降格とは?
違法となるケース・適法に行うための手続き・
注意点などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「降格」とは、労働者の役職や職位、職能資格を引き下げる処分です。人事権に基づく場合と、懲戒処分として行われる場合があります。降格に当たっては、賃金の減額(=減給)を伴うケースが多いです。
人事権に基づく降格処分は、人事権の逸脱・濫用に当たる場合には違法・無効となります。
懲戒処分としての降格処分については、就業規則上の懲戒事由に該当しない場合、または懲戒権の濫用に当たる場合は違法・無効です。
降格処分は、適正な手続きに則って行うことが大切です。本人に弁明の機会を与えた上で、降格処分の要件を満たしているかどうか慎重に検討しましょう。特に懲戒処分としての降格処分を行う際には、悪質性が高い場合を除き、軽い処分から段階的に行うことも検討すべきです。
この記事では降格について、基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年10月25日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
降格とは
「降格」とは、労働者の役職や職位、職能資格を引き下げる処分です。
例えば
- 執行役員の地位を剥奪する
- 部長の役職を課長に引き下げる
などの処分が降格に当たります。
降格と減給の関係性
降格に当たっては、賃金の減額(=減給)を伴うケースが多いです。
役職者に対しては、その責任に報いるために役職手当などが支給されるのが一般的です。降格によって役職手当などが不支給・減額となれば、その分毎月の賃金は減ることになります。
ただし、降格に伴って大幅に賃金を引き下げると、降格処分が違法・無効となる可能性が高まるので注意が必要です(詳細は「4|減給の有無・幅を決定する」にて解説します)。
降格処分の種類
降格処分には、以下の2種類があります。
①人事権に基づく降格処分
②懲戒処分としての降格処分
種類1|人事権に基づく降格処分
労働者にどのような業務を任せるかの判断は、会社の人事権(=採用・配置・人事異動・懲戒などといった、使用者がもつ権限)に属する事項です。
会社には、労働契約に基づき、広範な人事権が与えられており、労働者に任せる業務は原則、会社の裁量によって決められます。
昇格や降格も、広い意味では「労働者にどのような業務を任せるか」に関する事柄です。したがって、会社は人事権に基づき、労働者を降格させることができる場合があります。
種類2|懲戒処分としての降格処分
降格処分は、懲戒処分の一種として行われることもあります。
懲戒処分とは、労働者の就業規則違反に対する制裁として行われる処分です。
- 就業規則とは
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就業規則とは、賃金・労働時間などの労働条件に関することや職場内の規律などについて定めた規則集であり、社内規程の一種です。
就業規則上の懲戒事由に該当する場合に限り、労働者の行為の性質・態様などにふさわしい限度で、会社は懲戒処分を行うことができます。
降格は、懲戒解雇・諭旨解雇(諭旨退職)に次いで重い懲戒処分です。降格よりも軽い懲戒処分としては、出勤停止・減給・譴責(戒告)などが続きます。
【懲戒処分のレベル】
懲戒処分として降格を命じる際には、労働者の行為の性質・態様などに鑑み、降格が相当であるかどうかを慎重に検討しなければなりません。
降格処分が違法となるケース
降格処分は、以下のいずれかに当たるケースにおいては、違法となるので注意が必要です。
違法ケース1|人事権の範囲を逸脱する場合
違法ケース2|人事権の濫用に当たる場合
違法ケース3|懲戒事由に該当しない場合
違法ケース4|懲戒処分の種類として降格が明示されていない場合
違法ケース5|懲戒権の濫用に当たる場合
違法ケース1|人事権の範囲を逸脱する場合
人事権に基づく降格処分は、人事権の範囲内で行われなければなりません。人事権の範囲は、労働契約に基づいて決まります。
例えば転勤がないものとされている労働者に対して、転勤を伴う降格処分を行うことはできません。業務の範囲を技術職に限定している労働者に対して、営業職への配置転換を伴う降格処分を行うことはできません。
違法ケース2|人事権の濫用に当たる場合
降格処分が人事権の範囲内であるとしても、以下のような場合には、人事権の濫用として無効となる可能性があります。
①降格処分による労働者の不利益が著しく大きい場合
労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる降格処分は、人事権の濫用として無効となる可能性が高いです。
(例)
・重病の家族を1人で介護している労働者を、降格に伴い遠方へ転勤させる場合
・降格に伴い、賃金をあまりにも大幅に引き下げる場合
②降格処分が不当な目的・動機による場合
業務上の必要性がないにもかかわらず、不当な目的や動機によって行われる降格処分は、人事権の濫用として無効となる可能性が高いです。
(例)
・労働者を退職に追い込む目的で降格させ、全く仕事を与えなくなった場合
・上司が個人的に気に入らないというだけの理由で、降格させる労働者を選んだ場合
違法ケース3|懲戒事由に該当しない場合
懲戒処分としての降格を行うためには、労働者の行為が懲戒事由に該当することが必要です。
労働者の懲戒事由は、就業規則に定めておかなければなりません。
違法ケース4|懲戒処分の種類として降格が明示されていない場合
労働者に対して行う懲戒処分の種類は、就業規則において明示しなければなりません。
就業規則において降格処分があり得る旨が明示されていないにもかかわらず、懲戒処分として行われた降格処分は無効となります。
違法ケース5|懲戒権の濫用に当たる場合
労働者の行為の性質・態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない懲戒処分は、懲戒権の濫用として無効となります(労働契約法15条)。
