粉飾決算とは?
定義・有名な事例・手口・見抜き方・
罰則などを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

粉飾決算とは、会社が自社の財務状況を実際より良く見せるために行う、虚偽の決算報告です。

粉飾決算は、会社の信用力をあげ、会社経営や取引をしやすくするために行われますが、粉飾決算を信じた取引先や株主に損失が生じたり、市場の公正を妨げたりすることから、粉飾決算を行った会社や経営者は、民事上の損害賠償責任だけでなく、刑事罰行政処分の対象となります。

この記事では、粉飾決算により会社や経営者が負う責任、罰則、粉飾決算の手口やその見抜き方などを分かりやすく説明します。

ヒー

僕も自分をより良く見せるために、自分を偽ってしまうときがあります。

ムートン

会社のお金にまつわる部分でそれをしてしまうと、さまざまな人に大きな悪影響を及ぼしてしまうんです。どのような損失が発生するのか、過去の事例も含めて解説していきますね。

※この記事は、2023年11月15日時点の法令等に基づいて作成されています。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。

  • 金商法…金融商品取引法

粉飾決算とは|逆粉飾決算の意味も含めて分かりやすく解説!

粉飾決算・逆粉飾決算の定義

粉飾決算とは、一般的には、会社が、自社の財務状況を実体よりも良く見せるために、不正な会計処理を行い、収支を偽装して行う虚偽の決算報告をいいます。

これに対し、会社が自社の財務状況を実体よりも悪く見せるために、不正な会計処理を行い、収支を偽装して行う虚偽の決算報告を「逆粉飾決算といいます。

ムートン

逆粉飾決算は、主に、できるだけ納税額を少なくするための脱税の手法として使われます。

不適切会計と粉飾決算の違い

粉飾決算と似た意味の用語に「不適切会計」があります。

不適切会計は、「意図的であるか否かにかかわらず、誤った会計処理がなされたこと」をいいます。

会社が意図して行ったか、ミスによるものかにかかわらず、結果として「誤った会計処理」がなされているという状態に着目して使われる用語です。

これに対し、「粉飾決算」は、自社の財務状況を実体よりもよく見せるために、「意図的に」誤った会計処理をすることをいいます。

用語の整理・まとめ

・粉飾決算:意図的に、自社の財務状況を実体よりも良く見せること
・逆粉飾決算:意図的に、自社の財務状況を実体よりも悪く見せること
・不適切会計:意図的であるか否かにかかわらず、誤った会計処理がなされたこと

粉飾決算が行われる理由・原因

粉飾決算は、主に、自社の財務状況を実体よりもよく見せることで、会社の信用力をあげ会社経営や取引をしやすくしたり、財務状況を偽ることで配当額をあげたりをすることを目的として行われます。

具体的には、以下のとおりです。

  • 融資を受けやすくし、資金繰りをよくするため
  • 従来からの取引を維持したり、取引の機会を拡大したりするため
  • 株主に対し実際の財務状況ではできない額の配当を行うため
  • 業績悪化についての株主などからの責任追及を免れるため

