取締役とは?
執行役員との違い・役割などの基本を
分かりやすく解説!

この記事を書いた人
アバター画像
弁護士法人NEX弁護士
2015年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。経済産業省知的財産政策室や同省新規事業創造推進室での勤務経験を活かし、知的財産関連法務、データ・AI関連法務、スタートアップ・新規事業支援等に従事している。
おすすめ資料を無料でダウンロードできます
法務必携!ポケット会社法重要用語集
この記事のまとめ

取締役とは、会社の業務執行を担当する機関で、株式会社では必ず設置しなければなりません。
取締役と一口にいっても、会社法上、代表取締役社外取締役業務執行取締役などが、実務上も、専務取締役常務取締役など、さまざまな名称の取締役が存在します。

この記事では「取締役」について、取締役の役割や責任などを分かりやすく解説します。

ヒー

わが社の取締役は、社長、副社長、専務と、…ええと、部長は違ったかも? 
それぞれの役割の違いも、実はよく分かりません。

ムートン

取締役の種類や役割は、会社法に定められているものとそうでないものがあります。取締役がどのような責任を負うかも重要ですね。順番に勉強していきましょう。

※この記事は、2023年1月12日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

取締役とは

取締役とは、株式会社が必ず設置しなければならない機関であり(会社法326条1項)、主に会社の業務執行を担当します(会社法348条1項)。

取締役は、取締役会を設置していない会社では1人いれば足りますが(会社法326条1項)、取締役会設置会社では3人以上選任することが必要です(会社法331条5項)。

執行役員との違い

執行役員とは、「取締役」や指名委員会等設置会社の「執行役」とは異なり、会社法上規定されている機関ではなく、会社内で任意に付与している役職という位置付けになります。
執行役員の選任・解任については、「支配人その他の重要な使用人の選任及び解任」(会社法362条4項3号)に当たると考えられますので、取締役会設置会社では、取締役会選任・解任をする必要があります(非取締役会設置会社では、取締役の過半数で決定する必要があります。会社法348条3項1号)。

ムートン

昨今は、意思決定の迅速化などの観点から、執行役員制度を導入する会社が増えています。

社長との違い

社長」も、会社法上規定されている機関ではなく、会社内で任意に付与している役職にすぎませんが、一般的には、会社法上の「代表取締役」が「社長」に当たることが多いです。代表取締役については、「代表取締役とは」で解説します。

取締役に関する肩書|専務取締役・常務取締役など

会社内では、同じ取締役の中でも、「専務取締役」、「常務取締役」、「(平)取締役」といった序列を付けることがよく行われています。会社内では、「(平)取締役よりも専務や常務の方が偉い」とされていますが、別途業務執行取締役(会社法363条1項2号)として選定されている場合を除き、会社法上における扱いは同じです。

取締役の役割

非取締役会設置会社における役割

非取締役会設置会社における取締役は、定款に別段の定めがある場合を除き、会社の業務執行を担当します(会社法348条1項)。「業務執行」には、①業務の決定(意思決定)と②業務の執行(実際の遂行)が含まれますが、取締役が2人以上いる場合は、原則として、①業務の決定は、取締役の過半数で行うこととなります(会社法348条2項)。
なお、一定の事項を除き、①業務の決定を各取締役に委任することもできます(会社法348条3項)。

また、原則として、各取締役は会社を代表しますが(会社法349条1項本文)、定款等で代表取締役を定めた場合は当該代表取締役が会社を代表することとなります(会社法349条1項ただし書・同条3項)。

取締役会設置会社における役割

取締役会設置会社では、取締役会が、

① 会社の業務執行の決定
② 取締役の職務の執行の監督
③ 代表取締役の選定・解職

といった役割を担い(会社法362条2項各号)、代表取締役業務執行取締役が会社の業務執行を担います(会社法363条1項)。
業務執行に携わらない取締役は、取締役会に出席すること等により、取締役会による前記①~③の役割や意思決定に関与するほか、代表取締役等による業務執行を監視する役割も担っていると考えられています。

取締役の選任

取締役の資格

以下の者は、取締役になることができません(会社法331条1項各号)。

① 法人(1号)
② 会社法等の規定に違反して刑に処せられ、その執行を終わりまたは執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者(3号)
③ ②以外の法令の規定に違反して禁固以上の刑に処せられ、その執行を終わるまでまたは執行を受けることがなくなるまでの者(執行猶予中の者は除く)(4号)

