売買契約とは?
基本を分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
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売買契約の基本を解説!!
この記事では、様々な場面で締結される、売買契約(売買取引基本契約)の基本を分かりやすく解説します。
※この記事は、2021年6月16日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
売買契約とは?
売買契約とは、売主と買主の間で目的物の売買を行う契約です。
売主がある「財産権」を買主に移転して、買主がその代金を支払う契約となります(民法555条)。
典型的には、売主が自身が有する物品などの「所有権」を買主に移転して、買主がその代金を支払う契約です。
私たちが、スーパーマーケットなどで買い物をするときにも、スーパーマーケットと私たちの間でスーパーマーケットの商品の売買契約が成立しています。
売買契約については、民法上に明文の規定が存在します(民法555条~585条)。
売主と買主
売買契約の当事者は売主と買主となります。
売主は、売買契約によって、自身が有する「財産権」を買主に移転する義務を負います。
買主は、売買契約によって、売主が有する「財産権」の移転を受けた対価として、売買代金を支払う義務を負います。
売買契約の目的物
売買契約の目的物は、様々な物があります。
有体物も無体物もありえますし、有体物の中では、大きく分けると動産と不動産の売買があります。
以下は売買契約の目的物の一例です。
- 機械
- 物品
- 建物
- 土地
- 債権
- 知的財産権
売買取引基本契約と個別契約
企業間の売買取引は、継続的な取引を前提として、継続的に売買を行うことが多いです。
そこで、この場合、売買取引基本契約を締結することになります。
この売買取引基本契約は、継続的に売買を行う場合に、全ての売買契約に共通して適用される、基本的な取引条件を定めるものです。
具体的な契約条件については、個別の商品を発注する際に別途「個別契約」を締結します。
なお、基本契約と個別契約の具体的な違いについては「基本契約と個別契約の違いとは? 基本を解説!」で詳細に解説しているため、気になる方はぜひご参考になさってください。
売買契約の条項
売買契約を締結する場合に、契約書に定めるべきポイントを解説します。
基本契約性
基本契約の適用対象
基本契約を締結し、個々の取引について個別契約を締結する場合、どの個別契約について取引基本契約が適用されるのか、当事者間で認識の相違が生じるリスクがあります。
そのため、取引基本契約の適用対象を明確に定める必要があります。
基本契約と個別契約との優先関係
個別契約で基本契約と異なる内容を定めたときには、どちらの契約の条件を適用するかをめぐって紛争になるリスクがあります。
そのため、基本契約と個別契約との優先関係を明確に定めるのが望ましいです。
このとき、「基本契約が個別契約に優先する」と定めた場合は、個別の取引を統一的に処理できるというメリットがあります。
他方で、文例のように、「個別契約が基本契約に優先する」と定めた場合は個別の取引に応じて柔軟に内容を変更することができるというメリットがあります。
- 記載例
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(基本契約)
1 本契約は、売主が買主に対して本件商品を売り渡す売買契約(以下「個別契約」という。)のすべてに適用される。
2 個別契約において本契約と異なる内容を定めた場合は、個別契約が本契約に優先する。
個別契約の成立
個別契約の成立時期
個別契約の成立時期をめぐる争いを避けるため、これを明確に定める必要があります。
民法では、改正により、隔地者間の契約の場合の発信主義(旧民法526条1項)の規定が削除されたため、売主の承諾が買主に到達したときに契約が成立します(到達主義。民法97条1項)。
売主としては、「売主が承諾する旨の通知を発したときに契約が成立する」と定めると、承諾が買主に到達することを待たずとも契約が成立し、取引を迅速に進めることができます。
承諾の期間
契約の成否をめぐってトラブルになることを防ぐため、買主の申込みに対し、一定期間、売主の承諾がなかった場合の効果について定める必要があります。
商法では、売主が日常的に取引をしている相手から契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、承諾するか、拒否するかを通知しなければならず、これを怠ると、申込みを承諾したものとみなされます(商法509条)。
売主としては、承諾期間をより長く定め、「期間が経過しても売主の承諾がないときは、申込みが無効となる」と定めることが考えられます。
他方で、買主としては、承諾期間を短く定め、「期間を経過しても売主の承諾がないときは、承諾があったものとみなす」と定めると、取引を迅速に進めることができます。
- 【売主側】記載例
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(個別契約)
1 個別契約は、買主が売主に対し、本件商品の名称、数量、単価、引渡日及び引渡場所その他必要な事項として売主が定める事項を記載した書面を送付する方法により申し込み、これに対し、売主が承諾する旨の通知を発したときに成立する。
