依願退職とは?メリットやデメリット・
公務員の場合・退職金の取り扱い・
企業側の注意点などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「依願退職」とは、従業員が使用者に申し出て、勤務先の企業がそれを受け入れる形で退職することをいいます。依願退職は、労使の合意によって成立する「合意退職」の一種です。
依願退職のメリットは、労使の合意によって退職するため、後でトラブルが起こりにくい点です。その一方で、退職金や雇用保険の受給条件が不利になるなど、従業員にとっては依願退職のデメリットが大きいケースもあります。
依願退職に関しては、特に退職金・賞与・雇用保険・有給休暇の取り扱いが問題になります。企業としては、これらの取り扱いを正しく理解し、従業員に対して適切に案内を行いましょう。
この記事では依願退職について、メリットやデメリット・退職金の取り扱い・企業側の注意点などを解説します。
※この記事は、2025年8月12日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
依願退職とは
「依願退職」とは、従業員が使用者に申し出て、勤務先の企業がそれを受け入れる形で退職することをいいます。依願退職は、労使の合意によって成立する「合意退職」の一種です。
依願退職と解雇の違い
依願退職は、従業員の申出を使用者が受け入れること(=合意)によって成立します。
これに対して「解雇」は、使用者が一方的に従業員を退職させることをいいます。従業員が同意していなくても、使用者の意思表示によって雇用契約が終了します。
依願退職はどのような理由でも認められますが、解雇には客観的かつ合理的な理由が求められ、さらに社会的に相当であることが必要です。
客観的・合理的な理由または社会的相当性を欠く解雇は、解雇権の濫用として無効となります(労働契約法16条)。
依願退職と会社都合退職の違い
依願退職は従業員側の申出をきっかけとするため、いわゆる「自己都合退職」に当たります。
これに対して、会社側の意向や都合による従業員の退職は「会社都合退職」と呼ばれています。解雇のほか、退職勧奨や希望退職者の募集をきっかけとする退職などは、会社都合退職に当たります。
依願退職を含む自己都合退職の場合は、会社都合退職に比べると、退職金や雇用保険の受給に関する条件が従業員にとって不利になるケースが多いです。
公務員の依願退職
会社員など民間企業で働いている人だけでなく、公務員も依願退職をするケースがあります。
公務員の依願退職も、民間企業の従業員と同様に、公務員側からの申出によって行われます。退職の申出を国や自治体が承認すると、その時点で依願退職が成立します。
ただし、公務員の非違行為(=犯罪などの不適切な行為)をきっかけに依願退職の申出がなされた場合は、国や自治体はその申出を承認する前に、懲戒処分の手続きに付すケースがあります。
この場合は、懲戒処分の手続きが完了するのを待って依願退職が承認されます。状況次第では、退職の申出から依願退職の成立まで長期間を要することもあり得ます。
依願退職のメリット・デメリット
依願退職には、メリットとデメリットの両面があります。
依願退職のメリット
企業側にとっての依願退職のメリットは、従業員とのトラブルが起こりづらい点です。退職を申し出ているのは従業員側なので、後日撤回や無効を主張してくる可能性は低いと思われます。
従業員側にとっての依願退職のメリットは、退職の時期をコントロールしやすい点です。自分のタイミングで申し出て、会社側が受け入れてくれれば、すぐに退職することができます。
依願退職のデメリット
企業側にとっては、依願退職自体のデメリットはほとんどありません。ただし、実際には解雇や退職勧奨であることを隠して、依願退職の体裁を装った場合には、従業員とのトラブルに発展するおそれがあるので注意が必要です。
従業員側にとっては、自己都合退職である依願退職をすると、会社都合退職の場合に比べて以下のようなデメリットが懸念されます。
・退職金が少なくなる
・賞与が減額される
・雇用保険の基本手当の受給条件が悪くなる
など
依願退職の場合、退職金はどうなる?
