残業時間の上限とは?
月間・年間の上限規制を
分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

残業時間の上限とは、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働時間の最大時間をいいます。この上限は、労働者の健康を守ることを目的として設けられています。
※本記事では、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える時間外労働を「残業」として扱っています。

・法定労働時間を超える時間外労働の上限は月45時間・年360時間です。
・上限内で残業してもらう際は、労使間で36協定を締結する必要があります。
・残業時間の上限を超えて労働させることは、労働者の健康を損なうだけでなく、企業にとっても大きなリスクです。

本記事では、残業時間の上限について、基本から詳しく解説します。

ヒー

残業時間の多い従業員がいるのですが、上限は何時間なのでしょうか?

ムートン

労働基準法では、法定労働時間を超える時間外労働(いわゆる残業)の上限が定められており、原則として月45時間・年360時間が限度です。まずは、残業時間のルールを確認していきましょう。

※この記事は、2025年6月30日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

残業時間の上限は月45時間・年360時間

法定労働時間を超える時間外労働(いわゆる残業)の上限は、原則として月45時間・年360時間と労働基準法で定められています。上限内で残業を行うには、労使間で36協定を締結し、労働基準監督署へ届け出る必要があります。

労働時間の上限は1日8時間・週40時間

労働基準法32条では、法定労働時間は原則として1日8時間・週40時間と定められています。上限を超えて働く場合は時間外労働となり、特別な手続きと割増賃金の支払いが必要です。

アルバイト、パート、派遣社員など雇用形態に関わらず、法定労働時間の原則は、多くの労働者に適用されます。ただし、管理監督者に該当する場合は、労働時間、休憩、休日に関する規定の適用が除外されます。

したがって、時間外労働の上限や36協定の締結義務も原則として適用されません。(深夜労働の割増賃金支払義務などは除外されません)職種や立場に応じて適用範囲が異なる点に、注意が必要です。

残業をさせる場合に必要な36協定とは

企業が労働者に残業をさせる場合、労働基準法36条に基づく労使協定(36協定)の締結と労働基準監督署への届出が必須です。

36協定の締結には、労働者代表または労働組合との合意が必要で、協定では残業を行わせる具体的事由や対象業務の種類、労働者数、延長時間の上限、有効期間などを明記します。

代表者は管理監督者以外の労働者から、使用者の意向によらず投票や挙手などの適切な選出が必要です。手続きが不適切だと協定は無効とされる可能性があり、厚生労働省も2021年4月から提出様式に確認欄を設けています。

協定を締結した場合でも、残業時間には月45時間・年360時間を超えてはいけないという原則的な上限があります。また、36協定なしに残業を命じると、労働基準法違反で6カ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科される可能性があるため注意が必要です。

36協定については下記の記事で詳しく解説しているため、参考にしてみてください。

残業における36協定の特別条項のルール

36協定の特別条項とは、業務のトラブル対応や通常予見できない臨時的・特別な事情が発生した場合に限り、通常の時間外労働の上限(月45時間・年360時間)を超えて労働させることを認める、労使間の書面による協定です。

特別条項付き36協定を締結した場合でも、残業時間には厳格な上限が定められています。上限規制では、年間の残業が720時間を超えないこと、1カ月で100時間未満(休日労働含む)であること、そして複数月平均で80時間以内(休日労働含む)であることが求められます。

上限規制は、2019年4月の働き方改革関連法施行による労働基準法改正で法的な強制力を持つ規制となりました。違反した場合、6カ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科せられます。

また、特別条項を適用して月45時間を超えた残業が可能なのは、年間最大6回までです。ただし、自動車運転の業務や医師など一部の業種では「年6回まで」の制限が適用されない例外が設けられています。

そのため、業種に応じた最新の制度内容を確認することが重要です。

36協定の特別条項については、下記の記事をあわせてご覧ください。

特別条項における時間外労働の上限

特別条項を設けた36協定を結べば、通常の時間外労働の上限を一時的に超えることが認められます。しかし、上限にも法的な制限があり、無期限に残業を認めるものではありません。

以下では、特別条項を適用する場合に守るべき時間数の具体的な上限について解説します。

月の時間外労働と休日労働の合計が100時間未満であること

特別条項付き36協定を結んだとしても、月の残業時間には100時間未満という明確な上限が設けられています。月100時間の上限は、時間外労働と休日労働(法定休日労働を含む)の合計時間で計算され、過労死ラインとされる基準です。

