肖像権とは?
プライバシー・著作権との関係や
侵害の判断基準について分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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肖像権とは、一般的に、人がみだりに他人から写真を撮られたり、撮られた写真をみだりに世間に公表、利用されない権利のことをいいます。
肖像権侵害に該当するか否かは、
① 被撮影者の社会的地位
② 撮影された被撮影者の活動内容
③ 撮影の場所
④ 撮影の目的
⑤ 撮影の態様
⑥ 撮影の必要性等
を総合考慮したうえ、社会生活上受忍の限度を超えるか否かによって判断されます。この記事では、肖像権について、プライバシー・著作権・個人情報保護法との関係や、侵害の判断基準などを分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年8月28日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 個人情報保護法・個情法…個人情報の保護に関する法律
目次
肖像権とは
肖像権とは、一般的に、人がみだりに他人から写真を撮られたり、撮られた写真をみだりに世間に公表、利用されない権利といわれています。法律上明示的に認められた権利ではなく、人格権に基づくものとして裁判例上認められてきた権利です。
昨今、インターネットやSNSの流行等を踏まえ、肖像権侵害が問題となることも多くなってきています。
この記事では、肖像権の内容や肖像権侵害の判断基準について詳しく見ていきます。
肖像権の類型
広義の肖像権は、
✅ 人物の肖像の人格的利益に着目した狭義の肖像権
✅ 人物の肖像の財産的価値に着目した肖像権(いわゆるパブリシティ権)
に分類されると考えられています。以下見ていきます。
人格権としての肖像権
人物の肖像の人格的利益に着目した肖像権を、狭義の肖像権といい、一般的に「肖像権」というときは、狭義の肖像権を指すことが多いかと思います(この記事でも、単に「肖像権」というときは、狭義の肖像権を指します)。
判例でも、以下のように判示されており、人には、その容ぼう等を勝手に撮影等されない権利(狭義の肖像権)が保障されているといえます。
・「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有する」(最大判昭和44年12月24日刑集23巻12号1625頁)
・「人は、自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有する」(最一小判平成17年11月10日民集59巻9号2428頁)
・「人は、自己の容ぼう等を描写したイラスト画についても、これをみだりに公表されない人格的利益を有する」(同上)
財産権としての肖像権(パブリシティ権)
人物の肖像の財産的価値に着目した肖像権を、特にパブリシティ権といいます。
最一小判平成24年2月2日民集66巻2号89頁は、上記最大判昭和44年12月24日や最一小判平成17年11月10日を引用しつつ、「人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有する」と指摘しています。
そのうえで、さらに、「肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利」を「パブリシティ権」と定義し、パブリシティ権についても、「肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる」と判示しており、肖像等がもつ顧客吸引力という財産的利益はパブリシティ権として保護されているといえます。
パブリシティ権は、肖像等が持つ財産的利益を保護する権利ではありますが、上記最判平成24年2月2日が指摘するように、あくまで肖像等に発生する権利であるため、人格権に由来する権利の一つと考えられています。
また、肖像権は、人であれば誰にでも発生する権利といえますが、パブリシティ権は、肖像等が有する顧客吸引力を利用する権利ですので、肖像等に顧客吸引力を有するような、著名人・有名人に発生する権利といえます。
パブリシティ権については、以下の記事もご参照ください。
他の権利等との関係
次に、さらに肖像権の内容について理解するために、肖像権と他の権利等との関係について見ていきます。
プライバシーとの関係
プライバシーの権利については、裁判例上では、例えば、以下のように指摘されています。
- 「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」(東京地判昭和39年9月28日判タ165号184頁)
