試用期間の延長とは?
要件・手続き・延長後の本採用拒否の可否などを
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「試用期間」とは、使用者が労働者を本採用する前に、試験的に雇用する期間です。
使用者は原則として、労働契約の締結時に合意した試用期間のうちに、労働者を本採用するかどうか判断しなければなりません。しかし、労働者のパフォーマンスが期待した水準に届いておらず、もう少し改善指導を続けたいなどの事情がある場合には、試用期間を延長することも選択肢の一つです。
試用期間を延長するためには、労働契約または就業規則上の定めが必要であり、かつ労働者が延長について事前に同意していなければなりません。それだけでなく、試用期間を延長する合理的な理由があることや、延長後の試用期間の長さが社会通念上相当であることも求められます。
試用期間の延長は、あらかじめ十分な改善指導を行った上で、労働者に対して提案しましょう。労働者の同意が得られた場合は、試用期間の延長に関する合意書を締結します。
また、試用期間の延長後も、労働者の問題行動などについては引き続き改善指導を行うべきです。試用期間延長後の本採用拒否は、当初の試用期間満了時における本採用拒否と比べて、その有効性が厳格に判断されます。特に、延長前に判明していた事情に基づく本採用拒否は、原則として認められない点に注意が必要です。
この記事では試用期間の延長について、要件・手続き・延長後の本採用拒否の可否などを解説します。
※この記事は、2024年2月26日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
試用期間とは
「試用期間」とは、使用者が労働者を本採用する前に、試験的に雇用する期間のことです。
試用期間の主な目的は、労働者の能力や適性を見極める点にあります。
書類選考や面接だけでは、労働者の能力や適性を十分に知ることは難しいです。試用期間を設ければ、実務の中で一定期間、労働者の能力や適性を観察することができます。
試用期間の長さは1カ月から3カ月程度、長くても6カ月以内とされるのが標準的です。あまりにも長く試用期間は、その全部または一部が無効と判断されるおそれがあります。
試用期間の延長を検討すべきケースの例
使用者は原則として、労働契約の締結時に合意した試用期間のうちに、労働者を本採用するかどうか判断しなければなりません。
しかし、労働者のパフォーマンスが期待した水準に届いておらず、もう少し改善指導を続けたいなどの事情がある場合には、試用期間を延長することも選択肢の一つです。
例えば以下のようなケースでは、試用期間の延長を検討すべきでしょう。
① 労働者の仕事ぶりが期待を下回っている
② 遅刻や欠勤など、労働者の問題行動が多い
③ 本採用に移行すべきかどうかの判断が難しい
労働者の仕事ぶりが期待を下回っている
労働者の仕事ぶりが期待を下回っている場合、企業においては、本採用に移行したくないという心理が働くケースが多いです。この場合は、試用期間を延長することが考えられます。
ただし、指導を尽くしても労働者の仕事ぶりが改善される見込みがない場合には、試用期間を延長せずに本採用を拒否した方がよいでしょう。後述するように、試用期間延長後の本採用拒否の有効性は、延長前よりも厳格に判断される傾向にあるためです。
遅刻や欠勤など、労働者の問題行動が多い
遅刻や欠勤など、労働者に多くの問題行動が見られる場合にも、本採用拒否を躊躇する企業がよく見られます。このような場合にも、試用期間を延長することが考えられるでしょう。
ただし、仕事ぶりが期待を下回っている場合と同様に、指導を尽くしても労働者の問題行動の改善が見込めない場合には、試用期間を延長せずに本採用を拒否した方が賢明です。
本採用に移行すべきかどうかの判断が難しい
労働者の能力や適性が本採用のボーダーライン上であり、人事権者の間でも判断が分かれている場合には、試用期間を延長することも選択肢の一つです。試用期間を延長すれば、引き続き労働者の能力や適性を見極める期間を確保できます。
ただし後述するように、当初の試用期間の満了までに判明した事情は、試用期間延長後に行う本採用拒否の理由とすることはできない点にご注意ください。
試用期間を延長するための3つの要件|違法な延長に注意!
