退職代行を使われた場合の対応は?
企業の対処法や交渉の可否・
注意点などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「退職代行」とは、労働者が使用者に対して退職の意思を伝える際、第三者がその伝達を代行するサービスです。労働者が退職しようとする場合には、退職の意思を伝えるのが面倒である、または未払い残業代の請求などを併せて依頼したいといった理由で、退職代行サービスを利用することがあります。
退職代行サービスを利用することは労働者の自由であり、法律上の要件を満たしている限り、企業は労働者の退職を拒否できません。
無期雇用労働者の場合は、2週間前の通知で退職できることになっています。有期雇用労働者の場合は、期間満了に伴う退職を除いて退職を拒否できるのが原則ですが、やむを得ない事由があれば退職が可能とされている点に注意が必要です。退職代行サービスを通じて退職の意思を伝えられた企業は、まず労働者本人からの依頼であることと、退職に関する手続きやルールを確認しましょう。退職を拒否できない場合であれば退職代行業者に対して退職手続きなどを速やかに案内し、欠員については他の労働者の配置転換によってカバーしましょう。
この記事では、労働者に退職代行を使われた企業の対処法や注意点などを解説します。
※この記事は、2024年1月18日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
退職代行とは
「退職代行」とは、労働者が使用者に対して退職の意思を伝える際、第三者がその伝達を代行するサービスです。
退職代行業者は、労働者に代わりに使用者に対して連絡し、労働者の退職の意思を伝えます。使用者は退職代行業者に対して、退職に必要な手続きなどを案内し、労働者と直接やり取りすることなく退職が完了します。
退職代行サービスは、弁護士法などに違反しない限りは適法であり、退職代行サービスを利用することは労働者の自由です。
退職代行を使われる主な理由
労働者が退職代行サービスを使う理由としては、主に以下の2点が挙げられます。
① 退職の意思を伝えるのが面倒、気が進まないため
② 未払い残業代の請求などを併せて依頼するため
退職の意思を伝えるのが面倒、気が進まないため
上司などに対して退職の意思を伝えると、会社にとどまるように引き留められるかもしれません。また、後任者に対する引継ぎについて、会社からあれこれと指示を受けることもあり得ます。
このような退職に関するやり取りを、面倒に感じる労働者は少なくありません。会社に対して退職の意思を伝えるのが面倒、気が進まないと感じている労働者は、退職代行サービスを利用して会社とのやり取りを回避しようとすることがあります。
未払い残業代の請求などを併せて依頼するため
退職代行サービスの中でも、弁護士または弁護士法人が運営しているものは、未払い残業代の請求など会社とのトラブル解決にも対応することができます。
単に退職の意思を伝えるだけでなく、会社に対する未払い残業代請求などを併せて検討している労働者は、弁護士または弁護士法人が運営する退職代行サービスを利用する傾向にあります。
退職後に弁護士へ依頼するよりも、退職手続きの段階から弁護士に依頼した方が、ワンストップで対応してもらえて手間が省けるからです。
退職代行を通じた退職を、会社は拒否できるのか?
退職代行業者を通じて労働者が退職を通知してきた場合、会社が退職を拒否できるかどうかは、法律のルールに従って判断されます。
退職に関する法律上のルールは、無期雇用労働者(正社員)と有期雇用労働者(契約社員など)で異なります。
無期雇用労働者の場合は、原則として退職を拒否できません。これに対して有期雇用労働者の場合は、期間満了時を除き、原則として退職を拒否できます。
無期雇用労働者の場合|退職は拒否できない
無期雇用労働者は、使用者に対して2週間前に通知することで、雇用契約を解除できます(民法627条1項)。
民法
民法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第627条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。
2・3 略
このルールは、労働者自身が使用者に対して退職の意思を通知する場合も、退職代行業者を通じて通知する場合も変わりません。
したがって、退職日の2週間前に退職通知があった場合は、その通知が退職代行業者を通じたものであっても有効であり、使用者は無期雇用労働者の退職を拒否できません。
有期雇用労働者の場合|期間満了時を除き、原則として拒否できる
これに対して、有期雇用労働者については、2週間前の通知による退職が認められていません。したがって、契約期間が満了しない限り、有期雇用労働者は雇用契約を解除できないのが原則です。
ただし例外的に、やむを得ない事由がある場合に限って、有期雇用労働者の意思表示による雇用契約の解除が認められています(民法628条)。
民法
民法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
(やむを得ない事由による雇用の解除)
第628条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
やむを得ない事由による有期雇用契約が認められるのは、例えば労働者が健康上の理由により働けなくなった場合などです。有期雇用労働者から退職代行業者を通じて退職通知を受けた場合には、やむを得ない事由の有無を検討しましょう。
もっとも、退職の意思を示している労働者を無理やり働かせても、生産性が上がらないことなどが懸念されます。そのため企業としては、労働者の申出に応じて退職を受け入れ、合意退職とすることも検討すべきでしょう。
労働者に退職代行を使われた企業の対処法
労働者から退職代行業者を通じて退職通知を受けた場合、企業は以下の対応を行いましょう。
- 企業の対処法
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① 労働者本人が依頼したものかどうかを確認する
② 退職に関するルール・手続きを確認する
③ 退職届の提出・貸与品の返還などの手続きを案内する
