商法とは?
民法や会社法との関係性(違い)・
全体像・規定の内容などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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商法とは、商人の営業・商行為その他商事について定めた法律です。
商法は、一般法である民法の特別法に当たります。したがって、民法と商法が重複する部分については、商法が優先的に適用されます。
その一方で、商法は会社法の一般法でもあります。会社も商人なので商法が適用されますが、商法と会社法が重複する部分については、会社法が優先的に適用されます。
商法は「第1編 総則」「第2編 商行為」「第3編 海商」の全3編から成り立っています。このうち、特に「第1編 総則」と「第2編 商行為」は、事業者全般に適用され得るため非常に重要です。
この記事では商法について、基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年8月22日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
商法とは
商法とは、商人の営業・商行為その他商事について定めた法律です。
商法と民法の関係性・違い
商法は、一般法である民法の特別法に当たります。
- 一般法と特別法
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一般法とは、幅広く一般的に適用される法律のことです。民法は、市民同士の法律関係に関するルールを、非常に広い範囲で定めているため、一般法とされています。
特別法とは、特定の分野・事項についてのみ適用される法律をいいます。一般法と特別法の両方でルールが定められている分野・事項においては、特別法が優先します。
したがって、民法と商法が重複する部分については、商法が優先的に適用されます。
(例)売買契約に関する規定は、民法555条以下と商法524条以下の両方に定められていますが、重複する部分は商法の規定が優先されます。
【民法と商法の関係】
商法と会社法の関係性・違い
商法は会社法との関係においては、一般法になります。会社も商人なので商法が適用されますが、商法と会社法が重複する部分については、特別法である会社法が優先的に適用されます。
(例)商号に関する規定は、商法11条以下と会社法6条以下の両方に定められていますが、重複する部分は会社法の規定が適用されます。
【商法と会社法の関係】
商法の歴史・主な改正の沿革
商法は1899年に施行され、主に以下の改正を経て現在に至っています。
1911年 | 取締役・監査役に対する民事上の責任を強化 |
1922年 | 破産に関する規定の廃止(破産法への移行) |
1932年 | 手形に関する規定の廃止(手形法へ移行) |
1933年 | 小切手に関する規定の廃止(小切手法へ移行) |
1938年 | 無議決権株式の新設 |
1950年 | 授権資本制度の導入 取締役会の法定・権限強化 株主の権利強化 |
1955年 | 定款記載事項の削除 |
1962年 | 会計に関する損益法の導入 株式会社事務・登記手続きの簡素化 |
1966年 | 議決権の不統一行使 新株発行手続き 新株引受権の譲渡 転換社債の転換 定款による株式譲渡制限の導入 額面・無額面株式の相互転換 株券の裏書廃止、不所持制度の導入 |
1974年 | 監査に関する商法特例法の制定 累積投票制度 抱き合わせ増資 転換社債 休眠会社の整理 中間配当 |
1981年 | 単位株制度、端株制度の導入 監督制度の強化 株主・会社債権者に対するディスクロージャー 新株引受権付社債の新設 |
1990年 | 小規模閉鎖会社への対応(発起人数の規定撤廃など) 債権者保護の規制(最低資本金制度の導入など) 資金調達制度の整備 |
1993年 | 株主による監督機能の強化 監査役等による監督機能の強化 社債制度の改善 |
1994年 | 自己株式取得規制の緩和 |
1997年(1回目) | ストックオプション制度の創設 定款の授権による取締役会決議での株式償却 |
1997年(2回目) | 合併手続きの簡素化 |
1997年(3回目) | 利益供与罪の厳罰化 |
1998年 | 資本準備金による株式消却 |
1999年 | 株式交換・株式移転制度の創設 |
2000年 | 会社分割制度の創設 |
2001年(1回目) | 有限会社に関する改正 金庫株の解禁 法定準備金に関する改正 額面株式制度の廃止、株式の大きさに関する規制の撤廃 |
2001年(2回目) | 株式制度の見直し 株主総会・株式会社関係書類の電子化等 |
2001年(3回目) | 経営責任の軽減・代替措置の確保 取締役・監査役の責任の軽減 株主代表訴訟制度の合理化 |
2002年 | 委員会等設置会社の導入 重要財産委員会制度の導入 株主総会手続きの簡素化 株主総会特別決議の定足数の緩和 種類株主による取締役等の選解任制度の導入 株券失効制度の導入 みなし大会社制度の導入 計算関係規定の省令委任 現物出資等の財産価格の証明制度 外国会社の営業所設置義務の撤廃 |
2003年 | 取締役会議決による自己株式の取得 中間配当限度額の見直し |
2004年 | 電子公告制度の導入 |
2005年 | 会社に関する規定の廃止(会社法へ移行) 第1編総則と第2編商行為の一部を口語体化 |
2008年 | 保険に関する規定の削除(保険法へ移行) |