労働者の試用期間を延長するためには、以下の3つの要件を全て満たす必要があります。満たしていない要件が一つでもある場合、試用期間の延長は無効となり、自動的に本採用へ移行するので注意が必要です。
① 労働契約または就業規則において、試用期間の延長に関する規定が設けられており、当該規定における延長事由に該当すること
② 試用期間の延長について、労働者が事前に同意していること
③ 試用期間を延長する客観的な必要性が認められる特段の事情があること
また、これらを満たしていても、延長後の試用期間の長さが社会通念上相当であることも求められます。
労働契約または就業規則において、試用期間の延長に関する規定が設けられており、当該規定における延長事由に該当すること
試用期間を延長するためには、労働契約または就業規則において、試用期間の延長があり得る旨をあらかじめ定めている必要があります。労働者側において、試用期間の延長を予期できるようにするためです。
また試用期間の延長について、労働契約または就業規則に要件が定められている場合には、その要件に該当することが必要になります。
なお、労働者を雇い入れた後に就業規則を変更し、試用期間の延長があり得る旨を新たに定めたとしても、その変更を労働契約に反映することはできないと考えられます(労働契約法9条・10条)。
就業規則による労働条件の不利益変更に当たるところ、その内容が労働者にとって一方的に不利益であることを踏まえると、合理的な変更とは評価できないためです。
試用期間の延長について、労働者が事前に同意していること
試用期間の延長については、単に労働契約や就業規則に定めがあるだけでは足りず、労働者から個別に同意を得なければなりません。延長後の試用期間などを明記した合意書を作成し、労働者に署名・押印等を行ってもらいましょう。
試用期間の延長に関する労働者の同意は、完全な任意によるものでなければなりません。
企業側が労働者に対して圧力をかけたなど、実質的な強制が行われたと認められる場合には、試用期間の延長に関する労働者の同意が無効と判断されるおそれがあるので注意が必要です。
試用期間を延長する客観的な必要性が認められる特段の事情があること
試用期間を延長するためには、その客観的な必要性が認められる特段の事情の存在が求められます。例えば以下のような事情がある場合には、試用期間の延長が認められる可能性が高いです。
・勤務成績が期待される水準に対して著しく低い
・無断での欠勤や遅刻などが頻発している
・ハラスメントなどの問題行動が見られる
など
延長後の試用期間の長さが社会通念上相当であること
3つの要件を満たして延長した後の試用期間は、労働者の能力や適性を見極めるという趣旨に鑑みて、社会通念上相当な長さ(短さ)としなければなりません。
企業側には、すでに当初の試用期間において、労働者の能力や適性を見極める時間が与えられています。よって、延長後の試用期間は、基本的に短期間に限定すべきでしょう。
例えば、当初の試用期間が3カ月間しかないのに、それを超える6カ月間の延長を行った場合には(=トータル9カ月)、延長後の試用期間の一部が無効と判断される可能性が高いです。
また、試用期間を複数回延長することも、労働者の立場を不安定にするものとして無効と判断されるリスクが高いと考えられます。
試用期間を延長する際の手続き
試用期間を延長する際には、以下の流れで手続きを行いましょう。
① 事前に改善指導を行う
② 試用期間の延長を提案する
③ 試用期間の延長に関する同意書を取得する(または合意書を締結する)
④ 試用期間の延長後も、引き続き改善指導を行う
事前に改善指導を行う
企業としては、試用期間の延長に先立ち、労働者に対して十分な改善指導を行うことが重要になります。
試用期間の延長を検討すべきなのは、労働者において能力不足や問題行動などが見られるケースです。能力不足や問題行動などについては、試用期間中において、企業側が労働者に対して改善指導を行うことが求められます。
企業が十分な改善指導を行わないと、最終的に本採用を拒否する判断に至った場合に、解雇を回避する努力を怠ったとして不当解雇と判断されるリスクが高いです。
