パブリシティ権とは?
肖像権・著作権との関係や
侵害の判断基準について分かりやすく解説!

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弁護士法人NEX弁護士
2015年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。経済産業省知的財産政策室や同省新規事業創造推進室での勤務経験を活かし、知的財産関連法務、データ・AI関連法務、スタートアップ・新規事業支援等に従事している。
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この記事のまとめ

パブリシティ権とは、一般的に、著名人の肖像や氏名のもつ顧客吸引力から生じる経済的な利益・価値を排他的に利用する権利のことをいいます。

パブリシティ権侵害に該当するのは、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合であり、例えば、

① 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合
② 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合
③ 肖像等を商品等の広告として使用する場合

はパブリシティ権侵害に当たります。

この記事では、パブリシティ権の内容やパブリシティ権侵害の判断基準について分かりやすく解説します。

ヒー

有名女優を広告に起用したいと思います。写真を使う場合に必要な許諾は何でしょうか?

ムートン

著名人の肖像を広告などに使う場合には、パブリシティ権の利用許諾を得る必要があります。所属事務所が管理していることも多いので、注意しましょう。

※この記事は、2023年8月28日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。

  • 不競法…不正競争防止法

パブリシティ権とは

パブリシティ権とは、一般的に、著名人の肖像(顔や体の写真やイラストのこと)や氏名の持つ顧客吸引力から生じる経済的な利益・価値を排他的に利用する権利といわれています。法律上明示的に認められた権利ではなく、人格権に由来する権利として裁判例上認められてきた権利です。

勝手に著名人の肖像等を自社の商品広告等に利用してしまうとパブリシティ権侵害が問題となります。
この記事では、パブリシティ権の内容やパブリシティ権侵害の判断基準について詳しく見ていきます。

パブリシティ権の内容

上記のとおり、パブリシティ権とは、一般的に、著名人の肖像や氏名の持つ顧客吸引力から生じる経済的な利益・価値を排他的に利用する権利といわれています。最一小判平成24年2月2日民集66巻2号89頁も、「肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利」のことを、パブリシティ権と定義しています。

また、パブリシティ権の性質について、上記最一小判平成24年2月2日は、「人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利」を有すると判示したうえ、パブリシティ権は、「上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するもの」として法的に保護されると判示しており、パブリシティ権は人格権に由来する権利の1つといえます。

他の権利等との関係

次に、さらにパブリシティ権の内容について理解するために、パブリシティ権と他の権利等との関係について見ていきます。

肖像権との関係

肖像権とは、一般的に、人がみだりに他人から写真を撮られたり、撮られた写真をみだりに世間に公表、利用されない権利といわれています。

肖像権もパブリシティ権と同様、人の肖像に関する権利ですが、肖像権が肖像の人格的利益に着目した権利である一方、パブリシティ権は肖像等のもつ顧客吸引力という財産的利益に着目した権利である点が異なります。

なお、肖像権は、容ぼうや姿態の肖像を保護する権利であるのに対し、パブリシティ権は、肖像だけではなく、氏名サイン署名ペンネーム芸名等も保護範囲に含みうる権利です。

肖像権については、以下の記事もご参照ください。

著作権・著作者人格権との関係

著作権法は、文化の発展に寄与することを目的として(著作権法1条)、著作物(著作権法2条1項1号)を創作した著作者(著作権法2条1項2号)の著作権(著作権法21条~28条)や著作者人格権(著作権法18条~20条)を保護する法律です。

ムートン

著作権法とパブリシティ権の関係について、著名人の写真を例にとって考えてみましょう。

まず、著作権法では、ある著名人の写真自体を著作物(著作権法10条1項8号)、当該著名人の写真(著作物)を撮影した撮影者を著作者として、著作者の著作権や著作者人格権を侵害する当該写真の利用行為から著作者を保護します。

一方、パブリシティ権は、撮影者ではなく当該写真の被写体である著名人に発生する権利であり、パブリシティ権を侵害する写真の利用行為(詳しくは「パブリシティ権侵害の判断基準」を参照)から当該著名人を保護します。

