取締役会の決議事項とは?
報告事項との違い・決議事項の一覧
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- この記事のまとめ
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取締役会の決議事項とは、取締役において決定(決議)しなければならないと法令で定められている事項をいいます。
取締役会決議が必要な事項であるにもかかわらず、決議を経ずに業務執行をしてしまうと、その有効性が問題となったり、会社や取引相手に損害が生じてしまい取締役の責任が問われてしまったりするリスクがあります。(例:取締役会決議を経ずに重要な財産の処分、代表取締役の選定をした場合など)
取締役会の決議事項についてきちんと理解をして、決議漏れがないようにすることが重要です。
本記事では、取締役会の決議事項について、一覧表を用いて網羅的に紹介します。
また、取締役会決議を省略(書面決議)する方法もあり、実務上も、迅速な意思決定ができるためよく行われていますので、こちらも紹介します。
※この記事は、2022年3月8日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
取締役会の決議事項とは
取締役会の決議事項とは、会社の経営に関するあらゆる事項のうち、取締役会において決定(決議)される事項をいいます。
取締役会では、株主総会決議が必要な事項を除いて、会社に関する一切の事項を決定(決議)できます(会社法295条2項・3項)。
そのうち、特に重要な事項については、取締役会で決定(決議)しなければならないと法令で定められており、これを「法定決議事項(取締役会の専決事項)」といいます。
一般的に、「取締役会の決議事項」と表現される場合、この「法定決議事項(取締役会の専決事項)」を指していることが多いので、本記事でもそのように使用します。
法定決議事項は、さらに以下①②に区別される場合もあります。
①一般法定決議事項
会社法362条において、取締役会で決議すべきと定められている事項
②個別法定決議事項
会社法362条以外の個別法令において、取締役会で決議すべきと定められている事項
取締役会決議が必要な事項であるにもかかわらず、決議を経ずに業務執行をした場合(例:重要な財産の処分、代表取締役の選定など)、その有効性が問題となったり、会社や取引相手に損害が生じてしまい取締役の責任が問われてしまったりするリスクがあります。
取締役会とは|株主総会との違い
取締役会とは、全ての取締役で構成され、会社の業務執行に関する意思決定を行う機関です(会社法362条2項1号)。
株主総会は会社規模を問わず全ての会社に存在しますが、取締役会の設置は必須ではなく会社の自由です(公開会社など一定の場合には取締役会の設置が必須となります。会社法326条2項、327条)。
取締役会がある会社を「取締役会設置会社」、設置されていない会社を「取締役会非設置会社」といいます。
取締役会の決議(決議方法・決議要件)
取締役会の決議とは、以下の2つの要件を満たすものをいいます(会社法369条1項)。
①決議に参加することができる取締役の過半数の出席(定足数の要件)
②出席した取締役の過半数の賛成(賛成数の要件)
①定足数の要件については、定款において重く定める(例えば、3分の2以上にする)こともできます(会社法369条1項かっこ書)。
また、決議事項について特別な利害関係を有する取締役は決議に参加できません(会社法369条2項)。この場合、定足数や賛成数のカウントからは外さなければなりませんので注意しましょう。
(例)競業取引や利益相反取引の承認決議の際の当該取引を行おうとする取締役
代表取締役の解任決議の際の当該代表取締役
決議事項と報告事項の違い
取締役会の決議事項とは、取締役会で決定(決議)しなければならないと法令で定められている事項をいうことは上記のとおりです。
これに対して、報告事項とは、文字どおり、各取締役が取締役会に「報告」をすれば足りる事項をいいます。
会社法363条2項では、代表取締役と業務執行取締役は、3カ月に1回以上、取締役会に対して自己の業務執行について報告を行わなければならないと定められています。
(取締役会設置会社の取締役の権限)
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363条 次に掲げる取締役は、取締役会設置会社の業務を執行する。
⑴ 代表取締役
⑵ 代表取締役以外の取締役であって、取締役会の決議によって取締役会設置会社の業務を執行する取締役として選定されたもの
2 前項各号に掲げる取締役は、3箇月に一回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければならない。
一般法定決議事項(会社法362条)
