戒告とは?
譴責との違い・懲戒処分における位置付け・
戒告対象行為の具体例・
労働者が受ける影響などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「戒告(かいこく)」とは、労働者に対して厳重注意を行う懲戒処分です。多くの会社では、戒告が最も軽い懲戒処分として位置付けられています。さらに重い懲戒処分を行う前に、労働者に対して警告を与える意味で戒告処分が行われるケースが多いです。
無断欠勤・遅刻・早退・中抜け、勤務時間中の私的行為、職場内外での不適切な行為など、幅広い問題行動が戒告の対象となります。
戒告処分を適法に行うためには、就業規則に戒告処分が定められていて、かつ対象労働者が懲戒事由に該当することが必要です。さらに、懲戒権の濫用に当たらないかどうかもチェックしなければなりません。
戒告処分を行うに当たっては、懲戒事由に関する事実調査を慎重に行いましょう。労働者の反論に備えて、証拠を確保することも重要です。また、実際に戒告処分を行う際には、労働者に対して弁明の機会を与えて、適正な手続きを確保しましょう。
この記事では戒告について、基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年8月22日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
戒告とは
「戒告」(かいこく)とは、労働者に対して厳重注意を行う懲戒処分です。多くの会社では、戒告が最も軽い懲戒処分として位置付けられています。
懲戒処分における戒告の位置付け
戒告は、懲戒処分の中では最も軽いものと位置付けている会社が多いです。

主な懲戒処分は、軽い順に以下のとおりです。
① 戒告・けん責など
労働者に対して厳重注意を行う懲戒処分です。
② 減給
労働者の賃金を減額する懲戒処分です。1回当たりの金額につき、労働基準法による上限があります。
③ 出勤停止・自宅謹慎
労働者の出勤を禁止し、その期間中の賃金を支給しない懲戒処分です。
④ 降格
労働者の役職を降格させ、役職給などを恒久的に不支給とする懲戒処分です。
⑤ 諭旨解雇(諭旨退職)
労働者に対して退職を勧告する懲戒処分です。退職を拒否すれば、懲戒解雇が行われるのが一般的です。
⑥ 懲戒解雇
労働契約を解除し、強制的に労働者を退職させる懲戒処分です。
戒告処分は、さらに重い懲戒処分(減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇など)を行う前に、労働者に対して警告を与える意味で行われるケースが多いです。
戒告と譴責・訓戒・訓告の違い
戒告のほかにも、労働者に対して厳重注意を与える懲戒処分として、
✅ けん責(譴責)
✅ 訓戒
✅ 訓告
などが挙げられます。
これらは名称が異なるだけで、懲戒処分としての実質には大差がありません。ただし、例えば戒告とけん責を両方定めた上で、始末書の提出要否を区別するなど、懲戒処分としての内容に違いを設けている会社もあります。
戒告処分の法的根拠
企業は、人的要素・物的施設の両者を総合して企業秩序を定立し、その企業秩序の下に活動するものであることから、企業秩序を乱す労働者に対して懲戒処分を行う権利を有すると解されています(最高裁昭和54年10月30日判決)。
戒告処分を含む懲戒処分は、上記の考え方を根拠として認められています。
ただし同最高裁判例では、懲戒処分は「(就業)規則に定めるところに従い」行う必要があると判示しています。したがって、懲戒処分を行うことができるのは、就業規則上の懲戒事由に該当する場合に限られます。
また、労働契約法15条の懲戒権の濫用に関する規定によっても、懲戒権の行使は一定の制限を受けます(後述)。
戒告に相当する行為の具体例
戒告に相当する行為としては、以下の例が挙げられます。
① 無断欠勤・遅刻・早退・中抜け
② 勤務時間中の私的行為
③ 職場内外での不適切な行為
無断欠勤・遅刻・早退・中抜け
無断での欠勤・遅刻・早退・中抜けなどは、就業規則違反に当たる行為の典型例です。
そのため、無断での欠勤・遅刻・早退・中抜けについて与える初回の懲戒処分は、戒告程度にとどめるのが適切でしょう。
勤務時間中の私的行為
ゲームをする、趣味のウェブサイトを閲覧する、株取引を行うなどの私的行為は、勤務時間中に行った場合は就業規則違反に当たります。
しかし、会社に直ちに重大な損害が生じるケースは少なく、注意を与えれば改善されることもあり得ます。そのため、初回の懲戒処分としては戒告程度が適切と考えられます。
職場内外での不適切な行為
職場内外における不適切な行為について、どの程度の懲戒処分が適切であるかは、行為の性質や態様によって異なります。
職場内における不適切な行為の中では、中程度の仕事上のミスをした場合や、簡単なミスを何度か繰り返した場合などが戒告相当と考えられます。
職場外における不適切な行為については、他人に対する傷害・財産犯・性犯罪などの重大な犯罪に当たらない限り、戒告程度にとどめるべき場合が多いです。
具体的にどのような懲戒処分を行うかについては、問題行動の実態に照らした個別の検討を要します。
戒告を受けた場合の具体的な影響(不利益)
戒告を受けた労働者が受ける不利益の内容はケースバイケースですが、以下のような不利益を受ける例がよく見られます。
① 賞与(ボーナス)が減額されることがある
② 昇給・昇進が遅れることがある
賞与(ボーナス)が減額されることがある
戒告処分を受けた労働者は、賞与に関してマイナス査定を受ける可能性があります。戒告処分を受けていない他の労働者に比べると、会社への貢献度が低いと判断されやすいためです。
その結果、戒告処分を受けた年の賞与が減額されることがあります。
昇給・昇進が遅れることがある
戒告処分を受けたことは、昇給・昇進に関する人事査定にも悪影響を及ぼします。
問題行動の多い労働者よりも、勤勉な姿勢で貢献してくれる労働者を昇給・昇進させようとするのは、会社として自然な行動です。そのため、戒告処分を受けた労働者は、他の労働者に比べて昇給・昇進が遅れることがあります。
退職金が減額される可能性はあるか?
