キャリアパスとは?
注目されている背景やメリット・デメリット、
導入手順、注意点を分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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キャリアパスとは、個人が将来の職位や役割を目指す際に、どのような経験やスキルを段階的に積めばいいかという道筋を指します。組織においては、キャリアパス制度として制度化し、従業員が掲げるキャリア目標の実現できるようサポートすることが重要です。
・キャリアパス制度は、昇進や育成の道筋であり、従業員が自身のキャリアビジョンやキャリアプランと照らし合わせて活用します。
・キャリアパス制度の導入によりモチベーション向上・離職防止・人材育成の効率化・採用力の強化といった効果が期待できます。
・成功には、ゴール設定→等級制度→研修→賃金→評価→運用という一連の設計・実行プロセスを押さえることが重要です。本記事では、キャリアパスについて、基本から詳しく解説します。
※この記事は、2025年9月12日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
キャリアパスとは
キャリアパスとは、個人または組織が定めたキャリア目標を達成するための、職務経験、スキル習得、昇進・異動の道筋や計画を指します。
例えば、一般社員から主任、課長になる昇進のステップや各段階で求められるスキルや経験を整理したものがキャリアパスにあたります。
一方、キャリアパス制度は、企業や団体がキャリアパスの考え方を制度として具体化し、昇進要件や研修内容、評価基準などを明文化して運用する仕組みです。キャリアパス制度の導入により、従業員は将来像を明確に描きやすくなり、成長に向けた行動を起こしやすくなります。
企業にとっても人材育成や評価の透明化を進めやすくなり、組織全体の生産性や定着率の向上につながります。
キャリアプランとの違い
キャリアパスとキャリアプランの違いは、計画の主体が企業か個人かの点です。
キャリアパスは個人や組織がキャリア目標に到達するまでの道筋を示す概念で、実務では企業が従業員に向けて社内での昇進や育成ルートを示す場合もあります。
一方、キャリアプランは個人が主体となり、転職や副業も含めて将来のキャリアを設計する行動計画です。
企業は明確なキャリアパスを提供することで、従業員が自身の成長イメージを描き、主体的に能力開発に取り組めるよう支援します。
キャリアデザインとの違い
キャリアパスとキャリアデザインの違いは、計画の立て方と対象範囲です。
キャリアパスは、企業が従業員に示す社内での昇進や育成などを指す場合が多い制度的な枠組みですが、個人が自分のキャリアの進み方を段階的に描く場合にも使われます。
一方、キャリアデザインは、従業員個人が価値観やライフプランも含めて主体的に描く、職業人生全体の設計図のことです。企業が提示するキャリアパスは、従業員が自身のキャリアデザインを実現するための選択肢の一つとなります。
キャリアビジョンとの違い
キャリアパスとキャリアビジョンの違いは、キャリアパスがキャリア目標に至るまでの道筋を示すのに対し、キャリアビジョンは将来の理想像を示す点にあります。
キャリアパスはどう進むかというプロセスを示し、キャリアビジョンはどこに到達したいかのゴールを示します。両者を組み合わせて考えることで、目指す将来像に向けて具体的な行動計画を立てることが可能です。
キャリアアップとの違い
キャリアパスとキャリアアップの違いは、キャリアパスが企業によって示される「制度や道筋」であるのに対し、キャリアアップは個人が能力や経歴を高める「行動や過程」そのものを指す点です。
キャリアパスは、昇進・昇格のための具体的な基準やルートを示す枠組みです。一方、キャリアアップは、個人が枠組みを活用し、スキルを磨いたり職位を向上させたりする行動や過程を指します。
キャリアパス制度が注目されている背景
キャリアパス制度は、人事制度の枠を超えて、企業の競争力を左右する経営戦略の一つとして注目されています。キャリアパス制度が注目されている具体的な背景は、以下のとおりです。
- 雇用環境の変化
- 人手不足の深刻化
以下で詳しく解説します。
雇用環境の変化
