ハラスメントの冤罪とは?
主な原因や裁判例、企業がとるべき
防止対策などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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近年ではハラスメント防止の取り組みを強化する企業が増えてきましたが、その意識が強すぎるあまりに「冤罪」を生んでしまうリスクに注意しなければなりません。
企業としては、ハラスメントの要件を正しく理解したうえで、先入観を持たず中立的な視点で調査を行うことが大切です。当事者の言い分だけに頼らず、できる限り客観的な資料に基づいて判断するように努めましょう。
ハラスメントの冤罪を防ぐためには、社内規程の整備やハラスメント研修の実施により、判断基準を明確化したうえで従業員に周知することが効果的です。また、弁護士などの外部専門家と連携すれば、より中立的な検討や判断がしやすくなります。
この記事ではハラスメントの冤罪について、主な原因や企業がとるべき防止対策などを解説します。
※この記事は、2026年7月22日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- ・男女雇用機会均等法…雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
- ・労働施策総合推進法…労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律
目次
ハラスメントの「冤罪」とは
ハラスメントの「冤罪」とは、実際にはハラスメントに該当する言動をしていないにもかかわらず、誤って加害者として扱われることをいいます。
企業としては、ハラスメントの冤罪に加担しないよう十分注意しなければなりません。被害を訴える人の心情に配慮しつつ、十分な調査を尽くして事実認定を行い、冤罪によって不当な処分をしてしまうような事態を防ぎましょう。
ハラスメントの冤罪が生じる主な原因
ハラスメントの冤罪が生じる原因としては、主に次に例が挙げられます。
① 当事者の認識や常識の相違・コミュニケーション不足
② 一方当事者の言い分だけに基づく、根拠のない断定
③ ハラスメントを過剰に警戒する意識
当事者の認識や常識の相違・コミュニケーション不足
発言者は「業務上必要な指導」「冗談」「励まし」などとポジティブに捉えている一方で、受け手は「威圧的」「人格を否定された」などとネガティブに捉える場合のように、同じ言動でも当事者間で認識が異なるケースはよくあります。当事者間で十分にコミュニケーションがとれていないと、認識や常識のズレが解消されず、職場における不和の原因となってしまいます。
こうした状況では、本来はハラスメントに当たらないような言動でも、受け手の側が過剰に反応して被害を訴える例が少なくありません。企業側がよく調査をせずに被害の訴えを鵜呑みにすると、ハラスメントの冤罪に発展してしまいます。
一方当事者の言い分だけに基づく、根拠のない断定
ハラスメントの被害を訴えた相談者の心情に寄り添うことは重要ですが、相談者の言い分だけに基づいてハラスメントの事実を断定してはなりません。十分な調査を行わない結論を出すと、冤罪の疑いをかけてしまうおそれがあります。
ハラスメントに関する調査の過程では、被害を訴える人だけでなく、加害者とされている人や上司・同僚などの関係者からも事情を聞くことが大切です。多面的に情報を仕入れることが、事実関係の正確な把握につながります。
また、当事者や関係者の供述だけに頼るのではなく、客観的な証拠による裏付けを確保することも重要です。メール・チャット・録音データなどを精査して、ハラスメントに当たる言動が表れていないかどうか調べましょう。
もし該当する言動が全く見当たらないようなら、ハラスメントの事実を認定することには慎重になるべきです。
ハラスメントを過剰に警戒する意識
近年では、ハラスメントを警戒する意識が社会的に高まっています。職場におけるハラスメントを防止することは重要な課題である一方、ハラスメントを過剰に警戒するあまり、問題のない言動まで問題視してしまう例が散見されるので注意が必要です。
例えば、業務改善を目的とした合理的な指導は、適切な方法で行われる限りハラスメントに該当しません。受け手が不快な思いをしたとしても、業務上やむを得ないケースはあります。
企業としては、ハラスメントの要件を正しく適用し、本来業務上必要な言動までハラスメントであると断じないよう注意しなければなりません。
ハラスメントの冤罪の裁判例
大阪地裁平成25年11月8日判決(労判1085号19頁)では、学校法人であるY1学院の専任教諭であるXが、同僚の教諭であるY2に対して車内で暴行を加えたうえでわいせつな行為をしたとして懲戒解雇された事案が問題となりました。
Xは、Y2の被害申告が虚偽である旨を主張し、Y1に対して懲戒解雇の無効に伴う労働者としての地位確認・未払賃金の支払い・損害賠償、Y2に対して損害賠償を求めて訴訟を提起しました。
大阪地裁は、XとY2が性的関係を持った事実を認めた一方で、Xから受けたとする暴行の態様についてY2の供述が一貫していないことを指摘しました。
Y2はXに対して好意を抱いており、Y2と交際している旨を明言するよう求めていましたが、Xは交際を明言しないまま性的関係を持ち、最終的にはXの側からY2との関係を打ち切りました。大阪地裁は、Y2がこうしたXの不誠実な態度に対する怒りから、暴行を受けたなどの虚偽の事実を含む被害申告をしたことを認定しました。
Y1学院による懲戒解雇処分は、Y2が申告した暴行の事実に基づいていたため、大阪地裁は懲戒解雇を無効と判断し、Xの労働者としての地位確認請求と未払賃金請求を認めました。他方で、Y1学院の事実認定は合理性を著しく欠く恣意的な判断とはいえないとして、Y1学院に対する損害賠償請求は認めませんでした。
Y2による虚偽の被害申告については、Xの名誉を著しく毀損するとともに、Xが職を失う危険性を生じさせるもので悪質であるとして、Y2に対して88万円の損害賠償を命じました。
ハラスメントの冤罪に加担した企業が負うリスク|冤罪の場合、名誉毀損になる?
