著作隣接権とは?
種類・著作権との違い・保護期間
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- この記事のまとめ
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「著作隣接権」とは、著作物を公衆に伝達する役割を担う者に与えられる権利です。幅広い人へ著作物を届ける活動を促進するため、著作権とは別に著作隣接権が認められています。
著作隣接権が認められるのは、実演家・レコード製作者・放送事業者・有線放送事業者です。それぞれの主体について、異なる内容の著作隣接権が認められています。
著作隣接権によって保護されている行為を権利者に無断で行った場合、刑事罰や民事責任(差止・損害賠償・名誉回復措置)の対象となります。
この記事では、著作隣接権について、種類・著作権との違い・保護期間などを分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年3月1日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
著作隣接権とは
「著作隣接権」とは、著作物を公衆に伝達する役割を担う者に与えられる権利です。具体的には、
✅ 実演家
✅ レコード製作者
✅ 放送事業者
✅ 有線放送事業者
に著作隣接権が認められています。
著作隣接権の目的
著作隣接権の目的は、著作物を広く公衆に流通させ、文化的発展をいっそう促すことにあります。
実演・レコード製作・放送・有線放送は、いずれも著作物を幅広い人々に伝達する行為です。これらの行為について、著作隣接権によってインセンティブを与えることで、著作物の流通がいっそう促進されます。
その結果として、多くの人々が豊富なコンテンツを楽しむことができるようになり、新たに生まれるコンテンツの幅もいっそう広がると考えられます。著作隣接権が設けられているのは、このような文化的発展への寄与効果を狙ったものです。
著作権との関係・違い
著作隣接権は、創作行為についてインセンティブを与える著作権と両輪となる権利といえます。
著作権は、コンテンツを創作した者(=著作者)に認められる権利です。これに対して著作隣接権は、コンテンツを公衆に伝達する(流通させる)者に認められる権利です。
つまり、著作権によってコンテンツの創作そのものを促し、著作隣接権によって制作されたコンテンツの流通を促すことで、豊富なコンテンツを幅広く公衆に行き渡らせることが可能となります。
著作隣接権を有する者
著作隣接権を有するのは、実演家・レコード製作者・放送事業者・有線放送事業者です。
①実演家
俳優・舞踊家・演奏家・歌手その他実演を行う者、および実演を指揮し、または演出する者をいいます(著作権法2条1項4号)。
②レコード製作者
レコード※に固定されている音を最初に固定した者をいいます(同項6号)。
※レコード:蓄音機用音盤・録音テープその他の物に音を固定したもの(例:LPレコード・SPレコード・CD・携帯型USBメモリなど)。ただし、音を専ら影像とともに再生することを目的とするもの(例:BD・DVDなど)を除きます(同項5号)。
③放送事業者
放送※を業として行う者をいいます(同項9号)。
※放送:公衆送信のうち、公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送信(同項8号)。
④有線放送事業者
有線放送※を業として行う者をいいます(同項9号の3)。
※有線放送:公衆送信のうち、公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う有線電気通信の送信(同項9号の2)。
実演家の著作隣接権と保護期間
実演家には、以下の著作隣接権が認められています。
①録音権・録画権(著作権法91条)
実演家は、その実演を録音し、または録画する権利を専有します。ただし、一度実演家の許諾を得て録音・録画された実演については、録音物への録音を除いて録音権・録画権が及びません。
(例)ダンサーが自分のダンスを録画する権利(他人に録画を許可した場合は、その実演については録画権が及ばなくなる)
②放送権・有線放送権(著作権法92条)
実演家は、その実演を放送し、または有線放送する権利を専有します。ただし、以下の場合には放送権・有線放送権が及びません。
× 放送される実演を有線放送する場合
× すでに録音・録画を許諾した実演、またはその録音・録画物を放送・有線放送する場合
(例)ダンサーが自分のダンスを生配信する権利
③送信可能化権(著作権法92条の2)
実演家は、その実演を録音し、または録画する権利を専有します。ただし、すでに録音・録画を許諾した実演、またはその録音・録画物を送信可能化する場合には、送信可能化権が及びません。
(例)ダンサーが自分のダンス動画をYouTube上にアップロードする権利
④譲渡権(著作権法95条の2)
実演家は、その実演を録音・録画物の譲渡により公衆に提供する権利を専有します。ただし、すでに録音・録画を許諾した実演、またはその録音・録画物を送信可能化する場合などには、譲渡権が及びません。
