内々定とは?
内定との違い・内々定後の手続き・
取り消しの可否や注意点などを
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この記事のまとめ

内々定」とは、企業が採用候補者に対して、内定前の段階採用の意思通知することをいいます。

内定を出してよい日程については、(従うことが義務ではないものの)政府の要請により制限があります。しかし、企業は、なるべく早い段階で採用選考を進めて優秀な人材を確保したいため、内々定を出すことで、人材の確保を図っています。

内定の場合はその時点で労働契約が成立しますが、内々定の場合はまだ労働契約が成立しません。そのため、内々定における取り消しの要件辞退の手続きは、内定のときのルールよりも緩やかになっています。

法的には、企業は原則として内々定を取り消すことが可能です。ただし、不合理な理由で内定を取り消すと、そのことが悪い評判として広まり、今後の採用活動に悪影響を与えるおそれがあります。

また、内々定が実質的に内定であると評価される場合は、内定取り消しに準じた厳格な要件が適用される点にも注意が必要です。

この記事では内々定について、基本から分かりやすく解説します。

ヒー

僕が就活をしていたころ、「内々定は無い内定だから、油断するな」なんて友達と言っていました。

ムートン

たしかに、内々定は内定(=労働契約の成立)ではないので、その言葉は正しいかもしれません。

※この記事は、2024年1月23日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

内々定とは

内々定」とは、企業が採用候補者に対して、内定前の段階採用の意思通知することをいいます。

ムートン

すなわち、将来的に内定することが決まっている状態です。

企業が内々定を出す目的

企業が内々定を出す目的は、次の2つを両立させることにあります。

  • 就活に関する政府の要請に従うこと
  • 早期に優秀な人材を確保すること

政府は学業を尊重すべきことなどを理由に、各企業に対して、正式な内定は一定の期日以降に出すように要請を行っています。

ムートン

参考として、2024年度卒業生のスケジュールを掲載しますね。

内閣官房ウェブサイト「就職・採用活動に関する要請」

特に国内企業は、世間の批判の回避やロビイングの円滑化などを意図して、政府の要請に従うケースが多いです。

しかし、他社に先駆けて優秀な人材を確保したいと考える企業もたくさんあります。このような企業は、正式な内定を出す前の段階で「内々定」を出し、候補者を囲い込むケースがよく見られます。

内々定は抜け駆け的でずるいように思われますが、政府の要請に法的拘束力はないため、違法というわけではありません。ただし、内定や内々定に関して業界の自主規制が行われている場合は、その内容に従うことが望ましいでしょう。

内々定と内定の違い

内々定は、正式な内定の前の段階で出されます。すなわち内々定の段階では、まだ内定には至っていません。

内々定と内定には、主に以下の違いがあります。

違い1|労働契約の成否→内々定では未成立、内定では成立

違い2|取り消しの要件→内々定取り消しは原則可能、内定取り消しには厳格な要件あり

違い3|辞退の手続き→内々定辞退はいつでも可能、内定辞退は2週間前通知

違い1|労働契約の成否

内々定の場合、まだ企業と内々定者の間に労働契約は成立していません。これに対して、内定の場合はその時点で労働契約が成立します。

内定の法的性質は、「始期付解約権留保付労働契約」であると解されています(最高裁昭和54年7月20日判決)。

「労働契約」とあるとおり、内定の時点で労働契約が成立するのがポイントです。なお、「始期付」とは、契約成立日とは別に契約開始の時期が定められていること、「解約権留保付」とは企業側が内定を取り消す権限を留保していることをそれぞれ意味します。

これに対して内々定は、企業が採用の意思を通知したに過ぎず、採用候補者も、正式に入社を承諾している状態ではありません。

したがって内々定の段階では、まだ企業と内々定者の間に労働契約は成立しないことになります。

違い2|取り消しの要件

労働契約の成否の違いに関連して、内々定と内定では取り消しの要件が異なっています。

内々定の場合、まだ労働契約は成立していないので、企業は内々定を取り消すことができるのが原則です。

これに対して内定取り消しは、すでに成立した労働契約の解除に当たるため、厳格な要件が設けられています。

具体的には、以下の要件をいずれも満たさなければ、企業による内定取り消しは認められません(最高裁昭和54年7月20日判決)。

①内定取り消しの理由が、使用者にとって、採用内定当時において知ることができず、また知ることが期待できないような事実であること
②採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができること

違い3|辞退の手続き

採用候補者(内定者)側からの辞退の手続きも、内々定と内定では異なります。

内々定の場合、採用候補者は、まだ企業に対して正式な承諾の意思表示をしていません。したがって、内々定を辞退することは採用通知に対する不承諾に過ぎず、いつでも内々定を辞退できます

これに対して、内定辞退はすでに成立した労働契約の解除に当たるため、民法上の雇用の規定に従った手続きが必要になります

民法上の雇用の規定

無期雇用(正社員など)の場合
2週間前の通知によって内定辞退が可能です(民法627条1項)。

有期雇用(契約社員など)の場合
労働者による雇用契約の解除にはやむを得ない事由が必要とされています(民法628条)。しかし、内定者については入社前であることを考慮すると、緩やかに内定辞退が認められる可能性が高いと考えられます。

内々定から内定・入社に至るまでの手続き

採用候補者に対して内々定を通知した後、内定・入社に至るまでの手続きの流れは、大まかに以下のとおりです。

①内定通知書の交付・内定承諾書の提出
内々定時に取り決めた時期になったら、採用候補者に対して内定通知書を交付します。採用候補者は企業に対して、内定承諾書を提出します。

②内定式・説明会など
内定者同士の交流や、入社後の心構え・注意点のインプットなどを目的として、内定式や内定者向け説明会を開催する企業があります。ただし、これらの開催は必須ではありません。