会社法362条1項では、取締役会の職務について、以下①~③を定めています。
①業務執行の決定(1号)
②取締役の職務執行の監督(2号)
③代表取締役の選定および解職(3号)
このうち、①業務執行の決定については、会社法362条4項において、以下の1~7の事項、および、「その他の重要な業務執行」について、取締役会で決議しなければならないと定められており、慎重な意思決定が求められています。
- 重要な財産の処分および譲受け(1号)
- 多額の借財(2号)
- 支配人その他の重要な使用人の選任および解任(3号)
- 支店その他の重要な組織の設置・変更・廃止(4号)
- 募集社債に関する重要な事項(5号)
- 内部統制システムの整備に関する事項(6号)
- 定款の定めに基づく役員等の責任免除(7号)
- その他の重要な業務執行(柱書)
重要な財産の処分および譲受け
会社の重要な財産の処分と譲受け(譲渡)は、会社財産の行方を決する重要な事柄であることから取締役決議事項とされています。
「財産」には、金銭や不動産だけではなく、債権、知的財産権など会社の有するあらゆる財産が含まれます。
また、「処分」には売却だけではなく賃貸や取り壊しなども含まれ、「譲受け」には不動産や知的財産権の取得だけではなく賃借や技術の導入なども含まれます。
「重要」の判断基準とは
何をもって「重要な財産の処分」や「重要な財産の譲受け」であるとするのかについては、法律上は明確な定めがありません。
この判断基準として、最高裁判例(平成6年1月20日・民集48巻1号1頁)では、重要な財産の処分に該当するかは以下①~⑤などの事情を総合的に考慮して判断すべきであると判示されています。
①当該財産の価額
②会社の総資産に占める割合
③財産の保有目的
④処分行為の態様
⑤会社における従来の取り扱い
「重要な財産の処分」や「重要な財産の譲受け」に該当するのかどうかの判断はなかなか難しいですが、①②の財産の評価額と会社財産に占める割合については、財産の評価額が会社の貸借対照表上の総資産額の1%程度であるか否かが実務上の目安とされています。
多額の借財
会社が借入れなどを行う場合、これが会社にとって「多額」である場合は会社財産に与える影響が大きいため、取締役会決議事項とされています。
「借財」には、金銭消費貸借(借入れ)のほかデリバティブ取引なども含まれるとされています。
「多額」の判断基準
いくらをもって「多額」と判断されるかは、上記の「重要な財産の処分」や「重要な財産の譲受け」と同様に、会社規模などによってケースバイケースです。
裁判例(東京高判平成11年1月27日など)では、以下①~③の事項などを総合的に考慮し判断すべきと判示されています。
①会社における総資産及び経常利益等に占める割合
②借財の目的
③会社における従来の取扱い
実務上は、取締役会の決議事項を必要とする水準(付議基準)を「●円以上」などと保守的に定め、取締役会決議に漏れがないようにしているケースが多くみられます。
支配人その他の重要な使用人の選任および解任
支配人や使用人は、会社に代わって事業を行う者であり、その選任・解任については慎重に判断すべきであることから、取締役会の決議事項とされています。
「支配人」とは、「会社に代わってその事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する」者をいいます(会社法11条1項)。
会社が支配人を選任した場合は登記をしなければなりませんので(会社法918条)、法人登記をみれば、支配配人の存否・誰であるかを確認できます。
「重要な使用人」については、明確な定めはないものの、支配人と同程度の重要性を有する使用人(いわゆる従業員、社員)をいいます。
一般的には、
- 執行役員
- 支店長
- 本店の本部長
といった役職の従業員が「重要な使用人」に該当するとされています。
支店その他の重要な組織の設置・変更・廃止
支店や重要な組織の設置・変更・廃止は、会社の組織体制に与える影響が大きいことから、取締役会の決議事項とされています。
「重要な組織」とは、支店と同程度の重要性がある部門(事業部など)や会議体(経営会議など)をいいます。
募集社債に関する重要事な事項
社債(会社が資金調達のために発行する債券)は、会社にとって多額かつ長期の借入れに相当するため、社債の発行に関する重要な事項が取締役会決議事項とされています。
この「重要な事項」については、会社法施行規則99条1項において、以下のとおり定められています。
- 2以上の募集にかかる募集事項を取締役に委任する際は、その旨(1号)
- 総額の上限(2号)
- 利率の上限、利率に関する事項の要綱(3号)
- 払込金額の総額の最低金額、払込金額に関する事項の要綱(4号)
内部統制システムの整備に関する事項
会社法362条4項6号の「内部統制システム」とは、簡単に言うと、会社の業務執行が法令に適合した適正なものであることを確保するための基本体制のことです。
