傷病休暇とは?
制定するメリットや給与の扱い、
導入手順を分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

傷病休暇は特別休暇(法定外休暇)の一種で、従業員が療養に専念すること等を目的に、会社が任意で設定することができる休暇です。

・傷病休暇と休職では想定される療養期間の長さが異なります。
・傷病休暇を導入する際は、手続きや適用要件などを定め、就業規則に明文化した上で、従業員へ周知するという手順を踏むことが基本です。
・傷病休暇を無給とする場合、取得時に健康保険の「傷病手当金」の活用を従業員に案内することが推奨されます。

本記事では、傷病休暇の概要や導入のメリット、導入手順などを解説します。

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傷病休暇とはどのような制度で、導入によってどういったメリットがあるのでしょうか。

ムートン

傷病休暇は会社が独自に定められる福利厚生制度です。運用時には業務の引き継ぎ体制や復職サポート体制の構築などが重要です。

※この記事は、2025年10月20日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

傷病休暇とは

まずは傷病休暇の定義や、同じく療養時に利用する機会のある休職、傷病時に発生しやすい欠勤との違いを解説します。

傷病休暇は特別休暇の一種

傷病休暇とは、従業員が業務外の病気やケガで働けなくなった際に利用できる休暇です。企業が任意で設ける制度であり、ルールは自由に設定できます。

労働基準法で取得が義務付けられている年次有給休暇(法定休暇)とは異なり、企業の福利厚生の一環として提供される「法定外休暇(特別休暇)」のひとつです。

根拠となる法律がないため、期間や給与の有無、取得条件などは企業の就業規則で決定されます。休暇は法律上、就業規則への記載が必須となる「絶対的記載事項」です。そのため、傷病休暇を制定する場合は、就業規則に記載する必要があります。

休職との違い

傷病の療養のために仕事を休む制度のひとつに「休職」があります。傷病休暇と休職はどちらも会社が任意で定める制度です。これらの違いは、想定される療養期間の長さです。傷病休暇はインフルエンザや比較的軽い怪我など、数日から数週間程度の短期的な療養を想定しています。

一方、休職はうつ病などの精神疾患やがん治療のように、数カ月から1年以上にわたる長期間の療養が必要な場合に適用されるのが一般的です。

どちらの制度も設けている場合は「傷病による欠勤が一定期間を超えた場合に休職を命じる」というように、期間によって取り扱いを区分するのが望ましいです。従業員にどちらを推奨するか判断に迷う際は、医師から指示された療養期間なども参考にします。

欠勤との違い

傷病休暇と欠勤の違いは「会社からの承認の有無」です。傷病休暇は、就業規則に定められたルールに基づき、医師の診断書などを提出して正式な手続きを経て会社から承認を得て休みます。

対して欠勤は、従業員が本来労働義務のある日に、個人的な事情等により会社が定めた手続きを踏まずに休むことや、年次有給休暇を全て消化した後に休む場合などが挙げられます。病気になった際に有給休暇がないものの、休まざるを得ない場合の病欠などが当てはまります。従業員には労働契約上「労務提供の義務」があり、上記いずれの場合でもその義務を果たしていないことになるため「労働契約上の義務違反」と見なされます。

有給休暇との違い

傷病休暇と有給休暇の違いは、企業に休暇を与える義務があるかどうかと給与の扱いです。有給休暇は法律で従業員に付与することが定められています。さらに、年10日以上付与される従業員に対して、年5日以上確実に取得させる義務もあります。もし年5日に満たない場合、会社は時季を指定して不足分を必ず取得させる必要があります。また、休んだ日も通常どおりの賃金が支払われます。

一方、傷病休暇は会社が独自に定めたものであり、取得義務はありません。また、給与の扱いも会社で自由に決定できるため、一部支給や無給とすることも可能です。

無給の傷病休暇を導入している場合、従業員自身の生活が立ち行かなくなることのないよう、まず給与が全額保障される有給休暇を優先して消化し、それを使い切ってもなお療養が必要な場合に、傷病休暇を利用するよう提案することが一般的です。

傷病休暇の種類

傷病休暇の種類は、以下の2つに分かれます。

  • 私傷病休暇(私生活における傷病に対する休暇)
  • 公傷病休暇(労災による傷病に対する休暇)

本記事で解説する「傷病休暇」とは、基本的に「私傷病休暇」を指します。業務や通勤が原因の「公傷病(労働災害)」は、労働基準法とは異なる法制度で扱われ、補償内容も異なるため、明確に区別する必要があります。

