【最大判令和8年2月18日】
被保佐人を警備員の欠格事由とする規定が
違憲とされた事例
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- この記事のまとめ
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最高裁令和8年2月18日大法廷判決では、「被保佐人であること」を警備員の欠格事由としていた警備業法の規定(=本件規定)の違憲性が問題になりました。
軽度の知的障害を有するXは、警備会社に雇用されて交通誘導業務に従事していましたが、保佐開始による欠格事由該当を理由に退職を余儀なくされました。Xは、本件規定を改廃しなかった国の立法不作為を指摘し、国に対して慰謝料を請求する訴訟を提起しました。
最高裁は、本件規定を違憲であると判断しました。その理由として最高裁は、立法当初は本件規定の合理性が認められたものの、社会的な状況の変化に伴い、障害を理由とする差別が禁止されるべきであるとする考え方が確立したことなどを挙げています。
ただし、かかる考え方が確立した時期がXの退職時期と近接していることを理由に、立法不作為の違法性を否定してXの請求を棄却しました。企業としては、障害者雇用の推進をはじめとして、障害者との共同参画の取り組みを進めていくことが求められます。
※この記事は、2026年3月25日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- ・一括整備法…成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律(令和元年法律第37号)
目次
事案の概要
「被保佐人であること」を警備員の欠格事由としていた警備業法の規定(=本件規定)の違憲性が争われた事案です。
軽度の知的障害を有するXは、警備会社に雇用されて交通誘導業務に従事していました。しかし、2017年3月にXについて保佐開始の審判が確定したため、欠格事由該当を理由に雇用契約が終了し、Xは警備会社からの退職を余儀なくされました。
Xは、本件規定が憲法22条1項(職業選択の自由)および14条1項(平等原則)に違反しており、国会が本件規定を改廃する立法措置をとらなかった不作為が違法であるとして、国に対して慰謝料の支払いを求めました。
原審の名古屋高裁はXの主張を認め、本件規定は違憲であると認定し、国に対して慰謝料の支払いを命じました。国はこれを不服として、最高裁に上告しました。
なお本件規定は、2019年6月に成立した一括整備法によって削除されました。その背景には、成年被後見人や被保佐人などの権利に制限を設ける制度は、成年後見制度の利用を躊躇させる要因の一つになっているという問題意識があります。
判決の要旨
最高裁は、Xが退職する時点において、本件規定が憲法22条1項および14条1項に違反するに至っていたことを指摘しました。しかし、国の立法不作為は国家賠償法の適用上違法の評価を受けるものではないとして、Xの慰謝料請求を棄却しました。
最高裁は本件規定につき、障害者である被保佐人を被保佐人でない者と区別して一律に規制の対象とし、精神上の障害を理由として狭義における職業選択の自由そのものを制約するものであると指摘しました。
このような本件規定の内容および性質に照らすと、本件規定が憲法22条1項および14条1項との関係で合憲だと言えるためには、その規制が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するとしました。
本件規定の立法目的は、警備業務が他人の生命・身体・財産等の安全を守る業務であることに鑑み、警備業務の実施の適正を図るとともに、警備員としての信頼を確保し得る者が警備業務に従事することを担保することにあります。最高裁は、このような立法目的自体は、重要な公共の利益に合致するものであるとしました。
他方で最高裁は、立法目的を達するために本件規定のような規制措置を設ける必要があるかどうかについては、精神上の障害を理由とする一律の強力な制約であることを踏まえると、立法府に広い裁量が認められるものではないと指摘しました。
そのうえで、制定当時は本件規定が合憲であったとしつつも、本件規定を取り巻く社会的な状況が変化した結果(障害者権利条約の批准・国内法の整備・社会的意識の変化など)、Xが退職する時点では違憲となるに至ったと認定しました。
