強行法規(強行規定)とは?
任意規定との違い・民法などの具体例・
見分け方などを分かりやすく解説!

おすすめ資料を無料でダウンロードできます
社内研修に使える!研修資料3点セット
この記事のまとめ

強行法規」とは、法令における公の秩序に関する規定をいいます。「強行規定」とも呼ばれます。強行法規に対して、法令における公の秩序に関しない規定は「任意規定」といいます。

強行法規に反する内容の契約条項は無効です。これに対して、任意規定とは異なる内容の契約条項を定めた場合は、契約条項が優先的に適用されます。

強行法規の例としては、民法上の公序良俗組合契約における組合員の脱退に関する規定、労働基準法借地借家法品確法上の瑕疵担保責任利息制限法などが挙げられます。

強行法規と任意規定を見分けるためには、まず法令の条文を確認します。条文上強行法規であることが明示されていなければ、判例学説を確認することになります。
判別が難しい場合には、弁護士に確認を求めましょう。

この記事では強行法規(強行規定)について、任意規定との違い・具体例・見分け方などを分かりやすく解説します。

ヒー

契約書って定めた内容のとおりに適用されますよね? 信用度の低い相手方の利率は年利30%などにしてもよいでしょうか?

ムートン

ちょっと待ってください、強行法規に抵触する契約書の定めは無効になりますよ。注意すべきポイントを確認していきましょう。

※この記事は、2024年4月9日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。

  • 品確法…住宅の品質確保の促進等に関する法律

強行法規(強行規定)とは

強行法規」とは、法令における公の秩序に関する規定をいいます。「強行規定」とも呼ばれます。

個人や法人(=私人)の間の法律関係については、契約によって自由にルールを決められるのが原則です。これを「契約自由の原則」といいます。

しかし、公の秩序に関わるルールについては、契約による自由な決定に委ねていては、社会秩序が乱れたり、当事者の一方が不当な不利益を被ったりするおそれがあります。
そこで民法などの法令では、契約の定めに関わらず強制的に適用される強行法規を定めています。

強行法規と任意規定の違い

強行法規に対して、法令における公の秩序に関しない規定は「任意規定」といいます。

強行法規に反する内容の契約条項は無効です。これに対して、任意規定とは異なる内容の契約条項を定めた場合は、契約条項が優先的に適用されます

強行法規の具体例

強行法規の具体例として、以下のルールを紹介します。

① 民法|公序良俗
② 民法・判例|組合契約における組合員の脱退
③ 労働基準法
④ 借地借家法
⑤ 品確法上の瑕疵担保責任
⑥ 利息制限法

民法|公序良俗

民法
(公序良俗)
第90条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

民法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

民法90条により、公の秩序または善良の風俗(=公序良俗)に反する法律行為は無効とされています。

公序良俗に反する法律行為の例

(a) 暴利行為(高利貸しなど)
(b) 一方の当事者にとってあまりにも不利益な内容の契約
(c) 愛人契約(妾契約)
(d) 差別的な内容の契約
(e) 自由を極度に制限する契約
(f) 犯罪を内容とする契約
(g) 取締規定に違反する契約

民法90条の規定は、公の秩序に直接関係するものであるため、強行法規であると解されています。

したがって、「公序良俗に反する条項であっても有効とする」などと契約で定めても、その定めは無効です。

公序良俗については、以下の記事も併せてご参照ください。

民法・判例|組合契約における組合員の脱退

民法

(組合員の脱退)
第678条 組合契約で組合の存続期間を定めなかったとき、又はある組合員の終身の間組合が存続すべきことを定めたときは、各組合員は、いつでも脱退することができる。ただし、やむを得ない事由がある場合を除き、組合に不利な時期に脱退することができない。
2 組合の存続期間を定めた場合であっても、各組合員は、やむを得ない事由があるときは、脱退することができる。