従業員が依願退職する場合、退職金の額は退職金規程等に従って決まりますが、会社都合退職の場合に比べると低く抑えられる傾向にあります。
退職金規程等に従って支給される
従業員に対して支給すべき退職金の額は、退職金規程等の社内規程に基づいて計算します。依願退職をする従業員に対しても、企業は退職金規程等に従って退職金を支給する必要があります。
なお、退職金の定めは必須ではありません。退職金規程等がなく、労働契約(雇用契約)でも退職金の支給が定められていない場合には、企業は従業員に対して退職金の支払義務を負いません。
依願退職の退職金は低く抑えられることが多い
一般的には、依願退職を含む自己都合退職時の退職金は、退職勧奨などによる会社都合退職に比べて低く抑えられる傾向があります。この傾向には、長期継続勤務を求めたい企業側の意向が反映されています。
ただし、依願退職(自己都合退職)だから当然に退職金を減額してよいというわけではありません。あくまでも退職金規程等の定めに従って、退職金の額を計算する必要があります。
依願退職の場合、賞与(ボーナス)はどうなる?
依願退職する従業員に対して支払う賞与(ボーナス)の額は、賞与規程等に従って決まります。退職の時期や、退職が決まった時期などによっては、賞与が不支給または減額となることがあります。
与規程等に従って支給される
従業員に対して支給すべき賞与の額は、賞与規程等の社内規程に基づいて計算します。依願退職が決まっている従業員についても、賞与規程等に従って支給の有無や金額が決まります。
なお、賞与の定めは必須ではありません。賞与規程等がなく、労働契約(雇用契約)でも賞与の支給が定められていない場合には、企業は従業員に対して賞与の支払義務を負いません。
支給日より前に退職すると、支払われないことが多い
賞与の支給については、「支給日において在籍していること」という要件が定められるのが一般的です。この場合、支給日より前に依願退職した従業員に対しては、企業は賞与を支払う義務を負いません。
退職が決まっている場合、賞与が減額されるケースもある
すでに依願退職が決まっている従業員に対して支給する賞与は、減額が認められる可能性があります。賞与には、将来にわたる勤続や貢献に対する期待を込める性質があるところ、退職が決まっている場合は性質が当てはまらないためです。
退職が決まっている従業員に対して支給する賞与の額は、賞与規程等の定めに従って計算します。減額の可否や幅についても、賞与規程等の定めに従います。企業側に広い裁量が認められているケースも多いでしょう。
ただし、賞与には将来の勤続・貢献への期待だけでなく、過去の貢献の対価や業績の還元などの側面もあります。そのため、退職が決まっていたとしても、賞与を全額不支給とするのは不適切である可能性が高いと思われます。
依願退職をした後、雇用保険の基本手当(失業手当)は受給できる?
依願退職をした従業員は、再就職するまで雇用保険の基本手当を受給することができます。ただし、会社都合退職をした人に比べると、雇用保険の基本手当の受給条件が悪くなるケースが多いです。
原則として、支給開始時期が遅くなる
「特定受給資格者」または「特定理由離職者」に当たらない場合は、雇用保険の基本手当の受給につき、原則として給付制限が適用されます。
- 特定受給資格者・特定理由離職者とは
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特定受給資格者:雇用主の倒産や事業の縮小・廃止、解雇などの理由によって離職した者
特定理由離職者:有期労働契約の不更新(=雇い止め)、その他のやむを得ない理由によって離職した者
給付制限が適用される場合、雇用保険の基本手当の支給開始日は、受給手続日からと7日と1カ月が経過した日の翌日となります。
ただし、退職日から遡って5年間のうちに、2回以上正当な理由なく自己都合退職をして受給資格決定を受けた場合は、受給手続日から7日と3カ月が経過した日の翌日が支給開始日となります。
なお、離職日前1年以内または離職日後に、自ら雇用の安定および就職の促進に資する教育訓練を受講した場合は、上記の給付制限が解除されます。
支給期間も短くなることが多い
特定受給資格者または特定理由離職者に当たる人と、そうでない人では、雇用保険の基本手当の給付日数が以下のとおり異なります。
| 被保険者期間1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | - |
| 30歳以上35歳未満 | 90日 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 |
| 35歳以上45歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 |
| 45歳以上60歳未満 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 |
| 60歳以上65歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
