【2020年4月施行】意匠法改正とは?改正ポイントを分かりやすく解説!(新旧対照表つき)
- この記事のまとめ
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改正意匠法(2020年4月1日施行)のポイントを解説!!
「特許法等の一部を改正する法律」(2019年5月17日公布)では、次の3点について、意匠法が改正されました。
1.損害賠償算定方法の見直し(2020年4月1日施行)
2.保護対象・組物の意匠・間接侵害の拡充、関連意匠制度の見直し、存続期間の延長(2020年4月1日施行)
3.意匠登録出願手続の簡素化、手続救済規定の整備(2021年1月1日施行)この記事では、「2.保護対象・間接侵害・組物の意匠の拡充、関連意匠制度の見直し、存続期間の延長」について解説します。 改正ポイントは、5つです。
ポイント1│「画像」「建築物」「内装」も意匠登録できるようになる
ポイント2│「組物」の部分意匠の登録ができるようになる
ポイント3│意匠登録を受けた物品を、構成部分に分割して製造・輸入する行為を取り締まる
ポイント4│「関連意匠制度」が見直される
ポイント5│意匠権の存続期間が「登録日から20年」から「出願日から25年」に延長される
それぞれのポイントを分かりやすく解説します。 この記事では、改正の目的や改正された条文の基本的な事項も解説しています。 基本的なことを理解されている方は、 「改正のポイント」からお読みください。
「損害賠償算定方法の見直し」(2020年4月1日施行)は、意匠法だけでなく、 特許法・実用新案法・商標法でも改正されています。改正内容は、特許法の改正内容とほぼ同じです。 改正内容の詳細については、こちらの記事でご確認ください。
※この記事は、2020年6月1日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
・意匠法…2020年4月施行後の意匠法(昭和34年法律第125号)
・旧意匠法……2020年4月施行前の意匠法(昭和34年法律第125号)
目次
2020年4月施行の改正意匠法とは?
改正の目的
今回の法改正の目的について、特許庁の立法担当者は次のように述べています。
優良な顧客体験が競争力の源泉として重要性を高める中、デジタル技術を活用したデザイン等の保護や、ブランド構築のため、意匠制度を強化する。
特許庁「令和元年度特許法等改正説明会テキスト」(URL)
すなわち、今回、意匠法の改正にいたる背景には、次のような事項がありました。
- 改正に至る背景
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・店舗の内装デザインの重要性
昨今、あらゆる分野においてオンライン化が進む中で、実際に店舗に足を運んだ顧客に対しては、オンラインでは体験できない特別の体験を提供するために、店舗の内装デザインなどを工夫することが重要となってきました。・デジタル技術を活用した画像保護の必要性
デジタル技術を活用した画像などのデザインを保護する必要性も高まっていました・統一的なコンセプトのもとで、複数のデザインが発生
企業のブランド戦略の観点から、デザインのコンセプトを統一し、似たようなデザインでもって複数のバリエーションの商品を生み出す事例も増えてきました。
そこで、意匠法の改正を見直し、従来保護されていなかったデザインを保護して、意匠制度が強化されるに至りました。
公布日・施行日
改正の根拠となる法令名は、 「特許法等の一部を改正する法律」(令和元年5月17日法律第3号) です。
この法令によって、意匠法だけでなく、特許法・実用新案法・商標法も改正がなされました。 施行日は、改正点によって、異なりますので注意しなければなりません。
意匠法の「保護対象・間接侵害・組物の意匠の拡充、関連意匠制度の見直し、存続期間の延長」の公布日と施行日は、次のとおりです。
- 公布日・施行日
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・公布日│2019年5月17日
・施行日│2020年4月1日
改正される法令 | 改正点 | 施行日 |
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商標法 | ・公益著名商標に係る通常使用権の許諾制限の撤廃 | 2019年5月27日 |
特許法 | ・損害賠償算定方法の見直し | 2020年4月1日 |
実用新案法 | ||
意匠法 | ||
商標法 | ||
意匠法 | ・保護対象の拡充 ・組物の意匠の拡充 ・関連意匠制度の見直し ・意匠権の存続期間の延長 ・間接侵害の拡充 | |
商標法 | ・国際商標登録出願手続きに係る手続き補正書の提出期間の見直し | |
