「社会通念上」とは?
使用例・問題になる場面・
主な考慮要素などを分かりやすく解説!

おすすめ資料を無料でダウンロードできます
[法務必携!]ポケット契約用語集~基本編~
この記事のまとめ

社会通念上」とは、「社会一般に通用している常識や見解に照らして」という意味です。法的紛争に関して、具体的な事情に即した妥当な結論を導く目的で、「社会通念上」「社会通念に照らして」などの言い回しが用いられることがあります。

例えば、民法における意思表示の錯誤取り消し・履行不能・債務不履行の帰責性・準占有者に対する弁済・契約の解除などに関する規定や、労働契約法に定められた懲戒権・解雇権の濫用に関する規定などにおいて「社会通念」が用いられています。
また、行政機関の裁量権の行使に関する裁判例においても、結論を導く際の基準として「社会通念」を用いた例があります。

特に契約に関する場合、社会通念を基準とする判断において主に考慮される要素は、取引の内容と当事者の立場・属性です。
通常の取引態様はどのようなものか、当事者間の力関係はどうなっているかなどの要素が、社会通念に照らした判断の内容を左右します。

この記事では「社会通念上」とは何かについて、問題になる場面や主な考慮要素などを解説します。

ヒー

裁判例などに出てくる「社会通念に照らして…」って、あいまいな感じがします。分かるような、よく分からないような…。

ムートン

「社会通念」は文言どおりにあてはめるだけでは妥当な結論が導けない場合に使われることが多いですね。意味や具体例を確認しましょう。

※この記事は、2024年2月20日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

「社会通念上」とは

法律の条文や訴訟(裁判)の判決文などでは、「社会通念上」という言葉が用いられることがあります。

「社会通念上」の意味

社会通念上」とは、「社会一般に通用している常識や見解に照らして」という意味です。
法的紛争に関して、具体的な事情に即した妥当な結論を導く目的で、「社会通念上」「社会通念に照らして」などの言い回しが用いられることがあります。

「社会通念上」の使用例

「社会通念上」という言葉は、例えば以下のような形で用いられます。

「社会通念上」の使用例

(例)
・解雇は、客観的に合理的な理由があり、かつ社会通念上相当と認められる場合に限って行うことができる。
・○○(行為)から△△(結果)が生じることは社会通念上相当と認められるため、○○と△△の間には因果関係が存在する。

社会通念が問題になる場面の例

「社会通念」が問題になるのは、例えば以下に挙げる場面です。

社会通念が問題になる場面の例

① 意思表示の錯誤取消し
② 履行不能
③ 債務不履行の帰責性
④ 準占有者に対する弁済
⑤ 契約の解除
⑥ 使用者による労働者の懲戒処分・解雇
⑦ 行政機関による裁量権の行使

意思表示の錯誤取消し

民法
(錯誤)
第95条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2~4 略

民法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

錯誤(=勘違い)に陥った状態で行った意思表示は、一定の要件を満たす場合に取り消すことができます。

錯誤による取消しの要件の一つとして、その錯誤が法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要なものであることが規定されています(民法95条1項)。
取引上の社会通念」とは、契約締結に関する事情や、同種の取引において一般に通用している商慣行などです。

履行不能

民法
(履行不能)
第412条の2 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない
2 略

民法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

債務の履行が不能であるときは、債権者は債務者に対して、その債務の履行を請求することができません。履行不能かどうかを判断する際には、取引上の社会通念を考慮すべきことが規定されています(民法412条の2第1項)。

債務不履行の帰責性

民法
(債務不履行による損害賠償)
第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 略

民法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

債務不履行が発生した場合、債権者は原則として、債務者に対して損害賠償を請求できます。
ただし例外的に、債務不履行が債務者の責めに帰することができない事由による場合は、損害賠償を請求できません。債務者の帰責性を判断する際には、取引上の社会通念を考慮すべきことが規定されています(民法415条1項)。

準占有者に対する弁済

民法
(受領権者としての外観を有する者に対する弁済)
第478条 受領権者(債権者及び法令の規定又は当事者の意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者をいう。以下同じ。)以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。

民法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

準占有者」とは、本来は弁済を受領する権限がないのに、その権限があるかのように見える者をいいます。準占有者に対する弁済は、弁済者が善意かつ無過失だった場合に限り有効です。

弁済を受領した者が準占有者に当たるかどうかを判断する際には、取引上の社会通念を考慮すべきことが規定されています(民法478条)。

契約の解除

民法
(催告による解除)
第541条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

民法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

不履行となった債務につき、債務者に対して履行の催告をしてから相当の期間内に履行がないときは、債権者は原則として契約解除できます。
ただし例外的に、債務不履行が軽微であるときは契約の解除が認められません。債務不履行が軽微であるかどうかを判断する際には、取引上の社会通念を考慮すべきことが規定されています(民法541条)。

使用者による労働者の懲戒処分・解雇

労働契約法(懲戒)
第15条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

(解雇)
第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

労働契約法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

労働契約法15条・16条では、使用者による労働者の懲戒および解雇が無効となる場合を定めています。
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない懲戒および解雇は、権利濫用として無効となります。

行政機関による裁量権の行使

行政機関による裁量権の行使についても、「社会通念上相当かどうか」という基準によって、その適法性が判断されることがあります。

本件裁決は、基礎となる事実の評価が明白に合理性を欠くことにより、その判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるから、裁量権の範囲をこえた場合に当たるというべきであり、違法なものというほかない。

名古屋高裁平成28年1月27日判決

名古屋高裁平成28年1月27日判決の事案では、フィリピン国籍の在留者が受けた退去強制令書発付処分の適法性が争われました。
名古屋地裁は、この処分について、在留者が長年にわたり日本で平穏に暮らしていた事実などの生活実態を無視し、人道的配慮に著しく欠けていることなどを指摘しました。
そして、退去強制令書発付処分に対する異議申立てを棄却した裁決につき、その判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるとして、当該裁決は違法であると判示しました。

契約に関する社会通念の判断における主な考慮要素

契約に関しては、債務不履行に関連する場面などにおいて、社会通念に照らした評価が問題になることがあります(例えば履行不能、損害賠償、契約の解除など)。

契約に関する社会通念に照らした評価においては、特に以下の3点が重要な考慮要素となります。

社会通念の判断における主な考慮要素

① 契約締結に関する事情
契約交渉の過程でどのようなやり取りがあったのか、過去に同種の取引が反復して行われていたかどうかなどが考慮されます。

② 取引の内容
同種の取引における商慣行や、取引の金額に応じて当事者に期待される注意の程度などが考慮されます。

③ 当事者の立場・属性
その取引に関して豊富な経験を有する事業者については、高度の注意義務が要求される傾向にあります。

ムートン

最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

おすすめ資料を無料でダウンロードできます
[法務必携!]ポケット契約用語集~基本編~