キャリアパス制度が重視される背景には、終身雇用や年功序列といった日本型雇用システムの実質的な変化があります。従来はキャリア形成を企業の人事制度に依存していましたが、現在は従業員自身が主体的にキャリアを築くことが求められるようになりました。
特に近年は、人的資本経営の観点からも従業員のスキルアップが企業価値の向上に直結すると考えられています。そのため、企業が明確なキャリアパスを提示できなければ、成長を望む優秀な人材は他社へ流出しかねません。
多様な働き方を許容し、納得感のある成長機会を提供するキャリアパス設計は、現代企業にとって不可欠な取り組みです。
人手不足の深刻化
人手不足の深刻化を背景に、キャリアパス制度が注目されています。少子高齢化による労働人口の減少に対応し、優秀な人材を確保・定着させることが目的です。
キャリアの道筋を明確に示すことは、求職者にとって企業の魅力となり、従業員のエンゲージメント向上にもつながります。さらに、キャリアパスはリスキリング(学び直し)の指針としても役立ちます。
必要なスキルを体系的に示せば、自律的な学習を促し、変化に強い人材を育成することが可能です。
キャリアパス制度を導入するメリット
キャリアパス制度を導入すると、以下のメリットが得られます。
- 従業員のモチベーションの向上
- 離職率の低下
- 人材育成・人材配置の効率化
- 優秀な人材の確保
以下で詳しく解説します。
従業員のモチベーションの向上
キャリアパス制度によって、評価基準と昇進・昇格への道筋を具体的に示すことで、従業員の仕事へのモチベーションを向上させられます。
昇格の基準が曖昧な環境では、従業員は努力の方向性を見失いやすいです。一方で、各等級で求められるスキルや成果が明確化されると、評価への納得感が高まり、仕事への動機付けにもつながります。
その上で従業員は自身の現在地とゴールを客観的に把握しやすくなり、日々の業務に目的意識を持って取り組めるようになります。
離職率の低下
優秀な人材ほど成長の停滞を恐れ、見込みがなければ転職を考える傾向にあります。そこで重要なのが、多様なキャリアの選択肢を用意することです。例えば、管理職だけでなく専門職としての成長機会を示せば、従業員は安心してキャリアを描けます。
キャリアパス制度の導入は、多様なキャリアの選択肢を示すことで従業員のキャリアへの不安を解消し、離職率の低下に貢献します。
人材育成・人材配置の効率化
キャリアパス制度の導入は、役職や等級ごとに必要なスキルを明確にするため、従業員の学習意欲を高める効果があります。結果として、人材育成の方向性が共有され、研修の内容やタイミングを計画的に設計しやすくなります。
ただし、キャリアパスはあくまで大まかな道筋を示すもののため、実際の研修計画や人材配置にはキャリアマップやスキルマップが必要です。キャリアマップとは、職位や異動のステップを時系列で整理したキャリアの地図を指します。また、スキルマップとは、職務に必要なスキルや習熟度を一覧化し、可視化したものです。
キャリアマップやスキルマップなどを活用すれば、キャリアパスで示された将来像と現状を比較して、不足しているスキルや経験が明確になります。明らかになったギャップを埋める研修を設計したり、逆に強みを活かせるポジションに配置したりできるため、感覚的な異動や場当たり的な研修を避けられます。
最終的には、組織全体の人材育成と人材配置の最適化が可能です。
優秀な人材の確保
キャリアパス制度を導入すると、成長の道筋を明確に示せるため、優秀な人材の確保につながります。
現代の求職者は、入社後の成長ストーリーやキャリア形成の可能性を企業選びの重要な基準としています。そのため、採用面接や採用サイトでキャリアステップや習得スキル、到達可能な役職などを具体的に示すことは、他社との差別化につながります。
キャリアパス制度を導入するデメリット
キャリアパス制度を導入するデメリットは、以下のとおりです。
- 従業員のモチベーション低下や離職につながる恐れがある
- 従業員の視野が狭まる場合がある
- 定期的な見直しが必要になる
以下では、導入前に知っておくべきデメリットをそれぞれ紹介します。
従業員のモチベーション低下や離職につながる恐れがある
