相続土地国庫帰属法とは?
国庫帰属が認められる土地の要件
などを分かりやすく解説!

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荒井法律事務所弁護士
明治大学法科大学院修了。2013年弁護士登録。Twitterで精力的に情報を発信しながら(@AraiLawoffice)、空き家問題や所有者不明土地問題等の「負動産」に関する社会問題に幅広く取り組む。『相続土地国庫帰属制度』解説専門サイトを運営中。
この記事のまとめ

「相続土地国庫帰属法」とは、相続等で土地を取得した相続人が、その土地を国に引き継ぐことができる制度(相続土地国庫帰属制度)を定めた法律です。

相続土地国庫帰属制度のメリット・デメリットとしては、以下が挙げられます。

メリット
・いらない土地だけを手放すことができる
・引き受け手は国になるため、自分で探す必要がない
・国が引き取るため、引取後の管理も安心できる点 等

デメリット
・手続の利用にお金が掛かる
・国に引き継がれるまでに時間を要する
・申請や国の審査の際に手間が掛かる点 等

相続土地国庫帰属制度を利用する際の重要ポイントとして、国の審査に合格する必要があるという点が挙げられます。相続土地国庫帰属法では国で引き取らない土地のリストが定められており、これらに該当すると審査が通らないため、利用を希望する場合は、ブラックリストに該当しないか、該当する場合は該当しないようにするためにはどのような対応が必要かを検討する必要があります。

この記事では、相続土地国庫帰属法について、基本から分かりやすく解説します。

※この記事は、2022年7月18日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。
・相続土地国庫帰属法…相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律

相続土地国庫帰属法とは

相続土地国庫帰属法とは、2021年4月21日可決・成立した「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和3年法律第25号)の略称です。

この法律は、相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限ります。以下「相続等」といいます。)により土地の所有権又は共有持分を取得した者等がその土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度(以下「相続土地国庫帰属制度」といいます。)を創設するための法律です。

相続土地国庫帰属制度が創設された背景

近年、都市部への人口移動や人口減少・高齢化の進展等により、地方を中心に、土地の所有意識が希薄化するとともに、土地を利用したいというニーズが低下してきていると言われています。

このような背景の下で、相続を契機として望まない土地を取得した所有者の負担感が増し、これを手放したいと考える者が増加しているといわれています。

そして、このような社会経済情勢の変化が、所有者不明土地(相当な努力を払ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない土地)を発生させる要因にもなり、土地の管理不全化を招いているとの指摘がなされていました。

そこで、所有者不明土地の発生を予防し、土地の管理不全化を防止するために、相続等により取得した土地を手放すことを認め、国庫に帰属させることを可能とする仕組み(相続土地国庫帰属制度)が創設されることになりました(相続土地国庫帰属法1条)。

民法・不動産登記法改正との関係性

相続土地国庫帰属法は、2021年民法・不動産登記法等の改正法と同時に成立していますが、いずれも所有者不明土地問題を解決するために制定された法律という意味で共通しています。

他方で、両者の相違点として、2021年民法・不動産登記法等の改正法では、

  1. 所有者不明土地の発生抑制(主に不動産登記法改正部分)
  2. 所有者不明土地の利用の円滑化(主に民法改正部分)

の両面から旧法の見直しが行われているのに対し、相続土地国庫帰属法は、①所有者不明土地の発生抑制を主目的とするもので、②所有者不明土地の利用の円滑化を主目的としていないという違いがあります。

ただし、いずれも所有者不明土地問題の解決を目的としている点で共通しているのは上述のとおりです。

なお、民法・不動産登記法改正については、以下の記事で詳しく解説しています。

相続土地国庫帰属制度と相続放棄との違い

相続土地国庫帰属制度は、これまでにない新しい制度です。従前、不要な不動産を相続したくないというケースでは、相続放棄が用いられてきましたが、この制度との違いはどこにあるでしょうか。

相続土地国庫帰属制度|遺産の中で不要な土地だけを国に引き取ってもらう制度

まず、相続土地国庫帰属制度は、相続人が遺産を相続したことを前提に、その中で取得を望まない土地のみを、一定の条件下で、国庫に帰属させることができるという制度です。

相続放棄|相続自体を拒否する制度

他方で、相続放棄は、相続人が期限内に裁判所に相続放棄の申述をすることにより被相続人の遺産の一切を相続しないこととする制度です。つまり、相続放棄では、相続自体を拒否することになるため、いらない土地だけを放棄するということができません。

