社内規程の作成・見直し業務とは?
作り方や法改正対応などのポイントを解説!
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社内規程とは、会社が独自に定める社内ルールです。定款・就業規則・取締役会規程など、たくさんの種類があります。
社内規程の作成・見直し業務とは、会社の運営のためにこれらの規定を作成・管理し、必要に応じて更新することをいい、主に総務・法務部門などが担当します。社内規程には作成が必須のものや、法令で定めるべき内容が決められているものなどもあり、注意が必要です。社内規程の作成に当たっては、自社の目指すところや実務を反映すべきですので、その目的、種類、優先順位、作り方のポイントなど、留意すべき点などを押さえましょう。
また、社内規程は作成すれば終わりではありません。法改正や、会社組織・事業内容の変動など、社内規程の更新に必要な情報収集についても確認しましょう。この記事では、社内規程の作成や整備を検討する担当者のために、社内規程の作成方法や見直しのポイントを紹介します。
※この記事は、2023年2月7日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名等を次のように記載しています。
・育児介護休業法…育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
目次
社内規程とは
社内規程とは、会社が独自に定める社内ルールのことをいいます。
社内規程という言葉自体について法律の定義規定があるわけではありませんが、会社が独自に定める社内ルールの総称として、企業法務の現場ではよく使われる用語です。社内規程と一言でいってもさまざまな種類のものがあります。
社内規程はまず作成することが大事ですが、一度作成しさえすればよいというものではなく、作成した社内規程を見直すことも必要です。そして、社内規程ごとに、作成する目的や法的効力、作成や見直しのポイントや留意点が異なります。
社内規程の作成・見直しをする目的
社内規程を作成する目的、そして作成した社内規程を見直す目的を押さえましょう。
社内規程を作成する目的
まず、社内規程を作成する目的です。法務担当者の立場からすると、第一の目的は、法令を遵守して、コンプライアンスを意識した企業運営ができるようにすることにあります。
作成義務の有無
社内規程には法律上作成が義務付けられているものと、義務付けられていないものがあります。このうち、法律上作成が義務付けられているものについては、作成をしないことは法律違反に当たるわけですから、会社としては社内規程を作成するほかありません。
作成する義務があるということは、それぞれの規程ごとにその作成を義務付けた法律が実現しようとした権利、利益があります。社内規程を作成することによってこれらの権利、利益を実現できることになります。
業務の平準化・効率化
社内規程を作成することによって業務の平準化を図ることができます。
個々の社員ごとに独自の経験やノウハウに基づいて作業すると、その成果物の質や仕様にバラつきが生じてしまう恐れがあります。これに対し、社内規程という統一的なマニュアルを作成し共有することによって、社員全員が同じ質の同じ仕様の成果物を生み出すことができるようになります。
また、業務の効率化を実現できます。社内規程が作成されていれば経験やノウハウがなくても一定の質を備え、一定の仕様に沿った成果物を生み出すことができますから、個々の社員が独自に調べたり考えたりする時間、手間が削減でき、業務の効率化につながります。
社内規程の見直しをする目的
社内規程は一度作成して終わりではなく、見直しが必要です。見直しをする目的は、会社の業務内容や人員配置などは時間の経過とともに変わっていくため、過去に作成した社内規程と会社の実態がズレてくることがしばしばあり、社内規程を会社の最新の状態に合わせて修正するためです。
また、会社内部だけでなく、法律や条令、ガイドラインなども改正されます。社内規程をこれらの法令の改正に対応させ、常にコンプライアンスを意識した会社運営ができるようにすることが、社内規程見直しの目的になります。
社内規程の種類の例
一般に社内規程と呼ばれるものにはたくさんの種類があります。ここでは法務担当者が理解しておくべき代表的な社内規程をいくつかご紹介します。
定款
定款とは、会社の目的や商号、本店所在地など、会社運営の根幹について定めている、いわば「会社の憲法」とでもいうべき社内規程です。