粉飾決算の手法・手口

粉飾決算の手法は、一般的に以下の3つやこれらの組み合わせです。

① 収入の水増し
② 資産・在庫の水増し
③ 費用の過少計上

具体的には、以下のような手口が使われます。

手口1|収入の水増し

  • 子会社などを使った架空売上
  • グループ企業内での循環取引

手口2|資産・在庫の水増し

  • 架空在庫の計上
  • 多額の現金の計上

手口3|費用の過少計上

  • 費用や経費を翌期以降の費用として計上
  • すでに支払ってしまった経費を仮払金や貸付金などに振り替えて計上

粉飾決算に関する民事上の責任

粉飾決算を行った会社やその経営者は、株主や取引先の利害関係人に対し、損害賠償義務を負います。

ムートン

以下では、どのような法律に基づきどのような義務を負うかを詳しく見ていきます。

1|民法に基づく損害賠償義務

粉飾決算が行われる理由・原因」で説明したとおり、粉飾決算の目的は、自社の財務状況を実体よりよく見せ、会社の経営や取引を行いやすくすることです。

そこで、粉飾決算を信じて取引を行ったり、株主となったりした場合、以下のような事態になることがあります。

① 粉飾決算を信じて融資をしたが、弁済を受けられなった
② 粉飾決算を信じて取引を開始したが、相手が債務を履行しないまま倒産した
③粉飾決算を信じて株主となったが、粉飾決算が明らかとなり株価が暴落した

この点、①と②については、粉飾決算を行った会社は融資先や取引先との契約に基づく債務について不履行がありますから、被害者は民法415条による債務不履行に基づく損害賠償請求を行うのが一般的です。

他方、③の場合、株主は、株価暴落により被害が生じているため、会社側には債務不履行はなく、民法415条による損害賠償請求はできません。

しかし、粉飾決算を信じて株を購入した投資家は、意図的に虚偽の財務状況を公表するという会社や担当者の不法行為により株を購入した結果、損害を被ったとして、不法行為に基づく損害賠償請求が可能です(民法709条)。

もっとも、民法709条による損害賠償請求については、
①違法行為
②故意・過失の有無
③損害額
④違法行為と損害の因果関係
を被害者側が立証する必要があり、以下のような点から、請求が困難な場合があります。

  • 虚偽記載について、会社の故意過失の立証が困難である
  • 被害者側が損害額を立証するのが困難である
  • 賠償義務者は粉飾決算を行った会社だが、会社に資力がなく、損害賠償が事実上不可能な場合がある

そこで、このような被害者の保護のため、会社法金商法では、民法よりも容易に損害賠償請求が行えるようになっています

以下で詳しく見ていきます。

2|会社法に基づく損害賠償義務

会社法429条では、会社が行った行為について、

役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う

と定められています。

ここでいう「役員等」は、取締役、会計参与、監査役、執行役または会計監査人をいいます。(会社法423条)

そこで、会社が粉飾決算を行ったことについて、悪意または重大な過失があった役員等に対しては、損害賠償請求をすることができます

また、429条2項では、計算書類等に記載等すべき重要な事項について、虚偽の記載があった場合に、取締役等に対し、以下の損害賠償義務を負わせています。

根拠条文義務者対象となる開示書類
1号取締役・執行役・計算書類・事業報告およびこれらの附属明細書
・臨時計算書類
2号会計参与・計算書類およびその附属明細書
・臨時計算書類
・会計参与報告
3号監査役
監査役員
監査報告
4号会計監査人会計監査報告

ただし、賠償義務者が虚偽記載をすることについて注意を怠らなかったことを証明したときには免責されます。

3|金融商品取引法に基づく損害賠償義務

前述のとおり、民法709条に基づく不法行為責任を追及する場合、立証責任の問題から会社への損害賠償請求が難しいとされてきました。

そこで、投資者の保護と不実開示の抑止の観点から、金商法において、有価証券報告書等が以下のような状態の場合に、これを知らずに流通市場で株式を取得した投資家は、会社に対し虚偽記載等により生じた損害の賠償を請求できる規定が設けられています。(金商法21条の2)

  • 重要な事項について虚偽の記載がある場合
  • 記載すべき重要な事項の記載が欠けている場合
  • 誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けている場合

重要な事項・事実」にあたるかは、虚偽記載等がなかったら同じ条件で株式を取得したかなどの観点から個別事案ごとに判断されます。

そして、同条では、民法の要件について、以下のような特例も設けられています。

  • 故意過失についての立証責任の転換(金商法21条の2第2項)
  • 損害額および因果関係についての推定規定(金商法21条の2第3項)