会社の基本方針として重要な事項であるため、体制の整備について取締役決議事項と定められています。
この「体制の整備」については、会社法施行規則100条1項において、以下のとおり定められています。
- 取締役の職務執行に係る情報の保存・管理に関する体制(1項1号)
- 会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制(1項2号)
- 取締役の職務執行が効率的に行われることを確保するための体制(1項3号)
- 使用人の職務執行が法令・定款に適合することを確保するための体制(1項4号)
- 当該会社と親会社・子会社成る企業集団の業務の適正を確保するための体制(1項5号)
- (監査役を設置していない場合)取締役が株主に報告すべき事項の報告をするための体制(2項)
- (監査役を設置している場合)監査役の監査が実効的に行われることを確保する体制(3項各号)
定款の定めに基づく役員などの責任免除
定款において、役員などの会社に対する任務懈怠責任の(一部)免除について取締役会決議で可能と定めている場合は、取締役決議に基づいて役員などの責任を免除できます(会社法362条4項7号)。
前提として、取締役などの役員は、会社との間の委任契約により、会社に対する善管注意義務(民法644条)や忠実義務(会社法355条)を負っています。
これらに違反して会社に損害を及ぼした場合は、任務懈怠責任(会社法423条1項)を負い損害を賠償しなければなりませんが、この責任は総株主の同意がなければ免除できないのが原則です(会社法424条)。
もっとも、例外として、定款において取締役会決議による(一部)免除を定めた場合は取締役決議で免除が可能となります。しかし、免除すべきかには慎重な判断が必要となるため、会社法は、これを各取締役に委任することを禁止し、取締役決議事項として定めています。
その他の重要な業務執行
上記の各事項と同程度の重要性があると判断される業務執行についても、取締役会で慎重に判断すべきであることから、「その他の重要な業務執行」として取締役決議事項と定められています。
「その他の重要な業務執行」の該当性については、法令に具体的な定めはなくケースバイケースですが、例えば以下の事項は「その他の重要な業務執行」に該当するとして、実務上は取締役会決議事項と取り扱われています。
- 経営計画や年間事業計画の策定
- 年間予算の設定・変更
- 社内規程の制定・変更
また、裁判例の中には、会社の内規(職務権限基準表)において取締役会決議事項と定められている事項が「重要な業務執行」を類型化したものであると判示して、取締役会決議を経ずに業務執行を行ったことについて取締役の善管注意義務違反を認めた事案もあります(名古屋高判平成28年7月29日)。
したがって、会社の内規において取締役会決議事項と定められている事項については、きちんと取締役会決議を経るよう、注意しましょう。
個別法定決議事項の一覧表
会社法362条以外にも、個々の法令において取締役会決議事項と定められているものがありますので、一覧表として紹介します。
【株式に関する事項】
決議事項 | 条文(会社法) |
---|---|
種類株式の内容 | 108条3項 |
株式の譲渡承認 | 139条1項 |
株式の買取人の指定 | 140条5項 |
自己株式取得価格の決定 | 157条2項 |
子会社からの自己株式の取得 | 163条 |
市場取引等による自己株式の取得 | 165条3項 |
取得条件付株式を取得における取得株式の決定 | 169条2項 |
自己株式の消却 | 178条2項 |
特別支配株主の株式等売渡請求の承認 | 179条の3第3項 |
特別支配株主の株式等売渡請求撤回の承諾 | 179条の6第2項 |
株式の分割 | 183条2項 |
株式無償割当て | 186条3項 |
単元株式数の減少・廃止 | 195条1項 |
所在不明株主の株式の買取り | 197条4項 |
募集株式の募集事項のうち委任を受けた事項 | 200条1項 |
公開会社における募集株式の募集事項 | 201条1項 |
募集株式の株主割当ての際の募集事項 | 202条3項 |
譲渡制限株式の割当て | 204条2項 |
譲渡制限株式の総数引受契約 | 205条2項 |
端数株式の買取り | 234条5項 |
新株予約権の募集事項のうち委任を受けた事項 | 239条1項 |
公開会社の募集新株予約権の募集事項 | 241条3項 |
譲渡制限新株予約権の割当て | 243条2項 |
譲渡制限新株予約権の総数引受契約 | 244条3項 |
新株予約権の譲渡承認 | 265条1項 |
取得条項付新株予約権の取得日の決定 | 273条1項 |
取得条項付新株予約権の取得において取得する新株予約権の決定 | 274条2項 |
自己新株予約権の消却 | 276条2項 |
