【2024年10月施行】社会保険の適用拡大とは?
適用の要件・法改正の内容・
事業者の注意点などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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社会保険とは、健康保険、厚生年金保険、介護保険、労働者災害補償保険(労災保険)、雇用保険を総称したものを指し、一般的には、健康保険、厚生年金保険、介護保険が社会保険と呼称されることが一般的です。
社会保険は、一定の要件を満たす場合は本人の意思によらずして被保険者とならなければなりませんし、事業者は対象の従業員を社会保険に加入させなければなりません。
また、健康保険、厚生年金保険は、フルタイムの労働者であれば、原則として加入させなければならず、アルバイト・パートタイマー等の短時間労働者であっても、一定の要件を満たす場合には加入させなければなりません。2024年10月1日より、アルバイト・パートタイマー等の短時間労働者が社会保険の適用対象となる要件が改正されるため、本記事ではアルバイト・パートタイマー等の短時間労働者が社会保険の適用対象となる要件について、解説します。
※この記事は、2024年3月26日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名等を次のように記載しています。
- 個人情報保護法・個情法…個人情報の保護に関する法律
目次
社会保険とは
社会保険は、憲法25条に規定される国民の生存権を保障するために設けられた制度であり、国民が事故、病気、怪我、災害等に遭遇したときに損害の填補または生活の保障をすることを目的とする制度です。
社会保険とは、一般に、健康保険、厚生年金保険、介護保険、労働者災害補償保険(労災保険)、雇用保険を総称したものを指します。
このうち、健康保険、厚生年金保険、介護保険を狭義の社会保険と呼称し、労災保険、雇用保険を労働保険と呼称することが一般的です。本記事における適用拡大の対象となる社会保険も健康保険、厚生年金、介護保険を指しており、以下では、単に社会保険という場合は、健康保険、厚生年金保険、介護保険を指します。
社会保険の被保険者となると、保険料は各人の収入によって決定されたうえで、労使で折半となり(健康保険、介護保険につき健康保険法161条1項、厚生年金保険につき厚生年金保険法82条1項)、給与から天引きをされます。
健康保険
健康保険とは、労働者またはその被扶養者の業務外の疾病、負傷もしくは死亡または出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする保険制度です(健康保険法1条)。
健康保険の被保険者は、医療費の自己負担が3割負担となったり、傷病により働けない場合や出産、死亡等の場合には保険給付を受けることができます。
厚生年金保険
厚生年金保険とは、労働者の老齢、障害または死亡について保険給付を行い、労働者およびその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする保険制度です(厚生年金保険法1条)。
厚生年金保険は、国民年金と併せた、いわゆる2階建ての2階部分の給付であり、被保険者は、国民年金に基づく各種年金の受給額に加えて、一定額を受給することができます。
原則として65歳から保険給付を受けられる老齢厚生年金、一定以上の障害が残った場合に保険給付を受けられる障害厚生年金、被保険者が死亡した際に遺族に支払われる遺族厚生年金等があります。
介護保険
介護保険とは、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となった場合において、必要な保健医療サービスおよび福祉サービスに係る給付を行うため、保険給付を行い、もって国民の保健医療の向上および福祉の増進を図ることを目的とする制度です(介護保険法1条)。
介護保険は40歳以上の人が加入する社会保険で、一定の事由により要介護状態となった場合に事業者から介護サービスを受けたり、その費用について一定額の保険給付を受けることができます。
社会保険には適用要件(企業規模・条件)がある
社会保険は全ての人が被保険者となれるものではなく、一定の要件を満たした場合に被保険者となります。
他方で、要件を満たす人は、本人の意思によらずして社会保険の被保険者とならなければなりませんし、事業者は対象の従業員を社会保険に加入させなければなりません。
介護保険の被保険者となる要件は、市町村の区域内に住所を有する65歳以上の者または市町村の区域内に住所を有する40歳以上65歳未満の医療保険加入者とされています(介護保険法9条)。医療保険加入者は健康保険の被保険者のみならず、国民健康保険の被保険者等を含みますので(介護保険法7条8項)、40歳以上の全ての人が被保険者となります。
健康保険と厚生年金保険は、事業者が法人である場合は社会保険の適用事業所となり、個人事業主であっても、以下のいずれかに該当する事業の事業所または事務所であって、常時5人以上の従業員を使用している場合には、適用事業所となります(健康保険につき健康保険法3条3項、厚生年金保険につき厚生年金保険法6条1項)。
- 製造業
- 土木建築業
- 鉱業
- 電気ガス事業
- 運送業
- 貨車積卸業
- 清掃業
- 物品販売業
- 金融保険業
- 保管賃貸業
- 媒介周旋業
- 集金案内広告業
- 教育研究調査業
- 医療保健業
- 通信報道業
- 社会福祉事業および更生保護事業