故意過失についての立証責任の転換とは、損害賠償義務を免れるためには、会社側が、虚偽記載について故意・過失がないことを立証しなければならないということです。

また、損害額および因果関係についての推定規定により、虚偽記載等の公表日前1年以内に有価証券を取得し、当該公表日において引き続き有価証券を所有する者は、公表日前1月間の有価証券の市場価額の平均額から当該公表日後1月間の有価証券の市場価額の平均額を控除した額が損害額と推定され、被害者は損害と虚偽記載との因果関係を立証する必要がありません。

さらに、金商法では、有価証券報告書等に記載等すべき重要な事項について、虚偽の記載があった場合に、会社役員や監査証明をした公認会計士等に対しても、損害賠償義務を負わせています。(金商法24条の4、22条、21条1項等)

損害賠償義務を負う会社役員とは、取締役、会計参与、監査役もしくは執行役またはこれらに準ずる者をいいます。(金商法21条1項1号)

会社役員が上記の損害賠償義務を免れるためには、虚偽記載等を知らず、かつ相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかったことを証明する必要があります。(金商法22条2項、21条2項1号)

また、公認会計士等が上記の損害賠償義務を免れるためには、監査証明をしたことについて故意又は過失がなかったことを証明する必要があります。(金商法22条2項、21条2項2号)

このように、会社役員や公認会計士に対する損害賠償請求についても故意過失の立証責任が転換されていることから、被害者にとっては、民法709条に基づく請求よりも有利となっています。

ただし、会社法には、損害額および因果関係について金商法21条の2のような推定規定がないため、被害者は、損害額および因果関係を自ら立証する必要があります。

粉飾決算に関する刑事上の罰則

粉飾決算を行った場合、民事責任だけでなく、刑事上の責任も負います。
以下、詳しく見ていきましょう。

1|刑法上の罰則

刑法には、粉飾決算自体を罰する条文はありません。
しかし、粉飾決算を行い、その決算書を用いて本来の財務内容であれば受けることのできないような融資を受けたような場合には、「人を欺いて財物を交付させた」として詐欺罪が成立する可能性があります。(刑法246条)

詐欺罪の法定刑は、10年以下の懲役です。

2|会社法上の罰則

会社法においては、計算書類等に虚偽記載を行ったことに関連して、以下の罰則が定められています。

  • 計算書類等への虚偽記載に対する過料
  • 特別背任罪
  • 違法配当罪

計算書類等に虚偽記載を行った取締役等は、100万円以下の過料に処される可能性があります。(会社法976条7号)

ムートン

なお、過料は、刑事罰ではなく、一般的に秩序罰といわれているものです。

また、粉飾決算自体を罰するものではありませんが、取締役等が自己の失策による損失を隠したり、自己の業績を過大に見せるなど、自己や第三者の利益を図ったり、会社に損害を加える目的で粉飾決算をした場合、特別背任罪に問われる可能性があります。(会社法960条1項)
特別背任罪の法定刑は、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはこれらの併科です。

また、取締役等が粉飾決算を行うことで本来は行うことができない額の配当を行った場合、違法配当罪が成立する可能性があります。(会社法963条5項2号)
違法配当罪の法定刑は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはこれらの併科です。(会社法963条1項)

3|金商法上の罰則

金商法では、重要な事項について虚偽の記載のある有価証券報告書等を提出した者に対し、刑罰が科されます。(金商法197条1項1号)

「重要な事項」とは、投資者の投資判断に影響を与える基本的事項をいい、貸借対照表の資産・負債の総額欄、損益計算書の当期純利益の記載事項がその典型例です。

また、「提出した者」とは、虚偽記載のある有価証券報告書等の作成に関与した者をいい、有価証券報告書等を物理的に提出した者だけでなく、提出書類に署名した代表取締役、有価証券報告書等を承認した取締役、有価証券報告書等の起案担当者なども対象となります。

