サイト譲渡契約とは? 基本を解説!

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株式会社LegalOn Technologies弁護士
慶應義塾大学法科大学院修了。2012年弁護士登録。都内法律事務所、特許庁審判部(審・判決調査員)を経て、2019年から現職。社内で法務開発等の業務を担当する。LegalOn Technologiesのウェブメディア「契約ウォッチ」の企画・執筆にも携わる。
この記事のまとめ

サイト譲渡契約の基本を解説!!

この記事では、ウェブサイト事業を譲渡する契約であり、事業譲渡契約の一種ともいえる、 サイト譲渡契約の基本を分かりやすく解説します。

※この記事は、2020年10月20日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

サイト譲渡契約とは?

サイト譲渡契約は、譲渡人が、自らが保有するWebサイト事業を譲受人へ譲渡する場合に締結します
事業譲渡は、譲渡人が自ら保有する資産、負債、契約上の地位等の権利義務関係や、取引先、ノウハウ等を譲渡して、譲受人がそれに対して対価を支払うものです。
Webサイト譲渡は、その中でも特に、Webサイト事業の譲渡を指します。

事業譲渡契約は、合併等とは異なり、会社法上、必要的記載事項が定められているものではありません。

ヒー

ウェブサイト譲渡って、事業譲渡契約とは違うんですか?

ムートン

ウェブサイト事業の譲渡契約ということで、事業譲渡契約の一種といえます。

サイト譲渡契約書の条項

ヒー

実際にサイト譲渡契約を作成したり、レビューする際には、どのような点に気を付ければいいのでしょうか?

ムートン

ここからは、サイト譲渡契約の各条項について、文例を見ながら解説していきます。

ここではサイト譲渡契約を締結する場合に、契約書に定めるべきポイントを解説します。

譲渡対象

事業譲渡契約においては、後で紛争となるリスクを防ぐため、譲渡対象を可能な限り明確に定める必要があります。

対象資産

Webサイト事業譲渡契約においては、譲渡の対象資産として、「対象サイトのドメインの使用に関するすべての権利」「対象サイトに関して譲渡人が所有する一切のプログラム」 「対象サイトに関して譲渡人が有する知的財産権」「対象サイトに関する譲渡人が所有する取引先等の情報」等を定めることが多いです。

対象契約

Webサイト譲渡契約においては、譲渡の対象契約の特定方法として、個々の契約を特定する、又は「本件事業に係る取引先との一切の契約」 「対象サイトのユーザーとの一切の契約」といった記載をすることが考えられます。

記載例

(譲渡対象)
1 本件事業譲渡に際し、譲渡人は譲受人に対し、第3条に定める本件譲渡日の時点で本件事業に属する以下の各資産(以下「対象資産」という。)を譲渡する。
(1) 対象サイトのドメインの使用に関するすべての権利
(2) 対象サイトに関して譲渡人が所有する一切のプログラム(ソースコードを含む。)、デザイン、データ、コンテンツ及びこれに付随するプログラム、並びにこれらの使用に必要なパスワード等の情報(以下総称して「本件コンテンツ等」という。)
(3) 対象サイト及び本件コンテンツ等に関して譲渡人が有する著作権(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む。)、その他特許権、実用新案権等、これらの対象となり得るが未だ登録の出願がなされていない発明、考案等に関する一切の知的財産権、譲渡人が有する名称・意匠に関わる商標権、意匠権等一切の権利(以下総称して「本件知的財産権」という。)
(4) 対象サイトに関し譲渡人が所有する本件事業に係る一切の取引先情報、ユーザー情報及びこれに係る資料の一切(以下総称して「取引先等情報」という。)