なお、相続人全員が相続放棄をした土地は、最終的に国に引き継がれることがあります。国が引き継ぐという点は相続土地国庫帰属制度と同じですが、相続人全員が相続放棄をした土地は、基本的に無条件で国に引き継がれることが予定されており、この点で相続土地国庫帰属制度(※引継ぎに一定の条件が求められる)との違いがあります。

相続土地国庫帰属制度のメリットとデメリット

相続土地国庫帰属制度のメリット

相続土地国庫帰属制度のメリットには様々なものがありますが、主なものとして次の3つを紹介したいと思います。

相続土地国庫帰属制度のメリット

①いらない土地だけを手放すことができる
②引き受け手は国になるため、自分で探す必要がない
③国が引き取るため、引取後の管理も安心できる

メリット①|いらない土地だけを手放すことができる

第1に、相続土地国庫帰属制度には、いらない土地だけを手放すことができるというメリットがあります。これまで、相続したくない土地がある場合、相続放棄制度を利用することが一般的でした。ただ、その場合は優良な資産も一緒に放棄せざるをえなかったため、実際に利用できる場面が限定的でした。

相続土地国庫帰属制度では、優良資産は引き継ぎつつ、いらない土地だけを手放すことができるという点が大きなメリットといえます。

メリット②|引き受け手は国になるため、自分で探す必要がない

第2に、引き受け手は国になるため、自分で探す必要がないという点もメリットと言えます。

いらない土地を手放す場合、相続放棄以外に、

  1. 近隣の方に引き取ってもらう
  2. インターネットで引き取り手を探して引き取ってもらう
  3. 引取業者に引き取ってもらう

などの方法がありましたが、いずれも引き取り手を探すことが大変でした。

これに対して、相続土地国庫帰属制度では、国が引き取り手になるため、土地所有者の方で引き取り手を探す必要がありません。この点も相続土地国庫帰属制度のメリットの一つといえます。

メリット③|国が引き取るため、引取後の管理も安心できる

第3に、引取後の管理も安心できるという点がメリットと言えます。仮に一生懸命努力して国以外の引き取り手を見つけ、土地を処分できた場合でも、引き取り手がきちんと管理をしていないと、前の土地所有者にクレームなどが来ることがあります。

相続土地国庫帰属制度では、国が管理を行うため、将来、土地に問題が起きても、基本的に国が責任を持って対処してくれます。そのため、引取後の管理も安心できるというメリットがあります。

相続土地国庫帰属制度のデメリット

他方で、相続土地国庫帰属制度にはデメリットも様々あります。主なものとして次の3つを紹介したいと思います。

相続土地国庫帰属制度のデメリット

①手続の利用にお金が掛かる
②国に引き継がれるまでに時間を要する
③申請や国の審査の際に手間が掛かる

デメリット①|手続の利用にお金が掛かる

第1に、手続の利用にお金が掛かるという点が挙げられます。すなわち、相続土地国庫帰属制度では、申請の際に、審査手数料を納める必要があるほか、審査に合格した際に、負担金というお金を納める必要があります。

土地を売れば、代金という形でお金を得ることができますが、相続土地国庫帰属制度では、土地を手放す側でお金を払う必要があり、この点が大きなデメリットの一つといえます。

デメリット②|国に引き継がれるまでに時間を要する

第2に、国に引き継がれるまでに時間を要するというデメリットがあります。

相続土地国庫帰属制度の申請が国側で受理されると、国の方で様々な審査を行います。審査の際は、現地調査を行ったり、関係行政機関に照会を行ったりする必要があるなど、書面審査だけで終わる他の行政手続と比べるとかなり込み入った審査が行われます。そのため、土地を完全に手放すまでにある程度の時間を要することになります。

デメリット③|申請や国の審査の際に手間が掛かる

第3に、申請や国の審査の際に手間が掛かるというデメリットがあります。

相続土地国庫帰属制度では、国の審査を受けるために様々な資料を収集したり、また国が行う調査に協力したりするなどの手間が掛かります(国の調査を不当に拒絶すると、その時点で申請が却下されることもあり、注意が必要です。)。

