「みなす」とは?
意味・「推定する」との違い・
法律や契約書における使用例などを
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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法律用語としての「みなす」とは、事実がどうであるかに関わらず、その事実があったものとして取り扱うという意味の言葉です。反証(異なる事実を示す証拠があればそちらを認定すること)が認められる「推定する」とは異なり、「みなされた」事実についての反証は認められません。
契約書において「みなす」を使用する際には、「推定する」との違いを踏まえた上で、反証を許さないことが適切かどうかを検討することが大切です。
この記事では法律用語としての「みなす」について、意味・「推定する」との違い・法律や契約書における使用例・契約書レビュー時の注意点などを解説します。
※この記事は、2023年12月18日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
「みなす」とは
法律や契約書の条文では、「みなす」という言葉が使われることがあります。漢字では「看做す」または「見做す」と書きます。
英文では”……is deemed that……”や”……is deemed to be……”などの表現が用いられます。日本語では「……は……とみなされる」という意味です。
「みなす」の辞書的意味
「デジタル大辞泉」によると、「みなす」は以下の意味を有するとされています。
み‐な・す【見做す/▽看做す】
デジタル大辞泉(小学館)「みなす」
1 仮にそうと見る。そうでないものをそうとする。仮定する。「雪を花と—・す」
2 判断してそうと決める。「返事のない者は欠席と—・す」
3 法律で、ある事物と性質の異なる他の事物を、一定の法律関係について同一視し、同じ法律効果を生じさせる。「住所が知れない場合には、居所を住所と—・す」
4 見とどける。
「命長くて、なほ位高くなど—・し給へ」〈源・夕顔〉
5 世話をして育てあげる。
「人なみなみに—・したらむこそ嬉しからめ」〈源・総角〉
法律用語としての「みなす」|「推定する」との違い
法律用語としての「みなす」とは、事実がどうであるかに関わらず、その事実があったものとして取り扱うという意味の言葉です。
例えば、
✅ 「納品後10日以内に不合格通知が発せられないときは、検査に合格したものとみなす」
と定められているとします。
この場合は、納品後10日以内に不合格通知が発せられなければ、実際に検査に合格していたか否かに関わらず、検査に合格したものとして取り扱います。
「本当は検査に合格していなかった」と主張することはできません。みなされた事実に対する反証は認められないということです。
一方、法律や契約書の条文では「推定する」という言葉が使われることもあります。「推定する」は、反証がない限りその事実があったものとして取り扱うという意味です。
例えば、
✅ 「納品後10日以内に不合格通知が発せられないときは、検査に合格したものと推定する」
と定められているとします。
この場合は「みなす」と異なり、「本当は検査に合格していなかった」と主張(=反証)する余地があります。
このように、「みなす」については反証が認められないのに対して、「推定する」については反証が認められるのが大きな違いです。
民法における「みなす」の使用例・条文例
民法では、さまざまな条文において「みなす」が用いられています。その一例として、以下の3つを紹介します。
- 民法における「みなす」の使用例
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① 失踪宣告の効力(民法31条)
② 履行遅滞中・受領遅滞中の履行不能に関する帰責事由(民法413条の2)
③ 定型約款の合意(民法548条の2)
失踪宣告の効力
民法
(失踪の宣告)
第30条 不在者の生死が7年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
2 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止やんだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後1年間明らかでないときも、前項と同様とする。(失踪の宣告の効力)
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第31条 前条第1項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第2項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。
民法30条および31条は、失踪宣告の要件およびその効力について定めた条文です。
民法31条では、失踪宣告を受けた者は「死亡したものとみなす」と定めています。実際にはどこかで生きていたとしても、法律上は死亡したものとして取り扱うということです。
仮に失踪者が生存していて帰ってきたとしても、失踪宣告を取り消す審判(民法32条)が行われない限り、失踪者は死亡したものとして取り扱われます。
履行遅滞中・受領遅滞中の履行不能に関する帰責事由
民法
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(履行遅滞中又は受領遅滞中の履行不能と帰責事由)
第413条の2 債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。
2 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。
民法413条の2は、履行遅滞中または受領遅滞中の履行不能について、帰責事由の所在に関するルールを定めた条文です。
同条1項では、履行遅滞中の履行不能について「債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなす」と定めています。履行遅滞について債務者の帰責性があることに着目し、その後の履行不能については債務者の帰責性がないとしても、帰責性があるものとして取り扱うということです。
同条2項では、受領遅滞中の履行不能について「債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす」と定めています。受領遅滞について債権者の帰責性があることに着目し、その後の履行不能については債権者の帰責性がないとしても、帰責性があるものとして取り扱うということです。
定型約款の合意
民法
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(定型約款の合意)
第548条の2 定型取引(……)を行うことの合意(……)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
一 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
二 定型約款を準備した者(……)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
2 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。
