不当解雇とは?
要件・具体例・企業が訴えられたら・
正当な解雇のための対応手順などを
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「不当解雇」とは、法律上の要件を満たさず、無効である解雇を意味します。
解雇には「懲戒解雇」「整理解雇」「普通解雇」の3種類があります。企業が労働者を解雇する際には、解雇の種類に応じた要件を満たさなければなりません。要件を満たしていないにもかかわらず行われた解雇は、不当解雇として無効となります。
労働審判や訴訟などで不当解雇が認定されると、企業は労働者に対し、解雇期間中の賃金全額を支払わなければなりません。さらに、労働者を復職させる必要があります。
和解によって復職を避けられたとしても、多額の解決金の支払いを強いられるケースが多いです。
不当解雇のリスクを避けるため、企業が労働者を解雇する際には、解雇要件を踏まえつつ手続きと検討を適切に行いましょう。
この記事では不当解雇について、要件・具体例・企業が訴えられたら・正当な解雇のための対応手順などを解説します。
※この記事は、2024年12月6日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
不当解雇とは
「不当解雇」とは、法律上の要件を満たさず、無効である解雇を意味します。
労働者は、使用者から支払われる賃金に生活を依存しているケースが多いです。使用者が簡単に労働者を解雇できるとすれば、労働者は突然路頭に迷ってしまうリスクが高くなります。
弱い立場にある労働者を保護するため、使用者による労働者の解雇は厳しく制限されています。法律上の要件を満たしていない解雇は、不当解雇として無効です。
労働者を解雇する際に満たすべき要件
解雇には「懲戒解雇」「整理解雇」「普通解雇」の3種類があり、各種類に応じた要件を満たさなければ不当解雇となります。
懲戒解雇の要件|懲戒事由に該当する悪質な行為
「懲戒解雇」は、労働者の就業規則違反を理由とする解雇です。懲戒解雇を行うためには、以下の要件を満たさなければなりません。
- 懲戒解雇の要件
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① 就業規則上の根拠があること
就業規則上の懲戒事由に該当すること、および懲戒処分の種類として懲戒解雇が定められていることが必要です。就業規則は、以下のいずれかの方法によって労働者に周知されていなければなりません(労働基準法106条1項、労働基準法施行規則52条の2)。
・常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付ける
・労働者に対して書面を交付する
・磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する② 解雇権の濫用に当たらないこと
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒解雇は、解雇権の濫用により無効です(労働契約法16条)。懲戒解雇が解雇権の濫用に当たるかどうかは、労働者の行為の性質、態様その他の事情から総合的に判断されます。特に、以下のような事情が重視される傾向にあります。
・行為の悪質性
・十分な改善指導がなされたかどうか
・弁明の機会を与えたかどうか
整理解雇の要件|リストラ・事業所閉鎖など
「整理解雇」は、経営不振の影響で人員削減を目的として行われる解雇です。整理解雇の有効性は、以下の4要件を総合的に考慮して判断されます。
- 整理解雇の4要件
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① 人員削減の必要性
高度の経営危機に陥っており、整理解雇が真にやむを得ないと言えることが必要です。② 解雇回避努力義務の履行
整理解雇を回避するための代替手段を十分に講じていることが求められます。代替手段の例としては、役員報酬の削減、希望退職者の募集、新規採用の抑制、労働時間の抑制、会社資産の売却、出向などが挙げられます。③ 被解雇者選定の合理性
整理解雇の対象者を選ぶ際には、合理的な基準を設けた上で、その基準を適切に運用することが求められます。④ 解雇手続きの妥当性