- 弁護士、公認会計士等の士業
社会保険の適用事業所となった場合には、原則として、フルタイムの従業員は社会保険に加入させる必要がありますが、アルバイト、パートタイマー等の短時間労働者が社会保険の対象となるには、企業規模・労働者の労働状況に応じて、一定の要件を満たす必要があります。
社会保険の適用対象となる短時間労働者とは
社会保険適用の要件
短時間労働者が以下の要件に該当する場合は社会保険の適用対象者となりません(健康保険につき健康保険法附則(平成24年8月22日法律第62号)46条1項、厚生年金保険につき、厚生年金保険法附則(平成24年8月22日法律第62号)17条1項)。
✅ 1週間の所定労働時間が同一の事業所に使用される通常の労働者の1週間の所定労働時間の4分の3未満
✅ 1カ月間の所定労働日数が同一の事業所に使用される通常の労働者の1カ月の所定労働日数の4分の3未満
もっとも、短時間労働者が上記に該当する場合(以下、「特定4分の3未満短時間労働者」という)であっても、以下の要件の全てを満たす場合には、社会保険の適用対象となります。
① 使用される従業員が常時101人以上であること
② 週の所定労働時間が20時間以上であること
③ 所定内賃金が月額8.8万円以上であること
④ 2カ月を超える雇用の見込みがあること
⑤ 学生ではないこと
事業所の従業員数
現行の制度では、特定4分の3未満短時間労働者が社会保険の適用対象になるための要件として、常時使用される従業員が101人以上であることが求められていますが(健康保険につき健康保険法附則(平成24年8月22日法律第62号)46条12項、厚生年金保険につき、厚生年金保険法附則(平成24年8月22日法律第62号)17条12項)、後述の通り、2024年10月1日より、適用対象範囲が拡大されます。
従業員数の数え方
①の要件でいう「使用される従業員数」とは、全ての従業員をカウントするのではなく、特定4分の3未満短時間労働者を除く、厚生年金保険の適用対象者をカウントします(厚生年金保険法附則(平成24年8月22日法律第62号)17条12項)。
また、使用される従業員は常時使用されている必要があり、「常時101人以上」とは、直近12カ月のうち6カ月間で厚生年金保険の適用対象者の人数が101人以上である場合は該当すると判断されます。
そのため、具体的には、事業者が雇用するフルタイムの労働者ならびに1週間の所定労働時間がフルタイムの労働者の所定労働時間の4分の3以上、および、1カ月間の所定労働日数がフルタイムの労働者の所定労働日数の4分の3以上の短時間労働者の合計数をカウントし、その人数が直近12カ月のうち6カ月で101人以上を上回っている場合には、①の要件を満たすことになります。
週の所定労働時間が20時間以上
②の要件は、所定労働時間ですので、就業規則や個別の雇用契約によって定められた労働時間で判断することになります。したがって、週所定労働時間が20時間未満の労働者が、時間外労働を行ったことにより週の労働時間が20時間を超えた場合であっても、その時間外労働時間は②の要件の判断においては含まれないことになります。
所定労働時間が週単位以外の単位で定められている場合は、1年を52週として、それぞれの所定労働時間から1週間単位での所定労働時間を算出することになります。
また、所定労働時間が特定の期間によって長短がある場合は、特定の期間を除いた通常の期間の所定労働時間をもとに週所定労働時間が20時間以上となるかを判断します。
ただし、契約上週所定労働時間が20時間に満たない場合でも、時間外労働時間を含む実労働時間が2カ月連続で週20時間以上となり、なお引き続くと見込まれる場合には、3カ月目から②の要件を満たすものとされています。
所定内賃金が月額8.8万円以上
③の要件の所定内賃金とは以下の賃金を除いた賃金とされています(健康保険につき、健康保険法3条1項9号ロ、同法施行規則23条の4、厚生年金保険につき厚生年金保険法12条5号ロ、同法施行規則9条の4)。
- 臨時に支払われる賃金
- 一月を超える期間ごとに支払われる賃金
- 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金
- 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金
- 午後10時から午前5時まで(労働基準法37条4項の規定により厚生労働大臣が定める地域または期間については、午後11時から午前6時まで)の間の労働に対して支払われる賃金のうち通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分
- 最低賃金において算入しないことを定める賃金(最低賃金法4条3項3号に掲げる賃金をいう。)
一般的には特定4分の3未満短時間労働者は時給制の労働者が多いと思われますので、所定労働時間数に時給を乗じた金額となることが多いと思われます。
したがって、特定4分の3未満短時間労働者に支給されている給与の内、上記を除いた金額が月額8.8万円を超える場合は③の要件を満たすことになります。
2カ月を超える雇用の見込みがあること
特定4分の3未満短時間労働者の契約期間が2カ月を超える期間となっていれば、当然④の要件を満たすことになります。
また、契約期間が2カ月以下であっても、就業規則や雇用契約書その他の書面において、その雇用契約が「更新される」旨または「更新される場合がある」旨が明示されている場合や、同一の事業所において、同様の雇用契約に基づき雇用されている者が、契約更新等により 最初の雇用契約の期間を超えて雇用された実績がある場合は、④の要件を満たすことになります(ただし、契約更新をしない旨の書面による合意がある場合を除きます)。
