就業規則がないのは違法?
労働基準法違反のリスク・デメリットなどを解説!
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- この記事のまとめ
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就業規則は、事業場に所属する労働者全員に対して適用される服務規程です。
労働基準法では、常時10人以上の労働者を使用する事業場において、就業規則の作成・届け出が義務付けられています。就業規則の作成・届け出義務の有無は、事業場ごとに判断されます。
就業規則の作成・届け出義務がなければ、就業規則を作成しなくても違法ではありません。しかし、労働条件が曖昧になりやすい・統一的な服務規程を定められない・労働者に対する懲戒処分ができないなどのデメリットがあります。
労働者が1人もいない会社や、労働者が親族などに限られる会社を除き、基本的には就業規則を作成することが望ましいでしょう。就業規則を新たに作成する場合は、役員などの間で草案を仮決定した後、労働者側の意見を聴いて、その内容を反映します。就業規則の内容が確定したら、労働者に対する周知を行い、さらに労働基準監督署に対して届け出ましょう。
この記事では、就業規則がない会社の問題点について、労働基準法違反のリスクやデメリットなどを解説します。
※この記事は、2023年5月29日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
就業規則がない会社は違法?
就業規則の作成義務は、労働基準法89条において定められています。
しかし、全ての会社に就業規則の作成義務が適用されるわけではありません。後述するように、常時雇用する従業員が9人以下の事業所は、就業規則の作成義務の対象外とされています。
したがって、就業規則がない会社が全て違法というわけではなく、事業場の規模に応じて適法・違法の判断が分かれることになります。
就業規則に関する労働基準法のルール
就業規則に関する労働基準法のルールを確認しておきましょう。
就業規則が必要な会社とは|常時10人以上の労働者を使用する事業場
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を作成した上で、労働基準監督署に届け出る義務を負います(労働基準法89条)。
「常時10人以上」とは
会社が労働者を「常時」使用しているかどうかは、雇用契約が常時存続しているか否かによって判断します。
正社員はもちろん、契約社員・パート・アルバイトなどの非正規社員も、雇用契約が常時存続している場合には「常時」使用する労働者に当たります。
これに対して日雇い労働者などは、「常時」使用する労働者に当たりません。
「事業場」とは
就業規則の作成義務の有無は、事業場単位で判断されます。常時雇用する労働者数が会社全体で10人以上である場合でも、事業場単位で9人以下であるならば、その事業場では就業規則を作成する必要がありません。
就業規則の作成・届け出義務を怠った場合の罰則・リスク
就業規則の作成・届け出義務がある事業場において、就業規則の作成または届け出を怠った場合、会社は以下のリスクを負ってしまいます。
① 労働基準監督官による行政指導
② 刑事罰
労働基準監督官による行政指導
就業規則の作成等がなされていないことは、労働者による申告などをきっかけとして、労働基準監督署に発覚する可能性があります。
労働基準監督署は、労働基準法違反の疑いがある事業場に対して2名の労働基準監督官を派遣し、臨検(立ち入り調査)を実施します。臨検において、労働基準監督官は帳簿・書類の提出を求め、さらに役員や従業員に対する尋問を行うことができます(労働基準法101条1項)。
臨検の結果、就業規則の作成・届け出義務違反が発覚した場合、労働基準監督官は会社に対して是正勧告を行います。是正勧告を受けた会社は、所定の期間内に違反状態を是正した上で、是正状況を労働基準監督官に報告しなければなりません。
刑事罰
就業規則の作成・届け出義務に違反した者に対しては、30万円以下の罰金が科される可能性があります(労働基準法120条1号)。さらに、両罰規定によって会社も30万円以下の罰金の対象になります(同法121条1項)。
作成義務がなければ不要なのか? 就業規則がないことのデメリット
就業規則の作成義務がないとしても、労務管理の観点からは、就業規則を定めた方がよいケースが多いです。
就業規則を定めない場合、以下のデメリットが生じるおそれがあります。これらのデメリットを避けるためには、就業規則の作成を検討しましょう。
① 労働条件が曖昧になりやすい
② 統一的な服務規律を定められない
③ 労働者に対する懲戒処分ができない
労働条件が曖昧になりやすい
就業規則には、事業場において雇用する労働者全体に適用される労働条件が定められます。就業規則を定めておけば、細かい部分まで労働条件を明確化することが可能です。
これに対して、就業規則がない事業場では、全ての労働条件を雇用契約書において定めなければなりません。
必要な労働条件が雇用契約書に網羅されていれば問題ありませんが、抜け漏れが見られるケースも多く、その場合は労働条件が曖昧になってしまいます。
統一的な服務規律を定められない
就業規則の大きな役割の一つは、事業場の労働者全体に適用される統一的な服務規律を定めることです。勤務時間・休憩・休暇などや、仕事上の注意事項・禁止事項などについて統一的なルールを定めれば、労働者間での認識共有にも役立ちます。
就業規則を作成しない場合、事業場における統一的な服務規律を定めることができません。その結果、労働者ごとに適用される服務規律がバラバラになったり、労働者間で服務規律に関する認識にずれが生じたりするなど、労務管理に支障を来すおそれがあります。