このため、ある著名人が写っている写真を利用する場合は、

著作者との関係で著作権や著作者人格権に関する権利処理を行う
被写体である当該著名人との関係でパブリシティ権に関する権利処理を行う

ことが必要となります。なお、著名人にも肖像権が認められますので、肖像権に関する権利処理についても留意が必要です。

不競法の「商品等表示」との関係

不競法では、他人の有名な商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの)を使用等する行為不正競争として規定しています(不競法2条1項1号・2号)。

パブリシティ権が顧客吸引力を有するような著名人の氏名・肖像等を保護する権利であり、一方、不競法上の商品等表示保護規定(2条1項1号・2号)も有名な(氏名や商号等の)商品等表示を保護する規定ですので、両者の保護対象は一部重複する場合もありえ、この点で共通性を持つものといえます。

一方、パブリシティ権は、氏名・肖像等を利用する行為のうち、「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とする」行為から保護されるのに対し(詳しくは「パブリシティ権侵害の判断基準」を参照)、有名な商品等表示は、当該商品等表示を「使用」する行為等から保護される(不競法2条1項1号・2号)点が異なります。

特殊なパブリシティ権

パブリシティ権は、「パブリシティ権とは」に記載のとおり、著名人等の顧客吸引力を有する肖像等に生じます。一方、以下のとおり、少し特殊なパブリシティ権が認められないかについても論点となっています。

死者のパブリシティ権

パブリシティ権が相続の対象となり、パブリシティ権を有していた者が亡くなっても、相続人等が死者のパブリシティ権を行使できるかという点が論点となっています。

この点については、一般的には、上記最一小判平成24年2月2日が、パブリシティ権を人格権に由来する権利であると判示している以上、パブリシティ権はその人物の一身に専属し、相続の対象にはならないと考えられています。

物のパブリシティ権

人ではなく、物にもパブリシティ権が認められるかについても論点となりますが、最二小判平成16年2月13日民集58巻2号311号は、以下のとおり判示して、物のパブリシティ権を否定しています。

物の所有権は、その物の有体物としての面に対する排他的支配権能であるにとどまり、その物の名称等の無体物としての面を直接排他的に支配する権能に及ぶものではないから、第三者が、競走馬の有体物としての面に対する所有者の排他的支配権能を侵すことなく、競走馬の名称等が有する顧客吸引力などの競走馬の無体物としての面における経済的価値を利用したとしても、その利用行為は、競走馬の所有権を侵害するものではない」。
「現行法上、物の名称の使用など、物の無体物としての面の利用に関しては、商標法、著作権法、不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が、一定の範囲の者に対し、一定の要件の下に排他的な使用権を付与し、その権利の保護を図っているが、その反面として、その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため、各法律は、それぞれの知的財産権の発生原因、内容、範囲、消滅原因等を定め、その排他的な使用権の及ぶ範囲、限界を明確にしている。
上記各法律の趣旨、目的にかんがみると、競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても、物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき、法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく、また、競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為の成否については、違法とされる行為の範囲、態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において、これを肯定することはできないものというべきである。したがって、本件において、差止め又は不法行為の成立を肯定することはできない。」

最二小判平成16年2月13日民集58巻2号311号

パブリシティ権侵害の判断基準

次に、以下では、どのような場合に、パブリシティ権侵害に当たるかの判断基準について見ていきます。

最一小判平成24年2月2日の示した判断基準

上記最一小判平成24年2月2日は、上記のとおりパブリシティ権を認めていますが、一方、以下のとおり、パブリシティ権が制限される場合がある旨を指摘したうえ、パブリシティ権侵害の判断基準について判示しています。

他方、肖像等に顧客吸引力を有する者は、社会の耳目を集めるなどして、その肖像等を時事報道、論説、創作物等に使用されることもあるのであって、その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである。そうすると、肖像等を無断で使用する行為は、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である。