なお、公開会社(会社法2条5号)では、取締役を株主のみに制限することはできませんが、非公開会社であれば、取締役を株主のみに制限することも可能です(会社法331条2項)。

取締役の選任方法

普通決議による選任

取締役は、株主総会普通決議により選任されます(会社法329条1項・341条)。

取締役の選任・解任のための普通決議では、①議決権を行使できる株主議決権過半数(定款で3分の1以上の割合を定めることも可能)を有する株主が出席して、②出席した株主の議決権過半数(定款で過半数を上回る割合を定めることも可能)により決議を行います。

取締役候補者1人につき1個の議案があると考えられていますので、各取締役候補者について出席株主の議決権の過半数の賛成を得られれば取締役として選任されることとなります。

累積投票による選任

取締役の選任については、累積投票による選任制度(会社法342条)を活用することもできます。
累積投票による場合、各株主は保有株式数に当該株主総会で選任する取締役の数をかけた議決権を有し、当該議決権を1人の取締役に集中的に投票することもできますし、何人かの取締役に分散して投票することもできます(会社法342条3項)。そして、得票数の多い取締役候補者から取締役に選任されることとなります(同条4項)。
累積投票による取締役の選任制度は、少数派株主の意向を反映したい場合に有効な制度といえます。

取締役の任期

取締役の任期は、原則として2年です(選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで。会社法332条1項本文)。
上場企業では、任期を1年に設定している企業も多いです。
一方、非公開会社では、定款で、取締役の任期を10年まで伸長することが認められています(会社法332条2項)。

取締役の終任

取締役の終任事由

取締役は、

① 任期満了
② 死亡(会社法330条、民法653条1号)
③ 破産手続開始の決定(会社法330条、民法653条2号)
④ 後見開始の審判(会社法330条、民法653条3号)
⑤ 資格の喪失(会社法331条1項)
⑥ 辞任(会社法330条、民法651条1項)
⑦ 解任(会社法339条1項)

によって、終任退任)することとなります。

取締役の解任方法

取締役は、いつでも株主総会普通決議によって解任することができます(会社法339条1項・341条)。取締役の選任・解任のための普通決議については、「普通決議による選任  」を参照してください。
なお、累積投票で選任された取締役の解任は、株主総会特別決議による必要があります(会社法342条6項・309条2項7号)。
このように取締役はいつでも解任される可能性がありますが、解任された取締役は、解任について正当な理由がある場合を除き、会社に対して解任によって生じた損害(原則として、残存任期で得られるはずであった報酬相当額)の賠償を請求することができます(会社法339条2項)。

取締役と会社の関係

委任関係

取締役と会社とは委任関係に立ちますので(会社法330条)、取締役は会社に対し、善管注意義務(民法644条)を負っています。
また、取締役は、法令・定款・株主総会決議を遵守し、会社のために忠実に職務を行う義務(忠実義務)を負っています(会社法355条)。

ムートン

善管注意義務とは「善良なる管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務」の略称です。一般的に、善管注意義務と忠実義務の内容はほぼ変わらないとされており、どちらも「会社のため」に職務を行っているかがポイントです。

取締役の報酬

取締役が会社から受け取る報酬の額などについては、定款で定めるか、株主総会の普通決議によって定める必要があります(会社法361条1項)。
取締役は、報酬として、金銭を受け取る場合のほか、会社の株式新株予約権を受け取ることもあります(会社法361条1項各号参照)。
取締役の報酬を株主総会で決定する場合、実務上は、各取締役の個別の報酬額が株主総会で明らかとなってしまうことを避けるために、株主総会では、取締役全員の報酬の総額の上限のみを定め、個別の報酬額の決定を取締役会に委ねることが多いです。

取締役の義務と責任|善管注意義務・利益相反行為の禁止など

会社に対する義務と責任

任務懈怠責任

委任関係」に記載のとおり、取締役は、会社に対して善管注意義務(会社法330条、民法644条)、忠実義務(会社法355条)を負っています。
取締役がこれらの義務に違反したことによって会社に損害を与えた場合、取締役は会社に対してその損害を賠償する責任を負います(任務懈怠責任。会社法423条1項)。
取締役に義務違反があった場合、会社が取締役の任務懈怠責任を追及することが原則ですが、一定の場合は、株主が当該取締役に対し、責任追及などの訴えを提起することも可能です(株主代表訴訟。会社法847条)。