2 買主が売主に対して前項の書面を送付した日から10営業日以内に、売主から買主に対する承諾の通知を発しない場合、買主による当該申込みは効力を失う。
3 前2項の規定は、売主及び買主協議の上でこれに代わる方法を定めることを妨げない。
- 【買主側】記載例
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(個別契約)
1 個別契約は、買主が売主に対し、本件商品の名称、数量、単価、代金総額、納入日及び納入場所その他必要な事項を記載した書面を送付する方法により申し込み、これに対し、売主が承諾したときに成立する。
2 買主が売主に対して前項の書面を送付した日から2営業日以内に、売主から買主に対する承諾の通知が到達しない場合、売主は買主による申込みを承諾したものとみなし、個別契約は当該期間の経過をもって成立する。
3 前2項の規定は、売主及び買主協議の上でこれに代わる方法を定めることを妨げない。
納品
納期・納品場所
納期や納品場所を定める必要があります。
民法では、買主は、代金の支払いと引き換えでなければ、目的物を受け取ることができません(民法533条)。
また、納品場所は、原則、買主の住所となりますが、中古品のように物の個性に着目する「特定物」であれば、その物が存在する場所となります(民法484条)。
納期、納品場所は個別契約で定めることも多いですが、その場合には、「個別契約で定める」旨を基本契約に定めます。
納品が早まる・遅れる場合
生鮮食品などの比較的劣化が早いものを発注するときは、買主としては、納期よりも早く納品されると、困ることになります。
買主としては、そのような場合には、「納期よりも早く納品するときに、買主の承諾が必要である」と定めると有利です。
また、納期に間に合わない場合、買主は、他の業者に代替品を発注するなど、対応策を講じなければなりません。
そこで、買主としては、「納期に間に合わないときは、あらかじめ通知すること」を売主に義務づけると有利です。
納品費用
目的物が納品されるときに、運送費などの費用が発生することが想定されます。
このような「弁済の費用」について、民法では、債務者(売主)が負担すると定められています(民法485条)。
買主としては、このことを確認的に定めると安全です。
- 【売主側】記載例
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(納入)
売主は、買主に対し、個別契約で定めた納入日に、個別契約で定めた納入場所で、本件商品を納入する。
- 【買主側】記載例
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(納入)
1 売主は、買主に対し、個別契約で定めた納入日に、個別契約で定めた納入場所で、本件商品を納入する。
ただし、納入場所までの輸送費その他の納入のために要する費用は売主の負担とする。
2 売主は、買主に対し、個別契約で定めた引渡日よりも前に、本件商品を引き渡す場合、事前に買主の承諾を得る。
3 売主は、個別契約で定めた引渡日に、本件商品を引き渡すことができない場合、事前に買主に通知しなければならない。
検査
検査
通常、買主は納品を受けた後、商品に契約内容との不適合がないかどうかを検査します。
商法では、商人間の売買において、買主がその売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければなりません(商法526条1項)。
同規定の適用を排除するか否かも含めて、契約上、買主の検査に関する規定を定めておくのが安全です。
検査期限
売主としては、買主の検査に期限を定めなければ、いつまでに修補や交換を請求されるのかが明らかではなく、不安定な立場におかれます。これを防ぐために、買主が検査すべき期限を定めると有利です。
他方で、買主としては、期限内に検査しなければ、売主に修理や交換を請求できなくなるおそれがあります。
これを防ぐため、検査の期限が定められているときは削除し、単に「買主は、遅滞なく検査する」と定めることが考えられます。
検査結果の通知期限
売主としては、検査結果が通知されない限り、検査に合格したのかどうかが分からず、不安定な立場におかれます。
これを防ぐために、買主が検査結果を通知すべき期限を定め、期限内に通知がなければ、「検査に合格したものとみなす」と定めると有利です。
更に、検査に合格したことの証拠とするため、「検査に合格した場合、買主は、売主に対し、検査合格書を交付する」と定めると安全です。
代替物に対する検査規定の適用
民法では、目的物が契約内容に適合しないときは、買主は、売主に代替物の引渡しを請求できます(民法562条1項)。
買主としては、売主に代替物の提供を請求した場合に、代替物に対する検査方法について争いが生じることを防ぐため、その代替物の検査についても定めると安全です。
- 【売主側】記載例
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(検査)
1 買主は、本件商品を受領後、5営業日以内に、本件商品を検査し、検査に合格したものを検収する。買主は、本件商品に種類、品質又は数量その他本契約の内容との不適合(以下「契約不適合」という。)を発見したときは、売主に対して、本件商品を受領後●日以内にその旨を通知しなければならない。なお、本件商品の受領後●日以内に、買主より売主への通知が無い場合は、買主により本件商品の内容が合格と判断されたものとみなす。