2018年 | 航空運送・複合運送に関する規定の新設 危険物についての荷送人の通知義務に関する規定の新設 船舶の衝突・海難救助・船舶先取特権に関する規定の整備 本則全部の口語体化 |
もともと商法には、商取引に関してあらゆるルールが定められていました。しかし、各領域の専門性が高まったことに伴い個別の法律への切り出しが行われ(破産法・手形法・小切手法・会社法・保険法)、現在の商法はコンパクトな法律になっています。
商法の全体像
商法は、以下の全3編から成り立っています。
第1編 総則
第2編 商行為
第3編 海商
商法で押さえておきたいポイント1|第1編 総則
「第1編 総則」は、商法がカバーする取引全般に適用される規定を定めており、以下の全7章から成り立っています。
第1章 通則
第2章 商人
第3章 商業登記
第4章 商号
第5章 商業帳簿
第6章 商業使用人
第7章 代理商
第1章 通則
「第1章 通則」は、商法が適用される事柄(取引)の範囲を定めています。
商法が適用されるのは、「商人の営業・商行為その他商事」です(商法1条)。
商人・商行為の定義は、以下のとおりです(詳しくは「第2章 商人」「第1章 総則」にて解説)。
商人 | 自己の名をもって商行為をすることを業とする者 |
商行為 | 営利を目的とした行為で、商法が定めるもの |
なお、商法は、公法人(地方公共団体など)の商行為についても適用されますが、他の法令に別段の定めがあればそちらに従います(商法2条)。
また、複数の当事者が関与する取引においては、そのうち1人にとって商行為であれば商法が適用されます(商法3条)。
第2章 商人
「第2章 商人」は、商人の定義などを定めています。
商人とは、
- 自己の名をもって(=自分が法的な権利義務の帰属主体となって)
- 商行為をすることを
- 業とする者(=利益を得る目的で、同種の行為を継続的・反復的に行う者)
をいいます(商法4条1項)。
店舗等での物品販売業・鉱業を営む者は、商行為を行うことを業としていない場合でも商人とみなされます(同条2項)。
商人の営業には、商法が適用されます。
なお、未成年者が商人として営業を行う場合と、後見人が被後見人のために商人として営業を行う場合は、原則としてその旨を登記しなければなりません(商法5条、6条)。
ただし、年度最終日における貸借対照表に計上された財産の価額が50万円以下の場合(=小商人)は、例外的に登記不要です(商法7条、商法施行規則3条)。
第3章 商業登記
「第3章 商業登記」は、商法に基づく登記(商業登記)について定めています。
- 登記とは
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登記とは、会社に関する取引上重要な一定の事項(商号や所在地)を、法務局が審査した上で、その記録を一般に公開する手続きです。
会社の重要な情報を登記することで、
・会社の信用の維持
・取引の安全性の確保
などを図ることができます。個人事業主や法人に関する登記には、以下の2種類あります。商法に基づく登記は、商業登記に分類されます。
①商業登記|会社(株式会社、合名会社、合資会社、合同会社)等を対象とした登記
②法人登記|会社以外のさまざまな法人(一般社団法人・一般財団法人など)を対象とした登記
第4章 商号
「第4章 商号」は、商人が使用する商号(個人事業主や会社が営業を行うに当たって用いる名称)について定めています。
何人も不正の目的をもって、他の商人であると誤認されるおそれのある名称・商号を使用してはなりません(商法12条1項)。このような名称・商号の使用によって営業上の利益を侵害された商人、または侵害されるおそれのある商人は、その侵害の停止・予防を請求できます(同条2項)。
自己の商号を使用して営業・事業を行うことを他人に許諾した商人は、当該商人が営業・事業を行うものと誤認して取引をした者に対し、許諾先と連帯して債務を弁済する責任を負います(商法14条)。
そのほか商号の譲渡(商法15条)や、営業の譲渡(商法16条~18条)に関するルールが定められています。
第5章 商業帳簿
「第5章 商業帳簿」は、商人の会計および帳簿について定めています。
商人の会計は、一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従う必要があります(商法19条1項)。
また、商人は会計帳簿および貸借対照表を作成した上で、営業中および帳簿閉鎖の時から10年間、会計帳簿・貸借対照表および営業に関する重要な資料を保存しなければなりません(同条2項)。
第6章 商業使用人
「第6章 商業使用人」は、支配人と使用人について以下の事項を定めています。
①支配人
支配人は、商人に代わって営業に関する一切の裁判上・裁判外の行為をする権限を有します(商法21条1項)。使用人の選任・解任も可能です(同条2項)。支配人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗できません(同条3項)。
商人が支配人を選任したとき、または支配人の代理権が消滅したときは、その旨を登記する必要があります(商法22条)。
そのほか支配人の競業避止義務(商法23条)、および表見支配人(商法24条)について定められています。
②使用人
商人の営業について、特定の種類・事項の委任を受けた使用人は、当該事項に関して一切の裁判外の行為をする権限を有します(商法25条)。
物品の販売等を目的とする店舗の使用人(店員など)は、原則としてその店舗にある物品の販売等をする権限を有するものとみなされます(商法26条)。
第7章 代理商