新株予約権無償割当て | 278条3項 |
【株主総会の招集に関する事項】
決議事項 | 条文(会社法) |
---|---|
株主総会の日時・場所 | 298条1項1号 |
株主総会の目的事項 | 298条1項2号 |
書面による議決権行使の決定 | 298条1項3号 |
電磁的方法による議決権行使の決定 | 298条1項4号 |
その他、会社法施行規則63条に定める事項 | 298条1項5号 |
【取締役等の人事に関する事項】
決議事項 | 条文(会社法) |
---|---|
業務を執行する取締役の選定 | 363条1項 |
会社・取締役間の訴えにおける会社代表者の指定 | 364条 |
取締役の競業取引・利益相反取引の承認 | 365条1項 |
取締役の招集権者の決定 | 366条1項ただし書 |
特別取締役による取締役会 | 373条1項 |
【会計・剰余金に関する事項】
決議事項 | 条文(会社法) |
---|---|
計算書類・事業報告・付属明細書類の承認 | 436条3項 |
臨時計算書類の承認 | 441条3項 |
連結計算書類の承認 | 444条5項 |
資本金の額の減少 | 447条3項 |
準備金の額の減少 | 448条3項 |
中間配当 | 454条5項 |
自己株式の取得 | 459条1項1号 |
欠損填補のための準備金の減少 | 459条1項2号 |
剰余金の処分 | 459条1項3号 |
剰余金の配当 | 459条1項4号 |
取締役会決議の省略ができる場合とは
ここまで一定の事項を決定する際は、取締役会決議が必要であると解説してきましたが、例外的に取締役会決議を省略できる場合があります。
具体的には、取締役全員が、取締役会の目的事項として提案された事項に対して書面または電磁的記録(メールなど)により同意の意思表示をした場合に、取締役会の決議があったものとみなして決議を省略することができます。実務上は「みなし決議」や「書面決議」と呼ばれています(会社法370条)。
ただし、書面決議が可能なのは、定款において決議の省略について定めている場合に限られます。また、監査役がいる会社では、定款にそのような定めを設けたとしても、監査役が異議を述べた場合は取締役会決議を省略することはできません。
さらには、代表取締役や業務執行取締役による職務執行状況の報告の省略を行うことはできないため(会社法372条2項)、3カ月に1回は取締役会を開催し、職務執行の状況について報告する必要があります(会社法363条2項)。
(取締役会の決議の省略)
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370条 取締役会設置会社は、取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき取締役(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監査役設置会社にあっては、監査役が当該提案について異議を述べたときを除く。)は、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができる。
<定款の記載例>
第●条(取締役会の決議等の省略)
取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき取締役(当該事項について議決に加わることができる者に限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす。
ただし、監査役が異議を述べたときは、この限りではない。
会社法が定めた書面決議の手続きを踏んだ場合
取締役会の決議の目的事項の提案について、議決権のある取締役全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をした場合、当該提案については、決議があったものとみなされます。
特別取締役(特別利害関係取締役)による決議がある場合
特別取締役(特別利害関係取締役)とは、当該取締役会の決議事項について特別の利害関係を有する取締役をいいます。
(例)競業取引や利益相反取引の承認決議の際の当該取引を行おうとする取締役
代表取締役の解任決議の際の当該代表取締役
特別取締役は、当該取締役会決議に参加することができず、定足数や賛成数のカウントからは外さなければなりません(会社法369条2項)。
それにもかかわらず、特別取締役が参加して決議がされた場合の当該決議の有効性については、特別取締役を除いても定足数・決議要件を満たす場合は有効とした最高裁判例もありますが(最判平成28年1月22日)、決議の結果に影響を及ぼしたと認められる場合は無効になる可能性がありますので注意しましょう。
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