民法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

民法678条の規定は、組合契約における組合員の脱退について定めています。
同条は、組合員においてやむを得ない事由がある場合には、組合の存続期間の定めの有無に関わらず、常に組合から任意に脱退できる旨を定めていると解されます(存続期間の定めがない場合につき同条1項、存続期間の定めがある場合につき同条2項)。

最高裁平成11年2月23日判決の事案では、 やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さない旨を定めた組合契約の条項につき、その有効性が争われました。

最高裁は以下のとおり判示し、やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さないとの規定を無効と判示しました。

民法678条は、組合員は、やむを得ない事由がある場合には、組合の存続期間の定めの有無にかかわらず、常に組合から任意に脱退することができる旨を規定しているものと解されるところ、同条のうち右の旨を規定する部分は、強行法規であり、これに反する組合契約における約定は効力を有しないものと解するのが相当である。けだし、やむを得ない事由があっても任意の脱退を許さない旨の組合契約は、組合員の自由を著しく制限するものであり、公の秩序に反するものというべきだからである。

最高裁平成11年2月23日判決

労働基準法

労働基準法
(この法律違反の契約)
第13条 この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による。

労働基準法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

労働基準法は、労働者に適用される労働条件の最低ラインを定めた法律です。使用者による不当な搾取を防ぎ、労働者が人たるに値する生活を営むために必要な収入を確保することを目的としています。

同法13条により、同法に定める基準に達しない労働条件を定める労働契約の条項は無効とされています。この規定は、労働基準法全体が強行法規であることを意味しています。

労働基準法については、以下の記事も併せてご参照ください。

借地借家法

借地借家法
(強行規定)
第9条 この節の規定に反する特約で借地権者に不利なものは、無効とする。

(強行規定)
第16条 第10条、第13条及び第14条の規定に反する特約で借地権者又は転借地権者に不利なものは、無効とする。

(強行規定)
第21条 第17条から第19条までの規定に反する特約で借地権者又は転借地権者に不利なものは、無効とする。

(強行規定)
第30条 この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。

(強行規定)
第37条 第31条、第34条及び第35条の規定に反する特約で建物の賃借人又は転借人に不利なものは、無効とする。

借地借家法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

借地借家法は、建物の所有を目的とする借地権(=地上権または賃借権)、および建物の賃貸借契約について、民法の特則を定めた法律です。
建物所有目的の借地権や建物の賃借権は、借主にとって生活や営業の根拠となる重要性の高いものであることに鑑み、借主を厚く保護することを目的としています。

借地借家法9条・16条・21条・30条・37条では、同法における各種の規定が「片面的強行法規強行規定)」である旨を明示しています。
対象規定については、借主側にとって有利な特約を定めることはできますが、借主側にとって不利な特約は無効です。

片面的強行法規(強行規定)とされている借地借家法の規定

・借地権の存続期間(3条)
・借地権の更新後の期間(4条)
・借地契約の更新請求等(5条)
・借地契約の更新拒絶の要件(6条)
・建物の再築による借地権の期間の延長(7条)
・借地契約の更新後の建物の滅失による解約等(8条)
・借地権の対抗力(10条)
・建物買取請求権(13条)
・第三者の建物買取請求権(14条)
・借地条件の変更及び増改築の許可(17条)
・借地契約の更新後の建物の再築の許可(18条)
・土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可(19条)
・建物賃貸借契約の更新等(26条)
・解約による建物賃貸借の終了(27条)
・建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件(28条)
・建物賃貸借の期間(29条)
・建物賃貸借の対抗力(31条)
・建物賃貸借終了の場合における転借人の保護(34条)
・借地上の建物の賃借人の保護(35条)

品確法上の瑕疵担保責任

住宅の品質確保の促進等に関する法律
(住宅の新築工事の請負人の瑕疵担保責任)
第94条 住宅を新築する建設工事の請負契約(以下「住宅新築請負契約」という。)においては、請負人は、注文者に引き渡した時から10年間、住宅のうち構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分として政令で定めるもの(次条において「住宅の構造耐力上主要な部分等」という。)の瑕疵(構造耐力又は雨水の浸入に影響のないものを除く。次条において同じ。)について、民法(明治29年法律第89号)第415条、第541条及び第542条並びに同法第559条において準用する同法第562条及び第563条に規定する担保の責任を負う。
2 前項の規定に反する特約で注文者に不利なものは、無効とする。
3 略