「第7章 代理商」は、代理商の義務・権限について定めています。
代理商とは、商人のためにその平常の営業の部類に属する取引の代理・媒介をする者で、その商人の使用人ではないものをいいます(商法27条)。
代理商には、取引成立時の商人に対する通知義務(商法27条)および競業避止義務(商法28条)が課されています。
その一方で、代理商の権限・権利として
- 通知を受ける権限(商法29条)
- 契約解除権(商法30条)
- 留置権(商法31条)
が定められています。
商法で押さえておきたいポイント2|第2編 商行為
「第2編 商行為」は、商行為の種類に応じて適用される規定を定めており、以下の全9章から成り立っています。
第1章 総則
第2章 売買
第3章 交互計算
第4章 匿名組合
第5章 仲立営業
第6章 問屋営業
第7章 運送取扱営業
第8章 運送営業
第9章 寄託
第1章 総則
「第1章 総則」は、商行為全般に適用される事項を定めています。
特に、商行為の定義に関する規定(商法501条~503条)が重要です。商行為は以下の3種類に分類され、商行為に該当する場合は商法が適用されます。
①絶対的商行為
以下の行為は、常に商行為となります。
(a)利益を得て譲渡する意思をもってする動産・不動産・有価証券の有償取得、またはその取得したものの譲渡を目的とする行為
(b)他人から取得する動産・有価証券の供給契約、およびその履行のためにする有償取得を目的とする行為
(c)取引所においてする取引
(d)手形その他の商業証券に関する行為
②営業的商行為
以下の行為は、営業としてするときは商行為となります。ただし、専ら賃金を得る目的で物を製造し、または労務に従事する者の行為を除きます。
(a)賃貸用動産・不動産の有償取得・賃借、またはその賃貸を目的とする行為
(b)他人のためにする製造・加工に関する行為
(c)電気・ガスの供給に関する行為
(d)運送に関する行為
(e)作業・労務の請負
(f)出版・印刷・撮影に関する行為
(g)客の来集を目的とする場屋における取引
(h)両替その他の銀行取引
(i)保険
(j)寄託の引受け
(k)仲立ち・取次ぎに関する行為
(l)商行為の代理の引受け
(m)信託の引受け
③附属的商行為
商人がその営業のためにする行為は、上記のいずれにも該当しない場合でも商行為となります。商人の行為は、その営業のためにするもの(=商行為である)と推定されます。
そのほか、商事留置権(商法521条)などが定められています。
第2章 売買
「第2章 売買」は、民法における売買規定について、以下の特則を定めています。
①受領拒否・受領不能時の供託・競売権(商法524条)
②定期売買の履行遅滞による解除(商法525条)
③買主による目的物の検査・通知義務(商法526条)
④契約解除時の買主による目的物の保管・供託義務(商法527条、528条)
第3章 交互計算
「第3章 交互計算」は、交互計算(=一定期間内の取引における債権・債務を相殺し、残額のみを精算すること)について定めています。
ただし実務上は、交互計算は当事者間の合意(契約)に基づいて行われるのが通常であり、商法の規定に従うことはほとんどありません。
第4章 匿名組合
「第4章 匿名組合」は、匿名組合(=匿名組合員が出資を行い、営業者が営業をして匿名組合員に利益を分配する契約)について定めています。
匿名組合は、主に「資産の流動化」と呼ばれる金融取引において、特別目的会社(SPC)と出資者の間で締結されることがあります。
第5章 仲立営業
「第5章 仲立営業」は、仲立人(=他人間の商行為の媒介を業とする者)の営業について定めています。
仲立人には、以下の義務が課されています。
①当事者のために給付を受けることの原則禁止(商法544条)
②受け取った見本の保管義務(商法545条)
③結約書の交付義務(商法546条)
④帳簿記載義務(商法547条)
など
仲立人の報酬は原則後払いとされていますが(商法550条)、実務上は契約に従います。
第6章 問屋営業
「第6章 問屋営業」は、問屋(=自己の名をもって他人のために物品の販売または買入れをすることを業とする者)の営業について定めています。
問屋の代表例は、有価証券の仲介業などです。ただし、有価証券の仲介業が金融商品取引法によって規制されているように、商法以外の特別法に従うべき場合があります。
第7章 運送取扱営業
「第7章 運送取扱営業」は、運送取扱人の営業について定めています。
運送取扱人とは、自己の名をもって物品運送の取り次ぎをすることを業とする者(商法559条1項)、すなわち荷主と運送業者の仲介業者です。取り次ぎを行う点で問屋に類似していることから、原則として問屋に関する規定が準用されます(同条2項)。
第8章 運送営業
「第8章 運送営業」は、運送人の営業について定めています。
運送人が行う運送は
- 陸上運送
- 海上運送
- 航空運送
の3つに分類されており、それぞれについて運送人の権利・義務・責任などが定められています。
第9章 寄託
「第9章 寄託」は、民法における寄託規定の特則を定めています。
商人が営業の範囲内で寄託を受けた場合は、報酬を受けないときでも、善良な管理者の注意をもって寄託物を保管しなければなりません(商法595条)。自己の財産と同一の注意義務で足りるとする民法に比べて、受寄者の義務が加重されています。
そのほか、場屋営業者の責任(商法596条~598条)および倉庫営業(商法599条~617条)に関する事項が定められています。
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