がすでに譲受人側にある場合は、改めて譲渡人から譲受人への現実の引渡しをする必要がないので、簡易の引渡しがなされるのが一般的です。
- 簡易の引渡しの例
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・A社は、B社からお試しで短期間レンタルし、A社の事業所において使用していた業務用機械を、B社から購入することに決めた。B社は、A社から売買代金を受領するのと引き換えに、業務用機械の占有をAに移転する旨の意思表示をした。
・Cは友人のDから本を長い間借りていたところ、DはCにその本をあげるので返さなくてもいいという意思表示をした。
指図による占有移転
「指図による占有移転」とは、本人が自らの代理人に対して、代理人が占有している物を以後第三者のために占有することを命じ、当該第三者がこれを承諾することによって占有を移転することをいいます(民法184条)。
指図による占有移転の前後では、目的物を現実に所持しているのは同じ人(代理人)です。
しかし代理人は、指図による占有移転の前は譲渡人のために物を占有していますが、指図による占有移転の後は譲受人のために物を占有します。
指図による占有移転に当たっては、譲受人の承諾が必要とされています。これに対して、目的物を現実に所持する代理人の承諾は不要です。
- 指図による占有移転の例
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・A社はBに対して建物を賃貸していたところ、A社はC社に対してその建物を譲渡することにし、C社もそれを承諾した。A社はBに対して、賃貸人がC社に代わったので、以後はC社に対して賃料を払うべき旨を通知した。
占有改定のメリット・デメリット
占有改定には、物の移転に要するコストを節約できる点や、法律上の占有を失っても物を使い続けることができる点などのメリットがあります。
その反面、誰が本当の占有者であるか不明確になりやすい点や、目的物の滅失・損傷が生じた際にトラブルになりやすい点などが占有改定のデメリットです。
占有改定のメリット
占有改定のメリットとしては、主に以下の3点が挙げられます。
- 占有改定のメリット
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① 物の移転に要するコストを節約できる
占有改定は、目的物の移動を伴いません。そのため、郵送や運搬などに要するコストを節約することができます。② 現実の引渡しが困難な物の占有移転に適している
譲受人側で設置スペースを確保できない大規模な機械など、現実の引渡しが困難な物の占有を移転したい場合は、占有改定の方法が適しています。③ 占有を失っても物を使い続けることができる
譲渡人側において、占有を失っても目的物の使用を続ける必要がある場合は、占有改定によって譲受人に目的物の占有を移転しつつ、譲受人から賃借権や使用借権の設定を受けるのがよいでしょう。
占有改定のデメリット
占有改定のデメリットとしては、主に以下の2点が挙げられます。
- 占有改定のデメリット
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① 誰が本当の占有者であるか不明確になりやすい
占有改定がなされると、目的物は占有を失った譲渡人のところに残ります。
目的物が存在する場所の管理者と法律上の占有者が異なるため、誰が本当の占有者であるのか、第三者にとっては判断が難しいです。
譲渡人がこの状態を悪用して、第三者に目的物を引き渡してしまったりすると、深刻なトラブルに発展するおそれがあります。② 目的物の滅失・損傷が生じた際にトラブルになりやすい
占有改定後の目的物に滅失または損傷が生じた場合、譲渡人の責任で滅失・損傷が生じたのであれば、譲渡人は譲受人の損害を賠償しなければなりません。これに対して、滅失・損傷が譲渡人の責めによらない事由によって生じたのであれば、譲渡人は譲受人に対して損害賠償責任を負いません。占有改定後の目的物は、占有を失った譲渡人のところにあります。そのため、占有者である譲受人は、滅失・損傷がどのような原因で発生したのかが分かりにくいです。
譲渡人は自らの責任を否定する一方で、譲受人が状況証拠などから譲渡人の責任を何とか立証しようと試みた結果、長期間にわたるトラブルに発展するおそれがあります。
占有改定による占有移転の手続き
占有改定を行う際には、目的物を元々占有している人(=代理人)が、以後占有を取得する人(=本人)のために目的物を占有する意思を表示することが必要です(民法183条)。
代理人が内心で占有改定をしようと考えているだけでは足りず、その意思を外部に表示することが必要とされています。
占有改定の意思表示の方法は、法律上特に限定されていません。例えば、代理人が本人に対して口頭で意思表示をするだけでも、占有改定は成立します。
ただし、いつ占有改定がなされたのかを明確化するためには、口頭ではなく書面で意思表示をすることが推奨されます。また、占有改定を伴う取引の詳細条件についても、書面で合意しておくことが望ましいでしょう。
そのため実務上は、当事者間で締結する契約書において、占有改定に関する条項を定めるのが一般的です。
非典型担保における占有改定の活用
抵当権などの民法上明記されている「典型担保」に対して、民法に規定がないものの慣習上認められている担保権を「非典型担保」といいます。
非典型担保に当たる「譲渡担保」や「所有権留保」を設定する際には、占有改定が活用されています。
譲渡担保における占有改定
「譲渡担保」とは、物の所有権を形式上移転することによって設定される担保権です。
譲渡担保権者は、設定者から担保の目的で物の所有権を譲り受けます。
しかし、譲渡担保権者はその物を自由に処分できるわけではありません。被担保債権の債務不履行が生じた場合に、初めてその物を譲り受けるか、または換価処分することができます。
その際、被担保債権の額を超える利益が生じた場合は、その差額を清算金として設定者に支払わなければなりません。
譲渡担保を設定する際には、設定者が占有改定の意思表示を行い、譲渡担保権者に対して目的物の占有を移転します。特に動産については、占有改定による占有移転がなされることで、譲渡担保権者は担保権を第三者に対抗できるようになります(民法178条)。
その一方で、実際には目的物は設定者のところに存在するので、設定者は目的物を使用し続けることができます。
所有権留保における占有改定
「所有権留保」とは、売主が売買代金を担保するために、完済まで目的物の所有権を留保する担保権です。特に、自動車をローンで購入する場合などに所有権留保が設定されます。
所有権留保においては、売主が買主に対して目的物を引き渡した後、買主が占有改定の意思表示をして、売主へ占有を移転し直すのが一般的です。特に動産については、占有改定によって改めて占有を取得することで、売主は所有権留保を第三者に対抗できるようになります(民法178条)。
ただし、自動車の所有権留保については登録が対抗要件とされています(道路運送車両法5条1項)。したがって自動車については、占有改定を受けるだけでは所有権留保を対抗することができない点に注意が必要です。
占有改定による即時取得は認められる?
占有改定に関しては、占有改定によって即時取得が成立するかどうかという論点があります。
「即時取得」とは、取引行為によって平穏・公然・善意・無過失に動産の占有を始めた者が、即時にその動産の所有権を取得できる制度です(民法192条)。
最高裁の判例上、占有改定によって即時取得は成立しないと解されています(最高裁昭和35年2月11日判決)。
即時取得の趣旨は外観上の事実状態を保護する点にあるところ、占有改定がなされても外観上の占有状態は変わらないため、即時取得の趣旨が妥当しないと考えられるからです。