株式会社の場合、会社を設立するには、発起人が定款を作成し、その全員がこれに署名または記名押印をする必要があります(会社法26条1項)。
株式会社の定款には、
① 目的
② 商号
③ 本店の所在地
④ 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
⑤ 発起人の氏名または名称および住所
を記載し、または記録しなければならないとされています(会社法27条)。
就業規則
就業規則とは、会社が従業員の労働条件等について統一的に定めた社内規程です。
従業員の労働条件等は、会社と個々の従業員との個別の雇用契約によって決まるのが原則です。ただし、従業員の労働条件は従業員間で共通していることも多く、統一的に取り決めた方が簡便です。
そこで、会社が一定の要件を満たした就業規則で労働条件等を定めた場合には、その就業規則の対象となる従業員に対しては、個別の合意をしなくても、就業規則で定めた労働条件等が雇用契約の内容になるものとされています(労働契約法7条)。
なお、常時10人以上の従業員がいる職場では、就業規則を作成し、監督官庁(労働基準監督署)に届け出ることが義務付けられています(労働基準法89条)。
取締役会規程
取締役会規程とは、取締役会の構成や招集、議事進行、決議、記録などを定めた社内規程のことをいいます。
取締役会規程については、法律上の定めがありません。ですから、取締役会規程を作成するかどうか、どのような内容を盛り込むかについてはそれぞれの会社に委ねられているといえます。もっとも、会社法などの法律や、定款の定めに従った取締役会規程を作成しておけば、取締役会を円滑に運営することができるようになります。
その他の規程の例
社内規程には、他にも次のようなものが作成されることが多いです。
まず、会社と従業員との労働条件や権利義務関係を定めるものとしては、賃金規程、賞与規程、育児介護休業規程、職務発明規程などがあります。これらは、就業規則の一部として作成されることが多いです。
次に、役員会等の円滑な運営のために作成されるものとしては、前記の取締役会規程のほかに、監査役会規程があります。
会社内外の職場環境を働きやすく良好なものにするためのものとしては、ハラスメント防止規程、内部通報規程、テレワーク勤務規程などがあります。
情報管理や経理処理に関するものとしては、個人情報管理規程、文書管理規程、経理規程などがあります。
社内規程の法的効力とは
社内規程は会社が独自に定める社内ルールの総称です。ですから、社内規程の効力はそれぞれの社内規程ごとに異なっています。ここでは、「法的効力があるか、ないか」、また「社内規程に違反した場合の対応」について確認しておきましょう。
法的効力がある社内規程の例
法的効力がある社内規程には、
✅ 社内規程の法的効力が法律上で直接定められているもの
✅ 社内規程の定めが契約の内容となる → 契約当事者に法的効力が及ぶもの
があります。
例えば、定款については、会社法が、
・定款の作成(会社法26条)
・記載事項(会社法27条~29条)
・認証(会社法30条)
・備え置きおよび閲覧(会社法31条)
について直接定めを置いています。
次に、就業規則については、会社が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、就業規則で定める労働条件が労働契約の内容になり、法的効力が生じます(労働契約法7条本文)。
ただし、労働契約において、従業員と会社が就業規則の内容と異なる労働条件を個別に合意していた部分については、就業規則で定める労働基準を上回っている限り、個別合意が優先されます(労働契約法7条ただし書)。
法的効力がない社内規程の例
法的効力がない社内規程は、権利義務に関しないものです。
例えば、経営理念、社是、社訓、従業員の心構えや、作業マニュアルなどです。もっとも、経営理念や社是、社訓は会社が目指す方向性を示すものですから、従業員がこれらに合致した行動をしているかどうかは、人事評価において考慮されることはあるでしょう。
例外として、従業員の心構えが服務規律として就業規則に組み込まれている場合には、就業規則としての法的効力を持ちます。
社内規程違反への対応
社内規程に違反した場合への対応はどう考えるべきでしょうか。