2 本件事業譲渡に際し、譲渡人は譲受人に対し、本件譲渡日において締結されている本件事業に係る以下の各契約(以下「対象契約」 という。)の契約上の地位を移転する(本件譲渡日までに発生した売掛金及び買掛金その他一切の金銭債権債務は除く。)。
(1) 本件事業に係る取引先との一切の契約
(2) 対象サイトのドメインに関するドメイン維持・更新、レンタルサーバーその他の一切の契約
(3) 対象サイトのユーザーとの一切の契約
(4) 対象サイトの広告主との一切の契約
(5) その他譲渡人譲受人間で合意した契約

明示していない資産・債務

譲受人としては、簿外債務や偶発債務等の承継を防ぐためにも、 「契約に明示的に定めていない資産・債務は承継しない」と確認的に定めると安全です。

記載例

(譲渡対象)
1~2 略
3 受託者は、受託者の責任において、委託者の承諾なく、本件業務の全部又は一部を第三者へ再委託することができる。

譲渡対価

事業譲渡の対価について定める必要があります。
対価としては、固定額の対価を定めるのが一般的ですが、対価の算定方法を定める場合もあります。
譲渡人としては、 譲受人が譲渡対価の支払いを怠った場合に備えて、遅延損害金について定めておくと有利です。

記載例

(譲渡対価)
1 譲受人は、譲渡人に対し、本件譲渡日に、本件事業の譲渡対価として金●●万円(税込、以下「本件譲渡対価」という。)を支払う。
2 譲受人は、本件譲渡対価を、譲渡人の指定する金融機関口座に振込送金の方法により支払う。なお、振込手数料は譲受人の負担とする。
3 譲受人が本件譲渡対価の支払いを怠った場合、譲受人は、譲渡人に対し、 本件譲渡日の翌日から起算して支払済みに至るまで未払いの本件譲渡対価の金額に対する年14.6%の割合による遅延損害金を支払う。

契約の相手方からの同意の取得

契約上の地位を承継するためには、相手方の個別の同意が必要となります(民法539条の2)。

また、債務の承継は、免責的債務引受を譲渡人(債務者)と譲受人(引受人)の間の契約で行う場合、相手方(債権者)の承諾が必要です(民法472条3項)。併存的債務引受の場合は、相手方(債権者)の承諾がなければ、債務の承継の効力は発生しません(民法470条3項)。

債権の譲渡については、民法改正に伴い、譲渡禁止特約が存在しても、債権譲渡は有効となりました(民法466条1項、2項)。

上記のとおりであるため、債務や契約上の地位の承継に関して、譲渡人が相手方の承諾を得ることを定めることが多いです。

譲渡人としては「譲渡人は、相手方の同意を得て、譲渡日をもって譲受人に承継させるため最大限努力する」と、努力義務を定めるのが有利です。

記載例

(契約の相手方からの同意の取得)
1 譲渡人は、対象契約上の地位並びに対象契約に基づく権利及び義務の一切を、各対象契約の相手方の同意を得て、 本件譲渡日をもって譲受人に承継させるため最大限努力する。ただし、譲受人が各対象契約の相手方との間で、同契約が規定する内容に関して 新たな契約を締結する場合には、この限りではない。
2 譲渡人は、本件譲渡日までに、譲受人に対して、対象契約並びにこれに関連する契約の契約書原本を引き渡す。

譲受人としては、確実に譲渡日に、譲渡対象となる契約上の地位並びに権利及び義務の一切を承継することができるよう、 「譲渡人は、相手方の同意を得て、譲渡日をもって譲受人に承継させる」と、 承継させる義務を定めるのが有利です。

記載例

(契約の相手方からの同意の取得)
1 譲渡人は、対象契約上の地位並びに対象契約に基づく権利及び義務の一切を、各対象契約の相手方の同意を得て、本件譲渡日をもって譲受人に承継させる。ただし、譲受人が各対象契約の相手方との間で、同契約が規定する内容に関して新たな契約を締結する場合には、この限りではない。
2 譲渡人は、本件譲渡日までに、譲受人に対して、対象契約並びにこれに関連する契約の契約書原本を引き渡す。

