新株予約権とは?
新株予約権の種類・活用方法・発行手続き・
メリットなどを分かりやすく解説!
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※この記事は、2023年6月2日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 振替法…社債、株式等の振替に関する法律
目次
新株予約権とは
新株予約権とは、会社に対して行使することにより当該会社の株式の交付を受けることができる権利のことをいいます(会社法2条21号)。
もう少し具体的にいうと、新株予約権者が、あらかじめ定められた期間(権利行使期間)内に権利を行使し、あらかじめ定められた価額(権利行使価額)を払い込むことによって、会社から株式の交付を受けることができる権利のことをいいます。
新株予約権者は、新株予約権を行使するかしないかを選択できる権利(オプション)を持っていますので、権利行使期間内に権利を行使しなくても問題ありません。
例えば、新株予約権者が、新株予約権1個につき100円を払い込むことによって株式1株を取得することができる新株予約権を保有している場合、権利行使期間内に株式の市場価額が1株120円となれば(1株100円を超えれば)、新株予約権者は、新株予約権を行使することにより、1株100円の払込みで1株120円の価値のある株式を取得することができますので、1株につき20円の経済的利益を得ることができます。
一方、権利行使期間内に株式の市場価額が80円に下落してしまったときには(1株100円を超えなければ)、新株予約権者は新株予約権を行使しなければ特段の経済的不利益を受けずに済みます。
このように、新株予約権は、株式の価値が権利行使期間内に権利行使価額よりも上がればその分経済的利益を受けることができる権利といえます。
新株予約権付社債とは
新株予約権付社債とは、新株予約権を付した社債をいいます(会社法2条22号)。
社債とは、会社法の規定に従って発行される会社を債務者とする金銭債権の1つであり、満期に元本の償還を受けることができるものです(会社法2条23号参照)。
新株予約権付社債は、
- 社債の満期に元本の償還を受けることができる
- 新株予約権の権利行使期間内に株式の価値が上がれば経済的利益を受けることができる
という2つの特性を利用し、権利行使期間内に株式の価値が上がれば新株予約権を行使して株価上昇の利益を受けることができ、一方、権利行使期間内に株式の価値が上がらなければ新株予約権を行使せず、社債の償還を受けることを可能とする制度です。
新株予約権の種類・活用方法
新株予約権の活用方法にはさまざまなものがありますが、例えば、以下のような活用方法を挙げることができます。
①役員や従業員に対するインセンティブ報酬(ストックオプション)
「新株予約権とは」に記載のとおり、新株予約権は、株式の価値が権利行使期間内に権利行使価額よりも上がればその分利益を得ることができる権利です。このような新株予約権者を役員や従業員に付与すると、これらの役員等は会社の業績を上げて株式の価値を上げることに強い動機(インセンティブ)を持ちます。このため、新株予約権は、役員や従業員に対するインセンティブ報酬として活用されています。
このようなタイプの新株予約権はよくストックオプションといわれています。
②資金調達方法
会社は、新株予約権の発行に当たり、新株予約権の引受人から金銭の払込みを受けることができます(会社法238条1項3号・246条1項参照。オプション料)。また、新株予約権者が新株予約権を行使するときにも権利行使価額分の金銭の払込みを受けることができます(会社法236条1項2号・281条1項参照)。
新株予約権無償割当て(「新株予約権無償割当て」)を行う場合には、新株予約権の割当てに当たっては株主から金銭の払込みを受けることができませんが(会社法277条参照)、新株予約権者が新株予約権を行使するときに払込みを受けることができることは同様です。
このため、新株予約権は資金調達方法としても活用されます。
③買収防衛策
新株予約権は買収防衛策のためにも活用されています。例えば、買収者が当該会社を買収しようとするときに従うべきルール(一定の情報提供を行うこと等)を定めておき、買収者が当該ルールを遵守せずに買収を試みた場合には、差別的な内容(買収者以外の株主は新株予約権を行使することができるが、買収者は新株予約権を行使できない等)の新株予約権の無償割当てを行う(≒他の株主が権利行使すると買収者の持株比率は下がる)方法が考えられます。
新株予約権の発行
募集新株予約権の発行
株式会社は、新たに新株予約権を発行して資金調達をすることができます。新株予約権の行使により新株予約権者が取得することになる株式の数は、発行可能株式総数から発行済株式の総数を差し引いた数を超えることはできません(会社法113条4項)。
