生命保険料控除とは?
所得控除の仕組み・金額・
必要な手続きなどを解説!

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この記事のまとめ

「生命保険料控除」とは、生命保険・介護医療保険・個人年金保険に加入している人が受けられる所得控除です。実際に支払った保険料の全部または一部が、所得税・住民税の基準となる所得額から控除され、税負担が軽くなります。

企業は年末調整の対象となる従業員等について、提出を受けた保険料控除申告書の内容を基に生命保険料控除を適用し、最終的な源泉所得税額(年調年税額)を確定させる必要があります。

この記事では生命保険料控除について、仕組みや金額の計算方法、必要な手続きなどを解説します。

ヒー

年末調整で扱う「生命保険料控除」ですが、そもそもどういう制度なのでしょうか?

ムートン

支払った保険料に応じて所得から一定額が差し引かれ、所得税や住民税の負担が軽くなる制度です。仕組みや計算方法などについて、詳しく見ていきましょう。

※この記事は、2025年9月10日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

生命保険料控除とは

生命保険料控除」とは、生命保険・介護医療保険・個人年金保険に加入している人が受けられる所得控除です。実際に支払った保険料の全部または一部が、所得税・住民税の基準となる所得額から控除され、税負担が軽くなります。

所得控除の仕組み|生命保険料控除は所得控除の一つ

生命保険料控除は「所得控除」の一つです。

「所得控除」とは、1年間の所得から一定額を差し引き、税負担を軽減する制度です。税率をかける所得の額が減るため、所得税や住民税が減額されます
社会政策上の要請、各納税者の個人的事情への配慮、最低生活費の保障など、さまざまな理由によって各種の所得控除が設けられています。

例えば、生命保険料控除を受ける前の年間所得が600万円だとします(その他の所得控除は全て済んでおり、税額控除はないものとします)。
もし合計8万円の生命保険料控除を受けられるなら、控除後の592万円に対して所得税と住民税が課されます。その結果、所得税と住民税の負担が2万4336円軽減されます。

<生命保険料控除による税負担の軽減例>
所得税(復興特別所得税を含む)住民税所得税・住民税の合計
生命保険料控除前(年間所得600万円)78万8722円60万円138万8722円
生命保険料控除後(年間所得592万円)77万2386円59万2000円136万4386円

生命保険料控除の目的

生命保険料控除が創設されたのは、大正12年(1923年)の議員立法に遡ります(施行は翌年)。

導入当時の提案理由としては、個人の生活の安定や貯蓄心の向上、確定申告者数の増加が見込まれることなどが挙げられています。また提案者の一人は、生命保険は働き手を失って残された家族を助ける点で「武士道の精神」に合致するものであり、人々の思想を善導するのに有用であるとの考え方も示しました。

こうした考え方の多くは、現代社会には必ずしも当てはまらないと考えられますが、現在に至るまで生命保険料控除は存続しています。

参考:国税庁ウェブサイト「はじめての保険料控除(答え)」

生命保険料控除の対象となる保険料の種類|旧制度と新制度についても解説

生命保険料控除の対象となる保険料は、「生命保険料」「介護医療保険料」「個人年金保険料」の3種類です。生命保険料と個人年金保険料は、さらに旧制度新制度の2つに分かれます。

生命保険料|旧制度と新制度

「生命保険料」として控除の対象となるのは、主に死亡保障を内容とする生命保険の保険料です
保険契約の時期によって「旧生命保険料」と「新生命保険料」に分かれます。保険契約を2011年以前に締結した場合は旧生命保険料、2012年以後に締結した場合は新生命保険料となります。

具体的には、以下の生命保険契約等のうち、保険金等の受取人のすべてを保険料等の払込者またはその親族とするものが控除の対象となります。

控除の対象となる生命保険契約等

<旧生命保険料(契約締結日が2011年以前)>
① 生命保険会社または外国生命保険会社等と締結した、生存または死亡に基因して一定額の保険金が支払われる保険契約
② 旧簡易生命保険契約
③ 農業協同組合と締結した生命共済に係る契約、その他これに類する共済に係る契約
④ 生命保険会社、外国生命保険会社等、損害保険会社または外国損害保険会社等と締結した身体の疾病または身体の傷害その他これらに類する事由に基因して保険金等が支払われる保険契約のうち、医療費支払事由に基因して保険金等が支払われるもの
⑤ 確定給付企業年金に係る規約または適格退職年金契約