知的財産権

Webサイト事業譲渡においては、Webサイト事業に関する著作権、特許権、商標権等、Webサイト事業を行うために必要な知的財産権を、譲渡人から譲受人へ移転する必要があります。

ここで、著作権の移転を第三者に対抗するためには、著作権の移転を文化庁に対して登録する必要があります(著作権法77条1号)。譲受人としては、特に重要な著作権の移転については、登録するのが安全です。この登録は、原則は譲渡人と譲受人とが共同で申請することによって行います。

他方で、特許権の移転に関しては、特許庁に対して登録しなければ移転の効力が発生しません(特許法98条1項1号)。この登録は、原則として譲渡人と譲受人の共同申請となります。これは、商標権も同様です(商標法35条)。

また、共有されている特許権の一部を譲り受ける場合は、共有者の同意が必要となります(特許法73条1項)。更に、共有特許権の全部を譲り受ける場合には、共有者全員が当事者として譲渡契約を締結する必要があります。これは、商標権も同様です(商標法35条)。

譲渡人としては、Webサイト事業に関する知的財産権について、一部が第三者との共有になっている場合など、特に譲受人に移転することを約束するのが難しい場合は、 「本件知的財産権の移転につき、必要な、登録、名義変更その他のあらゆる手続を行うよう最大限努力する」と定め、努力義務にとどめておくと有利です。

記載例

(知的財産権)
1 譲渡人は、本件譲渡日までに、本件知的財産権の移転につき、その効力発生及び対抗要件具備のために必要な、登録、 名義変更その他のあらゆる手続を行うよう最大限努力する。また、かかる手続に関し譲受人において必要な書類がある場合には、 譲渡人はその一切を本件譲渡日までに譲受人に交付する。これらの手続に要する費用は、譲受人が負担する。
2 譲渡人は、本件知的財産権に含まれる著作権の対象である著作物に関して、著作者人格権を行使しない。

他方で、譲受人としては「本件知的財産権の移転につき、必要な、登録、名義変更その他のあらゆる手続を行うよう 最大限努力する」と、譲渡人の義務を定めると有利です。

記載例

(知的財産権)
1 譲渡人は、本件譲渡日までに、本件知的財産権の移転につき、その効力発生及び対抗要件具備のために必要な、登録、名義変更その他のあらゆる手続を行う。 また、かかる手続に関し譲受人において必要な書類がある場合には、譲渡人はその一切を本件譲渡日までに譲受人に交付する。これらの手続に要する費用は、譲渡人が負担する。
2 譲渡人は、本件知的財産権に含まれる著作権の対象である著作物に関して、著作者人格権を行使しない。

なお、著作者人格権は譲渡することができないため(著作権法59条)、Webサイト事業譲渡後も譲渡人に帰属します。
そのかわりに、譲受人に対して、著作者人格権を行使しないということを約束してもらい、譲受人による著作物の利用に支障が出ないようにすることが一般的です。

ただし、裁判例上、著作者人格権の不行使条項が存する場合であっても、著作物の改変の態様等によっては、同一性保持権侵害等が主張され、 認められる可能性があるとされているため、注意が必要です。

取引先等情報

Webサイト事業譲渡においては、事業に関する取引先等情報を譲渡する必要があるため、その旨を契約で定めておくのが安全です。

このとき、譲受人としては、特に個人情報については、法律に従い適切に管理する必要性が高いことから、 「譲渡人は、個人情報については、個人情報の保護に関する法律に従い適切にこれを取り扱う」と定めるのが安全です。

記載例

(取引先等情報)
1 譲渡人は、自らの保有する本件事業に関する一切の取引先等情報を、本件譲渡日までに譲受人が指定する形式で譲受人に引き渡す。
2 譲渡人は、本件譲渡日まで本件事業に関して自らの保有する一切の取引先等情報を適切に取り扱う。
3 第1項に定める本件事業に関する取引先等情報に含まれる個人情報については、譲渡人は個人情報の保護に関する法律に従い適切にこれを取り扱う。