整理解雇に先立ち、対象労働者や労働組合に対して、その必要性などを十分説明して納得を得るよう努めることが求められます。
普通解雇の要件|著しい能力不足・勤怠不良・重大な傷病など
「普通解雇」は、懲戒解雇と整理解雇を除く解雇全般です。普通解雇を行うためには、以下の要件を満たさなければなりません。
- 普通解雇の要件
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① 解雇事由に該当すること
労働契約または就業規則で定められた解雇事由に該当することが必要です。解雇事由の例としては、著しい能力不足、勤怠不良、重大な傷病などが挙げられます。② 解雇権の濫用に当たらないこと
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない普通解雇は、解雇権の濫用により無効です(労働契約法16条)。
特に、労働者が労務に耐えない状態にあるかどうかや、問題となっている事象が改善する見込みがあるかどうかなどが重視されます。
不当解雇の具体例
例えば、以下のような解雇は不当解雇に当たり、無効と判断される可能性が高いでしょう。
- 不当解雇の具体例
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<懲戒解雇>
・単純な仕事上のミスを1回しただけで、労働者を懲戒解雇した。
・何度か遅刻が続いた労働者を、全く改善指導をしないまま懲戒解雇した。<整理解雇>
・業績が前年比で若干低下したことを理由に、経営危機に陥っていないにもかかわらず、労働者を整理解雇した。
・役員報酬の削減や希望退職者の募集など、解雇を避けるための取り組みを全く行うことなく、労働者を整理解雇した。
・整理解雇する労働者を、人事部長の個人的な好みで選んだ。<普通解雇>
・軽い病気に罹った労働者につき、数週間以内には復職が見込まれるにもかかわらず、その病気を理由に普通解雇をした。
・他の労働者より若干能力が劣っている労働者を、ほとんど指導をしないまま普通解雇した。
裁判で不当解雇と判断されたらどうなるのか?
解雇の有効性について、労働者側と使用者側の主張が対立している場合、最終的には裁判(訴訟)を通じて解決を図ることになります。
裁判で解雇が無効と判断された場合、使用者は以下のリスクを負ってしまいます。
- 解雇期間中の賃金は、全額支払う必要がある
- 解雇した労働者を復職させなければならない
- 和解するとしても、多額の解決金の支払いが生じる
解雇期間中の賃金は、全額支払う必要がある
「ノーワーク・ノーペイの原則」により、働いていない労働者に対しては、原則として賃金を支払う必要がありません。
しかし、解雇によって職場を離れていたために労働者が働けなかったことは、使用者側の責任によるものです。そのため、使用者は労働者に対し、解雇期間中の賃金を全額支払わなければなりません(民法536条2項前段)。
ただし、解雇期間中に労働者が別の仕事をして収入を得ていたときは、使用者は労働者に対して、当該収入の償還を請求できる可能性があります(同項後段)。
償還が認められるのは、平均賃金の4割相当額が上限です(最高裁昭和37年7月20日判決など)。
解雇した労働者を復職させなければならない
解雇が無効と判断された場合、使用者は解雇した労働者を復職させなければなりません。
使用者としては、復職してくる労働者のためにポジションを空けるなど、人員配置を見直す必要があります。また、想定していたよりも人員が1人増えることにより、人件費も嵩んでしまいます。
さらに、復職した労働者の能力や人格、解雇の経緯などに問題がある場合は、他の労働者とうまくやっていけるかどうかも心配しなければなりません。
労働者間の不和が生じると、職場環境が悪化して離職率が上がるなどの弊害が生じるおそれがあるので要注意です。
和解するとしても、多額の解決金の支払いが生じる
解雇が無効と判断された後も、労働者との間で合意退職の方向で交渉することはできます。
ただし、仮に合意退職の和解ができたとしても、その見返りとして、使用者は多額の解決金の支払いを強いられるケースが多いです。具体的な金額は交渉次第ですが、賃金の6カ月分から1年分程度の出費は覚悟すべきでしょう。
多額の解決金の支払いは、会社にとって経済的に大きな痛手となるおそれがあります。