新株予約権の発行方法には、新株発行の場合と同様、
① 株主割当て(株主に新株予約権の割当てを受ける権利を与えるもの)
② 第三者割当て(特定の第三者に新株予約権を取得させるもの)
③ 公募(不特定多数の者に新株予約権を取得させるもの)
の3つの方法があります。
会社が新株予約権を発行し、当該新株予約権が行使されると、新株が発行されるのと同様の状況が生じますので、新株予約権が行使されると、既存の株主は、
× 持株比率の低下(既存株主の有する株式の割合が低下することにより議決権比率が低下するなど会社に対する影響力が低下してしまうこと)
× 持株価値の希釈化(新株予約権が行使される場合、払込金額は現在の株式の価値より低いことが想定されるため、既存株主が有する株式の経済的価値が低下し経済的損失を被ること)
といった不利益を受ける場合があります。このため、会社が新たに新株予約権を発行する場合、会社法上定められた機関で、新株予約権について募集事項の決定をする必要があります。
具体的には、おおむね以下のとおりまとめることができます。
非公開会社 | 原則 | 株主総会の特別決議(会社法238条2項・309条2項6号) |
株主割当て | 取締役の決定or取締役会の決議(会社法241条3項1号・2号) ※定款の定めがある場合 | |
公開会社 | 原則 | 取締役会の決議(会社法240条1項) |
有利発行※ | 株主総会の特別決議(会社法240条1項・238条2項・3項・309条2項6号) ※株主割当ての場合は、有利発行に当たっても、取締役会の決議(会社法241条3項3号) | |
支配権の異動を伴う場合 | 株主総会の普通決議(会社法244条の2第5項・6項) |
※有利発行とは、募集新株予約権株の払込金額が、募集新株予約権を引き受ける者にとって特に有利な金額である場合をいいます(会社法238条3項参照)。
募集事項が決定された後は、おおむね、
① 会社による募集新株予約権の引受けの申込みをしようとする者に対する通知(会社法242条1項)
② 募集新株予約権の引受けの申込みをする者による申込み(同条2項)
③ 会社による募集新株予約権の割当て(会社法243条1項)
④ 新株予約権者による払込み(会社法246条1項)
といった流れで手続きが進みます。
新株予約権無償割当て
会社は、株主に対して、その保有株式数に応じて、無償で新株予約権の割当てをすることができます。これを新株予約権無償割当てといいます(会社法277条)。
新株予約権無償割当てを行うためには、定款に別段の定めがある場合を除き、取締役会設置会社であれば取締役会の決議で、非取締役会設置会社であれば株主総会の普通決議で、株主に割り当てる新株予約権の内容や数等について決定することが必要です(会社法278条1項・3項)。
新株予約権の譲渡
新株予約権の譲渡と権利行使の方法
新株予約権は、自由に譲渡できることが原則です(会社法254条1項)。
新株予約権が自由に譲渡できるということは、新株予約権が不特定多数の者の間で流通するということですので、特に、会社や第三者から見て、誰を新株予約権者として扱う必要があるのかという点が問題となります。
以下に、当事者間における新株予約権譲渡の効力発生要件、新株予約権が譲渡されたときの(会社を除く)第三者への対抗要件、会社への対抗要件について整理します。
効力発生要件 | 対第三者対抗要件 | 対会社対抗要件 | |
---|---|---|---|
新株予約権証券が発行されている場合 | 新株予約権証券の交付(会社法255条1項・2項) | 新株予約権証券の交付(会社法257条2項・3項) | ・記名式の新株予約権証券が発行されている場合、新株予約権原簿の名義書換え(会社法257条2項) ※新株予約権原簿の名義書換えは、譲受人単独で可能(会社法260条2項、会社法施行規則56条2項1号) ・無記名式の新株予約権証券が発行されている場合、新株予約権証券の交付(会社法257条3項) |
新株予約権証券が不発行の場合 | 当事者の意思表示 | 新株予約権原簿の名義書換え(会社法257条1項) ※新株予約権原簿の名義書換えは、譲渡人と共同でする必要あり(会社法260条2項) | 新株予約権原簿の名義書換え(会社法257条1項) ※新株予約権原簿の名義書換えは、譲渡人と共同でする必要あり(会社法260条2項) |
振替新株予約権が発行される場合 | 譲受人の口座の保有欄に譲渡に係る数の増加の記載・記録がされること(振替法174条) | 譲受人の口座の保有欄に譲渡に係る数の増加の記載・記録がされること(振替法190条、会社法257条1項) | 譲受人の口座の保有欄に譲渡に係る数の増加の記載・記録がされること(振替法190条、会社法257条1項) |
