休職中の労働者に給与は支給不要?
手当金などの制度や注意点も
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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休職中の労働者に対しては、原則として給与(賃金)を支給する必要がありません(=ノーワーク・ノーペイの原則)。ただし、以下の場合には、例外的に給与を支給する必要があります。
① 労働者が年次有給休暇を取得した場合
② 休業手当の支払義務がある場合
③ 会社の制度に基づいて休職が有給とされている場合無給となる休職中の労働者には、利用できる給付金などの制度を案内しましょう。休職中の労働者が利用できる制度としては、年次有給休暇、出産育児一時金・出産手当金・育児休業給付金、企業の給与補償制度や所得補償保険、健康保険の傷病手当金、労災保険給付、障害年金、生活保護制度、生活福祉資金貸付制度などが挙げられます。
この記事では、休職中の労働者に給与を支払う必要があるのかどうか、休職中の労働者に案内すべき制度、および労働者の休職に関する企業の注意点などを解説します。
※この記事は、2023年11月8日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
休職中の労働者に給与を支払う義務はある?
休職中の労働者に対しては、原則として給与(賃金)を支給する必要がありません(=ノーワーク・ノーペイの原則)。ただし、以下の場合には、例外的に給与を支給する必要があります。
① 労働者が年次有給休暇を取得した場合
② 休業手当の支払義務がある場合
③ 会社の制度に基づいて休職が有給とされている場合
原則として支給不要|ノーワーク・ノーペイの原則
会社は労働者に対して、労働者が使用者の指揮命令下で働いた時間(=労働時間)につき、その時間に対応する給与(賃金)を支払わなければなりません(労働基準法24条)。
その反面、労働時間に当たらない時間については、原則として給与の支払いは不要です。これを「ノーワーク・ノーペイの原則」といいます。働いた時間については給与を支払い、働いていない時間については支払わないというのが、労働基準法の基本的な考え方です。
したがって、休職中の労働者に対しては、原則として給与を支払う必要がありません。
例外的に給与を支給すべきケース
ただし例外的に、以下のいずれかに該当する場合には、休職中の労働者に対して給与を支給する必要があります。
① 労働者が年次有給休暇を取得した場合
年次有給休暇は、労働基準法に基づく有給の休暇であるため、取得した労働者に対しては給与を支払う必要があります。
年次有給休暇に対応して支払うべき賃金額としては、平均賃金を用いる方法や、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を用いる方法などが認められています(労働基準法39条9項)。
② 休業手当の支払義務がある場合
会社の責に帰すべき事由によって休業する場合は、休業期間中の平均賃金の6割以上に当たる休業手当を労働者に支払わなければなりません(同法26条)。
③ 会社の制度に基づいて休職が有給とされている場合
会社において定められた有給の休職制度に基づいて労働者が休職した場合には、その制度に従って給与を支給する必要があります。
休職中の労働者が利用できる制度
休職中の労働者は、休職期間中の生活資金等を確保するため、以下の制度を利用できる場合があります。特に公的な支援制度については、会社から休職する労働者に対して積極的に案内することが望ましいでしょう。
- 休職中に利用できる制度の例
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① 年次有給休暇
② 出産育児一時金・出産手当金・育児休業給付金
③ 企業の給与補償制度・所得補償保険
④ 健康保険の傷病手当金
⑤ 労災保険給付
⑥ 障害年金
⑦ 生活保護制度
⑧ 生活福祉資金貸付制度
年次有給休暇
年次有給休暇は、労働基準法に基づいて有給とされています。雇入れから6カ月が経過した時点と、その後1年ごとに年次有給休暇が付与されます。
年次有給休暇の対象となるのは、基準期間※における全労働日の8割以上出勤した労働者です(労働基準法39条1項・2項)。
基準期間:雇入れから6カ月が経過した時点で付与される年次有給休暇については、雇入れから6カ月間。その後は、付与日の直前1年間。
年次有給休暇の付与日数は、1年間当たり1日から20日までの間で、所定労働日数・所定労働時間・継続勤務期間によって決まります(同条2項・3項)。
使用者は労働者に対し、原則として労働者が請求する時季に有給休暇を与えなければなりません。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季に与えることができます(時季変更権。同条5項)。
出産育児一時金・出産手当金・育児休業給付金
出産または育児を理由に休職(休業)する労働者は、以下の給付金等を受けることができます。
① 出産育児一時金
健康保険の加入者が出産したとき、原則として1児につき50万円が支給されます。
参考:
全国健康保険協会ウェブサイト「子どもが生まれたとき」
② 出産手当金
産前・産後休業の期間中、1日につき原則として賃金の3分の2相当額が支給されます。
参考:
全国健康保険協会ウェブサイト「出産手当金について」
③ 育児休業給付金
1歳未満の子を養育するために育児休業を取得したなど、一定の要件を満たす場合に支給されます。支給額は休業開始前の賃金を基準として、育児休業の開始から6カ月が経過するまでは67%、6カ月経過後は50%です。
参考:
厚生労働省ウェブサイト「育児休業給付について」
企業の給与補償制度・所得補償保険
会社によっては、休職中の労働者の給与を補償する制度(=給与補償制度)を設けているケースや、障害によって働けなくなった労働者の所得を補償する保険(=団体長期障害所得補償保険)に加入しているケースがあります。
会社として給与補償制度や団体長期障害所得補償保険を用意している場合は、休職する労働者に利用を促しましょう。
健康保険の傷病手当金