③労働条件通知書の交付(+雇用契約書の締結)
企業は内定者に対して、労働条件を記載した書面(労働条件通知書)を交付しなければなりません。
なお、内定者との間で、雇用契約書を締結するケースもよく見られますが、法律上は、雇用契約書の締結は必須ではありません。しかし、雇用契約の締結を明確化する観点から、雇用契約書を締結する企業も多いようです。

④内定者による情報の提出
内定者に依頼して、入社時までに以下の情報を会社に提出させます。
・雇用保険被保険者証番号
・基礎年金番号
・給与振込先の口座情報
・前職の源泉徴収票
・マイナンバー
など

⑤入社
内定時に取り決めた入社日に、実際に内定者が入社します。

内々定通知書の記載例・記載事項

企業が採用候補者の内々定を決定した場合、企業は採用候補者に対して「内々定通知書」を交付するのが一般的です。

内々定通知書の記載例

〇年〇月〇日

〇〇〇〇様

株式会社〇〇〇〇
代表取締役〇〇〇〇

内定通知書

拝啓 
時下ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。

選考の結果、貴殿の採用を決定しましたので、内々定の旨をご通知いたします。
つきましては、同封の内々定承諾書をご返送ください。□年□月□日までに内定承諾書のご返送がない場合には、貴殿が内々定を辞退したものとみなします。

なお、健康状態その他の事由により、内定前に入社が不適切であると当社が合理的に判断した場合には、内々定を取り消すことがございますので、ご了承くださいますようお願い申し上げます。

敬具

1. 内定予定日:×年×月×日

2. 入社予定日:△年△月△日

3. お問い合わせ先:○○

内々定通知書の主な記載事項は、以下のとおりです。なお、具体的な雇用条件は内定時に取り決めることになります。

①内々定の旨
内々定した旨を明確に記載します。

②内々定承諾書の返送依頼
内々定承諾書を別途添付し、返送を依頼します。返送期限も明記しておきましょう。なお内定とは異なり、内々定の承諾は正式な雇用契約の申込みに対する承諾とは異なります。

③内々定取り消しがあり得る旨
内々定取り消しがあり得る旨を確認的に記載します。記載がなくても、内々定取り消しが直ちに認められなくなるわけではありませんが、不適切な行動をしないように注意喚起する意味があります。

④内定予定日
内々定が内定に切り替わり、労働契約が成立する予定の日を記載します。

⑤入社予定日
内定者が実際に入社する予定の日を記載します。

⑥問い合わせ先
内々定者が会社に連絡を取りたい場合の問い合わせ先を記載します。

企業が内々定を取り消すケースの例

企業が内々定を取り消すケースとしては、主に以下の例が挙げられます。

①経営状況の悪化
②採用を予定していた部署の消滅
③内々定者の素行不良・経歴詐称・留年・退学・音信不通等

経営状況の悪化

会社の経営状況悪化した場合に、労働者の採用計画変更するケースはよくあります。

既存の労働者の解雇や内定取り消しは、法令によって厳しく制限されているので、簡単に行うことはできません。

これに対して内々定の取り消しは、解雇や内定取り消しに比べれば緩やかに認められるので、人件費圧縮の目的による内々定の取り消しがしばしば行われがちです。

採用を予定していた部署の消滅

特に外資系企業などでは、労働者の採用を予定していた部署が丸ごと消滅するケースもあります。

この場合、採用予定だった内々定者をそのまま採用すると、労働力の余剰が発生してしまうため、内々定の取り消しが行われることがあります。

内々定者の素行不良・経歴詐称・留年・退学・音信不通等

内々定者に不適切な行為が認められた場合にも、内々定の取り消しが行われることがあります。具体的な理由として挙げられるのは、素行不良・経歴詐称・留年・退学・音信不通などです。

なおこれらの事由は、内定後においても内定取り消しの合理的な理由になり得ます。

内々定を取り消す企業が注意すべきポイント

企業による内々定の取り消しは原則適法です。しかし、

  • 合理的な理由なく内々定を取り消す
  • 実質的に内定である内々定を取り消す

場合などはトラブルになるリスクがあるので要注意です。

内々定の取り消しに当たり、企業は以下の各点に注意しなければなりません。

①不当な内々定取り消しは、損害賠償・レピュテーション低下のリスクがある
②実質的に内定である場合は、厳格な要件が適用される

不当な内々定取り消しは、損害賠償・レピュテーション低下のリスクがある

採用内定が確実であると採用候補者が期待すべき状態において、合理的な理由なく企業が内定通知を発しない場合は、期待権侵害として不法行為に基づく損害賠償責任を負うことがあります(東京地裁平成15年6月20日判決など)。

また、内々定を簡単に取り消すような企業は、その評判がインターネット上の口コミサイトなどを通じて広まってしまう可能性が高いです。そうなると、将来的に採用候補者から敬遠されることになってしまうでしょう。

このように、不当な理由によって内々定を取り消すと、損害賠償レピュテーション低下のリスクを負うことに注意が必要です。

ムートン

採用候補者に対して内々定を出す際には、後に内々定を取り消す必要が生じないように、候補者の能力や適性を十分に審査しましょう。

実質的に内定である場合は、厳格な要件が適用される

企業側が「内々定」という言葉を使っていても、具体的な雇用条件について詳細に合意しているなど、実質的に「内定」であると評価すべきケースもあります

ムートン

この場合、「内々定」を取り消す場合であっても、内定取り消しに準じた厳格な要件が適用されることがあり得るので注意が必要です。

参考文献

内閣官房ウェブサイト「就職・採用活動に関する要請」

ムートン

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