- 「他人がみだりに個人の私的事柄についての情報を取得することを許さず、また、他人が自己の知つている個人の私的事柄をみだりに第三者へ公表したり、利用することを許さず、もつて人格的自律ないし私生活上の平穏を維持するという利益」(東京地判昭和62年11月20日判タ658号60頁)
このようなプライバシーの権利と肖像権との関係については、肖像権をプライバシーの権利の一つの内容と捉える見解も指摘されていますが、裁判例では、肖像権を(プライバシーの権利とは別の)独立した権利として捉えているものが多いのではないかと思います。
著作権・著作者人格権との関係
著作権法は、文化の発展に寄与することを目的として(著作権法1条)、著作物(著作権法2条1項1号)を創作した著作者(著作権法2条1項2号)の著作権(著作権法21条~28条)や著作者人格権(著作権法18条~20条)を保護する法律です。
まず、著作権法では、ある人物写真自体を著作物(著作権法10条1項8号)、当該人物写真(著作物)を撮影した撮影者を著作者として、著作者の著作権や著作者人格権を侵害する当該写真の利用行為から著作者を保護します。
一方、肖像権は、撮影者ではなく当該写真の被写体である人物に発生する権利であり、肖像権を侵害する写真の撮影行為や公表行為から被写体である人物を保護します。
このため、写真の撮影段階では、著作者になりうる写真の撮影者が、被写体の肖像権を侵害する主体になりうるという関係性ですので、人物写真を撮影する際には、被写体の肖像権を侵害しないよう留意することが必要です。
そして、ある人物が写っている写真を利用する場合は、
✅ 著作者との関係で著作権や著作者人格権に関する権利処理を行う
✅ 被写体との関係で肖像権に関する権利処理を行う
ことが必要となります。
個人情報保護法との関係
個人情報保護法は、「個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的」として(個情法1条)、個人情報等を取り扱う場合のルールについて定める法律です。
個人情報保護法における「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、次の①か②のいずれかに該当するものをいいます(個情法2条1項)。
① 特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合できることで、特定の個人を識別することができるものを含む)(1号)
② 個人識別符号(=その情報単体から個人を特定できる符号)が含まれるもの(2号)
本人を判別できる写真や映像等は、上記①に該当し、個人情報に含まれると理解されていますので、人の肖像も「個人情報」として個人情報保護法の保護を受けることがあります。
人の肖像が「個人情報」として個人情報保護法の保護を受ける場合、その肖像(個人情報)を取り扱う個人情報取扱事業者(個情法16条2項参照)には、個人情報保護法が定めるルールが適用されます。
個人情報取扱事業者が当該ルールを遵守できない場合は、個人情報保護法に規定された勧告・命令(個情法148条参照)や罰則(個情法178条参照)の適用を受けることになります。
一方、同じ肖像を取り扱う場合でも、これが肖像権侵害に該当する場合(「肖像権侵害の判断基準」参照)には、民法上の不法行為責任が生じることになります。
死者の肖像権
既に死亡した方の存命中の容ぼう等を利用した場合に、肖像権侵害が成立するかについて議論されることがあります。
この点について、大阪地判平成元年12月27日判時1341号53頁は、以下のとおり判示し、人格権は人の死亡により消滅することを理由に、死者の肖像権侵害の成立を否定しました。
「原告らは、本件では被告らの行為により、死者である亡A自身の名誉権、プライバシーの権利及び肖像権等の人格権が侵害された旨主張する。しかしながら、このような人格権は、その性質上、一身専属権であると解すべきところ、人は死亡により私法上の権利義務の享有主体となる適格(権利能力)を喪失するから、右人格権もその享有主体である人の死亡により消滅するものである。そして、人格権については、実定法上、遺族又は相続人に対し、死者が生前享有していた人格権と同一内容の権利の創設を認める一般的な規定も死者につき人格権の享有及び行使を認めた規定もない。」
大阪地判平成元年12月27日判時1341号53頁
その一方で、同大阪地判は、同事案では、遺族の故人に対する敬愛追慕の情が侵害されていると認定したうえ、以下のとおり、敬愛追慕の情の侵害についてその違法性が阻却される場合についても判示しています。
「社会の構成員が当該私的事柄を知ることに正当な関心を持ちそれを知ることが社会全体の利益になるような場合、すなわち、当該事柄が公共の利害に関する事実である場合で、かつ、取材及び報道が公益を図る目的でなされた時には、当該取材の手段方法並びに報道された事項の真実性又は真実性を信ずるについての相当性及び表現方法等の報道の内容等をも総合的に判断したうえで、遺族の故人に対する敬愛追慕の情の侵害につき違法性が阻却されるべき場合がある」。
