ロックアップとは?
目的・種類・手続き・適用されないケース・
違反した場合のリスクなどを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「ロックアップ」とは、会社が上場する際に、上場前から株主である者が、上場後一定期間は市場で保有する株式を売却できないようにするルールです。
証券取引所の上場規則では、株式の大量売却による市場の混乱を防ぐことや、経営陣のコミットメントを確保することなどを目的として、一部の株式等についてロックアップを義務付けています(=制度ロックアップ)。
また、ロックアップの効果を高めるため、制度ロックアップの対象外である株式等についても、株主と主幹事証券会社の合意によってロックアップを行うことがあります(=任意ロックアップ)。制度ロックアップを行う際には、上場申請時までに、申請会社が証券取引所に確約書などを提出します。
任意ロックアップを行う際には、対象株主・発行会社・主幹事証券会社の間で、ロックアップの条件を定めた契約を締結します。また、任意ロックアップに関する事項は、目論見書に記載して開示しなければなりません。制度ロックアップに違反した場合は、上場承認申請が受理されず、または上場承認が取り消されるおそれがあります。
また、任意ロックアップに違反した場合は、発行会社から補償を求められることがあります。この記事ではロックアップについて、目的・種類・手続き・適用されないケース・違反した場合のリスクなどを解説します。
※この記事は、2025年1月14日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
ロックアップとは
「ロックアップ」とは、会社が上場する際に、上場前から株主である者が、上場後一定期間は市場で保有する株式を売却できないようにするルールです。
例えば創業経営者は、会社の発行済株式のうち多くの割合を保有していることが多いです。会社が上場した直後に、創業経営者が大量に保有株式を売却すると、市場の混乱などの悪影響を招いてしまいます。
そのため、創業経営者をはじめとする既存株主に対しては、ロックアップによって上場後一定期間は保有株式を売却しないことが義務付けられます。
ロックアップを行う目的
上場する株式についてロックアップを行うことの目的は、主に以下の2点です。
① 株式の大量売却による市場の混乱を防ぐ
② 経営陣のコミットメントを市場に対して示す
株式の大量売却による市場の混乱を防ぐ
創業経営者など株式保有割合の高い株主が、上場直後に保有株式を大量に売却すると、株価が暴落するなど市場に混乱が生じてしまいます。
このような事態を防ぐため、上場直後の段階で株式が大量に売られることがないように、創業経営者などの保有株式はロックアップされます。
経営陣のコミットメントを市場に対して示す
上場した株式の株価を安定させるためには、発行会社の安定的な成長が期待できるということを、市場参加者に印象付けることが大切です。
そのためには、これまで発行会社を支えてきた経営陣が、上場後も会社にコミットし続けることを示すのが効果的です。
経営陣が保有する株式をロックアップすれば、会社の成長と経営陣の利益が引き続き直結するため、経営陣のコミットメントを市場に対して示すことができます。
ロックアップの種類|制度ロックアップと任意ロックアップ
ロックアップには、「制度ロックアップ」と「任意ロックアップ」の2種類があります。
制度ロックアップとは
「制度ロックアップ」とは、上場する証券取引所の規則に基づいて行われるロックアップです。
例えば東京証券取引所の有価証券上場規程施行規則では、以下の制度ロックアップが定められています(同規則268条など)。
- 東京証券取引所の制度ロックアップ
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<対象者>
・基準事業年度(=上場申請時に開示する直近の財務諸表等の事業年度)の末日から遡って1年以内に、第三者割当等によって募集株式または募集新株予約権の割当てを受けた者
・基準事業年度の末日から遡って1年以内に、ストックオプションを行使して株式または新株予約権の割当てを受けた者<制度ロックアップの期間>
上場日以後6カ月間
※払込期日または払込期間の最終日以後1年間を経過していない場合は、その1年間が経過するまで制度ロックアップが適用されます。
任意ロックアップとは
「任意ロックアップ」とは、上場する会社の株主の主幹事証券会社に対する確約、または両者間の合意に基づいて行われるロックアップです。
市場の混乱等を防ぐ観点から、制度ロックアップだけでは不十分と思われる場合に、さらに範囲を拡大した任意ロックアップが行われることがあります。
任意ロックアップの対象となるのは、主に大株主・役員・重要な使用人などです。
任意ロックアップの期間はケースバイケースですが、上場日以後90日間または180日間とする例がよく見られます。
ロックアップを行う際の手続き
新規株式上場に当たっては、ロックアップに関して以下の手続きを行います。
① 申請会社が証券取引所に確約書などを提出する
② 対象株主・申請会社・主幹事証券会社の間で契約を締結する
③ 目論見書において、ロックアップに関する事項を開示する
申請会社が証券取引所に確約書などを提出する
制度ロックアップに関しては、証券取引所の規則に基づき、上場申請を行う会社が証券取引所に対して確約書などを提出します。
例えば東京証券取引所に上場する場合は、原則として以下の2つの書類を提出する必要があります。
- 継続所有等に関する確約を証する書類
- 継続所有等に関する確約対象となる第三者割当等の割当対象者の氏名等の一覧
確約書のフォーマットには、対象株主との間で、ロックアップに関する確約(契約)を締結している旨の証明などが記載されています。したがって、証券取引所へ確約書などを提出する前に、対象株主からロックアップに関する確約を得ておかなければなりません。