※記名式の新株予約権証券の場合は、新株予約権原簿に新株予約権者に関する情報が記載・記録されますが(会社法249条3号イロハ)、無記名式の新株予約権証券の場合は、新株予約権者に関する情報は記載・記録されません(同条1号・2号)。
新株予約権の譲渡制限と承認手続
上記のとおり、新株予約権は自由に譲渡できることが原則ですが(会社法254条1項)、会社は、新株予約権の内容として、譲渡による新株予約権の取得について会社の承認を要する旨を定めることができます(譲渡制限新株予約権。会社法236条1項6号)。
譲渡制限新株予約権の譲渡人や譲受人は、譲渡制限新株予約権の譲渡・譲受けをしようとするときは、会社に対して譲渡等承認請求を行い(会社法262条・263条)、これに対し、譲渡の承認機関(原則として取締役会設置会社であれば取締役会、非取締役会設置会社であれば株主総会。会社法265条1項)が、当該譲渡・譲受けの承認をするかを決定します。
会社(承認機関)が譲渡・譲受けを承認すれば譲渡の効力が生じますし、会社が譲渡等承認請求の日から2週間(これを下回る期間を定款で定めた場合はその期間)以内に決定の内容を通知しなかったときも、譲渡等承認請求を承認したものとみなされます(会社法266条)。
もっとも、譲渡制限株式の場合は、譲渡人や譲受人が譲渡等承認請求に当たり買取先指定請求をしていれば、会社が譲渡等承認請求を承認しなかった場合でも、会社は、自ら株式を買い取るか、買受人の指定をしなければなりませんが(このため、譲渡制限株式の譲渡人は、必ず株式を誰かに譲渡することができます)、譲渡制限新株予約権の場合、譲渡人や譲受人は買取先指定請求をすることができませんので、譲渡制限新株予約権の新株予約権者は最終的に譲渡制限新株予約権を譲渡することができないこともあります。
自己新株予約権
株式会社が有する自己の新株予約権を「自己新株予約権」といいます(会社法255条1項)。以下では、自己新株予約権に関連する会社法上のルールについて見ていきます。
自己新株予約権の取得
自己株式を取得する場合は、会社財産減少のおそれや株主間に不公平を発生させるおそれから、財源規制や手続規制が設けられていますが、自己新株予約権の取得に当たっては、会社法上特段のルールは規定されていません。このため、会社と新株予約権者との合意により、自由に自己新株予約権を取得することができると考えられています。
自己新株予約権の消去・処分
会社は、取締役会設置会社であれば取締役会の決議により、自己新株予約権を消却する(消滅させる)ことができます(会社法276条)。
また、会社は、自己新株予約権を処分することもできます。なお、自己株式の処分に当たっては、募集株式の発行に関する規律に従って自己株式を処分する必要がありますが(会社法199条以下参照)、自己新株予約権の処分に当たっては、募集新株予約権の発行に関する規律に従う必要はありません(会社法238条以下参照)。
新株予約権の行使方法
新株予約権者が、新株予約権を行使するに当たっては、権利行使期間内に、行使する新株予約権の内容および数、ならびに新株予約権を行使する日を明らかにしてする必要があります(会社法280条1項)。
新株予約権を行使した新株予約権者は、新株予約権を行使する日に、出資の目的である金銭の払込み等を行う必要があります(会社法281条1項・2項)。
新株予約権のメリット・デメリット
最後に、以上を踏まえて、新株予約権のメリット・デメリットについてまとめます。
まず、新株予約権のメリットとしては、発行する会社からすれば、「新株予約権の種類・活用方法」記載のとおり、役員等に対するインセンティブ付与、資金調達、買収防衛といった目的達成のために、新株予約権を活用できることが挙げられます。
また、新株予約権者から見れば、「新株予約権とは」記載のとおり、新株予約権者はオプションを持つにすぎず、新株予約権を行使しなければならないわけではありませんので、比較的低リスクで投資可能な点を挙げることができます。特に、新株予約権付社債を取得する際には、より低リスクで投資可能といえます。
次に、新株予約権のデメリットとしては、発行する会社から見た場合、当該会社が資金調達目的で新株予約権を発行したとしても、権利行使期間内に株価が上がらなければ新株予約権者が新株予約権を行使せず、資金調達を達成できない可能性が挙げられます。
また、新株予約権者から見れば、株式を取得する場合と比較するとオプション料(新株予約権を取得する際に払込む費用)分のコストの負担をしなければならない点がデメリットとして挙げることができます。
さらに、既存株主から見れば、新株予約権の発行・行使によって、「募集新株予約権の発行」に記載のとおり、持株比率の低下や持株価値の希釈化といった不利益を被ることがデメリットとして挙げられます。
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