【民法改正(2020年4月施行)に対応】不動産売買契約のレビューポイントを解説!
- この記事のまとめ
-
改正民法(2020年4月1日施行)に対応した不動産売買契約のレビューポイントを解説!!
この記事では、売買契約に関する主な改正点を解説したうえで、不動産売買契約において見直すべき条項を解説します。
売買契約に関する主な改正点は3つです。ポイント1│危険負担に関するルールを見直した
ポイント2│売主の担保責任のルールを見直した
ポイント3│解除の要件を見直した
※この記事は、2020年8月19日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
・民法…2020年4月施行後の民法(明治29年法律第89号)
・旧民法…2020年4月施行前の民法(明治29年法律第89号)
\ 「民法改正(第3編債権)」新旧対照表の無料ダウンロードはこちらから / |
目次
不動産売買契約とは
不動産売買契約は、 売主が不動産(建物・土地)の所有権を買主に移転することを約し、買主が、これに対して代金を支払うことを約することで成立する契約 です(民法555条)。
不動産売買契約は、個人の住宅から、企業の店舗・工場、投資物件に至るまで、ビジネスにおいて幅広い場面で利用されています。また、目的物の性質上、取引額が高額になることも少なくありません。 このような性質から、不動産売買契約のレビューは、大変重要な役割を担います。
もっとも、目的物となる不動産は、新築と中古物件のいずれであるかといった違いがあります。 また、契約当事者の属性も個人から企業まで様々です。そのため、不動産売買契約をレビューするときは、契約の当事者・取引の目的・代金額・目的物の状態などをふまえて行う必要があります。
この記事では、民法改正が不動産売買契約に与える影響を中心に解説します。ごく一般的な事業用借地の売買といった、シンプルな内容の契約を想定しております。
不動産売買契約に関する3つの主要改正ポイント
ここからは、不動産売買契約に関連する民法改正の主要なポイントを解説していきます。 不動産売買契約に関する主な改正ポイントは次の3つです。
- 不動産売買契約に関する主な改正ポイント(3つ)
-
・ポイント1│危険負担に関するルールを見直した
・ポイント2│売主の担保責任のルールを見直した
・ポイント3│解除の要件を見直した
ポイント1│危険負担に関するルールを見直した
危険負担に関する主な改正ポイントは、次の3点です。
- 債権者主義を廃止する
- 危険負担の効果として、反対給付債務の履行拒絶権が与えられる
- 危険の移転時期が「引渡し時」となる
詳細はこちらの記事で解説しています。
ポイント2│売主の担保責任のルールを見直した
売主の担保責任に関する主な改正ポイントは、次の3点です。
- 「瑕疵担保責任」という概念を廃止し「契約不適合責任」に変更する
- 買主の権利が追加され、履行の追完請求・代金の減額請求・損害賠償請求・解除が認められる
- 買主の権利行使期間が延長される
詳細はこちらの記事で解説しています。
ポイント3│解除の要件を見直した
このポイントは、不動産売買契約のみならず、すべての契約類型に共通するものです。 解除の要件に関する主な改正ポイントは、次の点です。
- 解除の要件から「債務者の帰責性」を削除する
- 催告解除の要件が明確になる
- 無催告解除の要件を整理する
詳細はこちらの記事で解説しています。
不動産売買契約のレビューで見直すべき5つの条項
改正点をふまえて、不動産売買契約のレビューで見直すべき条項を解説します。 見直すべき条項は、以下の5つです。
- 賃貸借契約で見直すべき条項
-
契約の目的に関する条項
売主の表明保証条項
売主の担保責任に関する条項
危険負担条項
解除条項
契約の目的に関する条項
【関連する改正ポイント】
ポイント2│売主の担保責任のルールを見直した
今回の改正では、「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」に変化されたことにより、目的物である不動産について「契約の内容との適合」があるか否かが重要となります。 具体的には、売買の目的、経緯および動機といった事項が重視されます。