誓約事項

事業譲渡契約は、事業譲渡契約の締結から、実際に譲渡が行われる日までの間に一定の期間があります。 そこで、事業譲渡契約の締結後、譲渡日までの間に事業価値が毀損される等の事態を防ぐために、譲渡人の誓約事項を定める必要があります。

具体的には、以下の事項等を誓約させることが考えられます。

  • 事業に対する善管注意義務
  • 事業の価値を減少させる行為の禁止
  • 事業に属する資産の処分行為
  • 譲受人の同意がない事業の内容変更の禁止
記載例

(誓約事項)
1 譲渡人は、対象資産の引渡しが完了するまでの問、善良なる管理者の注意義務をもって、本件事業を維持し、その運営を継続しなければならない。
2 譲渡人は、対象資産の引渡し完了までの問、本件事業の価値を減少させる可能性のある一切の行為、及びそれに付随する合意の締結は行わない。
3 譲渡人は、通常の事業の運営によるものを除き、本件事業に属する資産について、譲渡、担保権設定、賃貸(対象資産についてすでに行われているものを除く。)、 その他一切の処分、その他の資産の取得、債務負担、及び本件事業の譲渡を制約する可能性のある一切の行為を行わない。
4 譲渡人が本契約締結後、対象資産の引渡が完了するまでの間に、本件事業に関して変更を加えるときは、事前に譲受人の書面による承認を得る。

また、譲受人としては、譲渡人の誓約を実効性あるものとするために、 「誓約違反があった場合、譲受人は譲渡人の費用で必要な措置を行うことができ、回復困難な誓約違反があったときは解除できる」等と、 誓約違反の効果について定めると有利です。

記載例

(誓約事項)
1~4 略
5 譲渡人に前各項に違反する事由があった場合、譲受人は当該行為の原状を回復するために必要な措置を譲渡人の費用をもって行うことができ、 当該措置によっても回復できない行為があった場合、譲受人は本契約を解除することができる。

引渡し

事業譲渡の実行日

Webサイト事業を譲渡人が譲受人へ譲渡する日を明確にして、事業譲渡に向けた準備をするため、 事業譲渡の実行日(対象資産及び対象契約の契約上の地位の引渡しを行う日)を定める必要があります。

記載例

(引渡し)
1 譲渡人は、譲受人に対し、本件譲渡日に、本件事業に関し、譲渡人と譲受人が協議の上決定する方法により、対象資産及び対象契約の契約上の地位を引き渡す。

対象資産の引渡し

譲渡の対象資産に不具合があった場合は、譲受人が譲渡人に対して、契約不適合責任(民法562~565条、559条)などを追及できる可能性があります。

譲渡人としては、このような責任を負えない場合には、「現状有姿にて、対象資産及び対象契約の契約上の地位を引き渡す」と定めると有利です。

記載例

(引渡し)
1 譲渡人は、譲受人に対し、本件譲渡日に、本件事業に関し、現状有姿(対象サイトにかかる被リンクの数並びに貼付位置も含む。)にて、 譲渡人と譲受人が協議の上決定する方法により、対象資産及び対象契約の契約上の地位を引き渡す。

他方で、譲受人としては、対象資産に契約不適合があった場合に備えて、「対象資産の引渡し時に譲受人が検査を行い、検査の合格通知をもって引渡しが完了する」と定めると安全です。

記載例

(引渡し)
1 略
2 対象資産の引渡しは、譲受人が対象資産の検査を行い、譲渡人に対し合格を通知することにより完了する。ただし、譲受人は譲渡人に対し、 対象資産の引渡しを受けた時から●営業日以内に検査の合否を通知しなければならない。
3 譲受人が譲渡人に対して不合格を通知する場合、対象資産の不足、現状の運営に支障をきたす本契約の内容との不適合又は欠陥、 対象サイトの運営内容や本件事業に関連する取引業者等との取引等に関する虚偽報告等、相当の理由を示して通知しなければならない。