<新生命保険料(契約締結日が2012年以後)>
① 生命保険会社または外国生命保険会社等と締結した、生存または死亡に基因して一定額の保険金が支払われる保険契約
② 旧簡易生命保険契約のうち、生存または死亡に基因して一定額の保険金等が支払われる保険契約
③ 農業協同組合と締結した生命共済契約、その他これに類する共済に係る契約のうち生存または死亡に基因して一定額の保険金等が支払われる保険契約
④ 確定給付企業年金に係る規約または適格退職年金契約

介護医療保険料

「介護医療保険料」として控除の対象となるのは、いわゆる「医療保険」などの保険料です

具体的には、2012年以後に締結した以下の介護医療保険契約等、または他の保険契約に附帯して2012年以降に締結した契約のうち、保険金等の受取人のすべてを保険料等の払込者またはその親族とするものの保険料が控除の対象となります。

控除の対象となる介護医療保険契約等

① 生命保険会社もしくは外国生命保険会社等または損害保険会社もしくは外国損害保険会社等と締結した疾病または身体の傷害等により保険金が支払われる保険契約のうち、医療費支払事由に基因して保険金等が支払われる保険契約

② 疾病または身体の傷害その他これらに類する事由に基因して保険金等が支払われる旧簡易生命保険契約または生命共済契約等のうち、医療費等支払事由に基因して保険金等が支払われるもの

※医療費等支払事由:以下のいずれかに該当する事由
・病気やけがの治療のために、医療費その他の費用を支払ったこと
・病気にかかり、もしくはけがをしたこと、または病気やけがを原因として何らかの状態(障害など)になったこと
・病気やけがにより就業できなくなったこと

個人年金保険料|旧制度と新制度

「個人年金保険料」として控除の対象となるのは、自ら年金を積み立てる保険です
保険契約の時期によって「旧個人年金保険料」と「新個人年金保険料」に分かれます。保険契約を2011年以前に締結した場合は旧個人年金保険料、2012年以後に締結した場合は新個人年金保険料となります。

具体的には、以下の個人年金保険契約等のうち、年金(退職年金を除く)を給付する定めがあり、かつ以下の給付要件を満たしているものの保険料が控除の対象となります。

控除の対象となる個人年金保険契約等

<旧個人年金保険料(契約締結日が2011年以前)>
① 生命保険会社または外国生命保険会社等と締結した、生存または死亡に基因して一定額の保険金が支払われる保険契約
② 旧簡易生命保険契約
③ 農業協同組合と締結した生命共済に係る契約、その他これに類する共済に係る契約

<新個人年金保険料(契約締結日が2012年以後)>
① 生命保険会社または外国生命保険会社等と締結した、生存または死亡に基因して一定額の保険金が支払われる保険契約
② 旧簡易生命保険契約のうち、生存または死亡に基因して一定額の保険金等が支払われる保険契約
③ 農業協同組合と締結した生命共済契約、その他これに類する共済に係る契約のうち生存または死亡に基因して一定額の保険金等が支払われる保険契約

個人年金保険契約等の給付要件

① 年金の受取人は、保険料もしくは掛金の払込みをする者、またはその配偶者となっている契約であること。
② 保険料等は、年金の支払を受けるまでに10年以上の期間にわたって、定期に支払う契約であること。
③ 年金の支払は、年金受取人の年齢が原則として満60歳になってから支払うとされている10年以上の定期または終身の年金であること。

生命保険料控除の金額

生命保険料控除の額は最大12万円で、実際に支払った各種保険料の額に応じて決まります

控除額の計算方法

生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料の控除額の計算方法を紹介します。

生命保険料の控除額

生命保険料の控除額は、旧制度と新制度で計算方法が異なります。旧生命保険料の控除額は最大5万円、新生命保険料の控除額は最大4万円です

<旧生命保険料(契約締結日が2011年以前)>
年間の支払保険料等控除額
2万5000円以下支払保険料等の全額
2万5000円超5万円以下支払保険料等×1/2+1万2500円
5万円超10万円以下支払保険料等×1/4+2万5000円
10万円超5万円

