【民法改正(2020年4月施行)に対応】
請負契約のレビューポイントを解説!
- この記事のまとめ
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改正民法(2020年4月1日施行)に対応した請負契約のレビューポイントを解説!!
請負契約に関連する改正点は4つあります。
・ポイント1│請負人の担保責任のルールを見直した(瑕疵担保責任から契約不適合責任へ)
・ポイント2│請負人に対する割合的報酬のルールが明文化された
・ポイント3│解除の要件を見直した(全契約類型に共通)
・ポイント4│注文者の破産手続の開始による、請負人からの解除を制限したこの記事では、請負契約に関する民法の改正点を解説したうえで、 請負契約をレビューするときに、どのようなポイントに気を付けたらよいのかを解説します。 見直すべき条項は4つあります。
①成果物の仕様に関する条項
②請負代金に関する条項
③請負人の担保責任の内容に関する条項
④解除条項
請負契約とは成果物の完成を依頼するものです。何らかの法律行為の実施を依頼される場合は、委任契約の解説をご覧ください。
※この記事は、2020年8月11日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
・民法…2020年4月施行後の民法(明治29年法律第89号)
・旧民法…2020年4月施行前の民法(明治29年法律第89号)
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目次
請負契約とは(民法632条)
請負とは、当事者の一方(請負人)がある仕事を完成することを約し、相手方(注文者)がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約する契約です(民法632条)。
第632条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
民法 – e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
請負契約は「仕事の完成(結果)を目的とする契約」です。 つまり、「業務委託契約」というタイトルの契約書であっても、その内容が「仕事の完成を目的とする契約」であるならば、民法上の「請負契約」と考えられます。
たとえば、物の製造やソフトウェアの構築を目的とする場合、「業務委託契約」というタイトルであっても、仕事の完成が目的であれば「請負契約」と扱われます。 このように、契約書のタイトルをみて判断するのではなく、契約の中身をしっかりと検討し、どのような性質の契約であるか判断することが、契約書レビューの第一歩といえます。
請負契約に関する4つの主要改正ポイント
請負契約に関する主要な改正ポイントは以下4点です。
- 請負契約に関する主な改正ポイント
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・ポイント1│請負人の担保責任のルールを見直した
・ポイント2│請負人に対する割合的報酬のルールが明文化された
・ポイント3│解除の要件を見直した ※請負固有ではなく債権法全般の論点です
・ポイント4│注文者の破産手続の開始による、請負人からの解除を制限した
以下、それぞれ解説します。このうち、ポイント3は、債権法全般の論点であるため、請負契約に限らず、あらゆる契約類型にあてはまります。他方で、ポイント1、2、4は、請負契約に固有の論点となります。
今回、改正された事項は、その性質に応じて、次の2つに分けることができます。
①従来の判例・一般的な解釈を明文化したもの
②従来、解釈に争いがあった条項を明文化したもの/従来の条項・判例・一般的な解釈を変更したもの
すなわち、①は、実質的には、今までと同じ運用となるため、実務には大きな影響はないものと考えられます。そのため、従来の民法を理解されていた方にとっては、あまり気にされなくてもよい改正といえるでしょう。 他方で、②は、実務上、従来とは異なる運用がなされますので、しっかり理解しておく必要があります。 改正点とあわせて、①と②のいずれの性質の改正であるか(改正の性質)を記載します。
ポイント1│請負人の担保責任のルールを見直した(瑕疵担保責任から契約不適合責任へ)
【改正の性質】
①従来の判例・一般的な解釈を明文化したもの
請負人の担保責任に関する主要改正ポイントは、次の3点です。
- 「瑕疵担保責任」という概念を廃止し「契約不適合責任」に変更する
- 注文者の権利が追加され、履行の追完請求・代金の減額請求・損害賠償請求・解除が認められる
- 注文者の権利行使期間が延長される
旧民法には、請負人の担保責任(請負人が仕事の完成に対して負う義務の一つ)について、請負契約独自のルールが定められていました(旧民法634条、同635条)。 改正により、このような請負契約独自のルールは廃止され、売買契約の売主の担保責任のルールが準用されることになりました(民法559条)。
これにより、旧民法で「瑕疵」「瑕疵担保責任」と呼ばれていた用語は無くなりました。 そして、請負人は、仕事の目的物が「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない」(民法562条1項参照)場合に担保責任を負うことになりました。
また、注文者の権利が追加され、履行の追完請求・代金の減額請求・損害賠償請求・解除が認められます。
さらに、注文者が権利を行使できる期間も延長されました。
ポイント2│請負人に対する割合的報酬のルールが明文化された
【改正の性質】
①従来の判例・一般的な解釈を明文化したもの
請負契約は仕事の「完成」を目的とする契約です。 では、注文者の帰責性(責任)なく、仕事が途中で完成できなくなったり、解除されたりした場合、注文者は、請負代金を支払わなければならないのでしょうか?