(例)ダンサーが自分のダンス動画を収録したBDを販売する権利
⑤貸与権(著作権法95条の3)
実演家は、その実演が録音されている商業用レコードを、公衆に貸与して提供する権利を専有します。ただし、発売日から12カ月(1年)を経過した商業用レコードの貸与については、貸与権が及びません。
(例)バイオリニストが自分の演奏を収録したCDを貸し出す権利
著作隣接権の保護期間
実演家の著作隣接権の保護期間は、実演を行った時から、実演が行われた日の属する年の翌年から起算して70年を経過した時までです(著作権法101条1項1号・2項1号)。
(例)ダンサーが2023年2月1日に行ったダンスの著作隣接権の保護期間
→2023年2月1日から2093年12月31日まで
著作隣接権以外の権利
実演家には著作隣接権のほか、以下の権利が認められています。
①氏名表示権(著作権法90条の2)
実演家は、その実演を公衆に提供・提示する際、氏名や芸名などを実演家名として表示し、または実演家名を表示しないこととする権利を専有します。
②同一性保持権(同法90条の3)
実演家は、その実演の同一性を保持し、改変されない権利を有します。ただし、実演の性質や利用の目的・態様に照らしてやむを得ない改変、または公正な慣行に反しない改変については、同一性保持権が適用されません。
③有線放送について報酬を受ける権利(同法94条の2)
有線放送事業者が、放送される実演を有線放送した場合、実演家に相当な額の報酬を支払わなければなりません。ただし、非営利かつ無償で有線放送する場合を除きます。
④放送二次使用料を受ける権利(同法95条)
録音権・録画権を有する者の許諾を得て、実演が録音されている商業用レコードを用いた放送・有線放送を行った者は、実演家に二次使用料を支払わなければなりません。
ただし、非営利かつ無償で当該放送を受信して同時に有線放送を行った場合を除きます。
⑤貸しレコードについて報酬を受ける権利(同法95条の3)
発売日から12か月(1年)経過後に、商業用レコードの貸与により実演を公衆に提供した者は、実演家に相当な額の報酬を支払わなければなりません。
氏名表示権と同一性保持権は「実演家人格権」と総称され、実演家の終身にわたり存続します(死後にも一定の保護あり)。報酬・二次使用料を受ける権利については、著作隣接権の保護期間内に限り有効です。
レコード製作者の著作隣接権と保護期間
レコード製作者には、以下の著作隣接権が認められています。
①複製権(著作権法96条)
レコード製作者は、そのレコードを複製する権利を専有します。
(例)レコード会社が、原盤を販売用CDに複製する権利
②送信可能化権(著作権法96条の2)
レコード製作者は、そのレコードを送信可能化する権利を専有します。
(例)レコード会社が、原盤音源を配信用にインターネット上へアップロードする行為
③譲渡権(著作権法97条の2)
レコード製作者は、そのレコードを複製物の譲渡により公衆に提供する権利を専有します。
(例)レコード会社が、音楽CDを一般向けに販売する権利
④貸与権等(著作権法97条の3)
レコード製作者は、そのレコードの複製物である商業用レコードを、公衆に貸与して提供する権利を専有します。
(例)レコード会社が、音楽CDを一般向けに貸し出す権利
著作隣接権の保護期間
レコード製作者の著作隣接権の保護期間は、その音を最初にレコードへ固定した時から、レコード発行日の属する年の翌年から起算して70年を経過した時までです(同法101条1項2号・2項2号)。
ただし、その音を最初にレコードへ固定した日の属する年の翌年から起算して70年以内にレコードが発行されなかった場合は、その時点で著作隣接権の保護期間が終了します。
(例)レコード会社が2023年2月1日に初めて音を固定し、同年3月1日に発行したレコードの著作隣接権の保護期間
→2023年2月1日から2093年12月31日まで
著作隣接権以外の権利
レコード製作者には著作隣接権のほか、以下の権利が認められています。いずれの権利も、著作隣接権の保護期間に限り有効です。
①放送二次使用料を受ける権利(著作権法97条)
放送事業者または有線放送事業者が商業用レコードを用いた放送・有線放送を行った場合、レコード製作者に対して二次使用料を支払わなければなりません。
ただし、非営利かつ無償で当該放送を受信して同時に有線放送を行った場合を除きます。
②貸しレコードについて報酬を受ける権利(同法97条の3)
発売日から12か月(1年)経過後に、レコードの複製物である商業用レコードを貸与により公衆に提供した者は、レコード製作者に相当な額の報酬を支払わなければなりません。
放送事業者の著作隣接権と保護期間
放送事業者には、以下の著作隣接権が認められています。
①複製権(著作権法98条)
放送事業者は、その放送またはこれを受信して行う有線放送を受信して、その放送に係る音・影像を録音・録画し、または写真その他これに類似する方法により複製する権利を専有します。
(例)テレビ局が自局の放送番組を記録用に録画する権利
②再放送権・有線放送権(著作権法99条)