(新築住宅の売主の瑕疵担保責任)
第95条 新築住宅の売買契約においては、売主は、買主に引き渡した時(当該新築住宅が住宅新築請負契約に基づき請負人から当該売主に引き渡されたものである場合にあっては、その引渡しの時)から10年間、住宅の構造耐力上主要な部分等の瑕疵について、民法第415条、第541条、第542条、第562条及び第563条に規定する担保の責任を負う。
2 前項の規定に反する特約で買主に不利なものは、無効とする。
3 略

住宅の品質確保の促進等に関する法律– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

品確法94条・95条では、新築住宅の請負契約および売買契約について、請負人・売主が負う「瑕疵担保責任」について定めています。
新築住宅の構造耐力上主要な部分等に瑕疵があった場合には、引渡しから10年間、請負人・売主は注文者・買主に対して、民法上の契約不適合責任と同等の責任を負わなければなりません。

新築住宅に関する瑕疵担保責任については、品確法94条2項・95条2項において片面的強行法規である旨が明示されています。
注文者・買主にとって有利な特約は認められますが、注文者・買主にとって不利な特約は無効です。

(例)
OK:瑕疵担保責任の期間を15年間に延長する
NG:瑕疵担保責任の期間を5年間に短縮する

利息制限法

利息制限法
(利息の制限)
第1条 金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
⑴ 元本の額が10万円未満の場合 年2割
⑵ 元本の額が10万円以上100万円未満の場合 年1割8分
⑶ 元本の額が100万円以上の場合 年1割5分

(賠償額の予定の制限)
第4条 金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が第1条に規定する率の1.46倍を超えるときは、その超過部分について、無効とする。

(賠償額の予定の特則)
第7条 第4条第1項の規定にかかわらず、営業的金銭消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が年2割を超えるときは、その超過部分について、無効とする。

利息制限法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

利息制限法では、金銭消費貸借の利息遅延損害金などの上限利率を定めています
利息制限法に反する金銭消費貸借の利息や遅延損害金などの定めは、超過部分について無効となります(同法1条・4条・7条など)。

強行法規と任意規定の見分け方

強行法規と任意規定を見分けるためには、以下の方法が考えられます。

① 法令の条文を確認する
② 判例・学説を確認する
③ 弁護士に確認してもらう

法令の条文を確認する

法令の条文において、

「~は無効とする」
「~は効力を有しない」

などと定められている場合には、その規定は強行法規であることが明らかです。
まずは法令の条文の中で、強行法規であることを明示する規定があるかどうかを確認しましょう。

判例・学説を確認する

法令の条文上は強行法規であることが明らかでなくても、判例学説によって強行法規であると解されている場合があります(例:前掲の組合契約に関する最高裁平成11年2月23日判決)。

該当法令の解説書などを参照して、問題となる規定を強行法規であると解する判例・学説があるかどうかをチェックしましょう。

弁護士に確認してもらう

強行法規と任意規定の区別が難しい場合には、法律の専門家である弁護士に確認してもらうのが安心です。
顧問弁護士と契約していればその弁護士に、顧問弁護士がいなければ、契約実務に精通した弁護士にアドバイスを求めましょう。

強行法規に反する契約条項があった場合の対応

契約書に強行法規に反する契約条項が残っていると、当事者にとって予期せぬルールが適用され、トラブルに発展するおそれがあります。
そのため、契約書の作成・レビューを行う際には、強行法規に反する条項がないかを確認しなければなりません。

もし強行法規に反する契約条項を見つけたら、速やかに修正案を作成し、相手方との間で調整を行いましょう。

ムートン

最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

おすすめ資料を無料でダウンロードできます
社内研修に使える!研修資料3点セット