業務外の事由によって病気に罹り、またはケガをして療養の必要が生じた労働者は、健康保険から傷病手当金を受給できます。
傷病手当金の支給対象期間は、休業4日目以降、支給を開始した日から通算して1年6カ月間です。支給される傷病手当金の額は、以下の式によって計算します。
1日当たりの傷病手当金の額=支給開始日前12カ月間の標準報酬月額の平均額÷30日×2/3
労災保険給付
業務上の事由により、または通勤中に病気に罹り、またはケガをして休職する労働者は、労働基準監督署への請求等によって労災保険給付を受給できます。
労災によって休職する労働者が受給できる労災保険給付の種類は、以下のとおりです。
① 療養(補償)給付
→療養の給付または療養の費用の支給を受けられます。
(a) 療養の給付
労災病院または労災保険指定医療機関で、病気やケガの治療を無償で受けられます。
(b) 療養の費用の支給
労災病院または労災保険指定医療機関以外の医療機関における治療費は、いったん全額が自己負担となりますが(健康保険の適用は不可)、後日労働基準監督署に請求すれば全額の償還を受けられます。
② 休業(補償)給付
→病気やケガの治療のために仕事を休んだ場合は、休業4日目以降の収入の80%が補償されます。
③ 傷病(補償)給付
→傷病等級3級以上に当たる病気やケガが1年6カ月以上治らない場合に、労働基準監督署の職権により、休業(補償)給付から切り替えられる形で支給されます。
④ 障害(補償)給付
→労災による病気やケガが完治せず、後遺症が残った場合に、労働基準監督署によって認定される障害等級に応じて支給されます。
参考:
厚生労働省ウェブサイト「障害等級表」
⑤ 介護(補償)給付
労災によって傷病等級1級に当たる障害が残った場合、または傷病等級2級に当たる精神神経もしくは胸腹部臓器の障害が残って要介護状態となった場合に、介護費用として支給されます。
障害年金
病気やケガによって生活や仕事が制限されるようになった労働者は、障害年金を受給できます。障害年金には、障害基礎年金と障害厚生年金・障害手当金の2種類があります。
① 障害基礎年金
国民年金加入者、20歳未満または60歳以上65歳未満である方が、障害等級1級または2級に該当する障害の状態にあるときに受給できます。
② 障害厚生年金・障害手当金
厚生年金加入者である方が、障害等級1級・2級・3級に該当する障害の状態にあるときは障害厚生年金を受給できます。
また、初診日から5年以内に病気やケガが治り、障害等級3級相当に及ばない軽い障害が残ったときは障害手当金(一時金)が支給されます。
障害等級 | 障害の程度 |
---|---|
1級 | 他人の介助を受けなければ日常生活のことがほとんどできない |
2級 | 必ずしも他人の助けを借りる必要はなくても、日常生活は極めて困難で、労働によって収入を得ることができない |
3級 | 労働が著しい制限を受ける、または労働に著しい制限を加えることを必要とする |
生活保護制度
休職によって収入などの経済条件が一定水準以下となる労働者は、生活保護を受給できます。
生活保護を受給するためには、世帯収入が生活扶助基準額を下回っていることが要件となります。また、生活保護を受給する前に、利用できる資産・能力・親族の援助などをすべて利用しなければなりません。
生活福祉資金貸付制度
低所得者世帯・障害者世帯・高齢者世帯(65歳以上の高齢者がいる世帯)のいずれかに当たる場合は、国の生活福祉資金貸付制度を利用できる場合があります。
生活福祉資金貸付制度を利用すれば、単身者は月15万円まで、2人以上の世帯であれば月20万円まで無利子で生活資金等を借り入れることができます。休職に伴い給与が途絶える場合に、当面の生活資金を確保したいときは、生活福祉資金貸付制度の利用が有力な選択肢です。
労働者の休職に関する企業の注意点
労働者が休職する場合において、企業は以下の各点について留意し、適切な検討と対策を行いましょう。
- 休職の注意点
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① 休職中も社会保険料の支払いは必要
② 休職中の状況を労働者に報告させる
③ 休職期間は賞与(ボーナス)へどのように反映すべきか?
休職中も社会保険料の支払いは必要
休職中の労働者についても、原則として社会保険料は従前どおり支払う必要があります。社会保険料の金額は、過去の一定時期における所得額を基準として、既に決まっているからです。
通常時には社会保険料を給与から天引きできますが、休職によって給与の支払いがなくなる場合は、労働者に自己負担分の社会保険料を支払わせる必要があります。毎月労働者に請求書を送付する、復帰後の給与と相殺するなど、社会保険料の精算方法を取り決めておきましょう。
なお、労働者が産前・産後休業または育児休業を取得した場合には、申請によって休業期間中の社会保険料が免除されます。
休職中の状況を労働者に報告させる
休職中の労働者に対しては、会社が復職までの道のりをサポートすることが望ましいです。
その前提として、労働者に休職中の状況を定期的に報告させましょう。報告によって健康状態を把握した上で、復職に向けた労働者のモチベーションを維持するためのメンタルケアなどを行えば、早期復職の可能性が高まります。
また、報告によって労働者の状態を正しく把握していれば、復職後の人員配置についても検討しやすくなります。どの程度の業務に耐えられそうかなどを踏まえた上で、復職した労働者について適材適所の配置を検討しましょう。
休職期間は賞与(ボーナス)へどのように反映すべきか?
会社が労働者に対して賞与(ボーナス)を支給している場合は、休職中の労働者についても会社が定める基準に従って賞与額を計算します。
一般的には、休職していた労働者は会社への貢献度が低いため、賞与額を低く抑えられることが多いです。賞与については会社の広い裁量が認められているため、このような取り扱いについても特段問題ないと考えられます。
その一方で、休職期間があったにもかかわらず相当額の賞与を支給すれば、労働者のモチベーションの向上につながる可能性があります。コストと効果の両面を考慮して、適切な賞与額はどの程度かを検討しましょう。
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