なお、虚偽記載の罪が成立するためには故意が必要となります。具体的には、重要な事項について虚偽の記載がある有価証券報告書等を提出することを認識したうえで、「仕方がない」「やむを得ない」などのかたちで認容していることまでが必要となります。

また、上記の有価証券報告書等の虚偽記載の罪が成立する場合、両罰規定により法人にも刑罰が科されます。

虚偽の有価証券報告書等の提出者及び法人に科される法定刑は以下のとおりです。

対象となる有価証券報告書等対象者刑罰根拠条文
有価証券報告書・有価証券訂正報告書提出した者10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはこれらの併科197条1項1号
法人7億円以下の罰金207条1項1号
半期報告書・四半期報告書等提出した者5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはこれらの併科197条の2第6号
法人5億円以下の罰金207条1項2号

粉飾決算に関する行政処分

上記のとおり刑事罰を科すためには虚偽記載についての「故意」が必要ですが、その立証が困難な場合もあり得ます。

また、刑事罰は人の権利・自由を奪う強力な罰であることから謙抑的に運用がなされています。

そこで、これらの点を補完するため、金商法では、有価証券報告書等に虚偽記載を行った法人に対して行政処分としての課徴金を課す制度が定められています。(金商法172条の4)

課徴金制度では、刑事罰では要件とされている「故意」が要求されておらず、虚偽記載という客観的な要件を満たせば、納付命令の対象となります。
そこで、故意の立証が困難な事例について、実務上、課徴金が科されることがあります。

また、刑法の謙抑性の観点から、実務上は、虚偽記載の悪性の程度によって、刑事罰と課徴金の納付命令が使い分けられています。

課徴金の金額は、以下のとおりです。

対象となる有価証券報告書等課徴金の金額根拠条文
有価証券報告書・訂正報告書600万円または時価総額の10万分の6のいずれか高い方金商法172条の4第1項
四半期・半期・臨時報告書等300万円または時価総額の10万分の3のいずれか高い方金商法172条の4第2項

なお、過去5年以内に課徴金の対象となった者が、再度違反した場合、課徴金の額が1.5倍となります。(金商法185条の7第15項)

反対に、違反行為の発覚前に自発的に申告した場合は、課徴金の額が2分の1となります(金商法185条の7第14項)。

また、いわゆる「飛ばし」のスキームを提案するなど、有価証券報告書等の虚偽記載に加担した外部協力者にも課徴金が課される可能性があります。(金商法172条の12)

取引所による処分

上場された有価証券の売買を行う金融商品取引所は、公正な有価証券取引の実現のための規程を定めており、有価証券報告書等の虚偽記載は規程に定められた処分の対象となります。

以下では、東京証券取引所(東証)の規程における処分条項を例に説明します。

1|上場廃止処分

東京証券取引所の上場規程では、有価証券報告書等に虚偽記載があり、直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると取引所が認めたときには、上場廃止処分となります。(有価証券上場規程601条1項8号、503条1項2号)

直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであるかどうかの審査は、有価証券報告書等における虚偽記載に係る期間、金額、態様および株価への影響その他の事情を総合的に勘案して行われます。(上場管理に関するガイドラインⅣ第3項)

2|その他の処分

上記基準に照らして上場廃止処分とならなかった場合も、上場会社の内部管理体制等について改善の必要性が高いと認められるときは、特設注意市場銘柄に指定されることがあります。(有価証券上場規程503条1項2号)

また、有価証券報告書等の虚偽記載は適示開示違反に該当することから、改善の必要性が高いと認められた場合には、違反の経過および改善措置を記載した改善報告書の提出が求められる場合があります。(有価証券上場規程504条1項)

そして、違反会社が改善報告書を提出しない場合等、会社情報の開示の状況等の改善の見込みがないと判断された時は、上場契約について重大な違反を行ったものとして、上場廃止となる場合があります。(有価証券上場規程601条)

また、東証が必要と認める場合、違反行為が公表される場合があります。(有価証券上場規程508条)

