【民法改正(2020年4月施行)に対応】
委任契約とは?改正ポイントを解説!
- この記事のまとめ
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改正民法(2020年4月1日施行)に対応した委任契約のレビューポイントを解説!!
この記事では、委任契約に関する主な改正点を解説したうえで、委任契約において見直すべき条項を解説します。
委任契約に関する主な改正点は3つです。ポイント1│受任者の自己執行義務が明文化された
ポイント2│受任者の報酬に関するルールが見直された
ポイント3│解除に伴う効果が明文化された
委任契約とは何らかの法律行為の実施を依頼するものです。成果物の完成を依頼する場合には、請負契約の解説をご覧ください。
※この記事は、2020年8月25日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 民法…2020年4月施行後の民法(明治29年法律第89号)
- 旧民法…2020年4月施行前の民法(明治29年法律第89号)
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目次
委任契約とは
委任契約は、 当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生じる契約 です(民法643条、旧民法643条)。
委任契約に関する3つの主要改正ポイント
民法改正による委任契約の主要な改正ポイントは3つです。以下、それぞれ解説します。
- 委任契約に関する主な改正ポイント(3つ)
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・ポイント1│受任者の自己執行義務が明文化された
・ポイント2│受任者の報酬に関するルールが見直された
・ポイント3│解除を行った場合の効果にかかる実務上の解釈が明文化された
今回、改正された事項は、その性質に応じて、次の2つに分けることができます。
①従来の判例・一般的な解釈を明文化したもの
②従来、解釈に争いがあった条項を明文化したもの/従来の条項・判例・一般的な解釈を変更したもの
すなわち、①は、実質的には、今までと同じ運用となるため、実務には大きな影響はないものと考えられます。そのため、従来の民法を理解されていた方にとっては、あまり気にされなくてもよい改正といえるでしょう。 他方で、②は、実務上、従来とは異なる運用がなされますので、しっかり理解しておく必要があります。 改正点とあわせて、①と②のいずれの性質の改正であるか(改正の性質)を記載します。
ポイント1│受任者の自己執行義務が明文化された(民法第104条)
【改正の性質】
①従来の判例・一般的な解釈を明文化したもの
委任契約は、委任者と受任者の人的信頼関係に基づく契約であると解されています。したがって、受任者は、受託した業務内容を、自ら処理するのが原則です。この考え方に基づき、受任者が、受託した業務を第三者に再委任する場合には、委任者の許諾を得るか、または、再委任することについてやむをえない事由が必要であると解釈されてきました。ちなみに、代理契約については、もともと同趣旨の明文が存在します(民法104条、旧民法104条)。
そこで、民法改正により、このような解釈が明文化されるに至りました(民法644条の2第1項)。すなわち、委任者の許諾を得ず、また、やむをえない事由が存在しないにもかかわらず受託業務を再委任した場合には、受託業務を当該第三者が(業務内容としては問題なく)処理していたとしても、受任者の債務不履行となります。
ポイント2│受任者の報酬に関するルールが見直された(民法第648条)
【改正の性質】
②従来、解釈に争いがあった条項を明文化したもの/従来の条項・判例・一般的な解釈を変更したもの
受任者の報酬に関して、2つの点が改正されました。以下、それぞれ解説します。
- 履行が中途で終了した場合の報酬ルールを見直した
- 成果完成型の委任契約のルールを新設した
履行が中途で終了した場合の報酬ルールを見直した
委任契約の受任者は、特約がなければ報酬を請求できません(民法648条1項)。これは、旧民法でも改正された民法でも変わりません。では、特約で報酬を定めた場合に、委任事務が履行される途中で契約が終了したときは、受任者は報酬を受け取ることができるのでしょうか?