就業規則の場合、会社が従業員との間で、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約を締結したとしても(例えば、就業規則で試用期間を3カ月としているところ、個別に6カ月とするなど)、その部分は無効になります。この場合、無効となった部分は、就業規則で定める基準まで引き上げられます(労働契約法12条)。
一方、従業員側が就業規則の定めに違反したときは、就業規則の定めに従って、懲戒処分などの対象になる場合があります。
ただし、違反の内容に対して処分が不当に重く、相当性がない場合、処分は無効と判断されることがあるため、就業規則を定める場合は、違反の内容に対して処分が相当といえるかを確認すべきでしょう。
社内規程の作成(書き方)のポイント・留意点
社内規程の作成(書き方)のポイント・留意点を、作成の流れに沿って確認しましょう。
作成する優先順位を押さえる
まず、社内規程は会社が独自に定める社内ルールであり、種類もたくさんあります。もちろん、社内ルールが整っているに越したことはないのですが、あらゆる社内規程を一度にすべて作成することは困難なため、作成する優先順位を押さえる必要があります。
優先順位としては、作成の法的義務があるものを優先しましょう。
例えば、常時10人以上の従業員がいる職場では、就業規則の作成が義務付けられています(労働基準法89条)。次に、全体から個別へ、総則から細則へと、社内規程を作成する範囲を広げていきましょう。
作成すべき社内規程を洗い出す
作成すべき社内規定を洗い出すに当たっては、以下の点を考慮しましょう。
✅ 会社の規模、機関設計(取締役会設置会社であるか否か、監査役会設置会社であるか否かなど)
✅ 従業員の雇用形態(正社員のみか、パート、アルバイト従業員がいるかなど)
✅ 従業員の勤務形態(全員出社する職場か、テレワークを導入しているかなど)
業務の平準化・効率化のための社内規程の作成であれば、各部門の代表者からのヒアリングが効果的です。社内で仕事の手順が属人的になっている業務や社内でリスクとなっている要因をピックアップしていきましょう。各部門内にいる人間にしか分からない問題や非効率性を把握することが、作成すべき社内規程のヒントになります。
責任者を決定する・作成フローを決める
社内規程は、法的な作成権限・作成義務が取締役会や代表取締役にある場合であっても、実際の作成フローにおいては、まずは法務担当者が草案を作成し、草案を作成権限者が確認し、適宜修正をしながら進めていくというのが一般的でしょう。
法務担当者が複数名いる会社であれば、社内規程の作成に関する責任者を選出して、作成権限者との連絡窓口、他の法務担当者への指示、進捗管理などを担うようにすると、その後の作成がスムーズです。
草案を作成・共有する
モデル規定・ひな形を参考にする方法
実際に社内規程の草案を作成するに当たって、官公庁が発表しているモデル規程がある場合には、これを参考にするとよいでしょう。
例えば、就業規則であれば厚生労働省が「モデル就業規則」を、職務発明規程であれば特許庁が「中小企業向け職務発明規程ひな形」を公表しています。
書籍やウェブサイトに掲載されている書式・ひな形などを参考にするのもよいでしょう。そのほか、他社の社内規程を入手できる場合には、それを参考にすることも考えられます。
このように、既存の規程や書式を参考にする場合には、それらが自社に合っているか、自社で採り入れる場合には修正すべき点がないか、という観点での確認が不可欠です。
弁護士・社労士などに作成を依頼する方法
また、弁護士や社会保険労務士などの専門家に社内規程の作成を依頼する、アウトソーシングも1つの方法です。
その場合には、社内規程の作成に関する責任者から専門家に対して、会社の規模や機関設計、従業員の雇用形態や勤務形態といった情報を伝えるとともに、会社がなぜその社内規程を作成しようとしているのかを伝えるとよいでしょう。
内容確認の社内手続き
自社で作成した場合も、専門家にアウトソーシングした場合も、作成した規程の草案は各部署と共有し、問題がないか検討を行いましょう。
なお、就業規則を作成する場合は、過半数代表者の意見を聴かなければなりません(労働基準法90条1項)。
法律に抵触しないようにする
言うまでもないことですが、社内規程は法律に抵触しないように作成しなければなりません。
会社法、労働基準法、育児介護休業法、個人情報保護法などの社内規程に関連する各種法令に違反すると、強行規定に違反した場合には当該規程が無効となってしまうことがあります。また、会社が行政処分を受けるなどのおそれもあります。
