経過措置とは?
目的・インボイス制度などの具体例・
確認方法などを分かりやすく解説!
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※この記事は、2024年6月5日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
経過措置とは
「経過措置」とは、法令の制定・改正・廃止などに際して、移行の円滑化を図るために設けられる措置です。
経過措置を設ける目的
経過措置を設ける目的は、新たな制度の周知・浸透や新たなルールへの順応を図ることにあります。
新しいルールをいきなり適用すると、市民の間で混乱を招くおそれがあります。特に新ルールが幅広い人々に影響を与える場合には、ネガティブな影響を最小限に抑えるように配慮しなければなりません。
そこで、法令の制定・改正・廃止などに際しては、経過措置が設けられることがあります。
経過措置の内容は多くの場合、新法が施行されてからも、以前の制度やルールの一部を残すというものです。旧制度から新制度への移行を段階的に行うことにより、市民の混乱防止が図られます。
経過措置の具体例
近年において行われた法改正については、一例として以下のような経過措置が設けられました。
- インボイス制度の経過措置|2割特例
- 労働基準法の経過措置|賃金請求権などの消滅時効期間を5年→3年
- 刑法の経過措置|拘禁刑→懲役・禁錮
インボイス制度の経過措置|2割特例・免税事業者からの仕入れ
2023年10月から開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、消費税法の改正によって導入されました。
インボイス制度の主な内容は、消費税の仕入税額控除を受ける際に、原則として「適格請求書」などの保存を要件とするものです。
適格請求書は課税事業者しか発行できないものとされているため、年間売上1000万円以下の免税事業者は、取引を敬遠されるなどの不利益を被るおそれが懸念されていました。
税務署に届出を行えば、免税事業者から課税事業者に移行することができますが、その場合は消費税の納税負担が発生します。所得が少ない免税事業者にとっては、消費税の負担は生活を大きく圧迫するおそれがあります。
そこで、インボイス制度の導入に当たって「2割特例」および免税事業者からの仕入れに関する経過措置が設けられました。
2割特例
「2割特例」の内容は、インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった場合には、売上に係る消費税額の2割を納付すれば足りるとするものです。免税事業者から課税事業者へ移行する際のハードルを低くし、インボイス制度の浸透を図ることを目的としています。
多くの事業者は、2割特例の適用を受けることにより、本則課税または簡易課税よりも納付する消費税額が少なくなると考えられます。
※本則課税=支払消費税の実額によって仕入税額控除の額を計算する方式
※簡易課税=業種に応じたみなし仕入率を適用して仕入税額控除の額を計算する方式
例えば、サービス業で簡易課税の適用を受ける場合のみなし仕入率は50%なので、売上に係る消費税額の5割を納付することになります。
これに対して、2割特例の適用を受ける場合は、売上に係る消費税額の2割を納付すれば済むため、簡易課税よりも有利です。
2割特例を適用できるのは、2023年10月1日から2026年9月30日までの日の属する各課税期間に限定されています。
免税事業者からの仕入れに関する経過措置
免税事業者は適格請求書を発行できないので、免税事業者からの仕入れについては、原則として仕入税額控除を受けることができません。しかし、それでは免税事業者が取引を敬遠され、廃業などを強いられるおそれがあります。
そこで、2023年10月1日から2029年9月30日までに免税事業者から行った仕入れについては、以下の割合による仕入税額控除を認める経過措置が設けられました。
2023年10月1日から2026年9月30日まで | 仕入税額相当額の80% |
2026年10月1日から2029年9月30日まで | 仕入税額相当額の50% |
労働基準法の経過措置|賃金請求権などの消滅時効期間を5年→3年
2020年4月から施行された改正民法により、各種の短期消滅時効が廃止され、債権の消滅時効が原則として「権利を行使することができることを知った時から5年」に統一されました(民法166条1項)。
労働者の賃金請求権について、改正前の民法では1年間の短期消滅時効が定められていたところ、労働基準法によって「行使することができる時から2年間」に延長されていました。
2020年4月から改正民法が施行され、賃金請求権の短期消滅時効が廃止されたため、賃金請求権についても時効期間が「行使することができる時から5年間」に改められました(労働基準法115条)。
しかし、2年から5年へと大幅に時効期間を延長すると、労働時間に関する資料の保存などについて、現場で混乱が生じることが懸念されます。
そこで経過措置が設けられ、賃金請求権の時効期間は「3年間」とされました(同法改正附則143条3項)。経過措置の期間は「当分の間」とされており、いつ解除されるのかは決まっていません。
ただし、改正法の施行後5年を経過した段階で検討を行い、必要な場合は何らかの措置を講ずるものとされています。
刑法の経過措置|拘禁刑→懲役・禁錮
刑法で定められている刑罰のうち、受刑者を刑務所に収監するものは「懲役」と「禁錮」の2種類です。懲役は刑務作業が義務付けられるのに対して、禁錮は刑務作業の義務がないという違いがあります。
2025年6月より施行される予定の改正刑法により、懲役と禁錮は「拘禁刑」に一本化されます。拘禁刑への一本化は、個々の受刑者に応じたペナルティや改善更生を行うことなどを目的としたものです。
拘禁刑への一本化の施行に備えて、この改正以降に行われた他の刑法の改正(性犯罪関係の改正等)では、条文中に「拘禁刑」の文言が用いられている部分があります(刑法33条2項・176条1項・177条1項・182条)。
しかし2025年5月までは、拘禁刑ではなく引き続き懲役・禁錮を適用する旨の経過措置が設けられています。
経過措置の確認方法
経過措置を確認する方法は、主に以下の2つです。
① 法令の改正附則を確認する
② 政府公表資料を確認する
法令の改正附則を確認する
経過措置は、法令の改正附則において定められます。
法令の条文をウェブ上で参照できる「e-govポータル」には、各法令のページにおいて、主要な経過措置を定めた改正附則の条文が掲載されています。
参考:e-govポータル |
政府公表資料を確認する
重要な経過措置については、法令改正に関する政府公表資料において解説されているケースが多いです。
例えばインボイス制度や労働基準法の経過措置については、以下の政府公表資料において解説されています。
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