<新生命保険料(契約締結日が2012年以後)>
年間の支払保険料等控除額
2万円以下支払保険料等の全額
2万円超4万円以下支払保険料等×1/2+1万円
4万円超8万円以下支払保険料等×1/4+2万円
8万円超4万円

介護医療保険料の控除額

介護医療保険料の控除額は最大4万円で、以下の方法で計算します。

年間の支払保険料等控除額
2万円以下支払保険料等の全額
2万円超4万円以下支払保険料等×1/2+1万円
4万円超8万円以下支払保険料等×1/4+2万円
8万円超4万円

個人年金保険料の控除額

個人年金保険料の控除額は、旧制度と新制度で計算方法が異なります。旧個人年金保険料の控除額は最大5万円、新個人年金保険料の控除額は最大4万円です

<旧個人年金保険料(契約締結日が2011年以前)>
年間の支払保険料等控除額
2万5000円以下支払保険料等の全額
2万5000円超5万円以下支払保険料等×1/2+1万2500円
5万円超10万円以下支払保険料等×1/4+2万5000円
10万円超5万円

<新個人年金保険料(契約締結日が2012年以後)>
年間の支払保険料等控除額
2万円以下支払保険料等の全額
2万円超4万円以下支払保険料等×1/2+1万円
4万円超8万円以下支払保険料等×1/4+2万円
8万円超4万円

生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料について、それぞれ控除を受けられる

生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料のうち複数を支払っている場合は、それぞれについて控除を受けることができます
例えば生命保険料について3万円、介護医療保険料について2万円、個人年金保険料について3万円の控除を受けられる場合、生命保険料控除の合計額は8万円です。

ただし、生命保険料控除の合計額は12万円が上限とされています
生命保険料または個人年金保険料が旧制度だと、3つの控除額の合計が12万円を超えることがありますが、その場合の生命保険料控除は12万円となります。

生命保険料控除額の計算例

生命保険料控除額の計算例を3つ紹介します。

(例1)
1年間に支払った保険料の額は以下のとおり
生命保険料(新制度):4万円
介護医療保険料:3万円
個人年金保険料:なし

生命保険料の控除額=4万円×1/2+1万円=3万円
介護医療保険料の控除額=3万円×1/2+1万円=2万5000円

生命保険料控除の額=3万円+2万5000円=5万5000円

(例2)
1年間に支払った保険料の額は以下のとおり
生命保険料(旧制度):6万円
介護医療保険料:なし
個人年金保険料(新制度):6万円

生命保険料の控除額=6万円×1/4+2万5000円=4万円
個人年金保険料の控除額=6万円×1/4+2万円=3万5000円

生命保険料控除の額=4万円+3万5000円=7万5000円

(例3)
1年間に支払った保険料の額は以下のとおり
生命保険料(新制度):50万円
介護医療保険料:5万円
個人年金保険料(旧制度):20万円

生命保険料の控除額=4万円(上限)
介護医療保険料の控除額=5万円×1/4+2万円=3万2500円
個人年金保険料の控除額=5万円(上限)

生命保険料控除の額=4万円+3万2500円+5万円=12万2500円
ただし、上限を超えているため12万円

生命保険料控除について、企業側で必要となる手続き

年末調整の対象となる従業員等については、企業側で年末調整を行い、生命保険料控除その他の控除を適用したうえで源泉所得税額を精算します。

保険料控除申告書などの提出を受ける|保管期間は7年

企業が年末調整を行う際に、従業員等から提出を受けるべき書類は以下のとおりです。生命保険料控除に関する事項は「保険料控除申告書」に記載されます

<年末調整の際に従業員等から提出を受ける書類>
書類の名称概要
扶養控除等(異動)申告書扶養している親族などについての情報を記載する
※原則として、年の最初に給与を支払うまでに提出を受ける
基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼特定親族特別控除申告書兼所得金額調整控除申告書
※いわゆる「基・配・特・所」(令和6年度までは「基・配・所」
基礎控除、配偶者控除・配偶者特別控除、特定親族特別控除、所得金額調整控除の適用に関する情報を記載する
※年末調整時に提出を受ける
保険料控除申告書生命保険料控除、地震保険料控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除の適用に関する情報を記載する
※年末調整時に提出を受ける
(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書住宅ローン減税に関する情報を記載する

