有価証券報告書とは?
提出義務がある会社・決算短信との違い・
様式・記載事項などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「有価証券報告書」とは、1年に1度、企業情報を投資家向けに開示するための文書です。主に上場会社などが有価証券報告書の提出を義務付けられています。
有価証券報告書は、開示府令所定の様式を用いて作成します。内国法人については、多くの場合「第三号様式」を用います。また、有価証券報告書には開示府令所定の書類(定款、事業報告書、貸借対照表、損益計算書など)を添付しなければなりません。
提出した有価証券報告書は、EDINETに5年間掲載されます。
有価証券報告書に虚偽の記載をすると、有価証券報告書の効力停止、損害賠償、課徴金納付命令および刑事罰の対象となります。有価証券報告書には、企業情報を正確に記載することが大切です。
この記事では有価証券報告書について、提出すべき会社・提出方法・様式・記載事項などを解説します。
※この記事は、2025年2月12日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 法…金融商品取引法
- 開示府令…企業内容等の開示に関する内閣府令
目次
有価証券報告書とは
「有価証券報告書」とは、1年に1度、企業情報を投資家向けに開示するための文書です。主に上場会社などが有価証券報告書の提出を義務付けられています。
有価証券報告書の目的
有価証券報告書の目的は、投資家に対して投資判断に役立つ情報を提供することです。
投資家は、上場会社に関するさまざまな情報を参考にして投資判断を行っています。そのため上場会社は、自社の状態を正しくタイムリーに公表することが求められています。
上場会社に関する情報を詳しく明らかにして、投資家が適切に投資判断をできるようにすることが、有価証券報告書の重要な役割です。
有価証券報告書と決算短信の違い
有価証券報告書のほかにも、上場会社はさまざまな開示を行うことが求められています。
一例として、証券取引所の規則によって「決算短信」の公表が義務付けられています。決算短信は、決算の内容の要点をまとめた文書で、原則として決算日から45日以内(30日以内が望ましい)の開示が義務付けられています。通期決算短信は1年ごと、四半期決算短信は四半期ごとに開示されます。
これに対して有価証券報告書は、金融商品取引法に基づいて開示が義務付けられています。決算短信よりも詳細な開示が求められており、原則として決算日から3カ月以内の開示が必要です。
有価証券報告書で分かること
有価証券報告書を見れば、上場会社等に関する以下のような情報を得ることができます。
- 有価証券報告書に記載される情報
-
・事業
・設備
・株式保有
・配当政策
・ガバナンス
・経理
など
有価証券報告書の提出が義務付けられている会社
以下のいずれかに該当する有価証券の発行者は、原則として事業年度ごとに有価証券報告書の提出が義務付けられます(法24条1項)。
- 金融商品取引所に上場されている有価証券
- 店頭登録されている有価証券
- 募集または売出しに当たり、有価証券届出書または発行登録追補書類を提出した有価証券
- 所有者数が1000人以上の株券または優先出資証券(資本金5億円未満の会社を除く)
- 所有者数が500人以上のみなし有価証券(総出資金額が1億円未満のものを除く)
有価証券報告書の添付書類
有価証券報告書には、開示府令17条所定の書類(定款、事業報告書、貸借対照表、損益計算書など)を添付しなければなりません(法24条6項)。
内国法人である上場会社が有価証券報告書を提出する際には、以下の書類の添付が必要です。
・定款
・当該事業年度に係る計算書類および事業報告で、定時株主総会に報告したものまたはその承認を受けたもの(定時株主総会前に提出する場合には、報告予定または承認予定のもの)
例)事業報告書、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表
など
有価証券報告書の提出方法・提出時期
有価証券報告書は、EDINETを通じて金融庁に提出します。提出した有価証券報告書は、EDINETに5年間掲載されます。