この点について、旧民法では、このようなケースにおいて、受任者は、自らの帰責性(責任)がないときは、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができるとされていました(旧民法648条3項)。
しかしながら、受任者の帰責性(責任)によって委任事務が中途で終了した場合であっても、委任事務の一部が履行されたのであれば、これに対応する報酬を発生させても委任者に酷とはいえません。 むしろ、履行の割合に応じた報酬を発生させたほうが、事務処理自体を債務内容とする委任契約の趣旨に合致します。
そこで、改正により、「受任者の責めに帰することができない」(旧民法648条3項)との要件が削除され、
・委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき
・委任が履行の中途で終了したとき
には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる(民法648条)ことになりました。
成果完成型の委任契約のルールを新設した
委任契約は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託するものであり、相手方に成果物の完成義務を負わせる「請負契約」と区別されます。もっとも、委任契約であっても、成果に対して報酬を支払う旨の合意がされ、成果が得られなければ委任事務を履行したとしても報酬を支払わない、という合意がなされることがあります。委任契約における報酬の合意があくまでも特約であることに鑑みれば、このような特約も有効といえます。しかしながら、旧民法にはこれを定めた規定はありませんでした。
そこで、改正により、このような成果完成型の委任契約についてのルールを新設しました。すなわち、成果に対して報酬を支払う旨の特約が合意された場合には、成果が引き渡しを要するときは、報酬はその成果の引き渡しと同時に支払わなければなりません(民法648条の2第1号)。
また、委任者の帰責性(責任)なく委任事務が中途で終了したとき、あるいは、委任契約が中途で解除されたとき、受任者は、委任者が受けている利益の割合に応じた報酬を請求することができます(同法648条の2第2号、同法634条)。
ポイント3│委任契約の解除に伴う効果が明文化された(民法第651条)
【改正の性質】
②従来、解釈に争いがあった条項を明文化したもの/従来の条項・判例・一般的な解釈を変更したもの
- 民法第651条(改正後)
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1. 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
2. 前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
一 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。
二 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。
民法651条1項は、「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる」と定めています。 この点は、旧法も改正された民法も変わりません。もっとも、旧民法では、 受任者の利益をも目的とする委任については、委任の解除をすることができないとする判例が存在し、 委任契約の任意解除の範囲について議論がされていました。 そこで、改正により、委任については、原則としていつでも解除できることを改めて明確にし、解除後の処理は損害賠償の問題として整理することとしました。
すなわち、一定の制限もなく自由な解除権を認めると、解除された当事者に損害が生じることがありえます。 そのため、旧民法では、相手方に不利な時期に契約を解除したときには、その解除にやむをえない事由がない限り、相手方の損害を賠償しなければならないとされていました(旧民法651条2項)。この点は、新民法でも変更されていません(民法651条2項1号)。
これに加えて、従来から、 「受任者の利益をも目的とする委任」を委任者が解除した場合、委任者は受任者が被った損害を賠償するべきである 、という解釈が実務で確立していました。改正された民法では、この点が明文化されるに至りました。
委任契約のレビューで見直すべき3つの条項
改正点を踏まえて、委任契約のレビューで見直すべき条項を解説します。見直すべき条項は、以下の3つです。
- 委任契約で見直すべき条項
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・割合的報酬に関する条項
・再委任(再委託)に関する条項
・解除に関する条項
割合的報酬に関する条項
【関連する改正ポイント】
ポイント2│受任者の報酬に関するルールを見直した
以下、委任者の立場と受任者の立場のそれぞれからレビューポイントを解説します。
委任者の立場でレビューする場合
改正された民法では、受任者が割合的に報酬を請求できる場面が広がりました。すなわち、受任者の帰責性(責任)によって委任が中途で終了したときも、割合的に報酬を請求することができるようになりました。そこで、委任者の立場でレビューするときは、民法のルールよりも、割合的に報酬を請求できる場面を限定するのが有利です。
- 記載例
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受任者の責めに帰すべき事由により、委任業務が中途で終了した場合には、受任者は委任事務の報酬を請求することができず、また、委任者に生じた損害を賠償しなければならない。