引渡し前に生じた対象資産の滅失

契約締結後、事業譲渡日までの間に、対象資産が滅失などした場合に備えて、その負担を定めるのが望ましいです。

民法では、売買契約において、当事者双方の帰責性なく目的物が滅失した場合について、引渡し前は、買主は代金の支払いを拒絶できますが、引渡し後は、買主は代金の支払いを拒絶できません(民法536条1項、567条1項)。また、引渡し後は、買主は売主に対して責任を追及できません(同法567条1項)。

公平の観点から、民法の規定と同じく、「引渡し完了前に生じた損害は、譲受人の帰責性がある場合を除き譲渡人が負担し、引渡し後に生じた損害は、譲渡人の帰責性がある場合を除き譲受人が負担する」と定めることが多いです。

記載例

(引渡し)
引渡完了前に生じた対象資産の滅失(ただし、アクセス数の変動その他のやむを得ないものについては考慮しない。)、変質その他一切の損害は、譲受人の責めに帰すべき場合を除き譲渡人の負担とし、 本件譲渡日以後に生じたこれらの損害は、譲渡人の責めに帰すべき場合を除き譲受人の負担とする。

清算

事業に関して生じる費用をどちらが負担するかをめぐって争いになることを防ぐため、費用の負担者を定める必要があります。
例えば、譲渡日より前の原因に基づいて発生する費用は譲渡人の負担、譲渡日以降の原因に基づいて発生する費用は譲受人の負担、と定めることが考えられます。

記載例

(清算等)
1 本件事業の資金収支及び損益の帰属は本件譲渡日をもって区分し、本件譲渡日(当日を含まない。)までの原因に基づいて発生する費用は譲渡人が負担し、本件譲渡日(当日を含む。) 以降の原因に基づいて発生する費用は譲受人が負担する。精算が必要な場合は譲渡人譲受人協議の上決定する。
2 本件譲渡日以降、譲受人が受領すべき金員を譲渡人において受領した場合、又は譲渡人が受領すべき金員を譲受人において受領した場合は、 譲渡人及び譲受人は相手方の指定する金融機関口座に振込送金の方法により速やかに返還する。ただし、振込にかかる費用は相手方(本来当該金員を受領すべき者) が負担し、利息は付さない。
3 前項に定める精算は毎月月末をもって行い、支払うべき金員が受領すべき金員を上回った当事者が、翌月末日(当該日が休日の場合は翌営業日とする。) までに、差引計算のうえ振込送金を行う。

表明保証

事業譲渡においては、事業譲渡契約を締結する前に、譲受人が譲渡人についてデューデリジェンスを行って、譲渡対象について調査を行うことが多いです。
このデューデリジェンスで発見できなかった問題がある場合に備えて、事業譲渡契約において「表明保証条項」を定められることがあります。

譲渡人に関する事項の表明保証

譲渡人に関する事項として、具体的には、以下のような事項について表明保証を定めることがあります。

  • 譲渡人が適法、有効に存続する会社であること
  • 契約の締結に必要な権利能力・行為能力があること
  • 契約の締結・履行について、手続きが適法・適正に行われていること
  • 契約の締結・履行が違法でなく、その他契約違反等にも当たらないこと
  • 契約に基づく義務が強制執行可能なものであること
  • 事業に影響を与えるような紛争が生じていないこと
  • 譲渡人について、破産手続開始の申立て等、信用状態の悪化を示すような事態がないこと
  • 事業の関係者に反社会的勢力が存在しないこと
  • 対象資産に関する契約が有効に存続し、契約に債務不履行が存在しないこと
  • 譲渡人が譲受人に提供する、事業に関する情報は必要かつ十分であり、真実であること

譲渡人としては、 譲渡人の知り得ない事情等が存在する可能性があり、表明保証することが難しい事項については、「譲渡人の知る限り表明保証する」と限定して定めると有利です。

