グループガバナンスとは?
ガイドライン・構築と強化のポイント・
注意点などを分かりやすく解説!

この記事のまとめ

グループガバナンス」とは、グループ企業全体におけるガバナンス(=企業統治を意味します。伝統的なガバナンスの議論は法人単位で行われていましたが、実際の経営はグループ単位で行われているケースが多いため、グループガバナンスの重要性が注目されるようになりました。

グループガバナンスに関しては、経済産業省が「グループガイドライン」を公表しています。グループガイドラインでは、以下の事項に関してグループガバナンスの在り方が示されています。

・グループ設計
・事業ポートフォリオマネジメント
・内部統制システム
・子会社経営陣の指名・報酬
・上場子会社に関するガバナンス

この記事ではグループガバナンスの概要や位置づけ、経済産業省のグループガイドラインの内容などを解説します。

ヒー

「子会社もきちんと管理しないといけない」と役員が言っていました。グループガバナンスについて基本から教えてもらえませんか?

ムートン

グループガバナンスに関する課題を抱える企業は多いです。ガイドラインの内容から、ポイントを見ていきましょう。

※この記事は、2024年8月27日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

グループガバナンスとは

グループガバナンス」とは、グループ企業全体におけるガバナンス(=企業統治を意味します。

ガバナンスコーポレートガバナンス)とは、株主をはじめとするステークホルダーのために、経営者が適切な意思決定を行うことを確保するための仕組みのことです。
企業には、投資家・株主・取引先・従業員などの多様なステークホルダーが関わっています。企業が中長期的な成長を目指すためには、ステークホルダーの意向を踏まえつつ、コーポレートガバナンスを実効的に機能させる必要があります。

伝統的なガバナンスの議論は、個々の法人単位で行われていました。しかし、実際の企業経営はグループ単位で行われているケースが多いため、近年ではグループガバナンスの重要性が注目されるようになっています

法令・ガイドラインにおけるグループガバナンスの位置づけ

グループガバナンスについては、会社法に関連規定があるほか、経済産業省が公表している「グループガイドライン」において実務指針が示されています。

会社法におけるグループガバナンス

会社法では、「株式会社およびその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するため」の必要な体制整備が、取締役会の専権事項(=個々の取締役に決定を委任できない事項)として定められています(会社法362条4項6号)。
これはまさに、グループガバナンスに関する体制整備を定めた規定です。

大会社である取締役会設置会社においては、取締役会によってグループガバナンスに関する体制整備の事項を決定することが義務付けられています(同条5項)。

グループガバナンスに関するガイドライン

経済産業省は、「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)」を公表しています。

グループガイドラインは、企業グループにおける実効的なグループガバナンスの在り方に関して、各社における検討に資するようなベストプラクティスを示すことが目的とされています。

参考:経済産業省「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)」

グループガイドラインとコーポレートガバナンス・コードの違い

グループガイドラインは、「コーポレートガバナンス・コード」の趣旨を敷衍し、同コードを補完するものとして位置づけられています。

コーポレートガバナンス・コードとは、金融庁と東京証券取引所(東証)が共同で策定した、コーポレートガバナンスに関する企業指針です。東証の上場企業に適用される上場規程の一つに当たります。

コーポレートガバナンス・コードは、主として単体の企業経営を念頭に作成されたものです。グループガイドラインでは、グループ経営を行う企業にも当てはまるように、コーポレートガバナンス・コードの趣旨を敷衍しています。
コーポレートガバナンス・コードとの整合性を保ちつつ、グループ全体の企業価値向上を図るためのガバナンスの在り方を示すことによって同コードを補完することが、グループガイドラインの主眼となっています。

参考:株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」

「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」(グループガイドライン)とは

経済産業省が公表しているグループガイドラインでは、以下の5つの事項についてグループガバナンスの在り方が示されています。

① グループ設計
② 事業ポートフォリオマネジメント
③ 内部統制システム
④ 子会社経営陣の指名・報酬
⑤ 上場子会社に関するガバナンス

グループ設計とは

グループ設計」とは、企業グループ全体における組織をどのように設計するかという問題です。

日本企業については以下のような課題が指摘される中で、グループガイドラインではグループ設計の在り方が示されています。

  • グループとしての経営方針や戦略論の不在
  • 子会社数の増加による管理の困難さ
  • 事業部門に「横串」を通すべきグループ本社(コーポレート部門)の機能発揮の不十分さ
  • 経営の基本方針(集権型か分権型か)と実際の取り組みの不整合
ヒー