大阪地判平成元年12月27日判時1341号53頁
肖像権侵害の判断基準
次に、以下では、どのような場合に、肖像権侵害に当たるかの判断基準について見ていきます。
最一小判平成17年11月10日の示した判断基準
上記最一小判平成17年11月10日は、以下のとおり判示し、人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超える場合に肖像権侵害に該当し、社会生活上受忍の限度を超えるか否かは、
① 被撮影者の社会的地位
② 撮影された被撮影者の活動内容
③ 撮影の場所
④ 撮影の目的
⑤ 撮影の態様
⑥ 撮影の必要性等
という6つの考慮要素を総合考慮して決すべきとしています。
「人の容ぼう等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もあるのであって、ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。」
「人の容ぼう等の撮影が違法と評価される場合には、その容ぼう等が撮影された写真を公表する行為は、被撮影者の上記人格的利益を侵害するものとして、違法性を有するものというべきである。」
最一小判平成17年11月10日民集59巻9号2428頁
なお、上記最一小判平成17年11月10日は、人の容ぼう等の撮影が違法となる判断基準を提示したうえ、撮影が違法と評価される場合には、撮影された写真を公表する行為も違法性を有すると指摘していますが、東京地判平成21年9月29日判タ1339号156頁は、以下のとおり、公表に関わる事由も考慮要素として掲げ、人の容ぼう等の撮影・公表が違法となる場合の判断基準について指摘しています。
「ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影し、これを公表することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影・公表された被撮影者の活動内容、撮影・公表の場所、撮影・公表の目的、撮影・公表の態様、撮影・公表の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。」
東京地判平成21年9月29日判タ1339号156頁
肖像権ガイドライン
「最一小判平成17年11月10日の示した判断基準」記載のとおり、判例上、肖像権侵害の判断基準が提示されており、当該判断基準は、6つの要素を総合考慮して、人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものか否かを判断するというものです。
しかし、この基準だけでは結果の予見可能性に乏しいところがあるといえますし、大量のコンテンツについて肖像権侵害があるか否かを検討する必要がある場合、1つ1つのコンテンツについて総合考慮を行い肖像権侵害に該当するか否かを判断することは現実的ともいえません。
このような問題意識も踏まえ、デジタルアーカイブ学会は、「デジタルアーカイブ機関における自主的なガイドライン作りの参考・下敷きにして頂くことを目的」として、「肖像権ガイドライン~自主的な公開判断の指針~」(2023年4月補訂)を公開しています。
肖像権ガイドラインでは、所蔵写真をインターネット等で公開することができるか否かについて、
- ステップ1:「知人が見れば誰なのか判別できるか?」(→判別できなければ公開に適する)
- ステップ2:「その公開について写っている人の同意はあるか?」(→同意があれば公開に適する)
といったステップを経たうえ、
- ステップ3:「公開によって一般に予想される本人への精神的な影響をポイント計算すると何点か?」
というステップを設け、「別掲 ステップ3のポイント計算リスト」に基づくポイント計算の結果により、その写真が公開に適するか、公開する場合どのような方法をとる必要があるかを判別することとしています。
肖像権ガイドラインに従うことによって、裁判上、必ず肖像権侵害が否定されるという関係にはありませんが、肖像権侵害か否かを検討するに当たり、「別掲 ステップ3のポイント計算リスト」記載の考慮要素とポイントは参考にはなるものと考えられます。
肖像権侵害に対する救済措置
肖像権侵害は、民法上の不法行為に該当するところ、被害者は、加害者に対し、損害賠償請求(民法709条)や、謝罪広告その他の回復処分(民法723条類推適用)、差止請求等を行うことが考えられます。
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