書面審査だけで終わる他の手続と比べると、相応の負担になるため、この点もデメリットの一つといえます。

相続土地国庫帰属制度を利用できる者(申請資格)

相続土地国庫帰属制度を利用できるのは、相続等によりその土地の所有権の全部又は一部を取得した土地所有者です(相続土地国庫帰属法2条1項)。

相続等で取得された土地は、相続人が処分もできずにやむを得ず所有し続けているということが少なくありません。このような土地については、所有者不明土地の発生を抑制する観点からも、国が引き受けて管理する必要性が高いといえます。

そこで、相続土地国庫帰属法では、相続等により土地を取得した土地所有者に限って、相続土地国庫帰属制度の申請資格を与えることとされたのです。

以上からもわかるとおり、親(被相続人)から子(相続人)が売買や贈与等で土地を取得した場合には、申請資格が認められないため、注意が必要です。

法人も利用可能?

法人は、相続等により土地を取得することができないため、基本的に申請資格が認められません。

ただし、共有地の場合の例外があります。すなわち、相続土地国庫帰属法では、共有者の一部が法人であっても、相続等により共有持分を取得した者と共同して行うときは、申請資格が認められるのです(相続土地国庫帰属法2条2項後段)。

国庫帰属が認められる土地の要件

相続土地国庫帰属法では、通常の管理・処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として法定される類型に該当する土地については国庫帰属が認められません(相続土地国庫帰属法2条3項、5条1項)。要するに、相続土地国庫帰属法に定められるブラックリストに該当すれば、国庫帰属は認められないということです。

このブラックリストには、(a)一定の事由があれば直ちに却下される土地と(b)ケースバイケースで国庫帰属の是非が判断される土地がそれぞれ5つずつ定められています。

具体的には、次のとおりです。

(a)一定の事由があれば直ちに却下される土地(相続土地国庫帰属法2条3項各号
①建物が存在する土地
②担保権又は用益権が設定されている土地
③通路その他の他人による使用が予定される土地
④土壌汚染がある土地
⑤境界不明確地や所有権の帰属等に争いがある土地
(b)ケースバイケースで国庫帰属の是非が判断される土地(相続土地国庫帰属法5条1項各号
①崖地
②車両・樹木等の残置物がある土地
③地下埋設物等がある土地
④隣人等との争訟が必要な土地
⑤その他政令で定める土地

農地や山林も引取りの対象になる?

なお、よくある疑問として、農地や山林でも相続土地国庫帰属制度は使えるのかという疑問があります。結論としては、利用可能です。相続土地国庫帰属法には地目による制限は定められておらず、農地や山林が国に引き取られることを前提とした条文もあります(相続土地国庫帰属法8条等)。

ただし、いずれも上記に述べたブラックリストに該当しないこと等の諸条件を満たす必要があります。とりわけ山林については、境界が確定していないなどの理由で国庫帰属が認められにくい点には要注意です。

相続土地国庫帰属制度を利用する際は、負担金等の費用が発生する

相続土地国庫帰属制度を利用する際は、国に所要の金員を支払う必要があります。

まず、申請の際に審査手数料を納める必要があります(相続土地国庫帰属法3条2項。ただ、2022年6月末時点では詳細は未確定です。)。

次に、国の審査に合格した際に、10年分の標準的な管理費相当額を『負担金』という形で納付する必要があります(相続土地国庫帰属法10条1項)。

問題は、この負担金がいくらか?ですが、こちらも2022年6月末時点で詳細は未公表です。なお、法務省によると、国有地の標準的な管理費用(10年分)は、見回り程度の簡単な管理で足りる原野につき約20万円程度、市街地の宅地(200㎡)につき約80万円とされています。

詳細は、今後政令で定められる予定です。

相続土地国庫帰属制度の利用方法(手続)

相続土地国庫帰属制度の利用は、次の流れで進みます。

  1. 相続人による申請
  2. 法務局の審査
  3. 現地調査等
  4. 審査結果の通知
  5. 負担金の納付
  6. 処分の取消しと損害賠償責任

以下、それぞれ詳しく解説していきます。

①相続人による申請

まず、利用を希望する相続人は、法務局(※)に、国庫帰属の申請を行う必要があります(相続土地国庫帰属法2条1項)。

※なお、法文上は、「法務大臣」という用語が多数出てきますが、相続土地国庫帰属法における法務大臣の権限は、法務局長等に委任される予定であるため(相続土地国庫帰属法15条1項)、基本的には「法務局」と読み替えていただいて問題はありません。本記事でもわかりやすさの観点から「法務局」としています。

