正社員とは?
メリット・デメリット・種類・
他の雇用形態との違いなどを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

正社員」とは、長期にわたって企業の基幹的業務を担う中核的な人材のことです。

法令上で定義された言葉ではありませんが、正社員は日本の雇用社会の中心となる制度です。

本記事では、その正社員制度を支える、長期雇用制度、年功賃金制度、企業別労働組合の「3種の神器」からなる「メンバーシップ型雇用」の基本について説明した上で、近時注目される限定正社員制度や、「ジョブ型雇用」についてもわかりやすく説明します。

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会社には正社員だけでなく、アルバイトや契約社員・派遣社員もいます。一緒に仕事をしていますが、どんな違いがあるのでしょうか?

ムートン

正社員の特徴の1つは無期雇用であることです。昇進や配転などが行われることもありますね。詳しく見てみましょう。

※この記事は、2025年5月12日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名等を次のように記載しています。

  • 高年齢者雇用安定法…高年齢者等の雇用の安定等に関する法律
  • パート・有期法…短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律

「正社員」の定義

正社員」について、わが国には法的な定義が存在しません。しかし、一般的な定義として、正社員(正規雇用者)とは、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を締結している労働者であって、労働時間、職務の内容、及び勤務地のいずれにも制約なく働く、企業の中核的な人材ということができます。

時代の推移とともに、後述する限定正社員など、一般的な定義に当てはまらない正社員も登場していますが、正社員の本質としては、企業の基幹的業務を担う中核的人材という点については変化ありません。

「無期雇用フルタイム労働者」との違い

無期雇用フルタイム労働者とは、企業と無期労働契約を締結して、法定労働時間(原則として1日8時間、週40時間勤務)の全てにわたって勤務している労働者のことをいいます。正社員もこの定義に該当しますが、さらに、企業の中核的な人材であるか否かという点で違いが生まれます

つまり、無期雇用フルタイム労働者には、正社員とそうでない労働者の2種類が存在するということです。正社員でない無期雇用フルタイム労働者の例としては、いわゆる無期転換ルール(労働契約法18条)によって、有期契約から無期契約に転換したフルタイム労働者のうち、正社員扱いを受けない者(契約期間以外は従前の労働条件と同じ場合など)が挙げられます。

他の雇用形態(契約社員・アルバイトなど)との違い

正社員以外の労働者は非正社員(非正規雇用者)と総称されます。非正社員には、契約社員パートタイマーアルバイト嘱託定年後再雇用者派遣社員など、さまざまな雇用形態の労働者が含まれます。

非正社員は、企業の中核的な人材ではないことに加え、契約期間・労働時間・従事する職務などの労働条件のいずれかまたは全部が正社員の定義に当てはまらないことが共通した特徴です。

「日本型雇用システム」と正社員

わが国における「正社員」は、いわゆる「日本型雇用システム」と大きな関係があります。

日本型雇用システムの「三種の神器」

日本型雇用システム」の特徴として、①長期雇用制度終身雇用制度)、②年功賃金制度年功序列制度)、③企業別労働組合の3点が挙げられ、これらは「三種の神器」とも呼ばれています。

日本型雇用システムの「三種の神器」

① 長期雇用制度(終身雇用制度)
企業が採用した従業員を定年まで雇用し続ける制度

② 年功賃金制度(年功序列制度)
従業員の勤続年数や年齢に応じて賃金が上昇していく制度

③ 企業別労働組合
企業を単位として、職種に関係なく組織される労働組合

長期雇用制度

三種の神器のうち、正社員というカテゴリと最も結びつきが強いのは、長期雇用制度でしょう。正社員は期間の定めのない労働契約を締結し、通常は定年までの雇用が保証されているからです。長期雇用を前提とした労働契約を締結しているため、企業は長期的な視野で人材育成などを行うことができます。

人材育成の方法として、配転(配置転換)によって、多くの部署を経験させて適性を見極めるというものがありますが、これも長期雇用だからこそ可能になる面があります。

年功賃金制度

年功賃金制度は長らく正社員の特徴とされてきました。配転によって、さまざまな職務を経験させる場合に、職務給(従事する職務の内容や責任の度合いによって賃金が決定される制度)を採用すると、担当する職務によって賃金が上下してしまい、不満を生みかねません。そこで、わが国の正社員の場合は、職能給(職務遂行能力に応じて賃金を決定する制度)を採用しているのが通常です。

職務遂行能力とは、担当業務を遂行する上で必要となるスキルや知識および経験のことをいいますが、この能力は通常、年齢(在籍年数)とともに高まっていくと考えられるため、年功賃金制度に結びつくことになります。

企業別労働組合

正社員は、さまざまな職務を担当する可能性があるため、企業ごとに労働条件がかなり異なります。そのため、欧米のように産業別に労働組合を組織する理由に乏しく、あくまで個別の企業内で組織された労働組合での活動が中心となります。また、その企業内組合は正社員を中止に組織化されてきた歴史があります。