労働者に対する懲戒処分ができない
会社が労働者に対して懲戒処分を行う場合、就業規則上の懲戒事由に該当することが要件となります。
就業規則を作成していない場合には、懲戒事由が存在しないので、会社は労働者に対して懲戒処分を行うことができません。懲戒処分による制裁ができないと、労働者の不適切な行為に対する抑止力が不十分となり、事業場における秩序が乱れるおそれがあります。
就業規則を作成しなくてもよい会社の例
就業規則は基本的に作成することが望ましいですが、以下に挙げるような会社であれば、就業規則を作成しなくてもよいと思われます。
① 労働者がいない会社
② 労働者が親族などに限られる会社
労働者がいない会社
就業規則は、労働者に適用される労働条件や服務規律などを定めるものです。
したがって、役員のみで労働者がいない会社では、就業規則を作成する必要がありません。
労働者が親族などに限られる会社
労働者を雇用していても、それが事業主(社長)の親族などに限られる場合には、信頼関係を前提として就業規則を作成しないことも考えられます。
ただし、労働者の中に強い信頼関係で結ばれていない者が含まれている場合や、将来的な関係性の悪化などを懸念する場合には、就業規則を作成することが望ましいでしょう。
就業規則を新たに作成する際の手続き
就業規則を新たに作成する場合は、以下の流れで手続きを行いましょう。
1|就業規則の内容を検討・仮決定する
2|労働者側の意見を聴き、必要に応じて就業規則に反映する
3|就業規則の内容を決定し、労働者に周知させる
4|就業規則を労働基準監督署へ届け出る
1|就業規則の内容を検討・仮決定する
まずは役員や法務担当者などが中心となって就業規則の内容を検討し、草案を作成して仮決定を行います。
労働基準法において、就業規則への規定が求められている事項は以下のとおりです(同法89条)。
① 絶対的記載事項
→必ず記載すべき事項
(a) 労働時間関係
・始業および終業の時刻
・休憩時間
・休日
・休暇
・労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
(b) 賃金関係
・賃金の決定・計算の方法
・賃金の支払いの方法
・賃金の締め切り・支払いの時期
・昇給に関する事項
(c) 退職関係
② 相対的記載事項
→定める場合には記載すべき事項
(a) 退職手当関係
・適用される労働者の範囲
・退職手当の決定・計算・支払いの方法
・退職手当の支払いの時期
(b) 臨時の賃金等・最低賃金額関係
・支給条件
・支給時期
(c) 費用負担関係
・労働者の負担額
・負担方法
(d) 安全衛生関係
(e) 職業訓練関係
・行うべき職業訓練の種類
・訓練の内容
・訓練期間
・訓練を受けることができるものの資格など
・職業訓練中の労働者に対し特別の権利義務を設定する場合にはそれに関する事項
・訓練修了者に対し特別の処遇をする場合には、それに関する事項
(f) 災害補償・業務外の疾病扶助関係
(g) 表彰・制裁関係
・表彰の事由、方法、時期、手続き
・制裁の種類、程度
(h) その他
・旅費
・福利厚生
・休職
2|労働者側の意見を聴き、必要に応じて就業規則に反映する
就業規則の作成または変更時には、労働者側(以下の主体)に意見を聴かなければなりません(労働基準法90条1項)。
① 労働者の過半数で組織する労働組合がある場合
→ その労働組合(過半数組合)
② 労働者の過半数で組織する労働組合がない場合
→ 労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)
労働者側の意見をまとめた書面(意見書)は、労働基準監督署へ就業規則を届け出る際に添付する必要があります(同条2項)。
3|就業規則の内容を決定し、労働者に周知させる
作成した就業規則は、以下のいずれかの方法によって労働者に周知させる必要があります(労働基準法106条1項、労働基準法施行規則52条の2)。
① 常時各作業場の見やすい場所への掲示し、または備え付ける
② 労働者に対して書面を交付する
③ 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する
4|就業規則を労働基準監督署へ届け出る
就業規則を作成または変更した場合、労働基準監督署へ就業規則(変更)届を提出しなければなりません。その際、労働者側の意見書の添付も必要です。
就業規則(変更)届および意見書の書式は、厚生労働省ウェブサイトからダウンロードできます。
就業規則を効率的に作成する方法
就業規則を効率的に作成するためには、主に以下の2つの方法が考えられます。
① 厚生労働省の「モデル就業規則」を活用する
② 社労士・弁護士などの専門家に作成を依頼する
厚生労働省の「モデル就業規則」を活用する
厚生労働省は、各事業者が就業規則を作成する際の参考としてもらうため、モデル就業規則の規程例と解説を公表しています。
また、入力フォームから必要項目を入力して印刷すれば、簡単に就業規則を作成できるツールも公表されています。
事業場の実態に合わせて調整する必要はありますが、就業規則のたたき台を作成する際には、厚生労働省の資料やツールを活用するとよいでしょう。
社労士・弁護士などの専門家に作成を依頼する
就業規則の作成については、社会保険労務士や弁護士など、労働問題を取り扱う専門家に相談することも考えられます。
社会保険労務士や弁護士に相談すれば、法的な注意事項を踏まえつつ、事業場の実態に合った就業規則を作成するために、有益なアドバイスを受けることができるでしょう。
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