対象株主・発行会社・主幹事証券会社の間で契約を締結する
任意ロックアップに関しては、対象株主・上場申請を行う会社・主幹事証券会社の三者間で契約を締結して定めるのが一般的です。
具体的には、以下の事項などを明記した契約を締結します。ロックアップ契約書のフォーマットは、主幹事証券会社が準備するのが一般的です。
・ロックアップの期間
・ロックアップが適用されなくなる場合の条件
・ロックアップに違反した場合のペナルティ
など
目論見書において、ロックアップに関する事項を開示する
任意ロックアップに関する事項は、株式上場前に開示する目論見書に明記する必要があります。目論見書は、EDINETを通じて5年間公衆縦覧に供されます。
参考:EDINET |
ロックアップ解除とは
ロックアップはずっと続くわけではなく、予定された期間が経過した場合や、一定の条件を満たした場合には解除されます。
ロックアップ解除の株価への影響
ロックアップが解除されると、経営陣や大株主、ベンチャーキャピタルなどの大量保有者が株式を売却できるようになり、株価の下落につながります。
ただし、ロックアップが解除された経営陣が実際に株式を売却するかどうかや、売却が株式の需給に対してどの程度の影響を及ぼすのかは、ケースバイケースなので一概に言えません。
ロックアップが解除されるケース
ロックアップは原則として、ロックアップ期間が経過することによって解除されます。
ただし、期間内であってもロックアップが適用されなくなるケースもあります。どのような場合にロックアップが適用されなくなるのかについては、次の項目で解説します。
期間内でもロックアップが適用されないケース
あらかじめ定められた期間内であっても、ロックアップが適用されないケースもあります。
制度ロックアップと任意ロックアップのそれぞれについて、ロックアップが適用されないケースを解説します。
制度ロックアップが適用されないケース
期間内でも制度ロックアップが適用されないケースとしては、主に以下の2点が挙げられます。
① 対象者が著しい経営不振に陥った場合
② 社会通念上やむを得ないと認められる場合
対象者が著しい経営不振に陥った場合
東京証券取引所の有価証券上場規程施行規則では、対象者が著しい経営不振に陥ったことにより対象株式等を譲渡する場合については、ロックアップの例外を認める旨を定めています(同規則269条1項1号など)。
このような場合にまでロックアップを適用することは、対象者を事業継続不能に追い込むおそれがあり、対象者にとって酷であると思われるためです。
社会通念上やむを得ないと認められる場合
東京証券取引所の有価証券上場規程施行規則では、社会通念上やむを得ないと認められる場合には、ロックアップの例外とする旨を定めています(同規則269条1項2号など)。
社会通念上やむを得ないと認められる場合としては、主幹事証券会社が対象者に対して、ロックアップが適用されず株式等を売却できるという誤った説明を行い、対象者がその説明を過失なく信じた場合などが挙げられます。
任意ロックアップが適用されないケース
期間内でも任意ロックアップが適用されないケースとしては、主に以下の2点が挙げられます。
① 株価が一定額に達した場合
② 任意ロックアップを合意解除した場合
株価が一定額に達した場合
任意ロックアップに関する契約では、株価が一定額に達した場合には、ロックアップを適用しない旨の規定を定めるケースがあります。
株価が十分に上昇していれば、ロックアップ解除による株価下落の影響は限定的と考えられるからです。
任意ロックアップを合意解除した場合
任意ロックアップに関する契約は、当事者である対象者・発行会社・主幹事証券会社の合意に基づいて解除することができます。契約が合意解除されれば、任意ロックアップは適用されなくなります。
ただし、任意ロックアップは目論見書における開示事項とされていますので、合意解除に当たっては、株主に対して説明責任を果たすことが求められます。
少なくとも、ロックアップの解除による株価下落への影響が限定的であることや、解除対象者が株価の上昇に十分貢献したことなどを、合理的な根拠に基づいて説明する必要があるでしょう。
ロックアップに違反した場合のリスク
上場申請中、またはすでに上場した会社の株主等がロックアップに違反した場合、会社と違反者はそれぞれ以下のリスクを負うことになります。
- 上場申請が受理されない、または上場承認が取り消される
- 違反者が会社から補償を求められる
上場申請が受理されない、または上場承認が取り消される
対象株主等がロックアップに違反した場合、発行会社が上場している証券取引所の規則違反に該当します。
東京証券取引所の有価証券上場規程施行規則では、対象者がロックアップの確約に基づいて現に株式等を保有していない場合は、原則として新規上場申請の不受理または受理の取り消しの措置をとるものと定めています(269条1項)。
上場申請が受理されず、またはすでに承認された上場が取り消されてしまっては、株主をはじめとするステークホルダーには甚大な悪影響が及んでしまいます。
違反者が会社から補償を求められる
ロックアップに違反した者は、発行会社に対して提出した確約書や、発行会社および主幹事証券会社との間で締結した契約書などの規定に基づき、発行会社に対して債務不履行に基づく損害賠償責任を負います。
ロックアップ違反が大々的に報道されると、レピュテーションの毀損も含めて、発行会社には甚大な損害が生じます。そのため、ロックアップ違反によって得た利益に限らず、発行会社に生じた多額の損害まで求められることになるかもしれません。
上場株式のロックアップ違反は、市場に対して大きな影響を及ぼす背信行為です。ロックアップのルールを正しく理解した上で、利益に目がくらんで違反を犯してしまわないように十分ご注意ください。
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