私傷病休暇

私傷病休暇とは、業務とは直接関係のない、私生活における病気やケガを理由に会社を休むための休暇制度です。例えば、休日のスポーツで負ったケガ、インフルエンザやコロナウイルスへの感染、あるいは家庭の事情に関するストレスに起因するうつ病などの精神疾患が、私傷病に該当します。

前述のとおり、私傷病休暇の取得期間や給与は会社で決められるため、従業員にもしものことがあったときにためらわずに利用できる制度にしておくのが望ましいです。無給とする際は、後述の傷病手当金の活用を勧めることを推奨します。

公傷病休暇

公傷病休暇とは、仕事中や通勤の途中で発生した病気やケガ、業務によるメンタル不調が原因で療養が必要な場合に適用される休業のことで、会社が独自に制定する傷病休暇とは異なる制度です。公傷病は正式名称を「労働災害(労災)」といい、労働者災害補償保険法(労災保険法)や労働基準法といった法律により補償が定められています。

治療費は全額労災保険から給付され、休業4日目以降は所得補償として「休業(補償)給付」が支給されます。休業(補償)給付は以下のように、合計で賃金の80%相当が支給されるものです。

  • 給付基礎日額の60%+特別支給金20%
    ※給付基礎日額:労働基準法における平均賃金(賃金締切日以前3カ月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で割った1日あたりの賃金額)に相当する額

なお、待期期間は労災保険からの支給がないため、業務災害による傷病の場合は、事業主が労働基準法に基づき休業補償(平均賃金の60%)を行う必要があります。工場での作業中の負傷や、営業活動中の交通事故、会社からの帰宅途中の転倒による骨折などは、労働災害に該当します。

就業規則で規定すべき傷病休暇のルール

傷病休暇制度を導入する場合は、就業規則で規定する必要があります。トラブルを防ぎ、従業員が安心して療養に専念するためにも、誰が読んでも解釈に迷わない明確な運用ルールを規定することが必要です。

例えば、対象者は「勤続1年以上の従業員」と設定したり、申請手続きにおいて「医師の診断書の提出」を義務付けたりといった具合です。給与の取り扱いや、社会保険料の徴収方法などの詳細まで記載しておけば、就業規則を読んだだけで傷病休暇制度の全容を理解できます。

ほかの休暇制度を参考に、自社の実情にあった休暇制度を作成するのが重要です。

傷病休暇中の給与や社会保険料の扱い

傷病休暇を導入する際は、休暇中の給与と社会保険料の扱いについても、ルールを決めておく必要があります。休暇中の給与・社会保険料の扱いについて解説します。

給与の扱い

傷病による傷病休暇中の給与については、法的な支払い義務はありません。「ノーワーク・ノーペイの原則(働いていない時間に対する賃金は支払われない)」に基づくもので、法律で定められた制度ではない傷病休暇中の給与をどうするかは、各企業の就業規則の定めに委ねられています

ただし、福利厚生が手厚い企業の中には「最初の3カ月は給与の6割を支給する」といった独自の規定を設けている場合もあります。一部の給与を負担する場合は傷病休暇の活用を、無給とする場合は有給休暇の取得を優先させ、それでも完治しない場合に傷病休暇の利用を勧めるのが望ましいです。

社会保険料の扱い

傷病休暇を取得し、給与の支払いが無給になったとしても、健康保険料・厚生年金保険料などの社会保険の支払いは免除されません。会社に在籍している限り、社会保険の被保険者資格は継続するため、従業員も会社も保険料を負担します。

従業員の保険料は通常給与からの天引きですが、無給の場合は天引きができません。そのため、一時的に会社で全額立て替えたり、従業員に指定口座へ振り込んでもらったりするなどの方法で徴収する必要があります。

トラブルにならないよう、徴収方法や振込期日、未納時の対応などを就業規則に明記しておくのが望ましいです。

傷病休暇中に利用できる「傷病手当金」

傷病休暇中には、給与の代わりに傷病手当金を受け取れる場合があります。傷病手当金の概要や受給要件、似たような制度である「傷病手当」との違いを解説します。

傷病手当金の概要

傷病手当金とは、従業員が加入している健康保険から支給される公的な所得保障制度です。業務外の病気やケガが原因で働くことができず、会社から給与が受け取れない場合に、従業員とその家族の生活を支えるのを目的としています。