しかし、非正社員の増加とともに、非正社員の加入を認める企業内労働組合も増えつつあります。

「メンバーシップ型雇用」・「ジョブ型雇用」と正社員

「三種の神器」以上に日本型雇用システムにとって重要な本質とされるのが、雇用契約に具体的な「職務(ジョブ)」が定められておらず、企業のメンバーであるという地位設定契約となっている点です。そのため、日本型雇用システムは「メンバーシップ型雇用」であると言われます。

メンバーシップ型雇用とは

メンバーシップ型雇用の典型例が正社員で、「空白の石版」として採用され、企業の経営上の都合により、その都度、配転により石版に職務が書き込まれ、変更されていきます。つまり、「人に職務を当てはめる」雇用のあり方なのです。

ジョブ型雇用とは

欧米では、「職務(ジョブ)」を特定して雇用契約を締結する「ジョブ型雇用」が基本です。これは、「職務に人を当てはめる」雇用のあり方です。

わが国でも、パートタイマー・アルバイトなどの非正社員は、採用時にある程度、職務が特定されていることが多いので、ジョブ型的な側面を有しています。正社員の中でも、後述の職務限定正社員というカテゴリでは、ジョブ型雇用の性格もあわせ有しているといえます。

「ジョブ型正社員」とは

さらに近年は特定の職務内容を明確に定義し、それに適合した人材を採用・配置する「ジョブ型人事制度」を導入する企業も増えつつあります。そのような人事制度に基づく正社員は「ジョブ型正社員」と呼ばれることもあります。

このような変化を受けて、「職務(ジョブ)」が無限定であることが、正社員の特徴であるとは必ずしも言えなくなりつつあります。

正社員のメリットとデメリット

正社員と非正社員のどちらの働き方を選ぶかは、本来個人の自由です。正社員になることを希望しながら非正社員の地位に甘んじている場合は、「非自発的非正規雇用」や「不本意非正規雇用」と言われることがあります。特に就職氷河期世代(バブル崩壊後の1993年から2004年頃に新卒で厳しい就職活動を行った世代)の方に多いとされます。

正社員のメリット

正社員のメリットとしては、まず、長期にわたって雇用が安定していることで、生計が維持しやすいことが挙げられます。このことは、住宅ローンの借り入れのしやすさなどの社会的信用にも影響しています。

また、企業の中核的な人材であるため、良質な教育訓練を継続的に受けることができ、知識や技能を向上させやすい面もあります。加えて、そのような中核的な人材であればこそ、企業は離職を防ぐために年功賃金制度退職金制度などを設けて、長期にわたって在籍してもらえるようなインセンティブとしています。

正社員のデメリット

正社員の特徴として、「いつでも、どこでも、なんでも」働くという、働き方の無限定さが挙げられます。「いつでも」とは長時間労働、「どこでも」とは転勤、「なんでも」とは職務(職種)の変更をそれぞれ意味します。これらの無限定さをデメリットと感じる人が次第に増えてきたことが、後述する「限定正社員」制度の導入につながっています。

正社員の人事労務管理

人事労務管理について、正社員に特徴的なものを紹介していきます。

採用

わが国独自の採用システムとされるのが、正社員の「新卒一括採用」です。これは毎年一定の時期に新卒を一括して採用する選考方法です。

ジョブ型雇用の場合は、職務内容を定義した職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)の要件を満たす即戦力人材を採用するのに対して、メンバーシップ型雇用のわが国は、職務については「空白の石版」で構わないため、ポテンシャル(学業能力やコミュニケーション能力など)重視の選考となります。

また、新卒一括採用は、定年制により、一定の年齢で毎年多く発生する退職者の一括補充という側面も有しています。

近時は中途採用の活発化や通年採用の導入により、新卒一括採用中心の採用システムに変化が見られてもいます。

人材育成

正社員は、長期的な視野で企業の中核的な人材へと育つことが期待されているため、非正社員に比べて多様かつ高度な研修や育成に関するシステムが整備されていることが多いといえます。

入社後、さまざまな部署を経験するジョブローテーションは、正社員に多く見られる特徴です。また、OJT(職場での実務を通じた教育訓練)だけでなく、OFF-JT(職場での実務から離れた研修やセミナーを通じた教育訓練)の機会が正社員は非正社員に比べて多い面があります。

配転・出向

正社員は働き方が無限定であることから、配転(配置転換)が行われることが通常です。さまざまな職務を経験しながら、社内キャリアを形成していきます。さらに、転勤出向なども、人材育成の一方法としての側面を有しており、多くの場合正社員に対して行われています。

福利厚生

正社員は長期雇用が前提であり、企業は長期在籍のインセンティブとなるように、正社員には非正社員に比べて、手厚い福利厚生制度を用意することがこれまでは多く見受けられました。