事業に関する事項の表明保証

事業に関する事項として、具体的には、以下のような事項について表明保証を定めることがあります。

  • 対象資産について、抵当権が存在するなど、事業譲渡を妨げる事情が存在しないこと
  • 譲渡人が事業のための保有している資産は、対象資産が全てであること
  • 対象資産について契約不適合が存在しないこと
  • 対象資産、対象事業が第三者の知的財産権を侵害していないこと
  • 対象契約の適法性・有効性、履行可能性
  • 事業において、譲渡人が当事者となっている契約は、対象契約が全てであること
  • 対象契約に関して、債務不履行が発生していないこと
  • 対象契約に関して、解除事由が発生していないこと
  • 対象契約に関して、譲渡人と相手方の間にトラブルが発生していないこと
  • 事業に関して法令上必要な免許、許可等が存在しないこと
  • 譲渡人は、事業の運営に関して法令を遵守しており、行政処分を受けていないこと
  • 事業に関する損益計算書が適切・正確に作成されていること

譲渡人としては、 譲渡人の知り得ない事情等が存在する可能性があり、表明保証することが難しい事項については、「譲渡人の知る限り表明保証する」と定めるのが有利です。

前提条件

事業譲渡契約においては、事業譲渡を実行するための前提条件(クロージング条件)が定められることがあります。譲渡人、譲受人、 それぞれについて、前提条件を定めるものです。どのような前提条件を定めるかは、ケースバイケースで異なってきます。

譲受人による譲渡対価支払いの前提条件

譲受人としては、以下のような事情を、譲渡対価の支払い等の前提条件とすることが考えられます。

  • 譲受人が、譲渡日までに、義務等を全て履行し、又は遵守していること
  • 譲渡人が表明保証した事項が、真実かつ正確であること
  • 譲渡人が、事業譲渡に必要な手続関連書類を、譲受人に提出したこと
  • 契約締結日から事業譲渡日までの間に、事業に関する資産等に悪影響が生じていないこと

譲渡人による譲渡実行の前提条件

譲渡人としては「譲受人が、譲渡日までに、義務等を全て履行し、又は遵守していること」等を 事業譲渡の実行の前提条件とするのが安全です。

譲渡人の協力義務

譲受人としては、事業譲渡後も、事業に関して従前の運営者である譲渡人の協力が必要となる場合が想定されます。 そこで、譲渡後の、事業に関する譲渡人の協力義務を定めておくと安全です。

記載例

(譲渡人の協力義務)
1 譲渡人は、本契約締結後、本件譲渡日から3ヶ月間は、譲受人に対し、本件事業の事業価値を毀損させないよう継続して運営ができる体制の構築支援に協力する。
2 譲渡人は、本契約締結後、本件譲渡日から3ヶ月間は、譲受人からの本件サイトの運営に関する質問に対して最大限優先して回答するよう、努力する。

競業避止

会社法上、事業譲渡において、譲渡人は、同一の市町村(政令指定都市においては、区又は特別区)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、事業を譲渡した日から20年間は、同一の事業を行ってはなりません(会社法21条1項)。

事業譲渡契約において、別途競業避止義務を定めた場合は、契約が優先しますが、競業避止義務を負う期間は事業を譲渡した日から30年間を超えることはできません(会社法21条2項)。

譲受人としては「譲渡人は、一定期間、国内外を問わず、競業避止義務を負う」を定めると有利です。

記載例

(競業避止)
譲渡人は、当事者間の別途合意により認められる場合を除き、本件譲渡日から●年間は、国内外を問わず、直接又は間接的に(関連会社を通じて行う場合も含む。) 本件事業と同一又は類似の事業を営んではならず、また対象サイトのドメインに類似したドメインを取得してはならない。