なお、取締役の任務懈怠責任については、

・株主全員の同意による免除(会社法424条)
・株主総会の特別決議による一部免除(会社法425条)
・定款の定めに基づく取締役等による一部免除(会社法426条)
・非業務執行取締役等との責任限定契約の締結による制限(会社法427条)

といった免除限定に関する規定が会社法におかれています。

経営判断原則

取締役が会社に対し任務懈怠責任を負うといっても、会社経営には当然リスクが伴いますので、経営判断の結果、会社に損害が生じたからといって、取締役が常に責任を問われてしまうようでは、取締役はリスクをとった経営判断ができなくなり、結果として会社にとっても利益になりません。
そこで、裁判例では、経営判断には取締役に広い裁量が認められ、その判断の過程・内容に著しい不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反しないという経営判断原則という考え方に基づき、取締役の責任の有無について判断がされています。

競業避止義務

取締役は、競業取引をしようとするときは、非取締役会設置会社では株主総会の、取締役会設置会社では取締役会の承認を得なければなりません(会社法356条1項1号・365条1項)。これを競業避止義務といいます。

ムートン

競業取引」とは、会社が行っている事業と競合する取引を自分や第三者のためにすることです。このような取引は会社の利益を害するため、承認が必要となります。

任務懈怠責任」に記載のとおり、取締役は会社に対し任務懈怠責任を負いますが、取締役が取締役会等の承認を得ずに競業取引を行った場合、当該取引によって取締役等が得た利益の額は、会社に生じた損害の額と推定されます(会社法423条2項)。

利益相反取引

取締役は、利益相反取引をしようとするときは、非取締役会設置会社では株主総会の、取締役会設置会社では取締役会の承認を得なければなりません(会社法356条1項2号・3号・365条1項)。

ムートン

利益相反取引」とは、取締役が自身の所有物を市場よりも高い価格で会社に買い取ってもらうなど、自分や第三者のために会社とする取引(直接取引)や、会社が取締役の債務を保証するなどの、会社と取締役の利益が対立する取引(間接取引)のことです。

任務懈怠責任」に記載のとおり、取締役は会社に対し任務懈怠責任を負いますが、利益相反取引によって、会社に損害が生じたときは、自分や第三者のために会社と取引をした取締役等一定の取締役は、任務を怠ったものと推定されます(会社法423条3項)。
また、自己のために会社と取引をした取締役は、任務を怠ったことが自分の責に帰することができない事由によるものだとしても、任務懈怠責任を免れることができません(会社法428条1項)。

第三者に対する義務と責任

取締役は、職務を行うについて悪意または重過失があったときは、これによって債権者等の第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(会社法429条1項)。
また、取締役は、会社法429条2項1号イ~ニの書類等に虚偽の記載をした場合も(例えば、粉飾決算など)、これによって債権者等の第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(会社法429条2項)。

代表取締役とは

代表取締役の定義

代表取締役とは、株式会社を代表する取締役をいいます(会社法47条1項)。

代表取締役の選定・解職

取締役会設置会社では、代表取締役の選定解職は、取締役会の決議により行われます(会社法362条2項3号)。
一方、非取締役会設置会社では、代表取締役の選定は、定款、定款の定めに基づく取締役の互選、株主総会の決議によって行われます(会社法349条3項)。また、代表取締役の解職についても、選定と同様と考えられます。

代表取締役の役割

取締役会設置会社では、代表取締役は、会社の業務執行を担当します(会社法363条1項1号)。一定の重要事項を除き、取締役会からの委託を受けて、業務執行の決定を行うことも可能です(会社法362条4項)。
また、代表取締役は、対外的には、会社を代表する存在であり(会社法47条1項・349条1項ただし書)、会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有します(会社法349条4項)。

非取締役会設置会社では、「非取締役会設置会社における役割」に記載のとおり、原則として、代表取締役を含む各取締役が、業務執行(①業務の決定と②業務の執行)を担当しますが(会社法348条1項)、①業務の決定については、取締役が2人以上いる場合は、原則として、取締役の過半数で行います(会社法348条2項)。代表取締役が、対外的に会社を代表することについては、取締役会設置会社と同様です。