キャリアパス制度と役職(ポスト)の空きを厳密に連動させようとすると、ポストに十分な空きがない場合、能力ある従業員が昇進できず、モチベーション低下や離職につながるリスクがあります。特に管理職ポストが限られる単線型の組織設計では、昇進が本人の能力以外の要因に左右されます。
解決策として、等級と役職の分離が効果的です。役職に任命できなくとも、能力や貢献度に応じて等級と給与を引き上げると、従業員の納得感を高めます。
さらに、管理職以外の道も用意する複線型キャリアパスを導入すれば、多様な昇進ルートが確保され、優秀な人材の流出を防げます。
従業員の視野が狭まる場合がある
キャリアパス制度の運用を誤ると、従業員の視野を狭める可能性があります。
定められたルートが唯一の正解と認識されると、従業員は新しい挑戦や部署横断的な経験を避ける傾向が強まります。その結果、従業員の思考が硬直化したり、部門間の連携が弱まったりするサイロ化(組織内の部門やチームが独立して動き、横断的なコミュニケーションや情報交換ができない状態)を招きかねません。
課題への対策として有効なのが越境学習です。他社や異業種での就業体験を通じて、自社では得られない価値観や仕事の進め方に触れることで、従業員の視野が広がり、新しい発想やスキルを取り入れられます。
さらに、社内公募制度を実施したり、キャリアパス以外の経験も評価する文化をつくったりすることで、従業員の主体的なキャリア形成と組織の活性化が進みます。
定期的な見直しが必要になる
キャリアパス制度は、事業環境や経営戦略は常に変化するため、最低でも年1回の見直しと更新が必要です。
見直しを怠ると、制度が現状とずれて形骸化し、従業員に時代遅れのスキル習得を促してしまう恐れがあります。その結果、企業の競争力が低下しかねません。
制度の陳腐化を防ぐには、最低でも年に一度、事業計画と照らし合わせて内容をレビューし、常に最新の状態へ更新し続けることが重要です。継続的なメンテナンスを行うことにより、キャリアパス制度を有効に機能させられます。
キャリアパス制度の導入手順
キャリアパス制度を構築するための具体的な手順は、以下のとおりです。
- キャリアのゴール・目的を定める
- 等級制度を設計する
- 研修制度を設計する
- 賃金制度を設計する
- 評価制度を設計する
- 制度を社内に定着させる
以下でそれぞれ解説します。
1. キャリアのゴール・目的を定める
キャリアパス制度の設計は、まず社内の職務をグループ分けし、各グループで従業員が目指せる最終的なゴールを設定することから始まります。キャリアの目的地を最初に定めることで、逆算して必要なステップを具体化できるためです。
ゴール設定は、企業がどの専門性を重視し、どう成長してほしいかという経営メッセージそのものです。経営メッセージを具体的な制度に落とし込むには、まず自社の事業内容や組織図をもとに職務群を洗い出し、土台を固めることが欠かせません。
2. 等級制度を設計する
次に、ゴールから逆算して役割や責任のレベルに応じた等級を設定します。等級はキャリアパス制度の背骨であり、「何をすれば次の等級に上がれるのか」を明確に示すことが重要です。
また、各等級で求められるスキルをスキルマップとして体系化すれば、従業員は自分の現在地と目標との差を把握できます。
3. 研修制度を設計する
キャリアパス制度の導入において、等級制度とスキルマップを完成させた後は、制度と連動した研修制度の設計が必要です。研修とキャリアパスを紐付けることで、研修は単なるイベントではなく、キャリアアップのための具体的な手段として従業員に認識されます。
「研修を受ければ昇格要件を満たせる」という明確な道筋は、従業員の学習意欲を格段に高めます。集合研修に加え、eラーニングや資格取得支援、社内公募による越境学習などの学習機会を提供すると、従業員の自律的な成長をさらに促し、制度の効果の最大化が可能です。
研修準備を整えたい方は、ぜひ以下の記事もあわせてご覧ください。
4. 賃金制度を設計する
キャリアアップを促すには、賃金制度との連携が欠かせません。各等級に賃金レンジを設定することで、透明性と公平性を確保し、「次の等級で年収がどれくらいになるか」という見通しが従業員の意欲を高めます。
レンジに幅や重なりを持たせれば、柔軟な昇給も可能です。特に専門職の上位レンジを管理職と同等以上にすると、多様なキャリア選択を支えるデュアルラダー制度が実効性を持ちます。