2 本件商品が前項の検査に合格する場合、買主は、売主に対し、検査合格書を交付し、当該検査の合格をもって、本件商品の検収が完了したものとする。
- 【買主側】記載例
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(検査)
1 買主は、本件商品の納入を受けた時は遅滞なく、本件商品の内容を検査し、検査に合格したものを検収する。本件商品に種類、品質又は数量その他本契約の内容との不適合(以下「契約不適合」という。)が存在するときは、売主に対して、買主の選択に従い、本件商品の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を求めることができる。この場合、売主は、買主が定める期限内に無償で、本件商品を修補し、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完をしなければならない。
2 買主は、前項の検査の結果、本件商品が検査に合格した場合には、売主に対し、その旨の通知を発する。
3 本条各項の規定は、第1項により売主が本商品の代替物を納入した場合の当該代替物についても準用する。
品質保証
品質保証
商品が、どのような品質を備えたものでなければならないかを契約で定める場合があります。
民法では、契約の内容や社会通念によって商品の品質を定めることができない場合は、商品が「特定物」である場合は、売主は、「引渡しをすべき時の現状」で商品を引き渡せばよく(民法483条)、「種類物」の場合は、「中等の品質を有する物」を引き渡さなければなりません(民法401条1項)。
買主としては、購入する目的物が、買主が求める品質を満たすように、売主による品質保証を定めると有利です。
「目的物が第三者の権利を侵害していない」旨の保証条項
買主としては、購入する商品が、他人の知的財産権などの権利を侵害している場合、権利者からクレームを受けたり、侵害訴訟等を提起されるリスクがあります。
これを防ぐため、「目的物が他人の権利を侵害していないこと」を売主が保証することを定めると有利です。
他方で、売主としては、第三者から仕入れた目的物を転売するケース等では、「他人の権利を侵害していない目的物であること」を保証することは難しいです(そもそも、「他人の権利を侵害していない目的物であること」を完全に保証することは、困難といえます)。
このような場合に、第三者の権利を侵害しない目的物であることを保証してしまうと、買主から、保証条項違反を理由とした債務不履行責任を追及されるリスクが高まります。これを防ぐため、「商品が第三者の権利を侵害していないことを保証しない」と定めると有利です。
「目的物を安定して供給する」旨の保証条項
買主としては、継続的に目的物を購入するようなケースでは、売主の出荷量や出荷時期が不安定では買主の事業に支障をきたすおそれがあります。
そこで、「目的物を安定的に供給すること」を売主が保証することを定めると有利です。
他方で、売主としては、例えば気候や国際情勢などの外部環境により、出荷量や出荷時期が変動することが想定されるケースでは、「目的物を安定して供給すること」を保証することが難しいです。
このような場合に、目的物の安定供給を保証してしまうと、買主から、保証条項違反を理由とした債務不履行責任を追及されるリスクが高まります。
これを防ぐため、「目的物を安定的に供給することを保証しない」と定めると有利です。
- 【売主側】記載例
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(非保証)
1 売主は、買主に対し、本件商品が第三者の特許権、実用新案権、商標権、著作権、その他の知的財産権その他権利又は利益を侵害していないことを保証するものではない。
2 売主は、買主に対し、本件商品を買主に対して安定的に供給することを保証するものではない。
- 【買主側】記載例
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(品質保証)
売主は、買主に対し、次の各号に掲げる内容を保証する。
(1) 本件商品が、別途買主が定める品質基準と合致していること
(2) 本件商品に設計上、製造上及び表示上の欠陥がないこと
(3) 本件商品が第三者の特許権、実用新案権、商標権、著作権その他の知的財産権(以下「知的財産権等」という。)その他権利又は利益を侵害していないこと
(4) 本件商品を買主に対して安定的に供給すること
所有権の移転
民法では、売主が所有権を有する特定物の売買については、売買契約の締結によって、所有権が移転します(民法555条、176条)。
売主としては、代金が支払われていないにもかかわらず、所有権が移転してしまう事態を防ぐため、所有権の移転時期を遅らせ、「代金が完済されたときに所有権が移転する」と定めると有利です。
他方で、買主としては、所有権の移転時期は早い方が望ましいため、「引渡しが完了したときに所有権が移転する」と定めることが考えられます。
また、代金の完済及び引渡しの双方が終了してから所有権移転するのが妥当である、との考えから、その旨を定めることも考えられます。
- 【売主側】記載例