補償

契約違反

表明保証条項等を有効性あるものとするためには、譲渡人又は譲受人に、表明保証違反等の契約違反があった場合に、 損害賠償を請求できると定める必要があります。

譲渡人としては、譲渡人に契約違反があった場合の損害賠償について、 「譲渡日の前に、譲渡人が譲受人に対して、表明保証違反となる事実を開示して、 それにもかかわらず譲受人が譲渡を実行した場合は、責任を負わない」と、損賠賠償責任を負う場合を制限するのが安全です。

記載例

(補償)
1 譲渡人は、譲渡人の本契約に基づく義務又は第●条に定める譲渡人の表明及び保証の違反に起因又は関連して譲受人が損害、 損失又は費用等(合理的な範囲の弁護士費用を含む。以下「損害等」という。)を被った場合には、譲受人に対し、直ちにかかる損害等を補償する。 譲渡人が、譲渡日前に、譲受人に対し、表明及び保証の違反を構成する事実を開示し、譲受人が、当該違反事実を知り得ながら、本事業譲渡を実行した場合、 譲渡人は、譲受人に対し、表明保証義務を負わない。
2 譲受人は、譲受人の本契約に基づく義務の違反に起因又は関連して譲渡人が損害等を被った場合には、譲渡人に対し、直ちにかかる損害等を補償する。

他方で、譲受人としては例外なく、「譲渡人に契約違反があった場合は、譲渡人は、譲受人に損害を賠償する」と定めるのが有利です。

記載例

(補償)
1 譲渡人は、譲渡人の本契約に基づく義務又は第●条に定める譲渡人の表明及び保証の違反に起因又は関連して譲受人が損害、 損失又は費用等(合理的な範囲の弁護士費用を含む。以下「損害等」という。)を被った場合には、譲受人に対し、直ちにかかる損害等を補償する。
2 譲受人は、譲受人の本契約に基づく義務の違反に起因又は関連して譲渡人が損害等を被った場合には、譲渡人に対し、直ちにかかる損害等を補償する。

契約不適合責任

譲渡の対象資産に不具合があった場合は、譲受人が譲渡人に対して、契約不適合責任(民法562~565条、559条)などを追及できる可能性があります。

譲渡人としては、譲渡人が負う契約不適合責任を、「譲受人が譲渡日から6か月以内に通知した場合に修補する」と、 責任を負う期間を限定的に定めるのが有利です。また、民法の規定にかかわりなく、契約に定める契約不適合責任のみ負う旨を定めると安全です。

記載例

(補償)
1~2 略
3 本件事業に本契約の内容との重大な不適合があることが判明し、譲受人が本件譲渡日から起算して6ヶ月以内にこれを譲渡人に通知した場合、 譲渡人は、譲受人の要請に応じて、無償で当該不適合を修補しなければならない。
4 本件事業の本契約の内容との不適合に関して譲渡人が負う担保責任は前項に定めるものに限られる。

他方で、譲受人としては、 特に期間を限定せずに、「契約不適合がある場合、譲渡人は、無償で修補する」と定めると安全です。 また、商人間の売買においては、商法526条が適用されて、譲渡人が契約不適合責任を負う期間が限定されてしまう可能性があるので、 「商法526条の規定は適用されない」と定めると有利です。

更に、譲受人としては契約不適合があった場合、 譲受人は、損害賠償の請求のみならず、解除等もできると定めると有利です。

記載例

(補償)
1~2 略
3 対象サイトに本契約の内容との不適合がある場合、譲渡人は、譲受人の要請に応じて、無償で当該不適合を修補しなければならない。
4 本契約において商法第526条の規定は適用されない。
5 第3項の規定は、譲受人による本契約の他の規定に基づく解除又は損害賠償の請求を妨げない。

まとめ

サイト譲渡契約の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

参考文献

阿部・井窪・片山法律事務所「契約書作成の実務と書式 第2版」(有斐閣)

藤原総一郎ほか「M&Aの契約実務 第2版」(中央経済社)

滝川宜信「M&Aアライアンス契約書の作成と審査の実務」(民事法研究会)