旧民法には、これに関する定めはありませんでした。 最高裁判所の判例(昭和56年2月17日集民132号129頁)では、工事全体が未完成の間に注文者が契約解除をする場合、工事内容が可分で、 注文者が既施工部分の給付に関し利益を有する場合には、特段の事情がない限り、既施工部分については契約解除できないとされました。
この判例をうけて、請負人の仕事が未完成であっても、 仕事の結果のうち可分な部分があり、当該部分の給付により注文者が利益を受ける場合には、 注文者は、契約の解除ができず、報酬請求権も失われない、というのが実務上の運用になっていました。
そこで、改正では、このような従来の判例を明文化し、
①注文者の帰責性(責任)なく仕事を完成することができなくなったとき
②請負が仕事の完成前に解除されたとき
について、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって、注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなすこととされました。 また、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができます(民法634条)。
ポイント3│解除の要件を見直した(全契約類型に共通)
【改正の性質】
②従来、解釈に争いがあった条項を明文化したもの/従来の条項・判例・一般的な解釈を変更したもの
この改正ポイントは、請負契約のみならず、すべての契約類型に共通するものです。 主な改正ポイントは、次の3点です。
- 解除の要件から「債務者の帰責性」を削除した
- 催告解除の要件が明確になった
- 無催告解除の要件を整理した
詳細はこちらの記事で解説しています。
ポイント4│注文者の破産手続の開始による、請負人からの解除を制限した
【改正の性質】
②従来、解釈に争いがあった条項を明文化したもの/従来の条項・判例・一般的な解釈を変更したもの
旧民法の下では、注文者が破産手続開始の決定を受けたときは、請負人は、仕事が完成したかどうかを問わず、契約を解除することができました(旧民法642条)。 改正により、注文者が破産手続開始の決定を受けた場合における請負人からの契約解除について、「仕事を完成しない間に限り契約の解除をすることができる」という制限が加えられます(民法642条1項ただし書)。
請負契約のレビューで見直すべき4つの条項
上述の改正点をふまえて、請負契約のレビューで見直すべき条項について解説します。 見直すべき条項は、以下の6つです。
- 請負契約で見直すべき条項(4つ)
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・成果物の仕様に関する条項
・請負代金に関する条項
・請負人の担保責任の内容に関する条項
・解除条項
成果物の仕様に関する条項
【関連する改正ポイント】
ポイント1│請負人の担保責任のルールを見直した(瑕疵担保責任から契約不適合責任へ)
この改正により、納品された成果物について、契約で定めた仕様に適合するものであるかどうか、という点が重要になります。そこで、契約締結のタイミングで、成果物の具体的内容を明らかにして、できる限り正確に契約で定める必要があります。
また、実務上も、請負契約で発生するトラブルの多くは、仕事の内容や成果物の仕様に関する認識のずれによって生じます。仕事の完成を依頼する際に、どのような仕事の完成を依頼したのかという点について、認識のずれや曖昧な点があると取引がうまくいきません。
そのため、仕事の完成を目的とする契約をレビューするときは、 「成果物(=仕事の結果)の内容が明確であるか」 が、最も重要な点となります 成果物の仕様に関する条項をレビューするときには、
・契約締結時に、成果物の仕様が確定している場合
・契約締結後、相手方の要望を聞きながら成果物を作成する場合
に応じて、それぞれ次の点に注意しましょう。
契約締結時に、成果物の仕様が確定している場合
たとえば、製品の性能が明確であり、仕様書を用意することができるケースです。
別途仕様書を作成して、契約書に添付するなど契約の内容であることを明確にしましょう。 たとえば、契約を締結する時点で、成果物の仕様書を作成できる場合は、次のように定めるとともに、仕様書を契約書に添付します。
- 記載例
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(仕様)
受託者(請負人)は委託者(注文者)に対し、本業務の成果として、別添仕様書に定める成果物を納品するものとする。
契約締結後、相手方の要望を聞きながら成果物を作成する場合
たとえば、イラストの作成を成果物とするケースです。
契約締結後、相手方の要望を聞きながら成果物を作成するときは、およその成果物を定めたうえで、納品後の修正作業についても、仕事の内容に含まれるのかといった点を明確にするとよいでしょう。 そこで、後述する請負人の担保責任の内容に関する条項を定めることを検討するのがよいでしょう。
請負代金に関する条項
【関連する改正ポイント】
ポイント2│請負人に対する割合的報酬のルールが明文化された
この改正により、注文者の帰責性(責任)なく途中で契約が終了したときは、請負人は、注文者が受けた利益の割合に応じた請負代金を支払う義務があります(民法634条)。また、請負契約が途中で解除されたときも同様です。 そこで、契約が途中で終了したときの請負代金の額について、民法のルールとは異なる取扱いとするのであれば、当事者間の合意が必要となります。請負代金に関する条項をレビューするときは、契約が途中で終了したときに備えて、レビューすることが重要です。 以下、請負人と注文者のそれぞれの立場から解説します。