最一小判平成24年2月2日民集66巻2号89頁

そのうえで、当該事案については、以下のとおり判示し、パブリシティ権侵害の成立を否定しています。

前記事実関係によれば、本件記事の内容は、ピンク・レディーそのものを紹介するものではなく、前年秋頃に流行していたピンク・レディーの曲の振り付けを利用したダイエット法につき、その効果を見出しに掲げ、イラストと文字によって、これを解説するとともに、子供の頃にピンク・レディーの曲の振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するというものである。そして、本件記事に使用された本件各写真は、約200頁の本件雑誌全体の3頁の中で使用されたにすぎない上、いずれも白黒写真であって、その大きさも、縦2.8cm、横3.6cmないし縦8cm、横10cm程度のものであったというのである。これらの事情に照らせば、本件各写真は、上記振り付けを利用したダイエット法を解説し、これに付随して子供の頃に上記振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するに当たって、読者の記憶を喚起するなど、本件記事の内容を補足する目的で使用されたものというべきである。

最一小判平成24年2月2日民集66巻2号89頁

パブリシティ権侵害の3類型

上記のとおり、上記最一小判平成24年2月2日では、パブリシティ権侵害の判断基準として、「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」という抽象的基準を提示しつつ、パブリシティ権侵害に当たる具体的な場合として、

① 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合
② 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合
③ 肖像等を商品等の広告として使用する場合

を挙げています。

上記①の具体例としては、著名人の肖像をブロマイド、ポスター、ステッカー、シール、写真集として販売する場合や、画像の配信サービスを行う場合等が考えられます。

上記②の具体例としては、著名人の肖像をTシャツ、マグカップ、ストラップ、タオル、カレンダー等に利用して販売する場合等多種多様な場合が考えられます。

上記③の具体例としては、著名人をテレビコマーシャルやインターネット広告に利用する場合が考えられます。

なお、上記最一小判平成24年2月2日では、上記①~③は例示として掲げられていますが、同判決の金築誠志裁判官の補足意見では、以下のとおり指摘されており、上記①~③以外にパブリシティ権侵害に該当する場合は限られると考えられます。

肖像等の無断使用が不法行為法上違法となる場合として,本判決が例示しているのは,ブロマイド,グラビア写真のように,肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合,いわゆるキャラクター商品のように,商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付する場合,肖像等を商品等の広告として使用する場合の三つの類型であるが,これらはいずれも専ら顧客吸引力を利用する目的と認めるべき典型的な類型であるとともに,従来の下級審裁判例で取り扱われた事例等から見る限り,パブリシティ権の侵害と認めてよい場合の大部分をカバーできるものとなっているのではないかと思われる。これら三類型以外のものについても,これらに準ずる程度に顧客吸引力を利用する目的が認められる場合に限定することになれば,パブリシティ権の侵害となる範囲は,かなり明確になるのではないだろうか。

最一小判平成24年2月2日民集66巻2号89頁

パブリシティ権侵害に当たらないケース

パブリシティ権侵害に該当する場合は、上記のとおり、「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」です。顧客吸引力の利用を目的としていない場合はパブリシティ権侵害には該当しませんので、例えば、報道目的で著名人の肖像等を利用する場合はパブリシティ権侵害に当たりません。

パブリシティ権侵害に対する救済措置

パブリシティ権侵害が認められた場合、民法上の不法行為に該当するところ、被害者は、加害者に対し、損害賠償請求(民法709条)や差止請求等を行うことが考えられます。

パブリシティ権のライセンス

パブリシティ権については、一般的には、上記最一小判平成24年2月2日が、パブリシティ権を人格権に由来する権利であると判示している以上、パブリシティ権はその人物の一身に専属するため、これを譲渡することはできないと考えられています。

一方、パブリシティ権の利用許諾(ライセンス)可能であると考えられていますので、パブリシティ権を有する者は、他者にパブリシティ権のライセンスをすることで、対価を得ることも可能です。

ムートン

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参考文献

中島基至「最高裁判所判例解説民事篇平成24年度(上)」法曹会、2015年