デュアルラダー制度とは、従業員が管理職の経路を進むか、専門性を極める経路を進むかを選択できる仕組みです。制度を導入すれば、管理職にならなくても昇給や昇格の機会は得られるため、多様なキャリアを支援できます。
賃金制度をキャリアパス制度と連動させることで、従業員のキャリアを後押しし、長期的な定着と組織全体の成長につながります。
5. 評価制度を設計する
評価制度は、等級・研修・賃金を機能させるエンジンであり、キャリアパス制度の根幹です。従業員の成果や行動を等級基準に基づいて評価し、結果を昇格や昇給に反映させます。
評価基準が等級の要件と一致していれば、日々の業務がキャリアアップに直結する実感が得られ、評価への納得感も高まります。評価は目標達成度とコンピテンシー(高い成果を上げる人材に共通する行動特性)の2軸で行うとバランスが取れます。
さらに、結果をフィードバック面談で共有し、育成計画につなげることが重要です。
6. 制度を社内に定着させる
制度が完成したら、最後は従業員への公開と運用を行います。等級制度・研修・賃金・評価の仕組みを社内ポータルなどで明示し、誰もが閲覧できるようにする必要があります。
制度は活用されてこそ価値があるため、特に研修の実施は「会社が成長を支援する姿勢」を示す重要なポイントです。
全社説明会で制度の意図を伝え、階層別やスキル別の研修を計画的に進めます。さらに、アンケートやスキルテストで効果を測定し、改善を続けることで、キャリアパス制度を常に価値ある仕組みとして維持できます。
キャリアパス制度導入時の注意点
キャリアパス制度の導入を成功に導くために、設計から運用開始までに見落としてはならない重要な注意点は以下のとおりです。
- キャリアパス制度導入の目的を全従業員に共有する
- 企業戦略と整合性が取れているか確認する
- 対象者の範囲とキャリアステージを明確にする
- 従業員に複数のキャリアパスを選択させる
以下で具体的に解説します。
キャリアパス制度導入の目的を全従業員に共有する
キャリアパス制度の導入を成功させるには、導入目的を組織全体で共有することが重要です。目的への共感がなければ、制度は形骸化する恐れがあります。
導入目的としては、従業員の成長支援や公平な評価などが挙げられます。経営層から明確に伝え、説明会や社内ポータルを通じて繰り返し発信することで、全社的に浸透してキャリアパス制度が着実に機能します。
企業戦略と整合性が取れているか確認する
キャリアパス制度を導入する際は、企業の経営戦略や事業計画と整合しているか確認する必要があります。方向性がずれると、従業員の成長が事業に結びつきません。
例えば、新事業を強化するなら、データ分析力やプロジェクトマネジメント力など、事業の推進や成功に必要になるスキルを昇格要件に加える必要があります。制度設計は人事部だけでなく、経営層や事業責任者も巻き込み、将来の事業成功に必要な人材像を明確にした上で進めることがポイントです。
対象者の範囲とキャリアステージを明確にする
キャリアパス制度を成功させるには、対象者(正社員・契約社員など)の範囲とキャリアステージ(新卒・中堅・ベテラン)を明確に定義することが欠かせません。
適用範囲を正社員や契約社員に限定すること自体は法的に禁止されていませんが、パートやアルバイトを除外する場合は、不合理な待遇格差にならないように配慮が必要です。適用範囲を限定する際は、「評価や処遇の一貫性を保つため」といった理由を示せば、理解を得やすくなります。
例えば、若手には基礎スキル習得の道筋を、ミドル・シニア層には経験を活かしたメンタリングを評価に反映させるなど、層ごとに適したパスを用意することが効果的です。各層の特性に応じた多様な選択肢を設けることで、全世代が自身の役割と成長を実感できます。
従業員に複数のキャリアパスを選択させる
従業員の多様な価値観に応えるには、管理職だけでなく専門性を追求する「専門職コース」など複数のキャリアパスを用意し、選択できる仕組みの設定が必要です。マネジメント以外の強みを持つ人材の活躍の場を確保することで、離職も防げます。
複線型キャリアパスを機能させるには、専門職の上位者にも管理職と同等以上の処遇を与えることが重要です。両方の道が等しく価値あると示すことで、従業員は安心して自分の強みを活かせます。
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