「やるべきことはやった」と説明できるようにするためにも、試用期間を延長する前に、労働者に対して十分な改善指導を行いましょう。
試用期間の延長を提案する
試用期間の延長がやむを得ないと判断した場合には、労働者に対して試用期間の延長を提案しましょう。
試用期間の延長について労働者に伝える際には、労働者に対して何らかの圧力をかけていると解釈され得るような言動を行わないことが大切です。同意を強制するような言動があったと評価されると、試用期間の延長が無効と判断されるおそれがあります。
例えば以下のような言動は、試用期間の延長を労働者へ伝える際に避けるべきでしょう。
・延長に応じないと待遇を下げるなどと伝える
・複数人がいる部屋に労働者1人を呼び出し、圧迫面談をする
など
試用期間の延長に関する同意書を取得する(または合意書を締結する)
労働者から試用期間の延長についての同意が得られたら、同意の旨が記載された同意書を提示し、労働者に署名・押印等を行ってもらいましょう。
また、企業側と労働者側の双方が署名・押印等を行う合意書を締結することも考えられます。
作成・提出された同意書または合意書は、後に労働者との間でトラブルが生じることも想定して、いつでも参照できるように保存しておきましょう。
試用期間の延長後も、引き続き改善指導を行う
試用期間を延長した後も、労働者の能力不足や問題行動などについて、引き続き改善指導を行うことが大切です。
試用期間の目的は、労働者の能力や適性を見極めることにあります。企業としては、労働者に対して必要な改善指導を行い、労働者が十分なパフォーマンスを発揮できる環境を整えた上で判断しなければなりません。
これらの目的や企業に期待される役割は、延長後の試用期間においても同様です。労働者に対する改善指導を怠ると、最終的に本採用拒否をした場合に、解雇を回避する努力を尽くさなかったとして不当解雇と判断されるおそれがあります。
試用期間を延長した労働者については、本採用を拒否する可能性も比較的高いと考えられます。本採用拒否に備えて、企業側としてできる限りの改善指導を尽くしておきましょう。
試用期間延長後の本採用拒否(解雇)の要件・審査基準
試用期間中の労働者については、使用者は解雇権限を留保していると解されています。ただし、試用期間中の労働者の解雇(=本採用拒否)は無制限に認められるわけではありません。
特に試用期間を延長した後では、延長前よりも本採用拒否(解雇)の有効性が厳しく判断される傾向にあるので注意が必要です。
本採用拒否(解雇)の要件
試用期間中の労働者の解雇(本採用拒否)は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当と認められる場合にのみ認められます(最高裁昭和48年12月12日判決)。
本採用拒否の理由として認められやすい事情としては、以下の例が挙げられます。
・勤務態度が非常に悪い
・無断での遅刻、欠勤、早退、中抜けが多い
・重要な経歴を詐称していた
・再三にわたって改善指導をしたにもかかわらず、簡単なミスを繰り返す
など
試用期間延長後の本採用拒否(解雇)は、通常よりも審査が厳しくなる
試用期間を延長した場合には、当初の試用期間の満了までに判明した事情だけでは労働者を解雇しないと暫定的に意思表示をしたものと解されます(大阪高裁昭和45年7月10日判決)。
つまり、試用期間の延長前に判明した事情に基づいて、延長後に本採用拒否をすることはできません。試用期間延長後の本採用拒否については、延長後に新たに判明した事情を理由とする必要があります。
特に、能力不足や問題行動については、試用期間の延長前から判明していた事情であると認定され、延長後の本採用拒否の理由として認められない可能性が高いです。
企業としては、できる限り試用期間の延長を避け、当初の試用期間内に本採用の可否を判断することが望ましいでしょう。
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