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(所有権の移転)
本件商品の所有権は、売買代金の完済をもって売主から買主に移転する。
- 【買主側】記載例
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(所有権の移転)
本件商品の所有権は、引渡しが完了した時をもって売主から買主に移転する。
危険負担
自然災害など、いずれの当事者にも責任なく、目的物が滅失・毀損したときに、買主が代金を支払う必要があるのかをめぐってトラブルになるおそれがあります。これを防ぐために、契約で、危険負担を定めることが通常です。
民法では、改正に伴い、特定物か不特定物かにかかわらず、当事者の帰責性なく商品が滅失・毀損したときは、買主は代金の支払いを拒むことができますが、商品の引渡し後に、当事者の帰責性なく商品が滅失・毀損したときは、買主は代金の支払いを拒むことができないと定められました(民法536条1項、567条1項)。
引渡しを受けて目的物を占有している者が、当該目的物を管理するのが通常ですので、契約においても納品時(引渡し時)を危険の移転時期とすることが多いです。
売主としては、「納品した時に危険が移転する」と定めることが考えられます。
他方で、買主としては、「検査合格時に危険が移転する」と定めることが考えられます。また、「検査合格時に引渡しが完了する」と定めた上で、「引渡しが完了した時に危険が移転する」と定めることもあります。
- 【売主側】記載例
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(危険負担)
本件商品について生じた滅失、毀損その他の損害は、納入前に生じたものは買主の責めに帰すべき事由がある場合を除き売主の、納入後に生じたものは売主の責めに帰すべき事由がある場合を除き買主の負担とする。
- 【買主側】記載例
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(危険負担)
本件商品について、第●条(検査)に定める検査の合格前に生じた滅失、毀損その他の危険は売主の負担とする。
契約不適合責任
契約不適合責任
納品された商品に、契約内容と異なる点があることが判明したときに、売主にどのような責任があるかという「契約不適合責任」を定めておくことが通常です。
民法では、契約不適合責任として、買主の履行の追完請求権、代金の減額請求権、損害賠償請求権、及び解除権について定められています(民法562条~564条)。
売主としては、買主によるこれらの権利の行使を排除する旨を定めると有利ですが、これを定めることができない場合は、「買主の帰責性によって契約不適合となった場合は、責任を負わない」と定めると有益です(民法562条2項、563条3項)。
履行の追完請求権
民法では、契約不適合の場合、買主は、売主に対し、「目的物の修補」、「代替物の引渡し」又は「不足分の引渡し」による履行の追完を請求できますが、売主は買主に不相当な負担を課さない限り、買主が請求した方法とは異なる方法で履行の追完をすることができます(民法562条1項)。
売主としては、契約不適合責任を排除できない場合は、買主の負担にかかわらず、自由に追完方法を選択できるようにするために、「売主が、指定した方法によって履行の追完をする」と定めると有利です。
他方で、買主としては、請求した方法と異なる方法を売主が選択することを防ぐために、「売主は、買主が指定した方法によって履行の追完をしなければならない」と定めると有利です。
代金減額請求権
民法では、契約不適合の場合に、買主が売主に対し、相当の期間を定めて履行の追完の催告をしたのにもかかわらず、その期間内に履行の追完がされないときは、買主は、不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができます(民法563条1項)。
買主としては、履行の追完を求めなくても、代金の減額を請求できるようにするため、「契約不適合があったときは、直ちに代金の減額を請求できる」と定めると有利です。
損害賠償請求権及び解除権
民法では、契約不適合の場合に、買主が売主に対して、履行の追完や代金の減額を請求した時にも、損害賠償請求並びに解除権を行使することができます(民法564条、415条、541条、542条)。
売主としては、買主に履行の追完や代金の減額を請求されたときにも、更に、損害賠償請求や解除をされると不利益であるため、「買主は、履行の追完又は代金の減額請求をした場合においては、損害賠償の請求及び解除をすることができない」と定めると有利です。
他方で、買主としては、「本条の定めは、損害賠償の請求及び解除権の行使を妨げない」と確認的に定めると有益です。
契約不適合責任を負う期間
商法上、商人間の売買では、買主は、目的物を受け取った後、遅滞なく検査し、契約不適合を発見したときは直ちに売主に通知しなければ、契約不適合責任を追及できません(商法526条1項)。
また、検査で直ちに発見できない契約不適合については引渡し後6か月以内に発見して直ちに通知しなければ責任追及できません(商法526条2項)。6か月より後に契約不適合が発見された場合は、直ちに発見できない契約不適合であった場合でも責任追及できないとされています(最判昭和47年1月25日)。 しかし、売主が契約不適合を知っていた時は、買主は期間の制限なく、売主に責任を追及できます(商法526条3項)。
