立ち退き料とは?
支払う理由・金額相場・発生しないケース・
立ち退きの手続きなどを分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
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「立ち退き料」とは、賃貸物件の貸主が借主に対して立ち退きを求める際に支払う金銭です。
借地借家法が適用される借地契約または建物賃貸借契約の更新を貸主が拒絶するためには、正当な事由が必要です。
正当な事由の有無を判断するに当たっては、貸主の借主に対する立ち退き料の申出を考慮するものとされています。そのため、貸主が借主に立ち退きを求める際には、立ち退き料の支払いが事実上必須となっています。ただし、立ち退き料を精算しない旨を合意した場合、契約が債務不履行解除された場合、定期契約の期間が満了した場合などには、立ち退き料は発生しません。
立ち退き料の金額相場は、居住用物件で賃料の6カ月分から12カ月分程度、オフィス用物件で賃料の2年分から4年分程度、店舗用物件で賃料の5年分から10年分程度が標準的です。
貸主が借主に対して土地や建物からの立ち退きを求める際には、まず立ち退き料を提示した上で交渉を行うのが一般的です。立ち退き交渉がまとまらなければ、調停や訴訟によって解決を図ります。
この記事では立ち退き料について、支払う理由・金額相場・発生しないケース・立ち退きの手続きなどを解説します。
※この記事は、2024年9月13日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
立ち退き料とは
「立ち退き料」とは、賃貸物件の貸主が借主に対して立ち退きを求める際に支払う金銭です。
貸主都合で立ち退きを求めるに当たっては、多くのケースにおいて借主の同意を得る必要があります。穏便に立ち退いてもらうためには、借主が納得できる金額の立ち退き料を支払うことが求められます。
立ち退き料の支払いが必要になる理由
貸主が借主に対して、契約期間満了時に賃貸借契約の更新を拒絶し、借主を立ち退かせるためには、原則として立ち退き料を支払う必要があります。
借地借家法の規定により、借主の権利が強力に保護されているためです。
立ち退き料に関する借地借家法の規定
契約期間が満了した賃貸借契約を更新するかどうかは、当事者が自由に判断できるのが原則です。
しかし、建物所有目的の土地および建物については、借主が生活や事業の拠点として用いるケースが多いことを考慮して、借地借家法により借主の権利が強力に保護されています。
その一環として借地借家法では、建物所有目的の土地および建物につき、貸主による契約の更新拒絶を以下の規定によって制限しています。
借地借家法
(借地契約の更新請求等)
第5条 借地権の存続期間が満了する場合において、借地権者が契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、前条の規定によるもののほか、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、この限りでない。
2・3 略(借地契約の更新拒絶の要件)
第6条 前条の異議は、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。以下この条において同じ。)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができない。(建物賃貸借契約の更新等)
第26条 建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の1年前から6月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
2・3 略(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第28条 建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
上記の各規定により、建物所有目的の土地および建物については、正当の事由があると認められる場合でない限り、貸主は賃貸借契約の更新を拒絶することができません。
正当の事由があるかどうかを判断する際の考慮要素の一つとして、立ち退き料の申出が挙げられています。実務上は、貸主の都合で借主に立ち退きを求める際には、立ち退き料の支払いが必須となっている状況です。
立ち退きを求めることができる「正当の事由」の具体例
建物所有目的の土地または建物につき、貸主が契約更新を拒絶して借主に立ち退きを求めることができる「正当の事由」の有無は、以下の要素を総合的に考慮して判断されます。
- 正当の事由の有無を判断する際の考慮要素
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・貸主、借主の双方が土地または建物の使用を必要とする事情
・土地または建物に関する従前の経過
・土地または建物の利用状況
・建物の現況
・貸主による立ち退き料の申出
例えば以下のような事情があれば、貸主による立ち退き請求が認められる可能性が高いでしょう。
- 正当の事由の具体例
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・借主が建物を長期間にわたって使用していない反面、貸主側においてその建物(または敷地)を使用する必要性が高まっている。
・建物の老朽化が著しく、安全性の観点から早急に改修または建て替えをする必要がある。
・貸主が借主に対して、立ち退きによる借主の損害を十分に上回るだけの立ち退き料を提示した。
なお、借地借家法上の制限が適用される賃貸借契約の更新拒絶に当たって、立ち退き料の支払いが一切免除されることはほとんどありません。貸主は基本的に、まとまった額の立ち退き料を支払うことが求められます。