支給額(日額)の目安は、以下のとおりです。

  • 支給開始日以前の継続した12カ月間の各月の標準報酬月額を平均した額(※)÷30日×2/3
    • ※12カ月に満たない場合は次のいずれか低い額を使用して計算
      ①支給開始日の属する月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額の平均
      ②標準報酬月額の平均値
       30万円:支給開始日が令和7年3月31日以前の場合
       32万円:支給開始日が令和7年4月1日以降の場合

支給期間は、支給開始から通算で1年6カ月です。

傷病手当金の受給要件

傷病手当金を受給するためには、以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。

  • 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
  • 仕事に就くことができないこと
  • 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
  • 休業した期間について給与の支払いがないこと(給与の支払いがある場合は「傷病手当金>給与」であること)

とくに重要なのは「連続する3日間」です。この待期期間をクリアして、4日目以降も休業した場合に、手当の支給が始まります。待期期間には有給休暇や土日・祝日も含まれるため、給与の有無は問いません。

また、もし会社が給与を支払っていても、その額が傷病手当金の額より少ない場合は、差額分が支給されます。

傷病手当との違い

傷病手当金と似た制度に「傷病手当」がありますが、それぞれ制度や対象が異なります。傷病手当金は健康保険の被保険者が、在職中に病気やケガをした際の生活を保障する制度です。

一方、傷病手当は雇用保険の基本手当の受給資格者が、求職活動中に病気やケガになった際の生活を保障する制度です。

それぞれ支給対象となる公的保険やルールが異なるため、混同しないよう注意してください。

傷病休暇制度を設定するメリット

傷病休暇制度を導入するメリットは、以下の3つです。

  • 従業員の雇用を維持できる
  • 人材の流出を防げる
  • 企業イメージが向上する

傷病休暇制度があれば福利厚生が充実し、働きやすい環境や企業のイメージアップなどが期待できます。それぞれのメリットを解説します。

従業員の雇用を維持できる

傷病休暇制度があれば、従業員が予期せぬ病気やケガで一時的に働けなくなった場合でも、従業員の雇用を維持しやすくなります

長期療養が必要な従業員は、収入面の不安や会社への負い目から、退職に追い込まれる可能性があります。しかし傷病休暇制度があれば、傷病手当金を受給しつつ療養期間中の雇用の保障が得られ、従業員は安心して治療に専念できます。

新たな人材を採用・育成するコストも最小限に留められるため、会社の財政や組織全体の安定性にも寄与します。

人材の流出を防げる

従業員の万が一を支える傷病休暇制度を整備することは、従業員の会社への愛着や貢献意欲を高め、優秀な人材の定着を促し離職を防げます

従業員にとって、会社が自身の健康や生活を考えてくれていることは、信頼や帰属意識につながります。長く安心して働ける風土があれば、人材流出も少なくなる可能性があります。

傷病休暇の規定は、人材流出や企業の競争力維持のための人材投資のひとつといえます。

企業イメージが向上する

傷病休暇制度を整備し「従業員を大切にする」という姿勢を社内外に示せば、企業のイメージ向上が期待できます。企業のイメージアップは採用活動や企業の社会評価において好影響をもたらし、優秀な人材の採用やより大きな取引の成立などを実現できる可能性があるのです。

「働きやすさ」や「企業の価値観」が会社選びの基軸となる現代においては、福利厚生制度の充実は重要な要素です。傷病休暇をはじめとした福利厚生の充実は、企業が従業員の心身の健康に配慮していることの証明となり、採用市場における魅力や競争力アップが見込めます。

傷病休暇制度導入の手順

傷病休暇制度を導入する際は、以下の手順で手続きを進めます。

  1. 取得ルールや提出書類などを設定する
  2. 就業規則を変更して労働基準監督署に届け出る
  3. 従業員に周知する
  4. 復職への支援体制を整える

それぞれについて詳しく解説します。

1.取得ルールや提出書類などを設定する

傷病休暇制度を導入する際は、まず取得ルールや提出書類などを設定します。以下のような項目について、詳細を決定してください。

  • 対象となる従業員
  • 休暇を取得できる期間
  • 申請の仕方
  • 給料・社会保険料の扱い
    など

ルールが曖昧なまま制度を始めてしまうと、申請者ごとに対応が異なったり、人事担当者が判断に迷ったりするなど、現場の混乱や従業員間の不公平感を生みます。

社会保険労務士や弁護士などに監修してもらいながら、詳細でわかりやすいルールを決めるのが望ましいです。

2.就業規則を変更して労働基準監督署に届け出る

設計した傷病休暇のルールは就業規則に明記し、管轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。就業規則に記載して適切な手続きを踏むことで、制度に法的な効力が生まれ、会社と従業員の間の正式な労働条件となります。手続きを怠ると、制度が無効となったり、法令違反を問われたりするリスクがあるため、注意が必要です。