また、有価証券報告書は上場先の証券取引所にも提出する必要があります。証券取引所に対しては、TDnetを通じて有価証券報告書を提出します。
有価証券報告書の提出時期
内国法人の場合、有価証券報告書の提出期限は、原則として事業年度経過後3カ月以内です。
ただし、やむを得ない理由によって3カ月以内に提出できないときは、内閣総理大臣(金融庁長官)の承認を受けた期間内に限り、遅れての提出が認められます(法24条1項)。
有価証券報告書の様式
有価証券報告書は、開示府令15条所定の書式によって作成および提出しなければなりません。
内国会社の場合は、第三号様式・第三号の二様式・第四号様式が指定されていますが、ほとんどのケースで第三号様式を用います。
外国会社の場合は、第八号様式・第九号様式が指定されており、ほとんどのケースで第八号様式を用います。
有価証券報告書に記載すべき事項|第三号様式に沿って紹介
内国会社が用いる第三号様式に沿って、有価証券報告書の記載事項の概略を紹介します。
基本的な情報
有価証券報告書の冒頭では、会社に関する基本的な情報が記載されます。
【根拠条文】 金融商品取引法第24条第1項
【提出先】 ○○財務(支)局長
【提出日】 ○年○月○日
【事業年度】 第○期(自○年○月○日 至○年○月○日)
【会社名】
【英訳名】
【代表者の役職氏名】
【本店の所在の場所】
【電話番号】
【事務連絡者氏名】
【最寄りの連絡場所】
【電話番号】
【事務連絡者氏名】
【縦覧に供する場所】 名称○○ (所在地)
第一部【企業情報】
上場会社の状況に関する情報を記載します。有価証券報告書の中でメインとなる内容です。
第1【企業の概況】
上場会社の全体的な状況を示す情報が記載されます。投資判断との関係では、特に財務諸表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書など)を反映した情報が記載される「1【主要な経営指標等の推移】」が重要です。
1【主要な経営指標等の推移】
2【沿革】
3【事業の内容】
4【関係会社の状況】
5【従業員の状況】
第2【事業の状況】
上場会社が行っている事業の状況を示す情報を記載します。経営に関する考え方や、実際に行っている取り組みなどを確認することで、上場会社が目指そうとしている方向性が分かります。
1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
2【サステナビリティに関する考え方及び取組】
3【事業等のリスク】
4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
5【重要な契約等】
6【研究開発活動】
第3【設備の状況】
新たな設備投資の内容や、既存設備の状況などに関する情報を記載します。将来の収益に繋がる設備投資が適切に行われているかどうかを、投資家が判断する材料となります。
1【設備投資等の概要】
2【主要な設備の状況】
3【設備の新設、除却等の計画】
第4【提出会社の状況】
上場会社の株式やガバナンスに関する情報を記載します。特に大株主の状況は投資家に注目されているほか、自己株式の取得等の状況や配当政策は投資家の利益に直結するため、株価を大きく左右することがあります。
1【株式等の状況】
(1)【株式の総数等】
(2)【新株予約権等の状況】
①【ストックオプション制度の内容】
②【ライツプランの内容】
③【その他の新株予約権等の状況】
(3)【行使価額修正条項付新株予約権付社債券等の行使状況等】
(4)【発行済株式総数、資本金等の推移】
(5)【所有者別状況】
(6)【大株主の状況】
(7)【議決権の状況】
①【発行済株式】
②【自己株式等】
(8)【役員・従業員株式所有制度の内容】
2【自己株式の取得等の状況】
【株式の種類等】
(1)【株主総会決議による取得の状況】
(2)【取締役会決議による取得の状況】
(3)【株主総会決議又は取締役会決議に基づかないものの内容】
(4)【取得自己株式の処理状況及び保有状況】
3【配当政策】
4【コーポレート・ガバナンスの状況等】
(1)【コーポレート・ガバナンスの概要】
(2)【役員の状況】
(3)【監査の状況】
(4)【役員の報酬等】
(5)【株式の保有状況】
第5【経理の状況】