また、委任者の帰責性(責任)により、委任事務の履行が中途で終了した場合、受任者は、合意された報酬の全額を請求できます(民法536条2項)。そこで、この場合、受任者が請求できる報酬は、履行状況に応じた割合を乗じた報酬に限られる、と定めることも有利です。
- 記載例
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委任事務の履行が中途で終了した場合には、受任者は、委任者に対し、次の各号に定める割合の報酬を請求することができる。委任者の責めに帰すべき事由によって履行が中途で終了した場合にも、同様とする。
(1) ●●までの履行が完了している場合 ●割
(2) ●●までの履行が完了している場合 ●割
(3) ●●までの履行が完了している場合 ●割
受任者の立場でレビューする場合
改正された民法では、委任者の帰責性(責任)により、委任事務の履行が中途で終了した場合には、受任者は、合意された報酬全額を請求できます(民法536条2項)。よって、受任者の立場としては、契約で、民法のルールよりも不利な規定になっていないかを確認するのがよいでしょう。また、疑義が生じるおそれがないように、民法の定めを契約で明文化するとより安全です。
- 記載例
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委任者の責めに帰すべき事由によって委任事務の履行が中途で終了したときは、受任者は、第●条に定める報酬全額を請求することができる。
再委託に関する条項
【関連する改正ポイント】
ポイント1│受任者の自己執行義務が明文化された
以下、委任者の立場と受任者の立場のそれぞれからレビューポイントを解説します。
委任者の立場でレビューする場合
民法のルールでは、受任者に「やむを得ない事由」があるときは、委任事務を再委任されるおそれがあります。すなわち、何らかのやむを得ない事由があるときは、委任者の与り知らない第三者に委任事務を再委任されるリスクがあるのです。そうなると、委任事務の履行の品質が損なわれるおそれもあります。
そこで委任者としては、原則、再委任を禁止しておくのが賢明です。たとえば、次のように、委任者の書面による事前の承諾がなければ、再委任することができない、と定めるのがよいでしょう。
- 記載例
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受任者は、本契約における委任事務を、第三者に再委任することはできない。ただし、委任者の書面による事前の承諾を得た場合は、この限りではない。なお、受任者は、左記承諾を得て本委任事務を再委任した場合であっても、当該再委任をした第三者の委任事務の処理について、自己がその責任を負う。
受任者の立場からレビューする場合
受任者としては、委任事務を第三者に依頼することを想定しているときは、自由に再委任することができなければ、効率的かつ機動的に委任事務を行うことができないことがあります。そこで、そのようなケースが想定されるときは、受任者の判断において再委任することができる、と定める必要があります。
また、とくに委任者が再委任先を指定するようなケースでは、再委任先の行為について、受任者がすべての責任を負わされることは不利益となりえます。そこで、あわせて再委任をした第三者の選任・監督についてのみ責任を負う、と定めると有利です。
- 記載例
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受任者は、本契約における委任事務を、自己の判断で第三者に再委任することができる。この場合において、受任は、当該再委任をした第三者による委任事務の処理について、当該第三者の選任・監督についてのみ責任を負う。
解除に関する条項
【関連する改正ポイント】
ポイント3│解除を行った場合の効果にかかる実務上の解釈が明文化された
以下、委任者の立場と受任者の立場のそれぞれからレビューポイントを解説します。
委任者の立場からレビューする場合
委任者の立場からすれば、民法のルールと同じく、「委任契約をいつでも解除することができる」と契約書にも明文化しておくべきでしょう。
なお、「委任者が契約期間の途中で解除した場合、報酬が発生しない」と定めることは可能です。もっとも、委任者と受任者の力関係や、委任事務の内容、その履行の程度如何によっては、報酬を支払わない、という特約の効力が否定されるおそれがあります。また、このような規定は、紛争リスクを増大させる側面もありますので注意しましょう。
受任者の立場からレビューする場合
受任者の立場からすれば、委任契約が解除された場合の報酬を具体的に定めるのが望ましいです。 たとえば、次のように委任事務の履行割合に応じた報酬の額を定めることが考えられます。
- 記載例
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1.委任事務の履行が中途で終了した場合には、受任者は、委任者に対し、次の各号に定める割合の報酬を請求することができる。委任者の責めに帰すべき事由によって履行が中途で終了した場合にも、同様とする。
(1) ●●までの履行が完了している場合 ●割
(2) ●●までの履行が完了している場合 ●割
(3) ●●までの履行が完了している場合 ●割
2.委任者が、自己の都合により本委任契約を解除したときは、受任者は、第1項に定める割合的報酬に加え、違約金として●円を委任者に請求することができる。
まとめ
民法改正(2020年4月1日施行)に対応した委任契約のレビューポイントは以上です。
実際の業務でお役立ちいただけると嬉しいです。
改正点について、解説つきの新旧対照表もご用意しました。
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