民法548条の2は、定型約款の合意について定めた条文です。
同条1項では、定型約款の内容について合意が成立する要件を定めています。
利用規約などの定型約款については、消費者は細かく読み込まないケースが多いです。この場合、利用者は定型約款の個別の条項について合意しているとは必ずしも言えません。
しかし、取引上の便宜の観点から、定型約款全体についての合意またはその事前表示が行われた場合は、個別の条項についても合意をしたものとみなすとされています。
同条2項では、定型約款における不当条項は合意の対象から除外される旨を定めています。消費者側の権利を制限しまたは義務を加重する条項であって、信義則に照らして消費者側の利益を一方的に害するものは、不当条項として合意をしなかったものとみなすとされています。
仮に消費者が不当条項について同意していたとしても、事業者側はそのことを理由に不当条項の有効性を主張できません。
会社法における「みなす」の使用例・条文例
会社法でも、さまざまな条文において「みなす」が用いられています。その一例として、以下の3つを紹介します。
① 表見支配人(会社法13条)
② 募集株式の申込みに関する電子情報の提供(会社法203条3項)
③ 株主総会のみなし決議(書面決議)(会社法319条1項)
表見支配人
会社法
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(表見支配人)
第13条 会社の本店又は支店の事業の主任者であることを示す名称を付した使用人は、当該本店又は支店の事業に関し、一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなす。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。
会社法13条は、表見支配人について定めた条文です。
会社の本支店の事業の主任者であることを示す名称(「支配人」など)を付した使用人は、実際にその権限を有しなかった場合でも、当該事業に関して一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなされます。
会社は、相手方が悪意であった(=権限がないことを知っていた)場合を除き、実際には権限がなかったことを主張して、表見支配人による行為の効果帰属を拒否することができません。
募集株式の申込みに関する電子情報の提供
会社法
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(募集株式の申込み)
第203条 略
2 第199条第1項の募集に応じて募集株式の引受けの申込みをする者は、次に掲げる事項を記載した書面を株式会社に交付しなければならない。
一 申込みをする者の氏名又は名称及び住所
二 引き受けようとする募集株式の数
3 前項の申込みをする者は、同項の書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、株式会社の承諾を得て、同項の書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。この場合において、当該申込みをした者は、同項の書面を交付したものとみなす。
4~7 略
会社法203条は、募集株式の申込みについて定めた条文です。
同条2項では、申込者が申込書面を株式会社に交付しなければならない旨を定めています。
その一方で同条3項では、申込書面に記載すべき事項を電磁的方法によって提供することを認めており、その場合は申込書面を交付したものとみなすとしています。
実際には書面を交付せず、電磁的方法によって情報を提供したに過ぎませんが、書面の交付義務を履行したことにするということです。
株主総会のみなし決議(書面決議)
会社法
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(株主総会の決議の省略)
第319条 取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。
2~5 略
会社法319条1項では、株主全員が書面または電磁的記録によって同意した場合に、株主総会決議があったものとみなす旨を定めています(=みなし決議、書面決議)。
実際には正規の手続きに従って株主総会決議が行われたわけではありませんが、手続き上の便宜の観点から、株主総会決議によって適法に決まったものとするということです。
契約書における「みなす」の使用例・条文例
契約書でも「みなす」が使われることがあります。一例として、国土交通省が公表している「民間建設工事標準請負契約約款(乙)」35条4項を紹介します。
民間建設工事標準請負契約約款(乙)
国土交通省「民間建設工事標準請負契約約款(乙)」35条
(契約不適合責任期間等)
第35条 発注者は、引き渡された工事目的物に関し、第18条第2項に規定する引渡し(以下この条において単に「引渡し」という。)を受けた日から2年以内でなければ、契約不適合を理由とした履行の追完の請求、損害賠償の請求、代金の減額の請求又は契約の解除(以下この条において「請求等」という。)をすることができない。
2 前項の規定にかかわらず、建築設備の機器本体、室内の仕上げ・装飾、家具、植栽等の契約不適合については、引渡しの時、発注者が検査して直ちにその履行の追完を請求しなければ、受注者は、その責任を負わない。ただし、当該検査において一般的な注意の下で発見できなかった契約不適合については、引渡しを受けた日から1年が経過する日まで請求等をすることができる。
3 略
4 発注者が第1項又は第2項に規定する契約不適合に係る請求等が可能な期間(以下この項及び第7項において「契約不適合責任期間」という。)の内に契約不適合を知り、その旨を受注者に通知した場合において、発注者が通知から1年が経過する日までに前項に規定する方法による請求等をしたときは、契約不適合責任期間の内に請求等をしたものとみなす。
5~9 略
同約款35条は、契約不適合責任の期間などを定めた条文です。
同条1項では、契約不適合責任の期間を原則として引渡日から2年とする旨を定めています。
同条2項では、引渡し時において直ちに検査すべき事項に関する責任期間の特則を定めています。
さらに同条4項では、上記の責任期間において発注者が受注者に不適合を通知した場合に、通知後1年間は契約不適合責任の追及を認める旨を定めています。
「契約不適合責任期間の内に請求等をしたものとみなす」とあるのは、実際には責任期間を経過していたとしても、期間内に請求したものとして有効と認めるということです。
「みなす」に関する契約書レビュー時の注意点
契約書において「みなす」を用いる際には、「推定する」との違いに注意すべきです。
前述のとおり、「推定する」については反証が許されるのに対して、「みなす」については反証が認められません。したがって、「みなす」の条件が満たされた場合は、常にその事実が存在するものとして取り扱われるということです。
「みなす」は「推定する」に比べて、要件と効果の対応関係が分かりやすい反面、柔軟性に劣る面があります。「みなす」によって予期せぬ結果を招くおそれがないかどうかを確認し、不適切と思われる場合は「推定する」や別の表現への変更を検討しましょう。
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