降格処分についても、懲戒処分として行われた場合には、上記のルールに従い懲戒権の濫用に当たると判断されることがあります。
特に、
- 労働者の就業規則違反がそれほど重大でない場合
- 降格に伴う減給額があまりにも多額である場合
には、降格処分が懲戒権の濫用に当たる可能性が高くなるので注意が必要です。
降格処分を適法に行うための手続き
降格処分を行う際には、以下の手順に従って適切に進めましょう。
1|背景となる事実を確認する
2|本人に弁明の機会を与える
3|降格処分の要件を確認・検討する
4|減給の有無・幅を決定する
5|降格処分を通知する
1|背景となる事実を確認する
人事権に基づく降格処分も、懲戒処分としての降格処分も、いずれも客観的・合理的な事実に基づいて行わなければなりません。曖昧な理由で降格処分を行うと、人事権や懲戒権の逸脱・濫用として無効となってしまうおそれがあります。
そのため、まずは降格処分の背景となる事実を確認することが大切です。
人事権に基づく降格処分の場合には、降格処分を行う業務上の必要性があることを確認しなければなりません。具体的には、対象労働者が管理職として著しく不適格であることや、別の労働者を対象労働者のポストに据える必要性などの根拠となる事実を確認すべきでしょう。
懲戒処分としての降格処分の場合は、対象労働者による就業規則違反の有無と、違反がある場合はその内容を確認しなければなりません。
いずれの場合でも、記録が残っているメールなどの資料を精査するほか、周囲の同僚などからもヒアリングを行い、正確に事実を確認しましょう。
2|本人に弁明の機会を与える
降格処分を行うに当たっては、本人に弁明の機会を与えるべきです。事実関係のより正確な把握につながるほか、弁明の機会を与えることで、人事権や懲戒権の濫用であると判断されるリスクが低くなります。
本人から傾聴するに足る合理的な弁明がなされた場合には、関連する事実関係を深堀りして調査し、降格処分の是非を再検討しましょう。
3|降格処分の要件を確認・検討する
人事権に基づく降格処分・懲戒処分としての降格処分を行う際には、それぞれ以下の要件を満たさなければなりません。
①人事権に基づく降格処分
・労働契約に基づく人事権の範囲内であること(人事権の逸脱に当たらないこと)
・人事権の濫用に当たらないこと(労働者の不利益が著しく大きい場合や、不当な動機・目的による場合は人事権の濫用のリスク大)
②懲戒処分としての降格処分
・就業規則上の懲戒事由に該当すること
・就業規則において降格処分があり得る旨が明示されていること
・懲戒権の濫用に当たらないこと(違反がそれほど重大でない場合や、降格に伴う減給額があまりにも多額である場合は懲戒権の濫用のリスク大)
調査の結果として判明した事実関係に照らして、降格処分の要件が満たされているかどうかを慎重に検討しましょう。
4|減給の有無・幅を決定する
降格処分に伴って労働者の賃金を減額するかどうか、および減額する場合はその幅(金額)についても決める必要があります。
一般論として、減給が多額となればなるほど、降格処分が人事権または懲戒権の濫用に当たると判断されやすくなります。背景となる事実関係によるため一概にいえませんが、20~30%を超える減給を伴う降格処分を行う際には、それ相応の合理的根拠がなければ無効となるリスクが高いです。
降格処分の無効を防ぐため、減給の有無および幅については十分慎重に判断しましょう。
5|降格処分を通知する
降格処分を決定したら、その内容を対象労働者に対して通知します。降格処分の通知は、降格処分通知書を交付する方法で行うのが一般的です。
降格処分通知書の書き方
降格処分通知書の記載事項は、人事権に基づくものか、それとも懲戒処分かによって異なります。以下の記載例を参考にして、具体的な事実を反映した降格処分通知書を作成しましょう。
人事権に基づく場合の降格処分通知書の記載例 |
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○年○月○日 ×× ××殿 株式会社△△ 辞令 ○年○月○日付けで○○部長の任を解き、○○部○○課長に任ずる。 以上 |
懲戒処分である場合の降格処分通知書の記載例 |
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○年○月○日 ×× ××殿 株式会社△△ 懲戒処分通知書 貴殿に対し、以下の懲戒処分を行います。 1. 懲戒処分の種類 2. 懲戒処分の事由 以上 |
降格処分を行う際の注意点
労働者の降格処分を検討する際には、特に以下の2点に留意して、本当に降格処分を行うべきかどうか適切に判断しましょう。
注意点1|悪質な行為に限って降格処分を行うべき
注意点2|懲戒処分については、できる限り段階を踏むべき
注意点1|悪質な行為に限って降格処分を行うべき
降格処分は通常減給を伴うため、労働者にとっては不利益が大きい処分です。その分、人事権や懲戒権の濫用と評価されるリスクが大きいといえます。
降格処分が無効となるリスクを考慮すると、労働者が悪質な行為をした場合に限って降格処分を行うことが望ましいでしょう。例えば業務上の重大なミスを繰り返した場合や、重大な不祥事を意図的に見逃がした場合などが相当と思われます。
特に悪質な非違行為が見られず、人事異動として管理職ポストを交代する必要があるにとどまる場合は、退任する労働者には同格の別のポストを用意するなどして、降格処分とはならないように配慮することも検討しましょう。
注意点2|懲戒処分については、できる限り段階を踏むべき
懲戒処分としての降格は、懲戒解雇と諭旨解雇に次ぐ重い処分に当たります。
懲戒権の濫用による降格の無効を防ぐには、労働者の行為がきわめて悪質である場合を除き、軽い懲戒処分から段階的に行うのが賢明です。例えば、軽微な違反に対してはまず戒告・譴責などを行い、繰り返されるようであれば減給、出勤停止、降格と重い処分を段階的に課すことが考えられます。
懲戒権の濫用は、労使間のトラブルの主要な原因の一つです。懲戒処分としての降格処分を行う際には、法的妥当性について十分慎重に検討しましょう。
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