これは大企業に限らず、どこも同じような課題がありますよね。

グループ設計の基本的な考え方

グループ設計については、各社の事業特性や多角化・グローバル化等の状況を踏まえつつ、グループとしての中長期の企業価値向上と持続的成長を実現するために、合理的な在り方が検討されるべきであることが指摘されています。

また、以下の事項についてグループ設計に関する指針が示されています。

グループ設計の指針

(a) 分権化と集権化のバランス
迅速な意思決定と一体的経営や実効的な子会社管理等の必要性を総合的に勘案して、分権化(事業部門への権限移譲)と集権化(本社によるコントロール)の最適なバランスを検討すべきとされています。
事業部門等への分権化を進める場合には、事後的な業績モニタリングや、グループ本社によるコントロールの確保も重要であることが指摘されています。

(b) 法人格の分離
法人格の分離については、経営責任の明確化や意思決定の迅速化などのメリットと、法人維持コストやグループ管理の実効性などを勘案して、その在り方を改めて検討することも有意義であることが指摘されています。

(c) 2つのシナジー
各法人・事業部門の総和を超える企業価値を実現するため、シナジーの最大化を図るべきであるとされています。
シナジーの種類としては、財務的シナジー事業的シナジーの2つが挙げられています。両者の最適な組み合わせを明確にしたうえで、その方針に応じたグループ設計やガバナンスの在り方を検討すべき旨が指摘されています。

グループ本社の役割

グループ本社は、グループ全体としてシナジーを最大化するための戦略の策定や実行、共通インフラの提供などの重要な役割を担います。

グループ本社の取締役会は、グループ全体のガバナンスの実効性と、子会社における機動的な意思決定を両立させる観点から、グループ各社の業務執行等に対する適切な関与の在り方を検討すべきとされています。

グループ本社による子会社の管理・監督に当たっては、権限配分等の基本的な枠組を構築した上で、以下の事項について検討すべき旨が指摘されています。

・子会社の規模・特性等に応じたリスクベースでの管理、監督
・権限委譲を進めた場合の、子会社経営に対する結果責任を問える仕組みの構築
・業務プロセスの明確化
・グループ共通ポリシーの明文化
など

事業ポートフォリオマネジメントとは

事業ポートフォリオマネジメント」とは、グループ企業が営む複数の事業に対して、経営資源(お金や労働力など)をどのように振り分けるかという問題です。
大規模多角化企業の収益性において、日本企業が欧米企業に劣っているという現状の課題を踏まえて、グループガイドラインでは事業ポートフォリオマネジメントの在り方が示されています。

事業ポートフォリオマネジメントの基本的な考え方

グループ全体の事業ポートフォリオについては、シナジーの発揮や持続的な収益性確保の観点から定期的に見直しを行い、その最適化を図るべきであるとされています。
その際には、自社にとってのコア事業を見極めた上で、M&Aやノンコア事業の整理を通じて、コア事業に対する経営資源の集中投資を戦略的に行うことが重要である旨が指摘されています。

グループ本社の取締役会は、事業ポートフォリオマネジメントのための仕組みの構築において主導的な役割を果たし、その運用の監督を行うことが期待されます。経済合理性に基づく冷静な議論が行われるように、社外取締役が主体的に関与することの重要性も指摘されています。

事業ポートフォリオマネジメントの仕組みの構築・評価のための基盤整備

事業ポートフォリオマネジメントを継続的に実施するためには、グループ本社の取締役会が中心となって、以下のような「仕組み」の構築について検討すべきとされています。

  • 投資や事業切出しなどに関する基準の設定
  • 投資や事業切出しなどに関する検討の主体やプロセス等の明確化

また、グループ本社においてCFOが主導的な役割を果たし、事業セグメントごとに貸借対照表やキャッシュフロー計算書を整備した上で資本コストを設定するなど、客観的な評価指標を用いた一元的な事業評価の仕組みを構築・運用することが期待されています。

内部統制システムとは

内部統制システム」とは、企業の業務を適正かつ効率的に行うため、企業内において構築される体制やプロセスです。グループとしてのリスク管理を適切に行い、中長期的な企業価値の向上を目指すためには、内部統制システムの構築と運用が重要な課題となります。

特に日本企業においては、グループ本社による一元的なリスクマネジメント体制が築けていないこと、現場のコンプライアンス意識が希薄であること、管理部門や内部監査部門によるチェック機能が不全であることなど、内部統制システムに関するさまざまな課題が指摘されています。

内部統制システムの構築・運用に関する基本的な考え方

内部統制システムの具体的設計に当たっては、各社の経営方針や各子会社の体制等に応じて、監視・監督型や一体運用型の選択や組み合わせが検討されるべきであるとされています。