労働者の健康と生命を守るための絶対的な基準であり、どのような事情でも超えることは認められません。勤怠管理システムにアラート機能を設定し、月90時間を超えた時点で管理職に警告を出すなど、確実に100時間未満を守る体制整備が重要です。

年間の残業時間の合計が720時間以内であること

特別条項付き36協定における年間の残業時間上限は、720時間以内と定められています。労働基準法により設けられた制限は、年間を通じた労働時間の管理と計画的な業務運営を企業に求めています。

2024年4月からは建設業や運送業にも上限が適用されました。ただし、災害復旧事業に従事する建設業では、月100時間未満や複数月平均80時間以内の上限規制は除外されます。(年720時間の上限と年6回は適用)

また、運送業は年960時間の上限が適用され、月単位の上限規制は対象外です。改善基準告示による追加規制もあります。医師は年960時間または最大1,860時間までが認められるケースもあり、健康確保措置の実施が義務付けられています。

上限を守るには、四半期ごとに残業時間の累計を確認し、下半期に向けた業務量調整や人員配置の見直しを行う計画的な労務管理が欠かせません。

複数月の平均が月80時間以内であること

特別条項適用時でも、2〜6カ月のどの連続期間でも、残業と休日労働の平均時間が80時間を超えないことが条件です。月100時間未満を守っていても、継続的な長時間労働は労働者の健康に影響を与えるため、複数月にわたる平均時間での制限が設けられています。

制限を守るには、月次の残業時間だけでなく、継続的な期間での平均残業時間も管理が必要です。そのためには、平均時間を自動で集計できる勤怠管理システムの導入と、定期的な労働時間の見直しが効果的です。

延長できるのは年6回まで

特別条項を設けた場合でも、月45時間を超える残業は年に6回(6カ月)までに限られます。特別条項は「臨時的な特別な事情」がある場合に限って認められる例外であり、長時間労働の常態化を防ぐための措置です。

7回目以降の適用は労働基準法違反となり、6カ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の罰則対象となります。適正な運用には、年間の労働時間管理計画を策定し、特別条項の適用時期を戦略的に決定することが重要です。

残業時間の上限を超えることで発生し得るリスク

残業時間の上限を超えることで発生し得るリスクは、以下のとおりです。

  • 未払い残業代の発生
  • 過労死の可能性

場合によっては、労働者の健康リスクだけでなく企業にとっても大きなリスクとなる可能性があるため、事前に確認しておきましょう。

未払い残業代の発生

法定労働時間を超える時間外労働(いわゆる残業)の上限を超えた労働に対しては、法定の割増賃金の支払い義務があります。未払いの場合、遅延損害金や付加金も含めて高額な支払い義務が発生するため注意が必要です。

労働基準法では、時間外労働に25%以上(月60時間を超える部分は50%以上)の割増賃金の支払いが義務付けられており、上限を超えた残業でも労働の事実がある限り賃金支払い義務は消滅しません。

未払い残業代は2年間(2020年4月以降は3年間)遡って請求でき、遅延損害金や同額の付加金が加算される可能性があります。リスクを避けるには、勤怠管理システムで労働時間を把握し、上限超過が発生した場合は適切な割増賃金を支払うことが重要です。

過労死の可能性

月80時間を超える長時間労働は過労死ラインとされ、労働者の生命に関わる重大なリスクであり、企業は安全配慮義務違反により損害賠償責任を負う可能性があります。

厚生労働省の過労死認定基準では、発症前1カ月間で100時間、発症前2〜6カ月間に月平均80時間を超える時間外労働が、脳・心臓疾患の発症と業務の関連性が強いとされています。

過労死による損害賠償額は、過去に1億円を超えるケースもありました。また、遺族の精神的苦痛に対する慰謝料も数千万円規模となることがあります。

月80時間を超え、かつ疲労により労働者本人が申し出た場合には、必ず医師による面接指導を実施しなければなりません。また、産業医と連携し、労働者の健康状態を継続的に監視することが不可欠です。

特別条項付き36協定の上限規制に違反した場合の罰則

特別条項付き36協定は、法定外労働を例外的に認める制度のため、違反してしまうと以下のような罰則の対象となります。

  • 労働基準法違反による罰金
  • 是正勧告や重大な違反があった場合の企業名の公表

以下では、具体的な罰則内容について解説します。

労働基準法違反による罰金

残業時間の上限規制に違反すると、労働基準法119条により6カ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科される可能性があります。

労働基準法の改正により、残業時間の上限規制違反は刑事罰の対象へと強化されました。月100時間年720時間複数月平均80時間を超える残業や年7回以上の特別条項の適用は違反対象です。