しかし、パートタイマーや有期雇用労働者と正社員(通常の労働者)との間で労働条件に不合理な待遇差を設けることを禁じる、いわゆる「同一労働同一賃金(パート・有期法8条)によって、福利厚生制度についても見直しが必須となっています。

定年

定年制とは、一定の年齢に到達したことを理由に、労働契約を終了させる制度です。正社員は企業と期間の定めのない労働契約を締結していますが、定年制は労働契約の終了事由として認められています。

定年制を設ける趣旨は、長期雇用制度においても人材の新陳代謝を図る必要性によるものです。また、年功序列の賃金体系を採用すると、基本的には年齢が高くなるとともに賃金も高くなってしまいますので、どこかで一律にそれを解消する必要があるからです。

定年制を設ける場合は定年年齢を60歳以上とすることが義務付けられています(高年齢者雇用安定法8条)。定年後も、希望する従業員全員を対象として、65歳までの継続雇用制度を導入することが義務付けられています。

解雇

正社員についても、解雇の一般的な原則が適用されます(労働契約法16条)。

非正社員との違いが表れる場合として、「整理解雇」の場合が挙げられます。整理解雇とは、企業が不況や経営難等で人員削減の必要に迫られて行う解雇です。この整理解雇に関する判例法理を「整理解雇法理」といいます。整理解雇については、次の4要件(4要素)から、解雇の客観的合理性と社会的相当性が判断されます(あさひ保育園事件・最高裁昭和58年10月27日判決等)。

整理解雇の4要件(4要素)

① 人員削減の必要性:人員を削減する経営上の理由があるか
② 解雇の必要性(解雇回避努力):解雇以外の手段で人員を削減できたか
③ 人選の合理性:解雇対象者が合理的な基準で選定されたか
④ 手続きの妥当性:労働者側(労働組合等)との協議等が行われたか

整理解雇の際に、長期雇用の保証がある正社員より非正社員の解雇を先行させないと、解雇権の濫用とされる場合があります。

「限定正社員」とは

正社員は働き方が無限定である点がその特徴です。しかし、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)という理念が社会に浸透するにつれ、正社員にも限定された働き方を導入されるようになり、総称して「限定正社員」と呼ばれています。働き方が限定されている分だけ、ほとんどの場合、賃金や昇進については、通常の正社員よりも待遇で差が設けられています。

短時間正社員

限定正社員のうち、短時間正社員とは、正社員のうち、通常の正社員よりも所定労働時間が短い労働契約を締結した者をいいます。育児や介護などのニーズを満たしつつ、企業の中核的な人材として活躍してもらう働き方です。

地域限定正社員

限定正社員のうち、地域限定正社員とは、正社員のうち、勤務場所(地域)が限定された労働契約を締結した者をいいます。転勤によるライフキャリアへの影響を回避しつつ、企業の中核的人材として活躍してもらうことを目的としたものです。

職務限定正社員

限定正社員のうち、職務限定正社員とは、正社員のうち、従事する職務(職種)が限定された労働契約を締結した者をいいます。専門的スキルを行使することで社内キャリアを積み重ねたいというニーズに応える契約形態です。職種限定の契約の場合に、同意なく配置転換をすることは違法となります(滋賀県社会福祉協議会事件・最高裁令和6年4月26日判決)。

職務限定正社員は、ジョブ型雇用に近い面がありますが、欧米のジョブ型雇用はそのジョブがなくなれば解雇となるのが通常なのに対して、職務限定正社員の場合は、他の職務への配置転換を打診するなどの方策を講じずに解雇すると、解雇権濫用となり無効とされる可能性があります。

同一労働同一賃金と正社員

福利厚生の説明の際に触れたように、正社員と非正社員の待遇差については、同一労働同一賃金の観点から慎重な考慮が必要です。

正社員(限定正社員)登用制度

2020年10月に同一労働同一賃金に関する最高裁判決(メトロコマース事件、大阪医科薬科大学事件、日本郵便事件)が出されました。3つの判決ではともに、パート・有期法8条における不合理な待遇差について考慮する際の「その他の事情」として、正社員登用制度が設けられているか否かが挙げられています。

正社員登用制度があるならば、正社員となってその待遇を受けられる可能性があるため、多少の待遇差があっても、不合理でないと判断されやすいと考えられます。

就業規則作成のポイント

就業規則を作成する場合には、自社における「正社員」の定義を明確にすることが重要です。その上で、限定正社員制度を導入するか否か、非正社員との不合理な待遇差となっていないかなどを慎重に検討するようにしてください。

ムートン

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参考文献

大内伸哉『労働法実務講義 第4版』日本法令、2024年

菅野和夫・山川隆一『労働法 第13版』弘文堂、2024年

濱口桂一郎『新しい労働社会:雇用システムの再構築へ』岩波書店、2009年

濱口桂一郎『ジョブ型雇用社会とは何か:正社員体制の矛盾と転機』岩波書店、2021年