不当解雇に関するトラブルを解決する手続き
不当解雇に関するトラブルを解決する手続きとしては、労働者との協議、労働審判、訴訟などが挙げられます。
労働者との協議
まずは使用者と労働者が話し合い、解雇トラブルの円満な解決を目指します。
復職を認めるパターンも合意退職させるパターンもありますが、いずれにしても協議がまとまれば、早期かつ柔軟な解決を得ることができます。
労働審判
協議がまとまらない場合の選択肢の一つが、労働審判の申立てです。
労働審判は、地方裁判所において非公開で行われます。裁判官1名と労働審判員2名が、調停(=話し合った末の合意)または労働審判(=判断)を行って解雇トラブルの解決を図ります。
労働審判の期日は原則として3回以内に終結するため、訴訟よりも迅速な解決が期待できます。ただし、労働審判に対して労使のいずれかから異議が申し立てられた場合は、自動的に訴訟へ移行します。
訴訟
解雇トラブルは、最終的に訴訟で解決します。
訴訟は、裁判所において原則として公開で行われます。使用者と労働者は、解雇の有効性に関して互いに主張・立証を行い、その内容を踏まえて裁判所が判決を言い渡します。
訴訟は長期化しがちで、専門的かつ複雑な対応が求められます。代理人弁護士と協力しながら、粘り強く対応しましょう。
正当に解雇の手続きを行うための企業の対応手順
使用者が労働者を解雇する際には、前述の解雇要件を踏まえて、十分な検討と手続きを尽くさなければなりません。
共通|事実関係を正しく把握し、解雇の要件と照らし合わせる
全ての種類の解雇に共通して、事実関係を正しく把握することと、その事実を解雇要件と照らし合わせることが大切です。
例えば懲戒解雇であれば、まず労働者の行為の内容や、当該行為が及ぼした悪影響の程度・範囲などを把握する必要があります。
その上で、労働者の行為が就業規則上の懲戒事由に該当するかどうか、懲戒解雇に相当するほど悪質と言えるかどうかを確認しましょう。
整理解雇や普通解雇についても、法律上の解雇要件に沿って、解雇の可否を適切に検討することが求められます。
懲戒解雇の対応手順|改善指導・弁明の機会の付与・軽い懲戒処分の検討
懲戒解雇は、「労働者の問題行動が見られるから」などの理由で安易に行うことは危険です。
懲戒解雇に先立って、労働者に対して十分な改善指導を行い、その内容を記録化しておきましょう。結果的に改善すればそれで良いですし、改善しなければ懲戒解雇の有効性を補強する材料となります。
実際に懲戒解雇を行う際には、労働者に対して弁明の機会を付与すべきです。労働者の弁明をきっかけとして、見落としていた事実が判明する場合があります。
仮に新たな事実が出てこなくても、弁明の機会を付与したこと自体が適正な手続きの証左となり、使用者にとって有利に働きます。
また、特に比較的軽微な就業規則違反に対しては、懲戒解雇は無効と判断される可能性が高いので避けるべきです。戒告や減給などの軽い懲戒処分を行った後に、指導を行った上で改善が見られなければ再度懲戒解雇を検討するなど、段階的に対応しましょう。
整理解雇の対応手順|代替措置・被解雇者の選定・労働者側への説明
整理解雇を行う際には、4要件を踏まえた対応が必要になります。
まずは、整理解雇を避けるための代替措置を尽くしましょう。
役員報酬の削減、希望退職者の募集、新規採用の抑制などのあらゆる手段を試みた上で、それでも経営危機を脱することができなければ、その段階で改めて整理解雇を検討します。
また、整理解雇の対象とする労働者は、適切な基準を策定・運用した上で選ぶ必要があります。顧問弁護士など外部者の意見を取り入れながら、客観的に妥当な内容の選定基準を策定しましょう。
整理解雇の必要性につき、労働者側に十分な説明をして納得を得るプロセスを踏むことも大切です。説明会の開催や、質問等への対応窓口の設置などを検討しましょう。
普通解雇の対応手順|解雇の必要性の検討
普通解雇については、形式的には解雇事由に該当するとしても、解雇の必要性がないとして無効と判断されてしまうケースがよくあります。
特にけがや病気、能力不足、勤怠不良などを理由に普通解雇しようとする場合は、回復や改善の見込みがあるかどうかを中心に、解雇の必要性を慎重に検討しましょう。
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