主に財務諸表の内容を記載します。上場会社の業績状況を表しているため、投資判断の参考となる極めて重要な情報です。
1【連結財務諸表等】
(1)【連結財務諸表】
①【連結貸借対照表】
②【連結損益計算書及び連結包括利益計算書】又は【連結損益及び包括利益計算書】
③【連結株主資本等変動計算書】
④【連結キャッシュ・フロー計算書】
⑤【連結附属明細表】
(2)【その他】
2【財務諸表等】
(1)【財務諸表】
①【貸借対照表】
②【損益計算書】
③【株主資本等変動計算書】
④【キャッシュ・フロー計算書】
⑤【附属明細表】
(2)【主な資産及び負債の内容】
(3)【その他】
第6【提出会社の株式事務の概要】
株式事務に関する基本的な情報(事業年度、定時株主総会の時期、議決権や配当の基準日、株主名簿管理人など)を記載します。
第7【提出会社の参考情報】
親会社等がある場合はその情報、直近の開示書類の提出状況、男女共同参画の状況などを記載します。
1【提出会社の親会社等の情報】
2【その他の参考情報】
第二部|提出会社の保証会社等の情報
第三者の保証付き社債を発行している場合に記載する必要があります。該当する社債の発行がない場合は、記載しなくて構いません。
第1【保証会社情報】
第三者によって保証されている社債の情報や、保証会社に関する情報を記載します。
1【保証の対象となっている社債】
2【継続開示会社たる保証会社に関する事項】
(1)【保証会社が提出した書類】
①【有価証券報告書及びその添付書類又は四半期報告書若しくは半期報告書】
②【臨時報告書】
③【訂正報告書】
(2)【上記書類を縦覧に供している場所】
3【継続開示会社に該当しない保証会社に関する事項】
第2【保証会社以外の会社の情報】
保証会社以外に、投資判断に重要な影響を及ぼすと判断される会社がある場合には、その会社に関する情報を記載します。
1【当該会社の情報の開示を必要とする理由】
2【継続開示会社たる当該会社に関する事項】
3【継続開示会社に該当しない当該会社に関する事項】
第3【指数等の情報】
投資判断に重要な影響を及ぼすと判断される指数等がある場合には、その情報を記載します。
1【当該指数等の情報の開示を必要とする理由】
2【当該指数等の推移】
有価証券報告書に虚偽の記載をしたらどうなる?
有価証券報告書に虚偽の記載をすると、以下のペナルティを受けるおそれがあります。有価証券報告書を提出する際には、記載内容が正確かどうかを慎重に確認しましょう。
- 役員等が損害賠償責任を負う
- 課徴金納付命令を受ける
- 刑事罰を受ける
役員等が損害賠償責任を負う
有価証券報告書のうち重要な事項について虚偽の記載があり、または記載すべき重要な事項もしくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けている場合には、上場株式等を募集または売出しによらないで取得した者に対し、以下の者が損害賠償責任を負います(法24条の4・22条・21条1項1号・3号)。
- 有価証券報告書の虚偽記載等について損害賠償責任を負う者
-
① 有価証券報告書の提出時における以下の者
・取締役
・会計参与
・監査役
・執行役
・上記に準ずる者② 有価証券報告書に係る監査証明において、虚偽記載等がないものとして証明した公認会計士または監査法人
課徴金納付命令を受ける
重要な事項につき虚偽の記載があり、または記載すべき重要な事項の記載が欠けている有価証券報告書を提出したときは、以下のうちいずれか高い金額の課徴金の納付が命じられます(法172条の4)。
・600万円
・発行済み株式の時価総額の10万分の6(0.006%)
※事業年度が1年に満たない場合は、上記の額を月割りします。
刑事罰を受ける
重要な事項につき虚偽の記載のある有価証券報告書を故意に提出した者は「10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金」に処され、または懲役と罰金が併科されます(法197条1項1号)。
また、会社に対しても両罰規定によって「7億円以下の罰金」が科されます(207条1項1号)。
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