ただし最高裁は、違憲である法律の規定が残っていたとしても、直ちに国の立法不作為が国家賠償法上違法となるわけではないと指摘しました。
違憲であることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などには立法不作為が違法になり得るとしましたが、本件については違法性を否定しました。
その理由として最高裁は、障害を理由とする差別が禁止されるべきであるとする考え方が確立したのは、Xの退職時点とは相当に近接した時期であったことを挙げています。
結論として最高裁は、Xの慰謝料請求を棄却しました。
なお、本判決には裁判官三浦守、同尾島明、同宮川美津子、同高須順一、同沖野眞已の各反対意見と、裁判官林道晴、同岡正晶、同石兼公博の各補足意見、裁判官安浪亮介の意見が付されています。
判断のポイント
本件規定が違憲と判断された主な理由は、立法当時からXの退職に至るまでの間に、障害者差別に関する考え方や法制度が変化したことにあります。
他方で、立法不作為が国家賠償法上違法かどうかの判断に当たっては、立法作業に要する時間を考慮すべきとする規範が示されました。
障害者差別に関する考え方や法制度の変化
昭和57年に、当時の禁治産者および準禁治産者を警備員の欠格事由とする本件規定の前身規定が施行されました。
準禁治産宣告を受けた心神耗弱者については、精神障害による判断能力の低下が公的機関である家庭裁判所によって確認されています。そのため最高裁は、当時の知見の下では、警備業務の適正な実施を期待することができないとみることには相応の合理性があったと指摘しました。
しかしその後、次のような社会的な状況の変化が生じました。最高裁は、これらの状況の変化により、Xが退職した2017年3月の時点では、本件規定が違憲となるに至ったと判示しました。
・成年被後見人等に係る欠格条項については、成年後見制度の利用を阻害するものとして、その見直しが求められるようになった。
・2010年に、成年後見等が開始したとしても、財産の処分等以外の能力が直ちに欠如しているとはいえないとの研究結果が報告された。
・2011年から2013年にかけて障害者権利条約の批准に向けた国内法の整備が進められ、2014年に同条約が批准された。
・2016年に障害者差別解消法等が施行された。
・2016年に制定された成年後見制度の利用の促進に関する法律でも、成年後見制度の利用の促進に当たって、基本的人権を享有する個人として成年被後見人等の尊厳を重んじるべきこと等が定められた。
・警察庁が2018年に行った政策評価において、2002年の警備業法改正によって設けられた「7号規定※」があるため、本件規定を削除しても特段の影響は想定されない旨の評価がなされた。
※7号規定:心身の障害により警備業務を適正に行うことができない者として国家公安委員会規則で定めるものであることを欠格事由とする規定
近年では過去の時代に比べて、障害者差別は不適切だとする考え方が社会全体に定着しています。最高裁の判断も、このような時代の潮流に沿ったものと位置づけられます。
立法不作為の国家賠償法上の違法性
最高裁は、本件規定を違憲としたものの、国の立法不作為が国家賠償法との関係で違法であるとは言えないとして、Xの慰謝料請求を棄却しました。
最高裁は一貫して、国会議員の立法行為や立法不作為についての評価は、国民の政治的判断に委ねられるべき事柄であるとの考え方を堅持しています。この考え方によれば、立法不作為が違法であるとの判断にはそう簡単に至りません。
本件規定を違憲と判断する決め手となった、障害者差別は禁止されるべきとする考え方が確立した時期について最高裁は明言していませんが、おそらく2016年頃を想定していると考えられます。
Xが退職したのは2017年3月なので、1年足らずでの立法は現実的でないとの判断があったものと思われます。
具体的に、立法不作為がどの程度の期間続いていれば国家賠償法上違法となるのかについては、本判決では示されていません。
判決が実務に及ぼす影響
本判決は、障害者差別は禁止されるべきであるとの考え方を確認したものと言えます。
違憲とされた本件規定を含めて、成年被後見人や被保佐人であることを欠格事由とする各種法令の規定はすでに撤廃されているため、実務への具体的な影響は特に生じないでしょう。
企業としては、引き続き障害者雇用の推進をはじめとして、障害者との共同参画の取り組みを進めていくことが求められます。
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