欠缺とは?
読み方・使用例・民法の表現・
言い換え方・瑕疵との違い
などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「欠缺(けんけつ)」とは、ある要素が欠けていること(存在しないこと)を意味します。
法令の条文や法学に関する書物などにおいては、伝統的に「欠缺」の用語が用いられていました。具体的な使用例としては、「意思の欠缺」「意思能力の欠缺」「登記の欠缺」「訴訟条件の欠缺」「法の欠缺」などが挙げられます。
しかし「欠缺」は読み方が常用的でなく、意味も一見して分かりにくいため、最近では「不存在」などと言い換えられるのが一般的です。
この記事では「欠缺」について、読み方・使用例・言い換え方などを解説します。
※この記事は、2024年8月7日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
「欠缺(けんけつ)」とは
「欠缺(けんけつ)」とは、ある要素が欠けていること(存在しないこと)を意味します。
法令の条文や法学に関する書物などにおいては、伝統的に「欠缺」の用語が用いられていました。
しかし「欠缺」は読み方が常用的でなく、意味も一見して分かりにくいため、最近では「不存在」などと言い換えられるのが一般的です。
法務における「欠缺」の使用例と言い換え方
法令の条文や法学に関する書物などでは、以下のような形で「欠缺」が使用されることがあります。
① 意思の欠缺
② 意思能力の欠缺
③ 登記の欠缺
④ 訴訟条件の欠缺
⑤ 法の欠缺
意思の欠缺
「意思の欠缺(いしのけんけつ)」とは、意思表示に対応する内心の意思(=効果意思)が存在しないことをいいます。
現在では「意思の不存在」と言い換えられるのが一般的です。
意思の欠缺が認められるのは、「心裡留保」や「虚偽表示」に当たる場合です。
心裡留保による意思の欠缺
「心裡留保」とは、真意とは異なる内容の意思表示であって、本人がそれを自覚しているものをいいます。
例えば、本当は全く買うつもりがないのに、冗談で「その車を1000万円で買います」と言うことは心裡留保に当たります。
この場合、「車を1000万円で買う」という意思表示に対して、内心においては「車を1000万円で買う」という意思が存在しないので、「意思の欠缺」が生じている状態です。
心裡留保に当たる意思表示は原則として有効ですが、相手方が心裡留保であることを知ることができたときに限り、例外的に無効となります(民法93条1項)。
ただし、心裡留保による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗できません(同条2項)。
虚偽表示による意思の欠缺
「虚偽表示」とは、相手方と通謀して行った虚偽の意思表示をいいます。
例えば、本当は両当事者ともに売買をする意思がないのに、仮装の不動産売買契約を締結して、不動産の登記名義を売主から買主へ移転することは虚偽表示に当たります。
この場合、「不動産を売る(買う)」という意思表示に対して、内心においては「不動産を売る(買う)」という意思が存在しないので、売主・買主の双方において「意思の欠缺」が生じている状態です。
虚偽表示に当たる意思表示は無効です(民法94条1項)。
ただし、虚偽表示による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗できません(同条2項)。
意思能力の欠缺
「意思能力の欠缺」とは、法律行為をする者が意思能力を欠いている状態をいいます。
現在では「意思能力の不存在」と言い換えられるのが一般的です。
「意思能力」とは、法律上有効な意思表示をする能力をいいます。
意思能力を有するか否かは、自分自身の行為の結果を判断し得る精神能力があるか否かによって決まります。
具体的には、小学校低学年以下に相当する精神能力しかなければ、意思能力が否定されます。例えば、認知症が相当程度進行している人は、意思能力が否定されるケースが多いです。
法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は無効です(民法3条の2)。
登記の欠缺
「登記の欠缺」とは、行われるべき登記手続きが行われていないことをいいます。
現在では「登記の不存在」などと言い換えられることが多いです。
登記の欠缺は、主に不動産について問題となります。不動産に関する物件の取得・喪失・変更は、登記をしなければ第三者に対抗できないためです(民法177条)。
例えば、Aが所有していた不動産XをBに譲渡したものの、AからBへの所有権移転登記がなされていなかったとします。この場合、Bは本来有すべき所有権登記を有していないので、「登記の欠缺」が生じている状態です。
上記の状態で、AがCに対しても不動産Xを譲渡し、CがAから所有権移転登記を受けたとします。この場合、登記を得たCが不動産Xを取得する反面、Bは不動産Xを取得できなくなってしまいます。
なお、登記の欠缺を主張できるのは、そのことについて正当な利益を有する者に限られます。
対象不動産について権利を有しない者(=無権利者)はもちろん、背信的悪意者も登記の欠缺を主張することができません(最高裁昭和43年8月2日判決など)。
※背信的悪意者とは:登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情がある者
(例)不動産の買主が登記を経ていないことを利用して、買主に対して高値で売りつけて利益を得る目的でその不動産を買い抜けた者
訴訟条件の欠缺
「訴訟条件(訴訟要件)の欠缺」とは、訴訟を提起する際に満たすべき条件を満たしていないことをいいます。
現在では「訴訟条件の不充足」や「訴訟条件の不存在」などと言い換えられることが多いです。
例えば親告罪とされている犯罪については、被害者等によって刑事告訴がなされていなければ、検察官が被疑者を起訴することはできません。
刑事告訴がないにもかかわらず、親告罪について被疑者が起訴された場合には、訴訟条件の欠缺を理由に、判決によって公訴が棄却されます(刑事訴訟法338条4号)。
民事訴訟における訴訟条件としては、以下の例が挙げられます。これらの訴訟条件を満たしていない場合には、移送や請求の却下などが行われます。
- 民事訴訟の訴訟条件の例
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・日本の裁判所が裁判権を有すること
・訴訟が提起された裁判所が管轄権を有すること
・当事者が実在すること
・当事者が当事者能力を有すること
・当事者が訴訟能力を有するか、または法定代理人によって代理されていること
・訴訟代理人が代理権を有すること
・当事者が原告または被告たるにふさわしいこと(=当事者適格)
・訴状が被告に対して有効に送達されたこと
・二重起訴の禁止に抵触していないこと
・訴えの利益があること
・同一の事件について、既判力のある別の判決がすでに存在していないこと
など
なお、訴訟条件は裁判所の職権調査事項なので、当事者が主張していなくても、裁判所が独自に調査した上で訴訟条件の欠缺を認定することができます。
法の欠缺
「法の欠缺」とは、ある事柄について適用されるべき法が存在しないことをいいます。
現在では「法の不存在」と言い換えられるのが一般的です。
実際に起こり得るあらゆる事象について、法律によってルールを定めるのは不可能ですので、法の欠缺は常に生じます。
既存の法をそのまま適用できない事象が問題になった場合は、似たようなケースについて適用する法律を「類推適用」するなどして解決を図ることがあります。
欠缺と瑕疵の違い
意思表示については、「欠缺」と対比して「瑕疵」という表現が用いられることがあります。
「意思表示の瑕疵」とは、意思表示に対応する内心の意思(=効果意思)が一応存在するものの、効果意思の形成過程が不適切であることを意味します。
具体的には、錯誤・詐欺・強迫による意思表示は、瑕疵ある意思表示に当たります。
- 瑕疵ある意思表示
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錯誤:意思表示の基礎となる事実について、重要な勘違いがあること
詐欺:騙されたこと
強迫:暴行や脅迫を受けたこと
意思表示に対応する効果意思が存在しない「欠缺」とは異なり、「瑕疵」では意思表示に対応する効果意思が一応存在するという違いがあります。
瑕疵ある意思表示については、表意者による取り消しが認められています(民法95条・96条)。
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