さらに、違反会社が取引所の市場に対する株主および投資者の信頼を毀損したと取引所が認めるときは、違反会社に対して、上場契約違約金の支払いを求められることがあります。(有価証券上場規程509条)

粉飾決算の有名な事例

次に粉飾決算が問題となった有名な事例を見ていきましょう。

事例1|東芝事件

東芝事件は、2015年に発覚した株式会社東芝による不適切会計事件です。

東芝は、2009年から2015年にかけてインフラ、テレビ、パソコン、半導体事業などで利益水増しによる不適切会計を行っており、利益の水増し金額は7年間で2200億円以上といわれています。

この事件は、東芝関係者による証券取引等監視委員会への内部通報により発覚しました。

この事件により、東芝は複数の損害賠償請求を提起されたほか、行政や東証から以下の処分を受けています。

  • 金融庁から73億円を超える課徴金の納付命令
  • 東証による特設注意市場銘柄指定
  • 東証による上場違約金9120万円の請求

また、東芝の旧経営陣に対しても、複数の損害賠償請求が提起されており、東京地裁では、旧経営陣5人に対し総額で3億円余りの賠償を命じる判決が言い渡されています。(東京地裁2023年3月28日判決。ただし、双方控訴により係争中)

さらに、東芝の監査を行っていた新日本監査法人も、

  • 金融庁から21億円の課徴金納付命令
  • 3カ月間の新規契約受注業務の停止
  • 業務改善命令

という行政処分が課されています。

事例2|ライブドア事件

ライブドア事件は、株式会社ライブドアが2004年9月期の連結会計年度において、代表者の指示により、実際には、3億1278万円の経常赤字だったにもかかわらず、売上計上が認められないライブドア株の売却益や架空売上を売上高に含めるなどして、経常利益を約50億円とした内容虚偽の有価証券報告書を作成した事件です。

これにより、ライブドア社およびその経営陣は損害賠償請求を提起されたほか、以下の刑罰・処分を受けています。

  • ライブドア社に対し、証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)による有罪判決(罰金2億8000万円)
  • 代表者ら5人に対し、証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)による有罪判決(懲役刑)
  • 東証による上場廃止処分

また、ライブドア社の会計監査を担当していた会計士も証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)により有罪判決を受けています。

事例3|オリンパス事件

オリンパス事件とは、オリンパス株式会社が10年以上にわたり、巨額の損失を「飛ばし」の手法により隠蔽していた事件です。

2011年7月、雑誌「月間FACTA」の調査報道によるスクープとイギリス人社長の早期解任を契機に発覚しました。

この事件により、オリンパス社およびその経営陣は損害賠償請求を提起されたほか、以下の刑罰・処分を受けています。

  • オリンパス社に対し、金商法違反(有価証券報告書の虚偽記載)による有罪判決(罰金7億円)
  • 代表者ら3人に対し、金商法違反(有価証券報告書の虚偽記載)による有罪判決(懲役刑)
  • 東証による特設注意市場銘柄に指定
  • 東証による上場違約金1000万円の請求

さらに、オリンパスの監査を行っていたあずさ監査法人と新日本監査法人も、金融庁から業務改善命令が出されています。

事例4|はれのひ事件

はれのひ事件とは、振り袖の販売・レンタル業を行うはれのひ株式会社が成人式直前に突然店舗を閉鎖したことから新成人が予約した振り袖が着られなくなり、社会問題化した事件です。

この事件の直接の原因は、はれのひの財務状況悪化により成人式当日の着付け費用の支払いのメドがたたなかったことです。
しかし、この事件を調査する中で、代表者が粉飾決算を行い、これを利用して神奈川県内の銀行から融資金3500万円をだましとった詐欺行為が発覚しました。