放送事業者は、その放送を受信して再放送し、または有線放送する権利を専有します。
(例)テレビ局が自局の放送番組を再放送する権利
③送信可能化権(著作権法99条の2)
放送事業者は、その放送またはこれを受信して行う有線放送を受信して、当該放送を送信可能化する権利を専有します。ただし、法令によって義務付けられた有線放送は、送信可能化権の適用を受けません。
(例)テレビ局が配信用に自局の放送番組をインターネット上へアップロードする権利
④テレビジョン放送の伝達権(著作権法100条)
放送事業者は、そのテレビジョン放送またはこれを受信して行う有線放送を受信し、影像を拡大する特別の装置を用いて、当該放送を公に伝達する権利を専有します。
(例)テレビ局が自局の放送番組をオーロラビジョンに投影する権利
著作隣接権の保護期間
放送事業者の著作隣接権の保護期間は、その放送を行った時から、放送が行われた日の属する年の翌年から起算して50年を経過した時までです(著作権法101条1項3号・2項3号)。
(例)テレビ局が2023年2月1日に放送した番組の著作隣接権の保護期間
→2023年2月1日から2073年12月31日まで
有線放送事業者の著作隣接権と保護期間
有線放送事業者には、以下の著作隣接権が認められています。
①複製権(著作権法100条の2)
有線放送事業者は、その有線放送を受信して、その有線放送に係る音・影像を録音・録画し、または写真その他これに類似する方法により複製する権利を専有します。
(例)有線放送局が自局の有線放送番組を録音する権利
②放送権・再有線放送権(著作権法100条の3)
有線放送事業者は、その有線放送を受信して放送し、または再有線放送する権利を専有します。
(例)有線放送局が自局の有線放送番組を再び有線放送する権利
③送信可能化権(著作権法100条の4)
有線放送事業者は、その有線放送を受信して送信可能化する権利を専有します。
(例)有線放送局が自局の有線放送番組をインターネット上へアップロードする権利
④有線テレビジョン放送の伝達権(著作権法100条の5)
有線放送事業者は、その有線テレビジョン放送を受信し、影像を拡大する特別の装置を用いて、当該有線放送を公に伝達する権利を専有します。
(例)有線放送局が自局の有線放送番組オーロラビジョンに投影する権利
著作隣接権の保護期間
有線放送事業者の著作隣接権の保護期間は、その有線放送を行った時から、有線放送が行われた日の属する年の翌年から起算して50年を経過した時までです(著作権法101条1項4号・2項4号)。
(例)有線放送局が2023年2月1日に有線放送した番組の著作隣接権の保護期間
→2023年2月1日から2073年12月31日まで
著作隣接権等を侵害した場合の法的責任
実演家・レコード製作者・放送事業者・有線放送事業者の著作隣接権等を侵害した場合、刑事罰を受け、または民事上の責任(差止・損害賠償・名誉回復措置)を負う可能性があります。
刑事罰
著作隣接権等に関連する侵害行為のうち、刑事罰の対象となる主な行為は以下のとおりです。
・著作隣接権侵害(直接侵害) | 10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、または併科(著作権法119条1項) |
・実演家人格権侵害 ・営利目的で自動複製機器を著作隣接権侵害行為に使用させる行為 ・著作隣接権侵害コンテンツの輸入、頒布、頒布目的所持、頒布の申出、業としての輸出、業としての輸出を目的とする所持 | 5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、または併科(同条2項) |
・著作隣接権侵害コンテンツに係るリーチサイト・リーチアプリの提供 ・著作隣接権で保護されたコンテンツに係るコピーガードの不正解除、権利管理情報の改ざん | 3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、または併科(同法120条の2) |
・著作隣接権侵害コンテンツの違法ダウンロード | 2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、または併科(同法119条3項) |
・実演家の死後における人格的利益の侵害 | 500万円以下の罰金(同法120条) |
差止・損害賠償・名誉回復措置
著作隣接権侵害に当たる行為をした場合、著作隣接権者から以下の請求を受ける可能性があります。
①差止請求(著作権法112条)
著作隣接権を侵害し、または侵害するおそれがある者は、侵害の停止・予防や、侵害行為に関連する物・機械の廃棄などの措置を請求される可能性があります。
②損害賠償請求(民法709条)
故意または過失によって著作隣接権を侵害した者は、不法行為に基づく損害賠償を請求される可能性があります。
③名誉回復措置請求
故意または過失によって実演家人格権を侵害した者は、実演家から名誉・声望を回復するための措置を請求される可能性があります。
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