常時10人以上の労働者を使用する事業場では、まず変更後の就業規則案を労働組合または従業員の過半数を代表する者に提示し、意見を聴取した上で意見書を作成してもらいます。その後、「変更届」「意見書」「変更後の就業規則」の3点をセットにして労働基準監督署へ届け出ます。

手続きに不安がある場合は、引き続き社会保険労務士に相談しながら進めることを推奨します。

3.従業員に周知する

完成した休暇制度は、従業員に周知する必要があります。手厚い制度を導入しても、従業員がその存在を知らなかったり、申請方法がわからなかったりすれば、誰も利用できません。いざというときの支援制度があることを知ってもらうことで、従業員全員が安心して働けます。

社内ポータルサイトへの掲載や管理職研修などを定期的に行い、社員に制度を広く知ってもらうのが効果的です。新入社員については、研修時に説明すると効果的です。

4.復職への支援体制を整える

傷病休暇制度をつくった後は、復職への支援体制の構築も重要です。従業員は傷病休暇を経て、職場に復帰します。復帰に向けた支援体制が構築されていれば、本人の心身負担が少なくなり、スムーズに仕事へ戻れます。

主治医の診断書をもとに産業医や上司との面談を設定し、会社が復職の可否を判断します。復帰直後は時短勤務や業務内容の軽減などでフォローすると、従業員も安心です。

再発防止のためにサポートすることで、従業員がより長く安心して働けるようになります。

傷病休暇を導入する際の注意点

傷病休暇を導入する際は、以下の3点に注意が必要です。

  • 臨時職員の採用を検討する
  • 業務の引き継ぎ体制を整える
  • 復職へのサポートを徹底する

従業員が休暇中の現場や、残る職員のサポートは、企業の生産性や業績にも直結します。従業員も現場も支障なく業務を進められる仕組みづくりが必要です。

臨時職員の採用を検討する

派遣社員や業務委託職員の採用を検討するなどし、従業員の突然の長期休暇に対応できる組織づくりを行っておくことが望ましいです。

人員が少ない部署では、ひとりの欠員が組織全体の生産性を低下させるリスクがあります。その結果、従業員の業務負荷が増えれば、さらなる欠員が出る可能性も考えられます。

業務の引き継ぎ体制を整える

業務の引き継ぎ体制を整えておかないと、傷病休暇の利用は増えていきません。特定の人にしか内容がわからない業務がある場合、休暇を取得していない従業員の業務が滞り、事業継続に支障をきたす可能性があるからです。

十分な引き継ぎができない状況だと、休む従業員にとっても会社に迷惑をかけてしまうストレスが消えず、回復に専念できません。

部署内で情報を適切に共有し、業務はマニュアル化しておくと、引き継ぎも短時間で済み、業務も停滞しません。従業員の傷病休暇が、組織の効率化を図るきっかけになる可能性もあります。

復職へのサポートを徹底する

復職へのサポートを徹底すれば、再発や離職の防止につながります

長期療養後の復職直後は、本人が思う以上に体力や集中力が低下しています。とくに精神疾患の際は、適切な支援なく以前と同じ業務に戻ると、プレッシャーから症状が再発し、再休職や退職に至るケースも考えられます

主治医の診断書や産業医の面談をもとに試し出勤(リハビリ出勤)をさせたり定期的にフォローアップしたりするなど、職場全体で復帰を支えるのが重要です。

また、経済的不安が復職への足かせになる可能性もあるため、無給の傷病休暇であれば、前述の傷病手当金の活用を勧奨します。

ムートン

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参考文献

厚生労働省「休業(補償)等給付・傷病(補償)等年金の請求手続」

全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」

監修者

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遠藤良介 社会保険労務士(愛知社労士会所属)
Reメンバー労務オフィス
労務相談、社会保険・労働保険手続き、社内規定類作成、ライフプランニング相談ほか