企業が十分な調査を行わず、ハラスメントの事実がないにもかかわらず懲戒処分を行ったときは、その懲戒処分は無効となります。この場合、企業は対象者に対して、解雇等によって職場を離れていた期間の未払賃金の支払義務や損害賠償責任を負う可能性があります。
また、ハラスメントの加害者として対象者の氏名を公表した場合などには、名誉毀損による刑事・民事上の責任を負うことになりかねません。
このように、企業がハラスメントの冤罪に加担した場合は、さまざまな法的責任を負うリスクを伴います。企業としては、十分な調査を尽くしたうえで事実認定を行い、冤罪防止に取り組むことが求められます。
ハラスメントの冤罪を防ぐため、企業がとるべき対応
ハラスメントの冤罪に加担することを防ぐため、企業が被害を訴える相談を受けた際には、特に次のポイントを意識しつつ対応してください。
① ハラスメントの要件を正しく理解する
② 先入観を持たず、中立的な視点で調査を行う
③ できる限り客観的な資料に基づいて判断する
ハラスメントの要件を正しく理解する
法律上要件が定められているハラスメントについては、その要件を正しく理解することが大切です。正しい理解に基づいて要件を適用すれば、ハラスメントに当たるかどうかを適切に判断できるので、冤罪を防ぎやすくなります。
例えば、セクシュアルハラスメント(セクハラ)については男女雇用機会均等法、パワーハラスメント(パワハラ)については労働施策総合推進法により、それぞれ次のとおり要件が定められています。
- セクハラの要件
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(a) 職場において行われる性的な言動であること
(b) 次のいずれかに該当すること
・労働者の対応により、当該労働者がその労働条件につき不利益を受けること(対価型セクハラ)
・労働者の就業環境が害されること(環境型セクハラ)
- パワハラの要件
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(a) 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であること
(b) 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
(c) 労働者の就業環境が害されること
セクハラやパワハラなどの各種ハラスメントについては、厚生労働省が指針を公表しています。指針の中でハラスメントの要件についても詳しく解説されているので、参考にしてください。
先入観を持たず、中立的な視点で調査を行う
ハラスメントの相談を受けた企業は、相談者の訴えや心情を尊重しながら調査を行う必要があります。しかし、相談内容だけをもとに相手方を「加害者」と決めつけることは、冤罪につながるおそれがあるので避けるべきです。
企業としては、先入観を持たずに中立的な視点で調査を行うことが求められます。被害を訴える相談者だけでなく、加害者とされている人や上司・同僚などの関係者からも事情を聞き、多面的に情報を収集しましょう。
できる限り客観的な資料に基づいて判断する
当事者や関係者の供述には、記憶違いや偏った考え方が混入しやすく、常に信用できるとは限りません。そのため、供述だけに基づいてハラスメントの事実を認定するのは危険です。
ハラスメントの有無や内容を正確に判断するには、メール・チャット・録音などの客観的な資料を精査することが求められます。客観的な証拠が全くない場合は、ハラスメントの事実を安易に認定してはなりません。
なお、客観的な資料を分析する際には、一部分だけを切り取って判断するのではなく、全体的な文脈を読み取ることが大切です。部分的にはハラスメントに当たるように思われても、前後のやり取りなどを併せて考慮すると、ハラスメントと判断すべきではないケースもあることに留意してください。
ハラスメントの冤罪を未然に防ぐための対策
ハラスメントの冤罪を未然に防ぐため、企業は平時から次に挙げる対策などを講じておきましょう。
① ハラスメントに関する社内規程の整備
② 従業員に対するハラスメント研修の実施
③ 弁護士などの外部専門家との連携
ハラスメントに関する社内規程の整備
社内規程によってハラスメント対応の要領を明確化することは、冤罪の防止につながります。ハラスメントの定義・判断基準を明記したうえで、多角的かつ中立的な調査の方法を定めましょう。
従業員に対するハラスメント研修の実施
従業員全体に対してハラスメント研修を実施し、ハラスメントの要件や判断基準などについて正しい知識をインプットすれば、冤罪のようなケースは減ると考えられます。
また、ハラスメント対応の担当者向けにも個別研修を行い、中立・公平な視点から調査や事実認定を行うべき旨や、安易な懲戒処分には大きなリスクを伴う旨などを伝えましょう。
弁護士などの外部専門家との連携
ハラスメントに当たるかどうかの判断が難しい場合は、弁護士などの外部専門家に相談してアドバイスを求めることをお勧めします。
第三者の視点から考え方や方法について助言を受ければ、調査の公平性や客観性を高めることができます。加害者とされている人に対して処分を行う場合は、その妥当性や法的リスクについても事前に確認できるため、企業にとってはリスクの軽減につながります。
冤罪防止を意識するあまり、被害者のケアを怠ってはならない
ハラスメントの冤罪を防ぐことは重要ですが、冤罪防止を過度に意識するあまり、相談者(被害者)のケアを後回しにしてはなりません。
「本当にハラスメントなのかどうか分からない」として相談を軽視したり、難しい立証を求めたりすると、相談者はさらなる精神的負担を感じて二次被害につながるおそれがあります。
「相談してもまともに取り合ってもらえない」という評判が社内に広がると、従業員は相談を躊躇するようになり、潜在的なハラスメントが見過ごされる原因にもなってしまいます。
企業としては、中立・公平な視点から事実調査を行うのと同時に、相談者に寄り添いながら対応することが求められます。加害者とされている人に冤罪の責任を負わせないように注意しつつ、相談者が負担を軽減しながら働きやすい環境を整えるよう努めましょう。
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