戒告を受けたことは、退職時に支給される退職金の額に対して、間接的な悪影響を与えることがあります。
退職金の支給額は、会社が定める退職金規程などの社内規程に基づいて決まります。
退職金規程などにおいて、戒告処分を受けたことをもって、直ちに退職金を減額すると定めているケースは稀です。
ただし、退職金額は在職中の給与や役職に連動することが多いため、戒告によって昇給や昇進が遅れると、事実上退職金が減額されてしまいます。
退職金規程の内容は会社によって異なるため、戒告処分が退職金額に影響する可能性があるかどうかについても、会社によって千差万別です。自社における取り扱いについては、退職金規程などの内容をよく確認しましょう。
履歴書には戒告されたことを記載しなければならない?
履歴書には「賞罰欄」がありますが、会社から戒告処分を受けた事実を賞罰欄に記載する必要はありません。「罰」とは刑事罰を意味しており、会社による懲戒処分は記載対象外であるためです。
したがって、履歴書に戒告処分を受けた事実を記載しなかったとしても、就職活動先に対する経歴詐称等には当たりません。
なお、就職活動先から過去に懲戒処分を受けたことがあるかどうかを質問されたとしても、回答する義務はありません。
就職活動先の会社が元の会社に対して、採用候補者の仕事ぶりや過去の懲戒処分などの照会(=リファレンスチェック)が行われることもありますが、個人情報保護の観点から障害が多いため稀なケースとなっています。
したがって、戒告処分を受けた事実を自ら伝えない限り、就職活動先にその事実が知られてしまう可能性は低いです。
会社が戒告を適法に行うための要件
会社が労働者に対して戒告処分を適法に行うためには、以下の要件を満たす必要があります。
① 就業規則に戒告処分が定められていること
② 就業規則上の懲戒事由に該当すること
③ 懲戒権の濫用に当たらないこと
就業規則に戒告処分が定められていること
懲戒処分として戒告を行うためには、就業規則上の根拠が必要です。就業規則には懲戒処分の種類を定めますが、その一つとして戒告が定められている必要があります。
就業規則上の懲戒事由に該当すること
戒告処分を含む懲戒処分を行うためには、労働者が就業規則上の懲戒事由のいずれかに該当することが必要です。
戒告処分を行う際には、労働者の行為がどの懲戒事由に当たるのかを必ず確認し、合理的な説明ができるようにしておきましょう。
懲戒権の濫用に当たらないこと
戒告処分について就業規則上の根拠がある場合でも、労働者の行為の性質・態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない戒告は、懲戒権の濫用として無効となります(労働契約法15条)。
戒告は最も軽い懲戒処分であるため、懲戒権の濫用として無効となるケースは少ないと考えられます。しかし、実際に戒告処分を行う際には、顧問弁護士にアドバイスを求めるなどして、懲戒権の濫用に当たらないかにつき慎重な検討を行いましょう。
会社が戒告処分を適法に行うための手続き
会社が労働者に対して戒告処分を行う際には、以下の手続きを適切に行いましょう。
① 問題行動について事実確認を行う|証拠も確保する
② 労働者に対して弁明の機会を与える
③ 戒告処分を決定・通知する
④ 戒告処分後の対応|始末書の提出・社内公表など
問題行動について事実確認を行う|証拠も確保する
まずは労働者の問題行動について、具体的にどのような行動が認められるのか事実確認を行いましょう。
事実確認の方法としては、本人・関係者に対するヒアリングや、メールなどの資料の調査などが挙げられます。
ヒアリングの内容は録音等によって記録し、メールなどは整理・保存して、労働者の問題行動に関する証拠を十分に確保しておきましょう。後に労働者との紛争に発展した際、懲戒処分の理由を説明するのに役立ちます。
労働者に対して弁明の機会を与える
労働者による問題行動の背景には、何らかの特別な事情が存在する可能性があります。重大な背景事情を見逃したまま戒告処分を行うと、事実誤認や懲戒権の濫用などによって無効と判断されてしまうかもしれません。
背景事情を含めた十分な検討を行うため、戒告処分を行おうとする労働者に対しては、事前に弁明の機会を与えましょう。
労働者が弁明を行った場合には、その内容を踏まえて追加の調査・検討を行い、最終的な懲戒処分の可否や種類を判断しましょう。