| 被保険者期間1年未満 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 全年齢 | 90日 | 90日 | 90日 | 120日 | 150日 |
依願退職をした従業員は多くの場合、特定受給資格者または特定理由離職者に当たりません。特定受給資格者または特定理由離職者である人に比べると、ほとんどのケースで雇用保険の基本手当の給付日数が短くなります。
依願退職をしても特定受給資格者・特定理由離職者に当たるケース
依願退職をした人でも、以下のいずれかに該当する場合には特定受給資格者または特定理由離職者に当たり、雇用保険の基本手当を有利な条件で受給できます。
- 依願退職でも特定受給資格者に当たるケース
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・労働条件が事前に聞いていた内容と著しく異なっていた場合
・賃金が連続2カ月以上、または離職の直前6カ月間において3カ月以上未払いとなっていた場合
・賃金が85%未満に低下し、または低下することとなった場合
・離職の直前6カ月間において極端な長時間労働が認められ、行政機関から危険または健康障害のおそれを指摘されたにもかかわらず、その防止措置が講じられなかった場合
・妊娠、出産、育児などに関する制度の利用を不当に制限され、またはその利用等を理由に不利益な取り扱いを受けた場合
・職種転換等に際して、事業主が職業生活の継続のために必要な配慮を行わなかった場合
・ハラスメントを受けていた場合
・事業所の業務が法令に違反していた場合など
- 依願退職でも特定理由離職者に当たるケース
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・体力の不足、心身の障害、疾病、負傷、視力の減退、聴力の減退、触覚の減退等を理由に離職した場合
・妊娠、出産、育児等により離職し、雇用保険法に基づく受給期間延長措置を受けた場合
・家庭の事情が急変した場合(父母の死亡、疾病、負傷、扶養、親族の看護など)
・配偶者または扶養すべき親族との別居生活を続けることが困難となった場合
・自己の意思に反する転勤などにより、通勤が不可能または困難となった場合など
依願退職をする際、有給休暇は消化できる?
依願退職をする場合でも、従業員は有給休暇を取得(消化)することができます。有給休暇の取得は従業員の権利であり、企業側が拒むことはできません。
従業員は、有給休暇をすべて取得した後の日付を退職日に指定できます。
企業側としては、退職日を後ろにずらすよう交渉することできます。その一方で、有給休暇を取得せず前倒しで退職するよう求めることは、退職強要や労働基準法違反の問題を生じ得るので避けるべきです。
依願退職の手続き
依願退職に当たっては、企業と従業員の間で退職合意書等の書面を締結するのが一般的です。
退職合意書等には、主に以下の事項を記載します。
・退職日
・退職の事由(依願退職、自己都合退職など)
・賃金の支払い(未払いの給与、賞与、退職金など)
・備品の返還
・守秘義務(退職合意書等の内容、退職に至った経緯など)
・清算条項(企業と従業員の間に、記載内容以外の債権債務関係が存在しない旨の確認)
・合意管轄
など
退職合意書等の締結が完了した後、記載された退職日が到来すると退職が成立します。その後は社会保険関係の手続きなどを行いましょう。
会社は依願退職を拒否できる?
使用者である会社は、依願退職の申出を拒否することもできます。
ただし、会社側が依願退職の申出を拒否しても、以下の場合には従業員は退職することができます(民法626条、627条)。
① 無期雇用の場合
退職の申入日から2週間が経過した場合
② 有期雇用の場合
(a)雇用の期間が5年を超え、またはその終期が不確定であるとき
いつでも
※退職日の2週間前までに予告をしなければならない
(b)やむを得ない事由があるとき
直ちに
(c)(a)(b)以外の場合
契約期間中の退職は不可
解雇を避けて依願退職扱いとする場合の注意点
企業側が退職してほしいと考えている従業員に対して、解雇によるトラブルを避ける目的で退職勧奨を行うケースはよく見られます。
退職勧奨をきっかけとする退職は、本来であれば会社都合退職として取り扱うべきですが、依願退職(自己都合退職)として取り扱う例もあるようです。
退職勧奨に当たっては、従業員に対して退職を強要してはなりません。退職強要は実質的な解雇に当たり、従業員とのトラブルのリスクが高まるためです。
また、退職勧奨による会社都合退職であるのに、依願退職扱いとして退職金を減額するなど、従業員にとって不利益となるような対応は避けるべきです。このような対応は、従業員とのトラブルのリスクを増大させてしまいます。
依願退職扱いとするのは、あくまでも従業員側から退職の申出があった場合に限るものとし、実態に即した取り扱いをすることをお勧めします。
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