なお、共有地の場合は、共有者の全員で申請を行う必要があります(相続土地国庫帰属法2条2項前段)。その際、共有者全員が相続等で共有持分を取得している必要はなく、一人でも相続等で共有持分を取得していれば申請が可能という点は上述したとおりです(相続土地国庫帰属法2条2項後段)。

また、申請の際には審査手数料の納付が必要です(相続土地国庫帰属法3条2項)。

②法務局の審査

申請が受理されると、法務局で審査が行われます。例えば、審査の中で、①申請資格や②審査手数料の納付等が認められないと、その時点で申請が却下されることになります(相続土地国庫帰属法4条1項1号、2号)。

また、国が引き取らない土地のブラックリストに該当する場合も申請が認められないことになります(相続土地国庫帰属法4条1項2号、5条1項)。

③現地調査等

なお、ブラックリストに当てはまるかどうかは、現地を調査しないとわからない場合も少なくありません。そのため、相続土地国庫帰属制度では、法務局の職員による現地調査が予定されています(相続土地国庫帰属法6条1項)。

その際、申請者や関係者に事情聴取や書類提出を求めることがあります(相続土地国庫帰属法6条2項)。申請者がこれを不当に拒絶すると、申請が却下されますので注意してください(相続土地国庫帰属法4条1項3号)。

また、法務局で必要があると判断した場合は、関係行政機関等にも照会や書類提出を求めることがあります(相続土地国庫帰属法7条)。

④審査結果の通知

審査が完了すると、審査結果が申請者に通知されます(相続土地国庫帰属法9条)。

審査に合格している場合は、負担金の額も併せて通知されることになります(相続土地国庫帰属法10条2項)。

審査に不合格となった場合は、不服申立ての手続が可能です(行政不服審査法等)。

⑤負担金の納付

審査に合格した場合、負担金の納付が必要になります(相続土地国庫帰属法10条1項)。具体的には、負担金の額の通知を受けた日から30日以内に、負担金を納付する必要があり、期限に間に合わないと、承認の効力が失効します(相続土地国庫帰属法10条3項)。

逆に、申請者が負担金を期限内に納付すると、その納付の時に土地は、国庫に引き継がれます(相続土地国庫帰属法11条1項)。

⑥処分の取消しと損害賠償責任

なお、国の審査が通った場合でも、処分の取消しや損害賠償責任が問題になる場合がある点には注意が必要です。

すなわち、第1に、申請者が偽りその他不正の手段により国庫帰属の承認を受けたことが判明したときは、承認が取り消されることがあります(相続土地国庫帰属法13条1項)。

第2に、申請者がブラックリストに該当することを知っていながら、土地を国に引き取らせ、その結果、国が損害を被った場合には、国に対する損害賠償責任が発生します(相続土地国庫帰属法14条)。

この記事のまとめ

「相続土地国庫帰属法」とは、相続等で土地を取得した相続人が、その土地を国に引き継ぐことができる制度(相続土地国庫帰属制度)を定めた法律です。

相続土地国庫帰属制度のメリットとして、いらない土地だけを手放すことができる点、引き受け手は国になるため、自分で探す必要がない点、国が引き取るため、引取後の管理も安心できる点等を挙げることができます。他方で、デメリットとして、手続の利用にお金が掛かる点、国に引き継がれるまでに時間を要する点、申請や国の審査の際に手間が掛かる点等があります。

相続土地国庫帰属制度の重要ポイントとして、国の審査に合格する必要があるという点が挙げられます。相続土地国庫帰属法では国で引き取らない土地のリストが定められており、これらに該当すると審査が通らないため、利用を希望する場合は、ブラックリストに該当しないか、該当する場合は該当しないようにするためにはどのような対応が必要かを検討する必要があります。

参考文献

法務省民事局「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」2021年12月

法務省民事局「所有者不明土地関連法の施行期日について」2021年12月

村松秀樹、大谷太編著『Q&A令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法』きんざい、2022年

荒井達也著『Q&A 令和3年民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響』日本加除出版、2021年