再開発などのケースでは地主に立ち退き料を支払う
土地や建物の賃貸借契約の更新を拒絶する場面のほか、再開発などによって地主に土地の明渡し(譲渡)を求めるケースにおいても、立ち退き料が問題になることがあります(=いわゆる「地上げ」)。
地上げの場面では、再開発等を行う自治体や事業者が、地主に対して立ち退き料を支払います。この場合の立ち退き料の金額は、原則として再開発事業者等と地主の間の交渉によって決まります。
ただし、土地収用法に基づいて土地が収用された場合は、同法の規定に基づいて補償金が支払われます。
立ち退き料が発生しないケース
建物所有目的の土地や建物の賃貸借契約を貸主が解除する場合でも、以下のようなケースでは、借主に対して立ち退き料を支払う必要がありません。
① 立ち退き料を精算しない旨を合意した場合
② 契約が債務不履行解除された場合
③ 定期契約の期間が満了した場合
立ち退き料を精算しない旨を合意した場合
貸主と借主の間で、立ち退き料を精算せずに賃貸借契約を終了させることを合意した場合には、立ち退き料は発生しません。
特に借主の立場では、立ち退き料の支払いを受けたい場合には、貸主の言いなりになって賃貸借契約の終了合意書などに署名押印をしてはいけません。必ず立ち退き料を取り決めた上で、その金額が反映されていることを確認した場合に限り、終了合意書などの調印に応じましょう。
契約が債務不履行解除された場合
借主の契約違反(賃料不払い・用法違反・無断転貸など)により、貸主が賃貸借契約を債務不履行解除した場合には、立ち退き料は発生しません。
立ち退き料が発生するのは、賃貸借契約の期間満了に伴い、貸主が契約更新を拒絶する場合のみです。債務不履行解除は、立ち退き料の対象になりません。
定期契約の期間が満了した場合
借地借家法では、存続期間の延長がなく、一定期間に限定した土地や建物の賃貸借(=定期借地、定期建物賃貸借)が認められています。
定期借地契約や定期建物賃貸借契約は、期間満了によって更新されずに終了します。したがって、契約期間の満了に当たり、貸主が借主に対して立ち退き料を支払う必要はありません。
立ち退き料の金額相場
立ち退き料の金額相場は、物件の種類や用途によって異なります。
居住用物件の立ち退き料の相場
居住用物件(マンション・アパート・戸建住宅など)の立ち退き料は、賃料の6カ月分から12カ月分程度が標準的です。
居住用物件の借主は、近隣の別の物件へ引っ越せば、生活への大きな悪影響は生じません。そのため、オフィス用物件や店舗用物件に比べると、立ち退き料の金額は低く抑えられる傾向にあります。
オフィス用物件の立ち退き料の相場
オフィス用物件(事務所など)の立ち退き料は、賃料の2年分から4年分程度が標準的です。
事業用の事務所などは、居住用物件に比べて規模が大きいケースが多く、移転のコストも高くなりがちです。また、事業の本拠地を別の場所へ移さなければならないことの負担の大きさも無視できないので、比較的高額の立ち退き料が認められる傾向にあります。
店舗用物件の立ち退き料の相場
店舗用物件(飲食店、小売店など)の立ち退き料は、賃料の5年分から10年分程度が標準的です。
店舗用物件は、移転のコストが高くなりがちであることに加えて、移転すると顧客のほとんどが離れてしまうケースが多いです。立ち退きを強いられる借主の損害は非常に大きなものとなるので、かなり高額の立ち退き料が認められる傾向にあります。
所有地・持ち家の立ち退き料の相場(=地上げ)
所有地や持ち家を「地上げ」する場合には、所有者に同意してもらうため、その土地や建物の時価を上回る対価が提示されるケースが多いです。
具体的な金額は交渉次第ですが、時価の1.5倍から2倍程度の金額が提示されることも少なくありません。
貸主が借主に対して立ち退きを求めるための手続き
貸主が借主に対して、土地や建物からの立ち退きを求める際には、以下に挙げる手続きなどを行います。
① 立ち退き交渉
② 民事調停
③ 訴訟
立ち退き交渉
まずは、借主との間で立ち退き交渉を行うのが一般的です。
貸主としては、自ら物件を使用する必要性などを伝えた上で、適切な額の立ち退き料を提示し、借主に対して立ち退きへの同意を求めましょう。
借主が反発する場合は、借主の意見にも耳を傾けつつ、状況によっては立ち退き料を増額するなどして穏便な解決を目指しましょう。
民事調停
立ち退き交渉がまとまらないときは、民事調停を申し立てることが考えられます。
民事調停は、簡易裁判所において非公開で行われる紛争解決手続きです。中立である調停委員が、貸主と借主の双方の主張を公平に聞き取り、歩み寄りを促すなどして合意形成をサポートします。
民事調停のメリットは、中立の調停委員を介することにより、論点を整理した上で冷静な話し合いがしやすい点です。調停委員の客観的な意見を取り入れながら、適切な条件での立ち退きを実現しやすくなります。
ただし民事調停は、当事者が合意できなければ成立しません。合意の見込みがないと判断されれば、調停は不成立となります。
訴訟
交渉や調停では借主が立ち退きに応じない場合に、引き続き立ち退きを求めるためには、裁判所に訴訟を提起するほかありません。
訴訟は、裁判所の公開法廷で行われる紛争解決手続きです。
貸主は、借地借家法の規定に沿って、賃貸借契約の更新を拒絶する正当の事由があることを立証します。立ち退き料の金額も考慮されるので、事前に検討を行った上で、適切な額の立ち退き料を提案しましょう。
裁判所は、賃貸借契約の更新を拒絶する正当の事由があると認めた場合には、立ち退き料の支払いと引き換えに、借主に対して賃貸物件から立ち退くことを命ずる判決を言い渡します。
一審判決に対しては控訴、控訴審判決に対しては上告による不服申立てが認められており、控訴・上告の手続きを経て判決が確定します。
判決の確定後、借主がなお立ち退きを拒否する場合には、強制執行を申し立てて賃貸物件を強制的に明け渡させることができます。