なお、民法では、買主は、契約不適合を知った時から1年以内に売主に通知しなければ、その契約不適合を理由として契約不適合責任を追求することができません(民法566条)。
売主としては、納品後、いつまでも、交換や修理に応じなければならないことは負担となることから、契約不適合責任を負うべき期間を商法の6か月よりも短い期間に定めると有利です。
他方で、買主としては、より長期にわたって売主に責任を追及できるよう、売主が契約不適合責任を負うべき期間を6か月よりも長い期間に定め、「売主が契約不適合を知っていたときや、重大な過失によって知らなかったときには、期間の制限なく売主に責任を追及できる」と定めると有利です。
そのうえで、更に、「商法第526条第2項の規定は本契約には適用されない」と定めると、より安全です。
- 【売主側】記載例
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(契約不適合責任の排除)
売主は、本件商品を現状有姿のまま引き渡し、買主は、本件商品の引渡し後においては、本件商品の修補、代替物の引渡し、又は不足分の引渡し等の自ら指定した方法による履行の追完及び代金額の減額を請求することはできない。
(契約不適合)
1 本件商品に種類、品質又は数量の相違その他個別契約の内容に適合しないこと(以下、「契約不適合」という。)があった場合、売主は、自らの裁量により、当該本商品の修補、代替物の引渡し、又は不足分の引渡し等の自ら指定した方法による履行の追完、代金の全部又は一部の減額、損害の賠償その他の必要な措置を講じなければならない。
2 買主は、契約不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、履行の追完、代金の減額、又は損害の賠償の請求及び契約の解除をすることができない。
3 買主は、第●条(検査)の検査では直ちに発見することができない契約不適合(数量の相違を除く)を発見したときは、引渡し後3か月以内に売主に対してその旨の通知を発しなければ、履行の追完、代金の減額、又は損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。
4 買主は、履行の追完又は代金の減額請求をした場合においては、損害賠償の請求及び解除をすることができない。
- 【買主側】記載例
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(契約不適合責任)
1 本件商品に契約不適合があったときは、売主は、当該契約不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるかを問わず、買主の選択に従い、当該本件商品の無償による修補、代替品の納入又は不足分の納入等の方法による履行の追完、代金の全部又は一部の減額若しくは返還その他の必要な措置を講じなければならない。
2 本条の定めは、本契約の他の規定に基づく損害賠償の請求及び解除権の行使を妨げない。
3 売主が契約不適合のある本件商品を買主に引き渡した場合において、買主が当該契約不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、当該契約不適合を理由として、第1項に規定する権利を行使することができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りではない。
4 商法第526条第2項の規定は本契約には適用されない。
製造物責任
製造物責任(PL)法では、消費者は、製造物の欠陥で被害を受けた場合、メーカーなどの製造側に損害賠償を請求できます(製造物責任法2条、3条)。
買主としては、製造物の欠陥で消費者が被害を受けた場合、消費者から損害賠償を請求されると、不利益を受けます。そのため、製造物の欠陥により消費者等の第三者が損害を被り、買主が第三者に対して賠償責任等を負った場合、売主に求償するために契約書に明記すると有利です。
他方で、売主としてはこのような規定は削除するか、削除が難しい場合は、自らに責任がない場合にまで買主から賠償請求されないよう、「売主は当該欠陥が売主の責めに帰すべき事由に起因にする場合に限り、当該損害を賠償する」と定めると安全です(製造物責任法4条参照)。
- 【売主側】記載例
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(製造物責任)
売主が製造した本件商品の欠陥により買主又は第三者に損害が発生したときは、売主は当該欠陥が売主の責めに帰すべき事由に起因にする場合に限り、当該損害を賠償する。
- 【買主側】記載例
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(製造物責任)
本件商品の欠陥により買主又は第三者に損害が発生した場合には、売主は当該損害を賠償しなければならない。
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この記事のまとめ
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参考文献
阿部・井窪・片山法律事務所「契約書作成の実務と書式 第2版」(有斐閣)