企業規模や雇用形態問わず適用されるため、注意が必要です。リスクを避けるには、勤怠管理システムにアラート機能を設定し、上限に近づいた段階で自動的に警告が出るよう体制を整備しましょう。

是正勧告や重大な違反があった場合の企業名の公表

残業時間の上限規制に違反すると、労働基準監督署による是正勧告改善命令が行われ、重大かつ悪質な違反では厚生労働省のウェブサイトで企業名が公表される可能性があります。

企業名公表は、厚生労働省のガイドラインにもとづき、主に大企業などでシステム的かつ繰り返し行われた違反が対象です。公表されることによって、企業の社会的信用や採用活動、取引先との関係に深刻な影響を与えます。

是正勧告を受けた場合は速やかに改善措置を講じ、根本的な労務管理体制の見直しを行うことが必要です。

残業時間の上限を超えないために会社側がすべき対策

残業時間の上限を超えないためには、会社側は以下のような対策を講じることが重要です。

  • 36協定が締結されているかの確認
  • 勤務時間の徹底管理
  • 勤怠状態のリアルタイムでの把握
  • 業務効率化
  • 人員増員と配置の見直し

トラブルを防ぐためにも、各対策を確認していきましょう。

36協定が締結されているかの確認

法定労働時間を超える時間外労働を行わせる場合は、労使間で36協定を締結し労働基準監督署に届け出ることが義務付けられています。協定なしの残業は違法となり、6カ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

有効期間が1年間の36協定を締結している企業では、期限切れ前に労働者代表との協議を行い、新たな協定の締結・届出が必要です。2024年4月から建設業・運送業・医師に新たな上限規制が適用されたため、該当業種では協定内容を見直しましょう。

勤務時間の徹底管理

残業時間の上限規制を遵守するには、客観的な方法による正確な労働時間管理が不可欠です。厚生労働省のガイドラインでは、タイムカード・ICカード・PCログなどによる客観的な勤怠管理システムによる記録が求められています。

自己申告制では実態との乖離が生じやすく、サービス残業や持ち帰り残業を見逃すリスクがあります。

適切に勤怠管理するためにも、勤怠管理システムの導入が推奨されます。勤怠管理システムを導入すれば、PCのログオン・ログオフ時間と打刻時間の整合性が確認でき、労働時間の正確な把握が可能となります。

勤怠状態のリアルタイムでの把握

残業時間の上限超過を事前に防ぐには、月次・週次での労働時間集計だけでなく、リアルタイムでの勤怠状況監視とアラート機能の構築が必要です。

月末に上限超過が判明しても事後対応しかできず、複数月平均80時間以内や年720時間以内の制限については、長期的な視点での管理が求められます。早期発見により業務調整や休暇取得促進などの予防措置を講じることが可能です。

残業時間の上限を超えないためにも、勤怠管理システムにアラート機能を設定し、月40時間、月70時間、月90時間などの段階的な警告を設けることが効果的です。

業務効率化

残業時間削減には、業務プロセスの見直し、IT活用、無駄な業務の排除による生産性向上が不可欠です。

労働時間だけを制限しても、サービス残業や持ち帰り仕事が発生し、根本的に問題解決できない可能性があります。残業時間を削減するためには、業務の棚卸を実施し、「不要な業務の廃止」「業務量の削減」「業務プロセスの改善」の観点で全業務を見直すことが必要です。

特に付加価値の低い定型業務はITツールやアウトソーシングを活用し、コア業務に集中できる環境を整備することが重要です。

人員増員と配置の見直し

業務効率化だけでは限界がある場合、適正な人員配置と計画的な採用により業務負荷を分散し、特定の労働者に長時間労働が集中することを防ぐ人事戦略が必要です。

人手不足や業務の属人化により、特定の労働者に業務が集中すると、労働者の残業時間が慢性的に上限を超える可能性があります。多能工化や適切な業務分担を進めることで、業務負荷を分散することができ、持続可能な労働環境の構築につながります。

また、業務量分析にもとづき必要人員を見極め、中長期的な採用計画を策定しましょう。多能工化研修により労働者のスキルを向上させ、業務の繁閑に応じて柔軟な人員配置ができる体制を整備することが重要です。

ムートン

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参考文献

e-Gov法令検索「労働基準法」

厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」

監修

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涌井好文 社会保険労務士(神奈川県会横浜北支部)
就業規則作成、社会保険手続き、給与計算、記事執筆及び監修