年度内に年末調整を完了する場合、11月中旬までに上記書類を回収しましょう

従業員から回収した上記の書類は、その提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年間保存しなければなりません。

年末調整を行う

保険料控除申告書を含む上記書類を確認しながら、従業員から1年間で実際に徴収した源泉所得税と、確定した源泉所得税額(年調年税額)の差額を精算します。
実際の徴収額が年調年税額に不足していれば追加徴収し、超過していれば還付します。追加徴収と還付はどちらも、年末調整後に支給する給与額を増減させる形で行うのが一般的です。

年末調整を完了する時期の目安は12月頃で、12月または翌年1月の給与に反映させます

年末調整の詳しい方法については、国税庁のウェブサイトなどをご参照ください。

参考:国税庁ウェブサイト「年末調整がよくわかるページ(令和6年分)

生命保険料控除に関する注意点

企業が年末調整において生命保険料控除の計算・適用を行う際には、以下の各点に注意しましょう。

① 旧制度と新制度が混在している場合の、生命保険料控除額の計算方法
② 生命保険料控除の対象外となる保険契約
③ 配偶者などの生命保険料を支払った場合も、控除の対象となる

旧制度と新制度が混在している場合の、生命保険料控除額の計算方法

旧制度と新制度の両方の生命保険契約等がある場合、または旧制度と新制度の両方の個人年金保険契約等がある場合は、以下の①②の方法によって計算した金額のうち、高い方が控除額となります。

① 旧制度の控除額(最大5万円)
② 旧制度の控除額と新制度の控除額の合計額(最大4万円)

旧生命保険料または旧個人年金保険料の実際の支払額が6万円を超えている場合は①、6万円以下である場合は②によって計算することになります。

(例4)
1年間に支払った保険料の額は以下のとおり
生命保険料(旧制度):7万円
生命保険料(新制度):1万円

旧生命保険料の控除額=7万円×1/4+2万5000円=4万2500円
新生命保険料の控除額=1万円

生命保険料の控除額=4万2500円
※旧生命保険料の実際の支払額が6万円を超えているので、①によって計算

(例5)
1年間に支払った保険料の額は以下のとおり
個人年金保険料(旧制度):3万円
個人年金保険料(新制度):1万円

旧個人年金保険料の控除額=3万円×1/2+1万2500円=2万7500円
新個人年金保険料の控除額=1万円

個人年金保険料の控除額=2万7500円+1万円=3万7500円
※旧生命保険料の実際の支払額が6万円以下なので、②によって計算

生命保険料控除の対象外となる保険契約

以下のいずれかに当たる保険契約は、生命保険料控除の対象外とされています。

・保険期間が5年未満の契約で、いわゆる貯蓄保険や貯蓄共済
・外国生命保険会社等や外国損害保険会社等と国外において締結したもの
・信用保険契約
・傷害保険契約
・財形貯蓄契約
・財形住宅貯蓄契約
・財形年金貯蓄契約
など

配偶者などの生命保険料を支払った場合も、控除の対象となる

生命保険料控除は、保険契約者ではない人が保険料を支払った場合も適用を受けることができます

よく見られる例として、専業主婦の妻が契約した生命保険の保険料を、夫が支払うケースが挙げられます。この場合は、実際に保険料を支払った夫が、その所得から生命保険料控除を受けられます。

参考:国税庁ウェブサイト「妻名義の生命保険料控除証明書に基づく生命保険料控除」
ムートン

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参考文献

国税庁ウェブサイト「No.1140 生命保険料控除」

国税庁ウェブサイト「はじめての保険料控除(答え)」

国税庁ウェブサイト「No.1141 生命保険料控除の対象となる保険契約等」

国税庁ウェブサイト「妻名義の生命保険料控除証明書に基づく生命保険料控除」