特許法 | ・査証制度の創設 | 2020年10月1日 |
意匠法 | ・意匠登録出願手続の簡素化 ・手続救済規定の整備 | 2021年1月1日 |
表をご覧いただければわかる通り、「損害賠償算定方法の見直し」は、特許法・実用新案法・意匠法・商標法でも改正されているものです。 改正内容は、すべての法令において同じものとなっています。詳細はこちらの記事をご覧ください。
意匠法改正の概要
今回の意匠法の改正により、意匠権の保護が強化されることになります。 概要は、大きく次の5つのポイントとなります。
- 改正ポイント(5つ)
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ポイント1
「画像」「建築物」「内装」も意匠登録できるようになり、保護される対象が広がる
ポイント2
ポイント3
意匠登録を受けた物品を、構成部分に分割して、製造・輸入する行為も取り締まる
ポイント4
ポイント5
改正のポイント
意匠法改正の5つのポイントについて、それぞれ解説します。
ポイント1│「画像」「建築物」「内装」も意匠登録できるようになり、 保護される対象が広がる
ポイントは、次の2つです。
- 「意匠」の定義に、「画像」「建築物」を含める
- 全体として統一的な美感を起こさせる「内装」が一つの意匠として登録できる
意匠の定義に「画像」を含める
改正前は、「物品に記録・表示される画像」のみ「意匠」にあたるものとして保護されていました。 しかしながら、近年、投影技術の発達・インターネットサービスの多様化・スマートフォンの普及により、 「物品に記録・表示される画像」にあたらない画像についても、優れたデザインを有するものが増えてきました。
そこで、 「物品に記録・表示される画像」にあたらない画像についても、意匠権で保護されるように意匠の定義が見直されることになりました。
- 「物品に記録・表示される画像」とは?
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「物品に記録・表示される画像」にあたるもの
・スマートフォンやDVDプレイヤーの操作画像「物品に記録・表示される画像」にあたらないもの
・道路に投影される画像
・サーバーやクラウド上から機器に送信される画像
改正により、物品に記録・表示されているか否かにかかわらず、 「表示画像」と「操作画像」 も保護の対象となります
- 改正意匠法で保護される画像とは?
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・「表示画像」…例)道路に投影される画像
・「操作画像」…例)サーバーやクラウド上から機器に送信される画像
意匠」の定義に「建築物」を含める
改正前は、モノ(動産)のデザインのみ「意匠」として保護され、 建築物(不動産)のデザインは、保護の対象ではありませんでした。 しかしながら、昨今、モノ(動産)のデザインのみならず、空間のデザインに工夫が施されるようになってきました。 そのため、これらが容易に模倣されることないように保護することが求められるようになりました。
そこで、新法では、建築物(不動産)のデザインも保護されます。
全体として統一的な美感を起こさせる「内装」が一つの意匠として登録できる
昨今、家具・設備などの配置や、壁・床の装飾など空間のデザインに工夫が施されるようになってきました。
すなわち、建築物の「内装」についても、工夫が凝らされたデザインが多く制作されるようになりました。 「内装」とは、家具・設備・壁と床の装飾などの複数のモノによって構成されているものです。
しかしながら、意匠法は、 一つのモノに対して一つの意匠のみ登録できるという原則(一意匠一出願の原則)です。そのため、改正前は、「内装」を構成するモノ(家具・設備など) に対して、意匠登録するほかありませんでした。
そこで、改正意匠法では、「内装」については、一つのモノに対して一つの意匠のみ登録できるというルール(一意匠一出願の原則)の例外を認め、 全体として統一的な美感を起こさせる内装であれば、一つの意匠として登録できる ことになりました。
ポイント2│「組物」の部分意匠の登録ができるようになる
「組物」とは、一緒に使用されていることを想定して作られている2つ以上のモノをいいます(意匠法8条、旧意匠法8条)。 たとえば、「食卓用のお皿とコップとのセット」「応接家具セット」などです。
(組物の意匠)
意匠法 – e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
第8条 同時に使用される2以上の物品であって経済産業省令で定めるもの(以下「組物」という。)を構成する物品に係る意匠は、組物全体として統一があるときは、一意匠として出願をし、意匠登録を受けることができる。