はれのひ代表者は、この詐欺行為により懲役2年6カ月の有罪判決を受けています。

粉飾決算の見抜き方

粉飾決算を行った会社は、社会的信用を失い、今後の営業活動や資金繰りも極めて困難となりますから、もし、取引先が粉飾決算を行っていた場合、自社の業績にも影響が出かねません。

そこで、取引先が粉飾決算を行っていないか、確認することも重要です。
以下では、粉飾決算の見抜き方を見ていきましょう。

粉飾決算は、一般的に、以下のいずれか、またはこれらを組み合わせた手法により行われます。

① 収入の水増し
② 資産・在庫の水増し
③ 費用の過少計上

そこで、それぞれについて、以下のような点に注意して、過去分を含めた決算書等を確認するとよいでしょう。

収入の水増しの見抜き方

  • 長期にわたり精算されない売掛債権がないか
  • 売上債権回転期間が不自然な増加傾向にないか
  • 粗利益率の不自然な上昇がないか
  • 経常利益の中で雑収入の割合が不自然に高くないか

資産・在庫の水増しの見抜き方

  • 経営形態や従前の決算に比べ不自然な額の在庫がないか
  • 売上原価率が不自然に低下していないか
  • 貸借対照表の資産の部に不自然な費目がないか

費用の過少計上の見抜き方

  • 売上に対する費用の割合が不自然に低下していないか
  • 仕入債務回転期間が不自然な低下傾向にないか

粉飾決算を防止する方法

粉飾決算は、上記のように刑事罰も課される極めて悪質な行為であり、決して行ってはいけないものです。

そこで、自社が粉飾決算を行わないよう、以下のような方法で防止するとよいでしょう。

① 社内教育の徹底
② 社内監視体制の強化
③ 無理のない資金計画の策定

防止する方法1|社内教育の徹底

粉飾決算は、民事における賠償責任だけでなく、刑事罰、行政処分の対象でもあり、社会的信用を失い、上場廃止の可能性もある、極めて悪質な行為です。

また、粉飾決算を行った場合、会社だけでなく粉飾決算を行った個人も民事・刑事上の責任を負う可能性があります。

ムートン

そこで、粉飾決算が行われた場合の罰則、その影響などを社員にきちんと理解させ、「粉飾決算を決して許さない」という社内風土をつくりあげる必要があります。

防止する方法2|社内監視体制の強化

社内教育だけでなく、実際に粉飾決算が行われそうになった場合に発見できるよう、社内監視体制を強化することも重要です。

ムートン

業務に伴う経理処理について、複数の部署をまたいだチェック体制とし、特定個人に権限が集中しないような仕組みとするとよいでしょう。

防止する方法3|健全な財務体制の構築無理のない資金計画の策定

粉飾決算の多くは、悪いことと知りながら、資金繰り等のため、やむなく行われるものです。

ムートン

そこで、そもそも論として、粉飾決算を行う必要のない健全な財務体制を構築するようにしましょう。

特に、返済計画に無理のある借入があると、突発事項に対応できませんので、借入の段階で自社の返済能力を十分に検討することが必要です。

おわりに

粉飾決算は、会社や粉飾に関与した個人が民事責任のみならず、刑事罰や行政処分を課される可能性がある、極めて悪質な行為です。

また、粉飾決算行われた会社は、上場廃止となる可能性があることに加え、社会的信用が大きく低下し、今後の営業活動や資金繰りも極めて困難となります。

このように、粉飾決算の悪影響は極めて大きいものですから、取引の相手方が粉飾決算を行っている兆候がないかを確認するとともに、自社が粉飾決算を行わないよう、万全の体制で臨むようにしましょう。

ムートン

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参考文献

証券取引等監視委員会「開示規制違反に係る課徴金制度について」

東京証券取引所ウェブサイト「有価証券上場規程」

東京証券取引所ウェブサイト「上場管理等に関するガイドライン」

加藤真朗編著『有価証券報告書等虚偽記載の法律実務 粉飾決算・会計不正による損害賠償責任』日本加除出版、2015年