今回の改正では、「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」に変化されたことにより、目的物である不動産について「契約の内容との適合」があるか否かが重要となります。 具体的には、売買の目的、経緯および動機といった事項が重視されます。
- 記載例
-
第●条(※契約の冒頭部におくことが想定されます)
売主及び買主は、買主が本物件を●●●●●●として利用する目的で、本物件を買い受けるべく、本契約を締結するものであることを確認する。
これは、買主の立場のみならず、売主の立場からも、担保責任に関するトラブルを減らすために、積極的に契約に記載したり、説明したりするとよいでしょう。
たとえば、住宅を建てるために土地を購入したところ、敷地の中にガラスやレンガのかけら、建築廃材が残ってしまうというトラブルを想定してみましょう。 このようなトラブルを防ぐためには、たとえば次のような説明をしておくとよいでしょう。
- 説明例
-
売買対象物の土地の品質・性状に関し、本物件が過去に建築物があった土地であるため、建物解体時において、建築部材の破片や断片、敷地利用者が使用した石・レンガ等、また、生活用品の一部等の異物が含まれている可能性があります。
売主の表明保証条項
【関連する改正ポイント】
ポイント2│売主の担保責任のルールを見直した
表明保証条項とは、売主が、目的物である不動産の性状などについて、一定程度の品質を保証することを定めたものです。契約書の条項に定められているケースもありますが、たとえば「重要事項説明書」や「表明保証」といった資料が添付されていることも多くあります。
この表明保証条項については、 違反した場合の効果が曖昧であり、契約当事者間でトラブルとなるリスクがあります。すなわち、目的物が表明保証条項に反する内容であった場合、買主は、売主に対して、担保責任を追及できるのできるのかどうか、をめぐって争いとなるリスクがあるのです。
そこで、表明保証条項が定められているときは、売主の担保責任との関係が明確であるかを確認するようにしましょう。 以下、売主と買主のそれぞれの立場から解説します。
売主の立場でレビューする場合
売主としては、表明保証条項を定める場合は、仮に、表明保証条項に反するものであっても、担保責任を追及されないように定めるのが有利です。 たとえば、次のような定めとなります。
- 記載例
-
(表明保証)
1. 売主は、買主に対し、本契約締結日及び引渡日において、別紙1に定め事項が真実かつ正確であることを表明し保証するものとする。
2. 本条に定める売主の表明及び保証に関し誤りがあり又は不正確であった場合には、民法第562条、第563条その他の担保責任に関する規定は適用されない。
買主の立場でレビューする場合
逆に、買主の立場でレビューするときは、表明保証条項に違反した場合に、売主に対して担保責任を追及できるように定めるのが有利です。
- 記載例
-
(表明保証)
1. 売主は、買主に対し、本契約締結日及び引渡日において、別紙1に定め事項が真実かつ正確であることを表明し保証するものとする。
2. 本条に定める売主の表明及び保証に関し誤りがあり又は不正確であった場合には、民法第562条、第563条その他の担保責任に関する規定が適用される。
売主の担保責任に関する条項
【関連する改正ポイント】
ポイント2│売主の担保責任のルールを見直した
今回の改正では、売主の担保責任として、買主に追完請求権と代金減額請求権が認められるとともに、買主の権利の行使期間が延長されることになりました。 そこで、売主と買主のいずれの立場であっても、
・担保責任の内容(どんな責任を請負人が負うのか)
・権利行使の期間(いつまで責任を負うのか)
について、民法のルールに比べて、自分たちにとって、有利な内容にする必要はないか、あるいは、不利な内容になっていないか、という点を確認する必要があります。
売主の立場でレビューする場合
不動産売買では、目的物である不動産は、修理や代替物の引渡しなどによって履行を追完することが困難であるという性質があります。 売主の立場でレビューするときは、買主の追完請求権を排除する旨を定めるのが有利です。
- 記載例
-
(担保責任)