④ 他の労働者の配置転換で欠員をカバーする
労働者本人が依頼したものかどうかを確認する
まずは退職代行業者に対して、労働者本人から依頼を受けたものであるかどうかを確認しましょう。労働者本人からの依頼でなければ退職通知は無効だからです。無効な退職通知を受けて労働者を退職扱いにしてしまうと、後で労働者との間でトラブルになってしまうおそれがあります。
労働者本人からの依頼であることを確認するには、委任状や本人の身分証明書の写しの提示を受ける方法が考えられます。
退職に関するルール・手続きを確認する
退職通知を適切に取り扱うためには、労働者の退職に関するルールと手続きを確認した上で対応することが大切です。
退職の要件については、前述の民法の規定を参照しましょう。無期雇用労働者については2週間前の通知、有期雇用労働者については期間満了時を除いてやむを得ない事由が要件とされています。
有期雇用労働者について退職の要件を満たさない場合には、合意退職扱いとするかどうかも併せて検討しましょう。
なお、退職通知の時期などについて、就業規則等で民法とは異なるルール(1カ月前の通知など)を定めている企業がありますが、そのような定めの法的有効性には疑義があります。企業としては、民法の規定に従って退職が認められることを想定して対応すべきです。
退職手続きについては、退職代行業者に対して案内することになります。就業規則などの社内規程や社会保険・雇用保険の取り扱いなどを確認して、必要な手続きをリストアップしましょう。
退職届の提出・貸与品の返還などの手続きを案内する
退職手続きの確認が済んだら、退職代行業者に対して必要な手続きを案内します。
退職することを明確化するため、退職届は必ず提出させましょう。会社から労働者に対して貸与している物品などがあれば、その返還の手続きについても案内しましょう。
また、以下の書類については退職する労働者に交付する必要があります。退職代行業者が労働者本人から受領権限を与えられている場合は、退職代行業者に対してこれらの書類を交付しましょう。
- 退職する労働者に交付する書類
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・源泉徴収票
・雇用保険被保険者票
・退職証明書(請求があった場合に限る)
・離職票
・健康保険資格喪失証明書
など
他の労働者の配置転換で欠員をカバーする
労働者の退職によって欠員が生じる場合は、他の労働者の配置転換などによって欠員をカバーします。欠員補充が必要となったポジションや業務の性質と、各労働者の能力・適性などを照らし合わせて、適材適所の配置転換を行いましょう。
退職代行を使われた場合の対応に関する注意点
退職代行業者を通じて労働者から退職を通知された企業は、その対応に当たって以下の各点に注意しましょう。
- 企業の対応に関する注意点
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① 退職時の有給休暇の消化について
② 退職代行の利用を理由とする懲戒処分はNG
③ 退職条件の交渉ができるのは、弁護士または弁護士法人のみ
退職時の有給休暇の消化について
退職しようとする労働者は、その前に有給休暇を取得できます。
使用者は労働者に対し、原則として労働者が請求する時季に有給休暇を与えなければなりません(労働基準法39条5項本文)。
請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合は、例外的に他の時季に与えることもできます(=時季変更権。同項但し書き)。しかし、退職が間近に迫った労働者については、時季変更権の行使は認められない可能性が高いです。
したがって、退職しようとする労働者が請求した場合には、請求された時季に有給休暇を与えましょう。
なお、有給休暇の取得は労働者の権利であるため、企業としては、請求されなければ有給休暇を取得させなくても構いません。
また、未消化の有給休暇を買い取る企業もありますが、有給休暇の買い取りは法律上の義務ではありません。
したがって、雇用契約や社内規程によって買い取り制度が設けられていない場合は、未消化の有給休暇を買い取らなくても構いません。この場合、残った有給休暇の権利は退職によって消滅します。
退職代行の利用を理由とする懲戒処分はNG
退職代行業者を通じて退職の意思を伝えることは、お世話になった企業に対する不義理と捉えられることもあります。企業側が労働者の対応を不誠実であると考え、懲戒処分などによって制裁を与えようとするケースもあるようです。
道義的・倫理的な考え方はさておき、退職代行サービスを利用することは労働者の自由であり、特に違法というわけではありません。したがって、労働者が退職代行サービスを利用したことは、企業が労働者に対して懲戒処分を行う理由にならない点に注意が必要です。
懲戒事由に該当しないにもかかわらず行われる懲戒処分や、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒処分は無効となります(=懲戒権の濫用。労働契約法15条)。無効な懲戒処分を行ってしまうと、後に労働者との間でトラブルに発展する可能性が高いので注意が必要です。
退職しようとする労働者に対して懲戒処分を行う際には、退職代行サービスを利用したこと以外に合理的な理由があるかどうかを慎重に検討しましょう。
退職条件の交渉ができるのは、弁護士または弁護士法人のみ
退職代行業者のうち、未払い残業代や退職金の支払いなど、退職条件についての交渉も代行できるのは弁護士または弁護士法人のみです。
弁護士または弁護士法人でない退職代行業者が、労働者本人に代わって退職条件の交渉を行うことは「非弁行為」に当たり、弁護士法違反に当たります(弁護士法72条)。
企業としては、労働者本人とのトラブルを回避するため、非弁行為をする退職代行業者との間で退職条件の交渉をすることは控えるべきです。
企業が退職代行業者から連絡を受けた際には、弁護士または弁護士法人であるかどうかを確認しましょう。弁護士または弁護士法人でない場合は、退職に関する連絡のみを行い、条件交渉については一切拒否しましょう。
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