(a) 監視・監督型
子会社ごとの体制整備・運用を基本としつつ、各子会社における対応が適切に行われているかを親会社が監視・監督します。

(b) 一体運用型
子会社も親会社の社内部門と同様に扱い、親会社が中心となって内部統制システムを一体的に整備・運用します。

また、内部統制システムの高度化に当たっては、ITの活用等によって効率性とのバランスを図ることも重要であることが指摘されています。

内部統制システムに関する親会社の取締役会・監査役等の役割

親会社の取締役会は、グループ全体の内部統制システム構築に関する基本方針を決定し、子会社を含めた構築・運用状況を監視・監督する責務を負います。

グループ全体の内部統制システムの監査に関しては、親会社の監査役等と子会社の監査役等の連携により、効率的に行うことが検討されるべき旨が指摘されています。

3線ディフェンスの重要性

実効的な内部統制システムを構築・運営するために、「3線ディフェンス(Three Lines of Defense)」が重要であるとされています。
3線ディフェンスは、事業部門管理部門内部監査部門がそれぞれにおいてリスク管理を行い、企業不祥事などのリスクを最小限に抑えるという考え方です。

3線ディフェンスの運用例として、以下のような取り組みが示されています。

(a) 第1線(事業部門)におけるコンプライアンス意識の醸成
ルール整備ITインフラ等のハード面、および現場におけるコンプライアンス意識の醸成・浸透などのソフト面の両面から取り組むことが重要とされています。

(b) 第2線(管理部門)の役割と独立性確保・機能強化
管理部門が実効的に機能を発揮するため、事業部門からの独立性を確保し、親子会社の間で直通のレポートラインを確保することを検討すべきとされています。

(c) 第3線(内部監査部門)の役割と独立性確保・機能強化
内部監査部門が実効的に機能を発揮するため、事業部門や管理部門からの独立性を確保しなければなりません。
子会社業務の内部監査については、各子会社の状況に応じて、以下のいずれかを適切に選択すべきとされています。
・子会社が実施し、その状況を親会社が監視・監督する
・親会社が一元的に実施する

有事対応の在り方

企業不祥事などへの対応に当たっては、中長期の企業価値を支えるレピュテーションへのダメージを最小化することや、一般消費者を含む多様なステークホルダーの信頼の早期回復を図ることを意識しなければなりません。
そのためにはグループ本社を中心として、不祥事等の早期発見と被害の最小化のための迅速な対応を適切に行うべきとされています。

有事対応の具体的なポイントとしては、以下の各点が挙げられています。

・速やかに事実関係の調査、根本原因の究明、再発防止策の検討を行い、十分な説明責任を果たすこと
・初動の段階で事案の重大性を見極め、公表が必要と判断した場合は迅速な第一報を優先させ、必要に応じて謝罪を行いつつ、その時点で可能な限り正確な説明を心掛けること
・当該事案に利害関係のない独立役員が、第三者委員会の設置の要否を含めた調査体制の選択や、同委員会の組成および運営において主導的な役割を果たすこと
など

子会社経営陣の指名・報酬とは

グループとしての一体的運営や企業価値向上の観点から、親会社の取締役会や指名委員会・報酬委員会において、主要な完全子会社の経営トップの指名報酬の審議を検討すべきとされています。

経営陣の指名・育成に関しては、子会社の経営陣ポストがグループの社長・CEOの後継者育成に活用し得ることや、グループ全体としてポスト・人材の選定・評価・選抜の仕組みを構築すべきことなどが指摘されています。

経営陣の報酬については、グループとしての企業理念や経営戦略を頂点とした統一的な報酬政策を構築することの重要性や、中長期的には、グローバルな報酬水準を目指すことへの期待などが示されています。

上場子会社に関するガバナンスとは

上場子会社においては、支配株主である親会社と上場子会社の一般株主の間に、構造的な利益相反リスクが存在することが指摘されています。

ヒー

上場子会社の「利益相反リスク」って何のことですか?

ムートン

平たくいうと、親会社は「子会社を通じて親会社の利益を最大化させたい」、一般株主は「子会社単体で利益を最大化させたい」、といった異なる目的を持っているということです。

特に以下の3つのケースのように、利益相反リスクが顕在化しうる局面においては、上場子会社における実効的なガバナンス体制の構築を通じて、一般株主の利益に十分配慮した対応を行うことが求められています。

(a) 直接取引
→親会社・子会社間における不動産等の取引や現金の預入れなど

(b) 事業譲渡・事業調整
→親会社・子会社間における一部事業部門の譲渡や生産委託など

(c) 支配株主による完全子会社化
→親会社による子会社の完全子会社化

ムートン

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参考文献

経済産業省ウェブサイト「コーポレートガバナンスに関する各種ガイドラインについて」