代表権の制限

内部規則で、代表取締役の代表権制限することも可能ですが、代表取締役がこのような制限に反して、対外的な行為を行った場合は、会社は善意の第三者には対抗することができません(会社法349条5項)。
また、重要な財産の処分など、取締役会による決議が必要な事項(会社法362条4項参照)について、取締役会の決議を欠くにもかかわらず、代表取締役が対外的に行為を行った場合について、判例(最判昭和40・9・22民集19巻6号1656頁)は、そのような行為は原則として有効であるが、相手方が取締役会決議を経ていないことを知っていたり、知ることができたときは無効と考えています。

代表権の濫用

例えば、代表取締役が売却代金を着服する目的で、権限の範囲内にある会社資産の売却をする場合など、代表取締役がその権限を自己または第三者の利益のために利用する行為を代表権の濫用といいます。
このような代表権の濫用行為は、原則としては有効なものの、相手方が代表取締役の真意を知っていたり、知ることができたときは無効と考えられています(最判昭和38・9・5民集17巻8号909頁)。

表見代表取締役

会社が代表取締役以外取締役社長副社長などの会社を代表する権限を有すると認められる名称を付した場合、当該名称を付された取締役を表見代表取締役といいます。そして、会社は、表見代表取締役がした行為について、善意の第三者に対して責任を負います(会社法354条)。

業務執行取締役とは

業務執行取締役とは、会社法363条1項各号に定める取締役および会社の業務を執行したその他の取締役をいいます(会社法2条15号イ)。
会社法363条1項では、

・代表取締役(1号)
・取締役会で業務執行取締役として選定された取締役(2号)

を業務執行取締役として定めていますが、これらの取締役に限らず、事実上会社の業務を執行している取締役も業務執行取締役に含まれることになります。

社外取締役とは

社外取締役の定義

社外取締役とは、会社の取締役であって、次の①~⑤のいずれにも該当する者をいいます(会社法2条15号)。

① 会社やその子会社の業務執行取締役等でなく、かつ、過去10年間会社やその子会社の業務執行取締役等であったことがないこと(イ)
② 過去10年間会社やその子会社の取締役、会計参与または監査役であったことがある者(業務執行取締役等であったことがあるものを除く)にあっては、当該取締役、会計参与または監査役への就任の前10年間会社やその子会社の業務執行取締役等であったことがないこと(ロ)
③ 会社の親会社等(自然人に限る)または親会社等の取締役、執行役、支配人その他の使用人でないこと(ハ)
④ 会社の親会社等の子会社等(会社およびその子会社を除く)の業務執行取締役等でないこと(ニ)
⑤ 会社の取締役、執行役、支配人その他の重要な使用人または親会社等(自然人に限る)の配偶者または2親等内の親族でないこと(ホ)

会社法上の定義は以上のように複雑ですが、主に、

会社・子会社の業務執行に関与していないこと
会社や会社の親会社等との間に利害関係を有していないこと

が求められているといえます。

社外取締役を設置しなければいけない場合

監査等委員会設置会社指名委員会等設置会社は、2人以上の社外取締役を設置しなければなりません(会社法331条6項・400条1項・3項)。

また、公開大会社である監査役会設置会社であって、有価証券報告書の提出義務を負う会社(上場会社等、金融商品取引法24条1項)は、最低1人の社外取締役を設置しなければなりません(会社法327条の2)。
なお、上場会社は、上場規程で、最低1人の独立社外取締役(一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役)の選任を求められていますし(東京証券取引所・有価証券上場規程445条の4)、コーポレートガバナンス・コードでも、2人以上の独立社外取締役の選任が求められています(コーポレートガバナンス・コード原則4-8)。

社外取締役の役割

取締役会は、取締役の職務執行の監督を行う役割を担っていますが(会社法362条2項2号)、経営陣から独立した存在である社外取締役には、主に経営側の取締役の監督や会社と経営側の取締役との利害が対立する状況における監督などを行うことが期待されています。
会社法上でも、取締役が会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは、会社は、取締役会の決議によって、会社の業務執行を社外取締役に委託することができるとされています(会社法348条の2第1項)。

この記事のまとめ

取締役の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

おすすめ資料を無料でダウンロードできます
法務必携!ポケット会社法重要用語集

参考文献

田中亘著『会社法[第3版]』東京大学出版会、2021年