請負人の立場でレビューするとき
請負人の立場でレビューするときは、契約が途中で終了したときに、どのくらいの割合で請負代金を請求できるかどうかをめぐってトラブルとなることを防ぐために、仕事の内容と請負代金の額を明確に定めるのが望ましいです。 とくに、請け負った仕事を細分化することができる場合は、できる限り、仕事を細分化して契約に定めたうえで、その内訳の代金額を記載するとよいでしょう。 このような定めにすることで、契約が途中で終了したときに、既に完成した仕事の対価を請求することが容易となります。
- 記載例
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(契約終了時の報酬)
本契約が解除その他の事由により委託期間の途中で終了したときの本業務の対価は、履行の割合に応じて、以下のとおりとする。ただし、その終了が委託者の責めに帰すべき事由によるときの委託料は、前項の額の全額とする。
(1)●●に関する業務 ●●円(税込み)
(2)●●に関する業務 ●●円(税込み)
(3)●●に関する業務 ●●円(税込み)
注文者の立場でレビューするとき
注文者としては、仕事が完成しないまま契約が途中で終了したときは、なるべく請負代金を減額したいと考えるのが通常です。 たとえば、注文者にとって有利な定め方としては、次のいずれかの定め方が考えられます。 注文者にとって有利な順番に紹介します。
- 割合的報酬の定め方(注文者の立場)
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① 有利
原則、履行割合に応じた請負代金とするが、請負人に帰責性(責任)があるとき、請負代金は発生しない② やや有利
履行割合に応じた請負代金とする③ 中間
原則、履行割合に応じた請負代金とするが、注文者に帰責性(責任)があるときは全額とする ※民法のルールと同じ
①と②は、民法のルールよりも注文者に有利な内容であり、③は、民法のルールと同じものです。 それぞれ、記載例をご紹介します。
次の記載例は、注文者にとって、もっとも有利なものです。 原則、履行割合に応じた請負代金とするが、請負人に帰責性(責任)があるとき、請負代金は発生しないというものです。
- 記載例
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(契約期間が途中で終了したときの報酬)
本契約が解除その他の事由により委託期間の途中で終了したとき(委託者(注文者)の帰責事由により終了した場合を含む)の本業務の対価は、履行の割合に応じて、以下のとおりとする。ただし、その終了が受託者(請負人)の責めに帰すべき事由によるときは、委託料は発生しないものとする。
(1)●●に関する業務 ●●円(税込み)
(2)●●に関する業務 ●●円(税込み)
(3)●●に関する業務 ●●円(税込み)
次の記載例は、注文者にとって、その次に有利なものです。 履行割合に応じた請負代金とするものです。
- 記載例
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(契約期間が途中で終了したときの報酬)
本契約が解除その他の事由により委託期間の途中で終了したときの本業務の対価は、履行の割合に応じて、以下のとおりとする。なお、その終了が委託者(注文者)の責めに帰すべき事由によるときも同様とする。
(1)●●に関する業務 ●●円(税込み)
(2)●●に関する業務 ●●円(税込み)
(3)●●に関する業務 ●●円(税込み)
最後に、次の記載例は、折衷案です。民法と同じルールを確認的に定めるものです。
- 記載例
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(契約期間が途中で終了したときの報酬)
本契約が解除その他の事由により委託期間の途中で終了したときの本業務の対価は、履行の割合に応じて、以下のとおりとする。ただし、その終了が委託者(注文者)の責めに帰すべき事由によるときの委託料は、前項の額の全額とする。
(1)●●に関する業務 ●●円(税込み)
(2)●●に関する業務 ●●円(税込み)
(3)●●に関する業務 ●●円(税込み)
請負人の担保責任の内容に関する条項
【関連する改正ポイント】
ポイント1│請負人の担保責任のルールを見直した(瑕疵担保責任から契約不適合責任へ)
改正により、請負人の担保責任として、注文者に追完請求権と代金減額請求権が認められるとともに、注文者の権利の行使期間が延長されることになりました。 そこで、請負人と注文者のいずれの立場であっても、
・担保責任の内容(どんな責任を請負人が負うのか)
・権利行使の期間(いつまで責任を負うのか)
について、民法のルールに比べて、自分たちにとって、有利な内容にする必要はないか、あるいは、不利な内容になっていないか、という点を確認する必要があります。
基本的には、売買契約の契約不適合責任と同様のレビューポイントとなります。
解除条項
【関連する改正ポイント】
ポイント3│解除の要件を見直した(全契約類型に共通)
改正により、債務不履行を理由として契約を解除するために、相手方の帰責性(責任)は不要となりました(民法541~542条)。 そこで、解除の要件について、民法のルールに比べて、自分にとって有利(または不利)な条項となっていないかを確認をする必要があります。
このレビューポイントは、請負契約に限らず、すべての契約類型に共通するものです。こちらの記事で詳細を解説しています。
まとめ
民法改正(2020年4月1日施行)に対応した保証契約のレビューポイントは以上です。
実際の業務でお役立ちいただけると嬉しいです。
改正点について、解説つきの新旧対照表もご用意しました。
〈サンプル〉