本契約においては民法562条を適用せず、買主は、売主に対して、同条第1項に基づき履行の追完を請求することはできないものとする。
買主の立場でレビューする場合
契約に定めのない事項は、民商法のルールが適用されます。 そのため、契約に売主の担保責任のルールを定めたとしても、民商法のルールを全て書き換えたものなのか、一部だけ書き換えて、残りは民商法のルールが適用されるのか、といった問題が残る場合があります。 とくに商法526条には、買主にとって非常に短い権利行使期間が定められています。買主としては、商法のルールを全て書き換えたつもりであったのに、一部しか書き換えられていないと解釈されると、非常に不利益です。 そこで、買主としては、契約であらかじめ「商法526条は適用されない」と定めると安全です。
- 記載例
-
(担保責任)
1.(略)
2. 本契約においては、商法526条は適用しない。
契約不適合責任については、こちらの記事でも解説しています。
危険負担条項
【関連する改正ポイント】
ポイント1│危険負担に関するルールを見直した
危険負担については、従来の実務においても、民法の債権者主義はほとんど修正され、改正後民法の定めるような、引渡時の危険負担移転を定める条項とすることが一般的でした。
売主の立場でレビューする場合
売主としては、目的物である不動産を納入した以上、代金を支払ってもらえなければ不利益です。 そこで、基本的には、「引渡しをもって危険負担が移転する」という民法の原則的なルールを採用するのがよいでしょう。 もっとも、引渡し前に、目的物である不動産が損傷した場合は、どのように取り扱ったらよいのか、という点については、民法の危険負担のルールだけでは不明確です。
そこで、たとえば、引渡し前に、契約当事者のいずれの帰責性(責任)なく目的物である不動産が損傷したときは、売主としては、まずは修補することとし、修補できなかった場合に、買主からの代金の減額や契約の解除に応じる、と定めることが考えられます。
- 記載例
-
1. 本件不動産の引渡前に、天変地異その他本契約の当事者のいずれの責めにも帰することができない事由によって本件不動産が滅失したときは、買主は、本契約を解除することができる。 2. 本件不動産の引渡前に、天変地異その他本契約の当事者のいずれの責めにも帰することができない事由によって本物件が損傷したときは、売主は、本物件を修補して乙に引き渡す。 3. 前項の場合において、売主が第●条の引渡日までに損傷を修補しないときは、買主は売主に、第●条の規定に準じて、代金減額請求又は契約の解除をすることができる。
買主の立場でレビューする場合
買主としては、上記のような条項を提示された場合、どのように修正したらよいでしょうか? 売主が修補することが困難であったり、修補に多大な費用を要したりする場合には、到底修補を期待することができないおそれがあります。 そこで、このような場合に備えて、次のような条項を定めるのがよいでしょう。
- 記載例
-
買主は、本契約の当事者のいずれの責めにも帰することができない事由によって本不動産が損傷した場合において、本不動産の修復が著しく困難である、又は多大な費用を要すると売主において合理的に判断した場合には、本契約を解除できるものとする。
危険負担の一般的なレビューポイントについては、こちらの記事でも解説してます。
解除条項
【関連する改正ポイント】
ポイント3│解除の要件を見直した
不動産売買契約の解除条項については、見直すべき事項として特筆すべきものはありません。 なぜなら、不動産売買契約は、代金を支払うことと、物件を引き渡す(登記移転等も含む)ことがその内容で、非常にシンプルな契約であるため、解除要件が当事者間で争われることはあまりありません。 そこで、次のようにシンプルに定めることが多いでしょう。
- 記載例
-
(解除)
本契約の当事者がその債務を履行しない場合は、その相手方は、民法の定めに従い、本契約の解除をすることができる。
解除条項の一般的なレビューポイントについては、こちらの記事でも解説してます。
まとめ
民法改正(2020年4月1日施行)に対応した売買契約のレビューポイントは以上です。
実際の業務でお役立ちいただけると嬉しいです。
改正点について、解説つきの新旧対照表もご用意しました。
〈サンプル〉