各種法令への抵触の有無の確認は、法務担当者にとって重要な業務であり、社内である程度の確認検討が済んだ段階で、必要に応じて、弁護士へ最終確認を依頼することも大切です。
監督官庁へ届け出る
社内規程は会社内で作成すれば足りるものと、監督官庁への届け出が必要なものがあります。
届け出が必要な社内規程の代表例は就業規則です。常時10人以上の従業員がいる職場では、就業規則を作成した上で、監督官庁(労働基準監督署)に届け出ることが義務付けられています(労働基準法89条)。
届け出をする場合には、過半数代表者の意見を記した書面を添付しなければなりません(労働基準法90条2項)。
従業員に周知する
社内規程が作成できたら、従業員に周知をします。
就業規則については、従業員に周知することが法律上の要件として定められています(労働契約法7条)。その他の社内規程についても、業務の平準化・効率化といった社内規程作成の目的を実現するためには、従業員が社内規程の内容を知っていることが大前提になります。
社内規程が完成したら、
✅ 規程集を作成して従業員に配布する
✅ 閲覧できる場所へ備え置く
✅ 社内ポータルサイトへ掲載する
などの方法で周知しましょう。
従業員が社内規程の内容を十分に理解できるようにするためにも、常時(見ようと思えばいつでも)従業員が社内規程を確認できる状態にしておきましょう。
社内規程の見直しのポイント・留意点
社内規程は一度作成して終わりではありません。定期的に見直しをする必要があります。そこで、見直しのポイント・留意点も押さえておきましょう。
社内規程は定期的な点検を行う
社内規程は法律や時代の変化に会わせて、適宜変えていく必要があります。
法務担当者としては、社内規程ごとに点検の時期を決めておくとよいでしょう。
例えば、「この規程は年1回、毎年〇月に」、「この規程は半年に1回」など、定期的に社内規程を点検することが望ましいです。
各規程間の整合性を保つ
社内規程はたくさんの種類があるため一度にすべての社内規程を作成することはできず、優先順位を考慮しながら順番に作成されていくのが通常です。
そうすると、先に作成した社内規程と、後に作成した社内規程との間で内容が矛盾してしまう場合があります。そのようなことがないように、各規程間の整合性が保てているかどうかを確認する必要があります。
また、「うっかり見落として内容の矛盾する社内規程を作成してしまった」という場合だけでなく、後に作成する社内規程の検討段階で、より使いやすく、より分かりやすい規程の条項が思い浮かぶこともあるでしょう。その場合には、前に作成した社内規程も修正を検討しましょう。
関連する法改正を確認する
社内規程に関連する法令が改正され、規程が法律に適合しなくなってしまうことがあります。特に、会社法、労働基準法、育児介護休業法、個人情報保護法など、改正が社内規程に関係することの多い法令は、よくチェックしましょう。
法令の改正情報は、実務上の影響が大きいものであれば新聞やニュースで報道されます。また、所管の省庁が改正の趣旨や新旧対照表を公表していることも多いです。
法務担当者向けのウェブメディアなどでは、その年に法改正が予定されている法令をまとめてくれているものもありますので参考にするとよいです。
社内規程が社内の実態に合っているか確認する
社内規程を作った当初は会社の機関設計や従業員の雇用形態なども実態に合っていたとしても、年月が経って社内規程と実態がズレてしまうことがあります。
例えば、当初は従業員は正社員だけだったので正社員対象の就業規則を作成していたけれども、年月が経って正社員は減り、むしろアルバイト従業員が中心になっている、という場合には、アルバイト従業員対象の就業規則を作成するなどして実態に合わせる必要があります。
社外の事情で実態が変わることもあります。身近な例でいえば、新型コロナウイルスの流行によって、テレワーク、在宅勤務を導入する会社が増えました。
多くの会社の法務担当者が、「テレワークを認めるか」、「業務指示と報告はどのように行うか」、「労働時間をどのように把握するか」等について頭を悩ませたことでしょう。社内で統一したルールを定めるため、「テレワーク勤務規程」を定めるニーズが増しています。
このように社内外の環境の変化に合わせて、社内規程を見直したり、新たに作成したりする必要があるのです。
この記事のまとめ
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