意匠法には、一つのモノに対して一つの意匠のみ登録できるという原則(一意匠一出願の原則)がありますが、「組物」は、その例外として一つの意匠として登録することが認められていました。 他方で、「組物」の一部分については、意匠登録することができませんでした(旧意匠法2条1項)。 すなわち、旧意匠法2条1項は、組物について定めている同法8条については、一部を意匠として認めていませんでした。
第2条 この法律で「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。第8条を除き、以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう
意匠法 – e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
しかしながら、昨今、モノの一部に特徴的なデザインを施したものについて、意匠として登録したいというニーズが増えてきました。 そこで、改正では、旧意匠法2条の「第8条を除き、」を削除し、「組物」の一部分についても、意匠登録することができることになりました。
ポイント3│意匠登録を受けた物品を、構成部分に分割して、製造・輸入する行為も取り締まる
旧意匠法では、 「物品の製造にのみ用いる物」を譲渡等する場合に限って、侵害行為とみなされていました。
そのため、 侵害品を分解した部品を譲渡等する行為については、侵害行為とはみなされず取り締まることができませんでした。
改正により、これを改め、「視覚を通じた美感の創出に不可欠な」ものであって、「物品の製造に用いる物品」について、その意匠が登録意匠であることを知りながら、 業として譲渡等する場合についても、侵害行為とみなすことになりました。
ポイント4│「関連意匠制度」が見直される
「関連意匠」とは、一つのデザインコンセプトに基づいて、最初に登録された意匠(本意匠)から、様々なバリエーションのデザインを生み出したときに発生する意匠をいいます。 関連意匠制度について、次の2点が見直されました。
- 関連意匠の登録出願期間が延長される
- 関連意匠のみ類似する意匠も登録できる
関連意匠の登録出願期間が延長される
関連意匠の出願可能期間について、改正前の意匠法では、 「本意匠の意匠公報発行日まで(約8カ月)」でした。 そのため、企業は、本意匠の出願と同時期に、関連意匠の出願を行っていました。
しかし、昨今、企業のデザイン戦略として、本意匠を出願してから、市場の動向などを様子見しながら、 関連するデザインを制作する例が増えています。 そのため、従来の出願可能期間内に、関連意匠の出願を行うことは難しい状況にありました。
そこで、改正では関連意匠の出願可能期間が延長され、「本意匠の出願から10年が経過する日まで」となりました。
関連意匠のみ類似する意匠も登録できる
旧意匠法では、関連意匠にのみ類似する意匠は登録できませんでした。 最初に登録した意匠(本意匠)に類似するものでなければ、登録することができなかったのです。 しかしながら、昨今、企業のデザイン戦略として、一貫したデザインコンセプトによって、 ブランド価値を高める動きが増えてきました。 そのため、本意匠には類似しないものの関連意匠に類似する意匠が多く登場することになります。
ところが、意匠法は、新規性と創作非容易性がなければ、意匠として登録することができません(意匠法3条1号・2号)。 この場合、 関連意匠に類似する意匠は、新規性・創作非容易性を欠くものとして、意匠登録することができなかった のです。
そこで、改正意匠法では、 これを廃止し、関連意匠に類似する意匠についても登録できる ことになりました。
ポイント5│意匠権の存続期間が「登録日から20年」から「出願日から25年」に延長される
旧意匠法では、意匠権の存続期間は、「登録日から20年」となっていましたが、新法では、「出願日から25年」に延長されます。
昨今、意匠登録後、時間をかけて製品を開発して、販売するという例が多くなっていました。 たとえば、飛行機や自動車など開発に時間がかかるものについては、 旧意匠法の下では、販売されるまでの間に、存続期間が切れてしまうこともありました。 そこで、存続期間を延長することになりました。
【解説つき】改正前と改正後の意匠法の条文を新旧対照表で比較
〈サンプル〉
実務への影響
今まで法的に保護されていなかったものについても、意匠として保護される可能性があります。そのため、自社サービスについて、意匠登録をすべきか否かを検討するとよいでしょう。
契約レビューへの影響はあまりありません。 もっとも、意匠を含む知的財産のライセンスを取得するときは、改正によって保護対象が広がったため、 ライセンスを受ける対象の知的財産が意匠法で保護されるものであれば、相手方に対して意匠登録をするように 依頼することが考えられます。