戒告処分を決定・通知する
労働者の行為が戒告処分相当であると判断した場合は、戒告処分を決定した上で労働者に通知しましょう。
労働者に対しては、紛争を回避する観点から、戒告処分の理由を明確に伝えることが望ましいです。労働者に伝える理由については、できる限り反論の余地が生じないように丁寧な検討を重ねましょう。
戒告処分後の対応|始末書の提出・社内公表など
戒告処分を行った後、会社が採り得るその他の対応としては以下の例が挙げられます。
① 始末書の提出
労働者に始末書の提出を求め、再度問題行動をしないように反省を促します。
② 社内公表
戒告処分の対象者や理由を社内向けに公表し、本人の反省を促すとともに、他の労働者に対する注意喚起を行います。
ただし、これらの対応は懲戒処分の一環と捉えられる可能性が高いです。そのため、就業規則上の根拠なく始末書の提出を求め、または戒告処分を社内向けに公表すると、戒告処分を含めた一連の処分が違法・無効と判断される可能性があります。
始末書の提出や社内公表は、労働者にとって少なからず不利益となる処分です。これらの処分を行う際には、就業規則上の根拠を明確化しましょう。
戒告処分に関する裁判事例
最高裁昭和58年11月1日判決の事案では、工場内において無許可でビラ配りをした従業員に対する戒告処分の有効性が争われました。
労働組合支部の支部長であった従業員は日本共産党員からの依頼を受け、休憩室を兼ねている工場食堂において、休憩時間中に共産党系のビラ約20枚を他の従業員へ配布しました。さらに別の日には、共産党への投票を呼び掛ける選挙ビラ約46枚を配布しました。
ビラ配布は、食事中の従業員に対して1枚ずつ平穏に手渡すか、または食卓上に静かに置く方法によって行われ、渡された従業員が受け取るかどうかは各人の自由に任されていました。また、配布に要した時間は数分間でした。
従業員は1回目のビラ配布の後、工場長から無許可でビラを配布しないように注意を受けましたが、許可は不要であると反論した上で、2回目のビラ配布も会社に無許可で行いました。
会社は一連の従業員の行為につき、懲戒事由に該当するものとして戒告処分としました。
最高裁は、形式的に就業規則に違反するように見えても、ビラの配布が工場内の秩序を乱すおそれのない特段の事情が認められるときは、就業規則違反に該当しないと解すべき旨を判示しました。
その上で、配布の態様・経緯・目的やビラの内容に鑑み、本件のビラ配布は工場内の秩序を乱すおそれのない特段の事情が認められる場合に当たるとして、戒告処分を無効とした原審判決を支持しました。
公務員の戒告処分の規程
国家公務員に対しては国家公務員法、地方公務員に対しては自治体の条例に基づいて懲戒処分が行われることがあります。
国家公務員の懲戒事由は、以下のとおりです(国家公務員法82条1項)。地方公務員の懲戒事由は自治体ごとに条例で定められていますが、国家公務員に準じているケースが多いです。
- 国家公務員法、国家公務員倫理法またはこれらの法律に基づく命令に違反した場合
- 職務上の義務に違反し、または職務を怠った場合
- 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があった場合
国家公務員に対する懲戒処分は、免職・停職・減給・戒告の4種類で、戒告は最も軽い懲戒処分です。戒告を含む各種類の懲戒処分に該当する行為は、人事院の指針によって示されています。
なお実務上は、懲戒処分ではない事実上の注意指導として、戒告よりも軽い「厳重注意」や「訓告」も行われています。
この記事のまとめ
戒告は最も軽い懲戒処分ですが、賞与・昇給・昇進・退職金などに影響を与える可能性があり、労働者の不利益が小さいとは言い切れません。戒告処分を受けた労働者は、会社に対して反発することも想定されます。
戒告処分を適法に行うためには、就業規則上の根拠があること、および懲戒権の濫用に当たらないことを確認することが大切です。
合理的な根拠がないのに戒告処分を行うと、労働者との間でトラブルになり、会社が不利な立場に置かれることになりかねません。あらかじめ事実確認と法的な検討を行った上で、労働者本人に対しても弁明の機会を与えるなど、慎重な対応に努めましょう。
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