学生ではないこと
⑤の要件でいう学生とは、夜間に授業が行われる定時制や通信制の過程ではないいわゆる全日制の、高等学校、高等専門学校、中等教育学校、大学、短期大学、専門学校等に在学する学生・生徒をいいます(健康保険につき健康保険法3条1項9号ハ、同法施行規則23条の6、厚生年金につき厚生年金保険法12条5号ハ、同法施行規則9条の6)。
もっとも、休学中の者および内定者を各学校の卒業前にアルバイトとして雇用する場合等、各学校の卒業を予定している者であって、卒業後も引き続き雇用することが予定されている場合は、各学校に在学中であっても⑤の要件を満たすことになります。
【2024年10月1日施行】社会保険の適用拡大の内容とは
改正の背景|短時間労働者を社会保険の適用対象に
短時間労働者に対する社会保険適用拡大の趣旨としては、厚生労働省によると、以下の趣旨と整理されています。
- 被用者でありながら国民年金・国民健康保険加入となっている者に対して、被用者による支え合いの仕組みである厚生年金保険や健康保険による保障を確保することで、被用者にふさわしい保障を実現すること
- 労働者の働き方や企業による雇い方の選択において、社会保険制度における取扱いによって選択を歪められたり、不公平を生じたりすることがないようにすること等により、働き方や雇用の選択を歪めない制度を構築すること
- 適用拡大によって厚生年金保険の適用対象となった者が、定額の基礎年金に加えて報酬比例給付による保障を受けられるようになること等を通じて、社会保障の機能を強化すること。
【2022年6月5日公布】年金制度改正法の概要
社会保険の適用拡大については、2022年6月5日に公布された年金制度改正法によって改正された健康保険法、厚生年金保険法等に規定されています。
同年金制度改正法により、社会保険の適用拡大のほか、在職中の年金受給の在り方の見直し、年金受給開始時期の選択肢を60歳から75歳の間に拡大すること、確定拠出年金の加入年齢を企業型の場合は70歳未満、個人型の場合は65歳未満とする等加入要件の拡大・緩和等が行われることとなります。
改正後の適用対象者
2024年10月1日施行の年金制度改正法により、前述のとおり、特定4分の3未満短時間労働者に対する社会保険の適用対象範囲が拡大され、2024年10月1日以降は、上記の①の要件で求められる使用される従業員数につき、常時101人以上から常時51人以上となります。
同年金制度改正法においては、社会保険の適用対象者について、①の要件以外の要件についての改正はありません。
事業者の注意点
新たな加入対象者の把握や手続きが必要に
上述の通り、事業者は適用事業所で使用する従業員が社会保険の適用対象者に該当する場合、雇用している従業員については、社会保険に加入させる必要があり、事業者が社会保険の適用対象者であるにもかかわらず、正当な理由もなく社会保険の保険者に届出を行っていない場合には、罰則を科される可能性もあります(健康保険につき健康保険法208条1号、厚生年金保険につき厚生年金保険法102条1項1号)。
そのため、事業者としては、社会保険の適用対象者は必ず把握し、加入の手続きを行う必要があります。
現在、使用する従業員が常時51人から100人である事業者は、原則的には特定4分の3未満短時間労働者は社会保険の適用対象者ではありませんので、特定4分の3未満短時間労働者を社会保険に加入させておらず、上記の②~⑤の要件についての確認はなされていないと思われます。
しかし、2024年10月1日より、使用する従業員が常時51人から100人である事業者に関しては、②~⑤の要件を満たす場合に社会保険の適用対象者となりますので、要件を満たす特定4分の3未満短時間労働者を同日より確実に社会保険に加入させられるように、事前に要件を満たすかどうかを把握することが肝要です。
そして、適用対象者を把握した後は、2024年10月1日に合わせて、適切に加入手続きを行うことが求められることになります。
配偶者の扶養の範囲内で働く労働者への説明
昨今では共働きの家庭が増えていることから、特定4分の3未満短時間労働者の中には配偶者の扶養に入りながら就労する者も少なくないと思われます。
配偶者の扶養に入っていると、健康保険料を支払わなくとも配偶者の健康保険に加入できる等のメリットがありますが、社会保険の適用対象者となった場合は、個人の意思に関係なく強制的に被保険者となってしまうため、配偶者の扶養から外れることになります。
そうすると、2024年10月1日施行の社会保険の適用拡大により、配偶者の扶養の範囲内で就労する予定であった者が想定外に社会保険の対象となる、という事態も生じかねません。
そのため、事業者としては、配偶者の扶養の範囲内で働く特定4分の3未満短時間労働者であって、2024年10月1日以降、社会保険の適用対象者となる者に対しては、社会保険の適用対象者となる旨を事前に説明しておく必要性が高いといえます。
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参考文献
厚生労働省「短時間労働者に対する健康保険 ・厚生年金保険の適用拡大 Q&A集(その2)」
「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の更なる適用拡大に係る事務の取扱いについて」(令和4年保保発0318第2号)